結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第二十三話 この雨、願わくば

 

目が覚めると知らない場所にいた、という経験を普通の人は人生で何回経験するのだろうか。

 

1回でもあれば多分多い方だと思う。

少なくとも少し前まで僕は一度すらなかった。

以前にゲロ吐いてぶっ倒れた結果、目が覚めると病院というのが1回目。

だからまぁつまるところ……これで2回目なのだ。

 

一回目と違うところといえば…………椅子に縄で縛り付けられて身動きが取れないことぐらい。

 

人生1度目の失神が介護で2度目が拉致とは、優しさの振れ幅がありすぎではないだろうか。

どこかにカメラがあって「てってれ〜」などと陽気な音楽をかけながら有名人が出てくることを切に願いたい。

 

「ここは……?」

「おはようかのん」

「みんな目が覚めたね〜」

 

夏樹とかのんも起きたようで声が聞こえる。

と言っても、それぞれが背中合わせに椅子に座らされているので身動きどころかアイコンタクトすら取れはしないが。

まぁ冷静に状況整理したところで、これから起こることは足元の魔法陣からして絶対ろくなことじゃないけど。

僕は非科学的なものは信じていないのでむしろこれから起こることがスピリチュアル的な方が安心できる。

 

「おはよう……」

「すみれ……ちゃん……?」

 

巫女服?らしいものに身を包んだ平安奈さんが入ってきた。

巫女服と言い切れないのは、頭に電灯タイプの蝋燭をくくりつける頓珍漢な格好だからだ。

しかし実は今僕は結構焦っている。

見かけこそインチキ巫女だけれど、この子が、まぁないとは思うが抵抗できないかのんを傷つけるとなったら流石に僕も体を張って彼女を守らないといけない。

 

「あなたは見てはいけないものを見てしまったの。だから……忘れてもらうわ」

 

そう言って平安奈さんは棒に紙がついた巫女さんのよく持ってるアレ……なんて言うんだったかな?たしか……大幣(おおぬさ)、だったか?それを左右にバッサバッサと降り始める。

お祓いじゃないんだからそんなことで記憶は消えないと思うが。

 

「その格好……!?まさかすみれちゃんって神社の……!?」

「大丈夫。じっとしていればすぐに終わるわ」

 

かのんにそう囁いた平安奈さんは近くの本を手に取り、

 

「ええと?ここまで準備したら対象の頭を忘れさせたい事を念じながら100回叩きます」

「いま学んでる!?」

 

しかも100回叩いてんなら物理で忘れさせてるだろソレ。

 

「そのあと、清めの水2Lをかけ、全身を縛り付け……」

 

風邪ひくわ。そしてそれまで縛り付けてない前提なのかよ。

ツッコミどころが多すぎる。

今すぐその本捨てた方がいいようにいいたい。

 

「待って!」

「静かに!」

「な、なにが起きたの???わたし、記憶ナクッテ〜」

 

ガバガバ演技すぎる!?

ってかさっきから夏樹は夏樹で静か……って肩どえらい震えてるーっ!?

本気で怖がってる!?このポンコツ儀式に!?

よく聞いたら歯をガチガチしてる音聞こえるし!夏樹コイツ怖いのダメなのかよ!!

 

「ふん……」

 

夏樹の方を心配している平安奈さんなはかのんを疑うように見つめた後、大幣を背中に携えるようにおき、両手を広げた。

そして次の瞬間。

 

「グッソクムシ〜グッソクムシ〜♪」

 

グソクムシの舞を始めた。

いやどういうことだよ。

 

「グッソクソクソクグッソクムシ〜♪」

 

……その……なんていうか……。

見てらんない。

 

「ごめんなさい。割と記憶あります」

「でしょうね。すぐに楽にしてあげる」

「一旦落ち着いてよ平安奈さん。僕ら誰にも言わないからさ」

「ここまで付けたきた癖に、信用できるわけないでしょ!」

「確かにすぎるけども。別に悪意があったわけじゃない。どうしてセンターにこだわるのか気になっただけだよ」

 

こちらの必死の弁解に思う所があったのか、平安奈さんは少し後ろめたい顔をした。

 

「……いいわ。話してあげる。だから今日の事は忘れる事。いいわね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昔の人もこうやって雨風を凌いでいたのかなぁ……?」

「監禁用には作られていないだろうからな」

 

先ほど僕らが閉じ込められていた小屋を出た僕らは雨の中ベンチで平安奈さんを待っていた。

「着替えてくるわ」といって勝手に鍵を開けて出て行ったので僕らは逃げないと信用されているらしい。

もしくは次の日学校で捕まえればいいと思ってるか。

どっちでもいいけど。

 

そんなことを考えていると制服に着替えた平安奈さんが戻ってきた。

 

「はい」

 

そして傍らに持っていたペットボトルの水をかのんに手渡す。

 

「んっ」

 

そして僕らにも水を投げてれた。

男女の扱いの差ってこういう風に出るんだなぁ。

 

「見た通りよ」

 

なにが?格差か?

 

「わたしね、小さいころからずっと、色んなオーディションうけてたの。……主役に憧れて」

 

 

 

平安奈さんは遠い目をしながらぽつりぽつりと話し出した。

 

 

「子役のころから一生懸命がんばって。でも……どんなに頑張っても、いつも最後はどうでもいい脇役」

「それでスクールアイドルのセンターに」

「まぁね。アマチュアだし、何とかなるんじゃないかって思ったけど……やっぱり無理みたい」

「それはまだわからないと思うけど」

「いいえ、今回のことで分かった。私はさ、そういう星の下に生まれているの。どんなに頑張っても、真ん中で輝くことはできない」

 

ベンチから立ち上がった平安奈さんはそのまま傘をさして「二人にも言っておいて。悪かったわねって」と言い残し神社へ消えた。

 

 

 

「……いつも脇役、か」

 

そりゃつらいだろうという気持ちはわかる。でも僕は人前に立ちたがる性格でもないし、他者にに認められたい衝動も薄い。

だから共感はしづらいところだ。

 

暗い話をされて気分も沈み、沈黙が流れる。

それぞれが自分の考えを整理しているであろう時間を、最初に切り裂いて見せたのは、いままで黙っていた……

 

「元来」

 

夏樹だった。

 

「元来、承認欲求ってのは誰にでもある。目立ちたがり、出しゃばりなんて表現されるけど、本当はポジティブなものなんだよ」

 

夏樹はもっていたペットボトルの水を回転させるように宙に放り投げ、手癖のようにキャッチしてはまた投げる。

 

「誰かに認められたい、見てもらいたい。行動に移せるだけ彼女には報われる価値がある」

 

ペットボトルを宙へ放り投げてはつかむ。放り投げてはつかむ。放り投げては……

 

「だからこそ」

 

つかむ。とおもわれたペットボトルは夏樹の手をすり抜け、いや、夏樹が手を伸ばさなかったことで、地面に転がった。

 

「許せないことが2つある」

 

ぐしゃり。

夏樹は怒りを込めるかのようにペットボトルを踏みつぶして見せた。

 

 

「ふたりとも先に帰ってくれない?」

「夏樹くん……すみれちゃんのところになら」

「…………かのん、帰るぞ」

「……結?」

 

めずらしく夏樹を一人にする僕にかのんが疑念の目を向ける。

たしかに今の平安奈さんと一人で接触するのは逆効果化かもしれない。

でも……。

 

「夏樹」

「ん~?」

 

親友があんな顔してんだ。なら、言ってあげる言葉は一つだろう。

 

 

 

「平安奈さん、任せた」

「……ん、まかせて」

 

くるりと踵を返して神社のほうへ、平安奈さんがいった方向へ歩を進める夏樹。

僕らはそれを見届けた後、雨の中、かのんと二人で帰路についた。

 

 

願わくば、この雨が、この気持ちが、晴れますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、5月30日月曜19時更新
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