結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第二十七話 『僕の姉』『私の弟』

「今日の要件はここのスクールアイドルを潰しにきたことです!!!」

 

高らかに部屋に響くその宣言に僕たちは凍った。

 

姉が来訪してから僅か数十分。

スクールアイドル部を潰す。

その宣言の意味を計りかねた皆んなは黙りこくってしまった。

 

「姉さん。ちゃんと最後まで言わなきゃみんな分かんねぇぞ」

「ありゃ、要件聞かれたから要件だけ答えたんだけど」

 

そうだろうけど、皆んなからしたら何故かウチの部を潰しに来た人になるだろう。

 

「全員思考停止してる所悪いけど、姉さんはこの部を潰したりしないよ」

「ほう?まだ決めた訳じゃないけど?」

「ならやるか?事の後に姉弟の縁が繋がってるといいな」

「言うじゃんか」

「それぐらいの覚悟は持ってるつもりだよ」

 

上から見下ろしてきた姉さんの目を睨み返す。

バチバチと火花を散らした後に姉さんは両手を上げて降参の構えを見せた。

 

「はいはい、分かった分かった。結がそこまで言うならね」

「ったく……余計なお世話だっての」

「なんか結、アンタいつもと比べて口が悪いわね」

「あん?」

 

突然あらぬ方向のすみれさんから飛んできたシンプルな暴言に驚いて変な声が出た。

 

「そう?弟はいつもこんな感じだよ。みんなの前では猫かぶってるのかな〜?」

「そうじゃねぇよ。キャラ変って奴。高校生だし大人しい方がいいだろ?猫かぶってるんじゃなくてどっちも俺だよ」

「ものはいいようね……」

「すみれさんはどっちの僕がいいですか?」

「急に変わったらもはや二重人格ね……ま、好きな方にしなさい」

「そうはいっても姉さん以外には砕けて話せないけどな」

 

それを聞いた姉さんが僕の頭をワシャワシャと撫でてきた。

気に入られたようでなによりだが僕はもう高一なのでその手を止めておく。

 

「それで、結のお姉さんが来た理由はなんなんですか?」

「お義姉ちゃんでいいってかのんちゃ〜ん」

「あっはは……」

 

愛想笑いさせてるんじゃないよ。

何故姉さんがそこまでかのんを気に入っているかはさておき、

 

「姉さんが来たのは多分……」

 

姉さんの代わりに説明をしようとした時、

 

『ピリリリリリリ!!!』

 

「…………結くん、電話」

「タイミングってのを今度スマホに教えておくよ」

 

渋々スマホを出して電話に出る。

 

「はい雨宮です。…………はい、出しました。……あ〜いまからですか?……はい分かりました」

「……なんだったの?」

「いや今日提出の学校の書類に不備があったから訂正しに来てくれって先生から。そんなわけでちょっとごめん、行ってくる。すぐ帰ってくるから」

「1時間ぐらいかな?分かった」

「姉さんも、折角来てくれたのに悪いな」

「いいよ。家族なんだからまた会えるさ。急いで行ってきな」

「ん、悪い!」

 

みんなに別れを告げて部屋を出る。

 

そして1つの可能性に当たって部屋に戻る。

 

「姉さん、変なこと吹き込むなよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変な事吹き込むなよ!?」

 

一度出て行った結がわざわざ戻っきたかと思ったらそんな言葉を残してまた出て行った。

 

あっはは……(つむぎ)さん、そんなに信用されてないんだ……。

 

「さて、都合よく結も消えたし、変な事吹き込むかぁ!」

「やっぱり吹き込むんだ……」

 

むしろ結が出て行って元気が増したような……。

 

「冗談だと思われたら困るよ?実際、私は本当にこの部を潰そうと思ってきたわけだし」

「それは一体……?」

「逆に聞くけどさ、弟が部活の影響で倒れましたって聞いて、はいそれは弟が悪いですってなると思う?」

「…………!」

 

改めて突きつけられた紬さんの言葉に絶句する。

確かに、結が倒れたのは私たちの責任ということもある。

最終的に決めたのは結だったけど、それを助長したのは私たち。

 

「別にアイツの判断でこの部に入ったんだ。アイツが倒れたのはアイツが悪い。だから私はアイツの心配なんてしない。でもそれとは別に、そんなことをさせる部活を野放しにする理由もない」

 

私たちは何も言えない。

紬さんも真剣な面持ちで私をまっすぐ見て、威圧するように語り続ける。

 

「だからこの部活ごと潰しにきた。……はずなんだけどねぇ……」

 

そこでケロッと紬さんは語り口調を変えた。

頭をかいて困ったとでも言うように苦笑いをした後、

 

「当人の弟に、あそこまで言われちゃね」

 

と気まずそうに言った。

 

「正直、意外だった。結があそこまで全力なのは。私に牙を剥くことすら、あんまりなかったんだよ?」

 

『事の後に姉弟の縁が繋がってるといいな』

 

結が放った言葉を思い出す。

それはつまり、血の繋がりよりもわたしたちを優先してくれたということ。

牙すら向かなかったというのが本当だったなら、紬さんにとっては信じられない一言だったと思う。

 

「それに、昔のこと、話したんでしょ?」

「はい。倒れた少し後に」

 

その時に結がキレたり、泣いたりいろいろ一悶着あったのは秘密。

 

「結、過去とは折り合いをつけてるって言ってるけどさ、本心じゃなかっただろうし。だから本当に全部話したって聞いてビックリ。相手がどんな子かと思えば……」

 

紬さんが私の瞳をじっと見てくる。

恥ずかしくなって目を逸らしたらその瞬間勢いよく抱きついてきた。

 

「こ〜んな可愛い子だとはねぇ!結もスミに置けないねぇ!」

「ちょっ、紬さん!重いです!」

「……お姉さんは弟想いですね」

 

紬さんを見つめて夏樹くんが言った。

紬さんは少し照れたように笑って

 

「……これでも姉だからさ。弟は守りたいし、強くなってほしいんだよ。……もう、あんなことにならないように」

 

遠い目をした。

 

ハッとした。

結が塞ぎ込んでいた間もこの人はずっと家族だった。

ならずっと近くにいたはず。

近くにいる人が救えないなんて……どんなにやるせないだろう……。

 

「ずっとそばにいるから、アイツの気持ちなんてわかって当然、なんて思い上がってさ。結局、私はなにも分からなかったから何も出来なかった。だから……君たちみたいな子が居てくれて、嬉しいんだ」

「私たち……ですか?」

「そう。弟が心を開いてくれる人。弟を任せられる人。そういう存在」

 

改めて言われると照れてしまう。

 

「ホントはね、私は怒られにきたって言うのもあるんだ」

「怒られに……ですか?」

「うん。あの時何もしてくれなかったじゃんか!って。一発殴られる気ですらいたんだよ?私、結に嫌われて……」

「そんなこと、ないと思います」

 

とっさに口から否定が出た。

完全に無意識に口をついてでた言葉にまずは自分が驚いた。

紬さんも驚いた表情でこっちを見てきたからのんとか言葉を紡いでみる。

 

「えっと、結がお姉さんを怖がっていたのは、本当です。けど……私たちの目の前では、隠そうとしなかった」

「……!!」

「多分、やろうと思えば言い訳出来たと思うんです。顧問だから私たちとは関わりがない、とか。でもそれをしなかったのは……結はお姉さんの事を信じているからだと思います」

 

冗談めかして言うことはあっても、彼はお姉さんに対して一度も本気で嫌った態度をとったことはなかった。

それはつまり、そういうことなんだと思う。

 

「だから……」

 

「待たせた!!ただいま!!!」

 

私の言葉を遮るように勢いよく扉が開いた。

入ってきた結は肩で呼吸をしていて、まさに全力疾走の後、といった感じ。

 

「ず、随分早いね……」

「ハァ……ハァ……だって急がないと姉さんに会える時間、短くなるだろ。だから全力で急いできた。タクシーまで使ってな」

「…………!!!」

 

結の言葉に絶句する紬さん。

あぁ……本当に思ってなかったんだ。

 

「ほら、お姉さん。結にまだ嫌われてると思いますか?」

「…………いや、完敗だよ」

 

苦笑を浮かべて紬さんは結の方へ歩んで行った。

 

「ん?かのんと姉さん仲良くなったな。なんの話してたんだ?」

「んー?ガールズトークに首は突っ込むものじゃないよ結?」

「うおっ、なになに!?」

 

結を軽くいなした紬さんは結の腕を掴みそのまま扉へ向かった。

 

「言いたいことも、聞きたいことも全部済んだし、私は帰るよ」

「えっ、いいのか姉さん?まだきて少ししか経ってないだろ?ゆっくりしていけよ」

「私は売れっ子モデルなんだよ。そんな暇あるなら苦労してないっての。本来はここでサヨナラだけどお前は特別に次の職場まで車に乗せてやろう」

「急すぎ急すぎ!!もうすこし順序立ててだな……!」

「じゃあね、結ヶ丘のみんな」

「はい、紬さんもお元気で」

 

手をヒラヒラ振っていると扉が閉まる。

結は扉の向こう側。

今日は2人でいた方がいい。

あーあ。帰るときにありあに何か買って帰ろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────良かったのか」

「何が?」

「スクールアイドル部を潰さなくて」

「あっはは!それは結がダメって一旦じゃん!!」

 

車のアクセルを踏んで高笑いする姉さん。

車内で2人きりなので会話に困って出した話題なだけだが、実のところ、この姉ならなんとしてでも潰すとかいいかねないから少し安心した。

 

「私と違って、あの子たちは結の頼れる人たちだもんね」

「は?」

「違うの?」

「いや違うだろ」

「違うの!?」

 

すごく驚いたようで姉さんが助手席の僕を2度見した。

 

危ない危ない!!運転手なんだから前見ろ前!!!

 

「え、じゃああの子たち……」

「あの子たちってか前半がまず違うだろ。なんで姉さんが頼れる人から除外されてんだよ」

「えっ?」

「移住を勧めたのはどこの誰だ?甘やかさずに僕に自分で立つ選択肢を与えたお節介な人はいなかったのか?」

 

自覚してなかったのか。

それはそれでムカつくな。

姉さんは弟には強くなれとか言うくせに自分は弱いと思う節がたまにある。

 

「ま、そういうわけだから僕は姉さんを頼りにしてないなんてことは……ってどうした急に!?」

 

ふと横を見ると運転席で涙ぐんでる姉の姿に驚いてしまった。

 

「ごめんねぇ……ちょっと色々言われてさ……そっかぁ。私そうなんだ」

「感傷は後で浸ってくれ。いま前見てくれないと僕の明日が保証されない」

 

万が一にでも事故なんて起こしたらこの場合、泣かせた僕に原因があるんだろうか。

涙で前が見えなかったんです!とか供述されるとそれはそれで場違いで面白い気がする。

 

「結はいい仲間を持ったね」

「……本当にな。勿体無いくらいだ」

 

かのんに可可さん、千砂都さんに夏樹、そしてすみれさん。

みんないろんな想いを抱えてあの場にいる。

僕の想いが潰されないのは、きっとみんなが自分の想いを持ってるからだろう。

 

「にしても結ヶ丘かぁ……運命って感じがするね〜」

「……?運命?なにが?」

「あれ、知らないの?結ヶ丘って結の生まれ故郷だよ?」

 

………………え?

 

「ええっ!?ちがっ、小学校だって……!!」

「幼稚園の頃だよこの辺にいたの。で、引っ越したんでしょ。まぁ小さい頃だから覚えてなくて当然みたいなところもあるけどね。私が移住に賛成したのも、この土地だからってのもあるよ」

「知らなかった……結ヶ丘って、僕初めて来たかと……」

「そもそも結の名前の由来はここからだよ」

「結ヶ丘からきてたの!?」

「そうそう。近くの紬ヶ河(つむぎががわ)から私の紬が来てる」

 

驚きだ。

つまり僕の通う紬ヶ河高校は姉の名前の由来で、その姉妹校の結ヶ丘は僕の名前の由来。

確かに言われてみれば腑に落ちるところがある。

叔父と一緒にストリートダンスを教わったのはこの辺だった記憶がある。

てっきり遊びにきたのかと思っていたがここに住んでいたのか。

 

「マジか……今日イチ驚いた」

「結、昔の事はあんまり調べたがらないもんね」

「まぁ……昔の事はな」

 

どこに地雷が埋まってるか分からない。

またあの時みたいに倒れてしまう事だってあるかも知れない。

そういう事を考えると、軽率に自分の過去を思い出したりする気にはなれない。

 

「…………ねぇ結」

「ん?」

「……2人きりの時はねーちゃんって呼んでくれない?」

「……相変わらずよくわかんねぇな」

「そうかな?」

「そうだよ。昔からな。変わらないよ、ねーちゃんは」

「ふふっ……そうかも。そろそろ着いちゃうのが惜しいね」

「また会えるだろ。家族なんだから」

「うん。電話するよ」

「あぁ、待ってる」

 

僕たちは姉弟だ。

いつだって、想えば会える。

 

車が止まったので2人とも降りる。

ここが姉さんの職場……思えば初めて来る。

僕は職場についてきただけだ。

姉さんが……いや、ねーちゃんが2人きりの時間を作りたかったんだろう。

だからもうここにいる意味はない。

電車でも使って帰ればいい。

だからここで別れる。

 

「またね」

「あぁ、また」

 

笑ってすれ違う。

行く道は逆。だけど、1人じゃない。

 

「結!」

 

後ろからねーちゃんの引き止める声が聞こえて振り向く。

 

「始まったね!」

「……あぁ!」

「じゃあ、頑張ろう!」

 

ビシッ!と大きくサムズアップを天に掲げるねーちゃん。

僕もそれに倣ってサムズアップをして返事の代わりにする。

 

そうだ。僕も止まってられない。

始めるんだ。

 

次のステージは────きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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