結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第二十四話 この雨、願って良いのなら

 

神社にはいい思い出がない。

なんて人間は数少ないだろう。

そもそも神社は……初詣とか、お祭りとか、そういう和気藹々とした場所だから。

 

でも僕は……時雨夏樹は、そう言った事とは無縁だった。

 

 

だからこの場所に来た時、一番最初に感じた感情は『新鮮さ』だった。

 

初詣すら、行った事は無かったから。

 

だからこれは、そういう試練なのかもしれない。

神様ってのは残酷だ。

こっちの事情なんて関係なく、勝手なタイミングで仕掛けてくる。

せめて加減をしてもらえるように、形だけでも整えておくべきなんだろうか。

 

少しだけ邪な想いを抱えてポケットを探ってみるとちょうどよく1円玉が3個あったので賽銭箱に放り投げておく。

 

それじゃあギャラ子を探しに……

 

「二礼二拍手一礼よ」

 

振り返ると既に……探しに行く必要は無いみたいだ。

 

「仮にも神様の御前なんだから、礼儀はしっかりしなさい」

 

ギャラ子に釘を刺されてしまったのでまた振り返って賽銭箱の前に立つ。

 

お辞儀をニ回してパンパン、とニ度叩いて再度一礼。

これでいいのかとまた振り返ってギャラ子をみるとコクリとうなづいて腕組みをした。

 

「そういうのって初詣とかに母親とかから教えて貰わないの?」

「………………………」

 

ギャラ子の質問に思わず沈黙してしまう。

……いや、言おう。

そのために、追いかけてきたんだ。

 

「母は……死んだよ」

「…………っ!ゴメンなさい。そういうの、考えてなかったわ」

 

僕に頭を下げるギャラ子の横を横切って彼女の後ろに立つ。

 

「僕の父親は時雨椿(つばき)有名ブランド、S&Tのデザイナーだよ。聞いたことは?」

「な、なによ急に……?」

「雑談だよ。聞いたことある?S&T」

「聞いたことあるって……知らない人はいないアクセサリーブランドじゃない。あなたその息子なの?」

「そうだよ。でも、S&Tが有名なのはそのブランド力だけじゃない」

「……どういうこと?」

「12年前、とある事件が世間を騒がせた」

 

僕らがまだ5歳の頃、ギャラ子は知らないだろう。

 

白雪柚木(しらゆき ゆき)。いや、時雨柚樹。それが僕の母の名前。その昔に大ヒットした……」

「アイドルでしょ。知ってるわよ」

 

予想外の認知にギャラ子の顔を見てしまう。

 

「私がテレビに出てた頃……何度かお仕事を一緒にね。心優しくて……素敵な人だったわ。ダンスだってたまに教えてもらっていたし、実力もあるグループだった。それが……」

 

彼女の言い方が懐かしみながらも……声が暗いのは。

 

「あんなことが起きるなんてね」

 

12年前の、あの出来事のせいだろう。

 

「12年前の……世間を騒がせた事件……あぁ、分かったわ。引退発表ね」

 

ショービジネスの世界にいた彼女は知っているようだった。

参ったな。あの事件は……世間では少し良くない印象を持たれている。

 

「そう。僕の母さんは僕の父さんと出会い、結婚した。僕の存在を隠して。それが世間に明るみになったのは、僕が5歳の頃だった」

「アイドルのファンに叩かれたのよね。有名ブランドのデザイナーと結婚ってこともあって、金目当てだとかあることないこと言われてたわね。それも事後報告だったから、その炎上は子供心に覚えてるほど酷かったわ」

 

そのまま引退へと追いやられた母は、ファンにすら恨まれながら……この世を去った。

 

「私は引退前までしか知らないわ。白雪さんは……死んだのね」

「アイドルと子育てを両立する体への負担が、引退の時の精神の負担と重なってってことだよ」

「……そう。その息子って確か……捨て子よね」

 

捨て子、というのを数秒躊躇った彼女だったが、ここまで来ると変わらないと思ったのか言い切ってしまった。

 

「そうだよ。4歳の時に施設で両親に拾われたのが僕」

「……捨て子で親子気分か、なんて胸糞悪い記事も出てたわね」

 

ギリッ……!と歯軋りをして不快感を全面に出すギャラ子。

 

流石にアイドルをしながら子供を産むわけには行かないし、子供が欲しいとなったら施設に頼る、というのは無難だ選択だと思う。

家族を作る、アイドルも続ける、そのために、秘密はファンに隠し通す、そんな覚悟を決めた母を責められる者なんて、いないだろう。

 

「その息子が……奇妙な縁もあったものね」

 

ホントにね。まさか母を知る人物に、ここで出会えるとは。

 

「さて、世間に知られているのはここまで。ここからは母ではなく、僕の話だ」

「え?」

 

少しの間沈黙の時間が発生した。

けれどもそれは、僕の気持ちの整理がつく、十分な時間だった。

 

「最愛の母を失った父は……荒れに荒れた。母が死んだのは僕のせいだって。お前がいなければ柚樹は死ななかった。そんなことを何度も言われた。その結果……僕は父と距離を置いた」

 

手を出してくれれば、割り切れたかもしれない。

けれど、父は、母の墓前で泣き崩れながらこちらを一瞥もせずにお前のせいだと言った。

 

多分、そう思わないとやってられなかったんだろう。

だから僕は父を恨んじゃいない。

僕が離れる事で父の心の整理がつくなら、僕は喜んで犠牲になろう。

そう思って、僕は父と離れる決心をした。

 

「離れるならそれでいいと父は言って、その力を僕にくれた。家も、お金も、望めばくれたよ。父はそれだけの覚悟を持ってたんだと思う。高校生になってからそれは更に加速した」

 

一人暮らしを望み、マンションの屋上をくれたことだってある。

 

「お祭りも、初詣も、クリスマスも。僕は父と、いや家族と一緒に過ごした思い出がない」

「…………なにがいいたいの?」

「なにか言いたくてこんな話してるわけじゃないよ。言ったじゃん。ただの雑談」

 

持っている傘を手元でクルクル回す。

静寂をかき消すように傘の先が地面を抉る音が鳴る。

 

「…………ならなんで私を追いかけてきたのよ」

「……2つ、君の考えを訂正しにきた」

 

回転する傘をピタリと止め、代わりにカンッ!と地面を強く叩く。

例えるなら裁判の木槌。あんな感じ。

話の中の打撃音は、静寂を作るのと、意識を向けるのに最適らしい。

 

「1つ、センターの意味を履き違えてる事」

「な、なによそれ」

「センターってどういう人がなると思う?」

「え?そりゃあ歌とかダンスとか……カリスマ性が他の人よりもある人じゃない?」

「はいぶっぶ〜」

 

手で大きくバツを作って見せると彼女は「じゃあなんなのよ」と不貞腐れてみせた。

 

「センターはね、なりたいと1番思ってる人がなるんだよ」

「はぁ?」

 

僕の答えに彼女は怒ったように距離を詰めて見せた。

 

「あのね、じゃあかのんじゃなくて私がなるでしょう!そんなことも分からないの?」

「はい2つ目のぶっぶ〜。あと1つで罰ゲームです」

 

目の前まできた彼女の口に今度は指でバツを作って喋るなの意を示す。

 

「じゃあ君はセンターになるために何をした?」

「そりゃ……今までダンスとか歌とか……」

「そんなのかののんも一緒だよ」

「かのんはセンターになろうと思ってやってたわけじゃない!」

「歌が好きで、みんなの前で歌いたい。それって要約すると、センターになりたい、なんじゃない?」

 

僕の言葉にギャラ子は「それは……」と口籠る。

 

「センターへの固執は僕には良くわかんないけどさ。承認欲っていうのなら分かるよ」

 

彼女が視線を落としたので、傘をまた回してみる。

彼女の視線が傘へ向いた。

 

「ずっと否定されてきて、だからこそ、認めて欲しい。そんなの当然だよ」

「…………あなた、父親のこと……」

「だからこそ!」

 

カツンッ!地面に傘が転がる。

あぁ……支えるの、忘れてた。

回転を失った傘は遠心力が無くなることで地面へ引っ張られたようだった。

 

「認められたいと、行動しなければいけない。さっきまでのギャラ子は酷かったけど……ちゃんとセンターを狙ってて好きだったよ」

「……耳が痛い好意ね」

 

半笑いになりながらギャラ子はその場でしゃがみ込んで傘を拾った。

 

「じゃあ私はどうすればよかったの?」

 

こちらに傘を差し出すギャラ子。

それはまるで、傘を返す対価に、こちらに答えを求めているようだった。

だから、言っておこう。

 

「貪欲に行こうよ。ね?」

 

その傘を受け取り、宣戦布告のように天を突き刺す。

するとギャラ子は呆れたようにして

 

「……心に留めておくわ」

 

と答えた。

心変わりはしてくれないらしい。

なら2つ目で……

 

「そして訂正点2つ目は……」

 

言葉を放った瞬間、ザアッ!と周りの音が激しくなった。

今まで静寂と思われていた空間に突然流れた音は……雨だった。

どうやらさっきよりさらに勢いがあって強くなっているみたいだった。

 

……話の腰が折れてしまった。

それだけじゃない。これだけの雨、流石にもっとひどくなる前に帰ったほうがいい。

 

「あとの一つは.……まぁクーちゃんが話してくれるかな」

「誰よそれ」

「可可ちゃん。まぁ明日呼び出されると思うから、絶対に来てね。そうやって貪欲に行かないと、ずっとダメだよ?」

 

パンっ!と傘がいい音を立てて広がる。

 

「じゃあねギャラ子!また明日!」

「ちょっ、私は明日は部室いかないわよ!?」

「なんとでも強がれ〜!」

 

僕は彼女の神社を傘を差しながら走って出た。

凄い雨で前は見えなかったけど。

僕は傘だ。平安奈すみれの傘になろう。

彼女の雨を受け止める傘に。

そのためには……濡れることだって厭わない。

 

僕は卑怯者だ。自分のことを棚に上げて彼女に偉そうなことを言った。

僕の言葉で彼女が決心しなかったのは、きっと僕が、言葉の通りにしてないからだ。

 

……なにが貪欲に行こうぜ、だ。僕は.…何もしていないのに。

 

自然と歩を進める足が早くなった。

こんな弱い自分から逃げられるように。

 

平安奈すみれ。彼女の背中を押すのは僕の役目だ。

なら……僕の背中を押してくれる人なんて……いるんだろうか。

 

今は亡き母の姿を思い出すと、目に涙がたまる。

 

この雨が、涙を流してくれるというのなら。

願わくば。願って良いのなら。この雨が。ずっとずっと。

 

 

 

降り続ければいいのに。

 

 

 

 

 

 

 




次回6月1日水曜日19時更新
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