結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第二十九話 エンジョイ☆サマー!!in 神津島!前編

 

「今日は本当にありがとうございました!」

 

すっかり陽が落ち、夕焼けになるまで走った僕らは制服に着替え終えたサニパを見送ることになった。

 

……若干一名、肩で息をしているが。

 

「ううん、お礼を言うのは私の方」

「ライブをよろしくね」

「はい!」

「この命に代えましてもやり遂げマス〜!」

「いいからアンタは水飲みなさいっ!」

 

可可さんとすみれさん、ずいぶん仲良くなったな〜。

ツッコミとボケが板についてきている。

 

「じゃあ待ってるね〜」

 

こっちがしょうもないことでしみじみしているとサニパの二人が手を振って別れを告げた。

こちらも感謝の印に振りかえすと後ろから千砂都さんが肩をたたく。

 

「私もちょっと用事あるから」

「え……うん」

 

なんだろう。やっぱりダンス専攻は忙しいのだろうか。

なんにせよ引き留める理由もないので僕らはそのまま千砂都さんを見送った。

 

「……私たちも解散しよっか」

「そうだな。暗くなる前に女の子は帰らせたいし。いいよな夏……樹……?あれ?アイツどこ行った?」

「エルさっきまでそこの茂みに隠れてたんだけど……」

 

後方の茂みを漁るが影すら見当たらない。

 

「先に帰っちゃったのかな?」

「かも知れないな。僕らも帰るか」

「うん。お疲れ様」

「「「お疲れ様でした(デシタ)〜っ!」」」

 

部長の一言で頭を下げる。

部活らしいいつもの終わり方だが、こういう統率がしれっと取れるあたり、やはり部長はかのんが向いている。

 

家の方に踵を返して少し歩くと一つのことを思い立った。

 

「あ、買い物!」

 

明日の朝叔父さんが仕事でいなくなることを思い出した。

以前も語ったが、僕は料理が壊滅的で出来ないので明日の朝と昼を今のうちに買い込んでおきたい。

平たく言えばパンとカップ麺だ。

 

商店街のある方、つまり人混みのある駅側へ歩を進める。

少しすると元いた場所の近くの広場に出た。

ここを通り過ぎればコンビニが……!

 

「でも、勝つのは難しいかもね」

 

突如聞こえたその声にとっさに身を隠してしまった。

体を建物の壁から少し出して確認のために声の主を探す。

すると広場の隅で座る影が三人。

サニーパッションと、千砂都さんだった。

 

「どこか自分たちで動いてる感じがしないんだ。特にダンスはね」

「自分、たちで」

 

聖澤さんの言葉をそのまま反復する千砂都さん。

何の話かは確信はない。けど、なんとなく分かる。

もし僕の想像通りの話題なら……。

ギクリした。それは「自分たちで動いてる感じがしない」という聖澤さんの言葉が腑に落ちたからだと思う。

いまの彼女達に足りないもの……か。

 

「実はそれを確かめにきたところもあるの。何故あんなに上手なのに力強さを感じないんだろうって」

「君がコーチをしていると聞いて、理由が分かったよ」

「今はダンスに関してみんな貴方を信頼して貴方に頼っている。でもそれではいつまでも自分たちで動いていく力強さは生まれない」

「君がもしメンバーだったら、グループとしては脅威だったけどね」

 

言葉が出てこなかった。

甘い考えだった。

クーカーの初ライブを見た時、「サニパに勝てるかも」と思った。

すみれさんが入った時、可能性を感じた。

だけど、今日二人と接してわかった。

彼女達は……甘くはない。

今の僕たちじゃ……。

 

噛み締める現実に脱力感を感じる。

 

「そういう面では、雨宮さんは良かったわ」

 

……僕?

急に飛んできた話の話題に柊さんを凝視する。

 

「自分の立場を分かっていて、彼女達に主導権を渡していた。自分で動けるようにね」

 

『あら?顧問じゃなくてあなたが返事するのね』

 

あのセリフは、僕を試していた。

いや、グループが僕に甘えていないかを、つまり、グループ全体を試していたのか。

 

「あなたも、考えないといけないわ。グループのためにもね」

 

夜空の下、街灯が照らし神秘的に佇む彼女の冷酷で、ある意味リアルな言葉は、僕と千砂都さんを震え上がらせた。

 

 

──────千砂都さんが「別行動をとる」と言ったのは、その翌日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのか」

 

神津島へ向かう船の前で僕は夏樹に問う。

夏樹は聞かれるのが分かっていたの言わんばかりに即答で

 

「もちろん」

 

と答えた。

 

「僕はここに残るよ。文化祭の準備で一人は残らないといけないって先生言ってたもんね」

「けど、サニパの生ライブだ。それも南島バカンス付きの。本当に僕でいいのか?」

「もう、ゆいちん謙遜しすぎ。僕は『副』顧問だよ。メインはどっち?」

 

それはそうだが……

答えに行き詰まっていると夏樹が背中を押して

 

「ほらほら、はやく搭乗手続き終わらせて。そういうことこそ顧問の仕事でしょ」

 

と急かしてきた。

真っ当な意見なんだけど、なんか夏樹らしくないような……。

 

「二人とも〜」

「搭乗手続きは終わりマシタか〜?」

「いや今から」

 

遠くから手を振って近づいてくるかのんたちに気がつき手を振りかえしつつ夏樹の方をチラリと見る。

夏樹は相変わらずヘラヘラ笑っていてなにかを抱えているように見えない。

もしかしたらこういうのは考えるだけ無駄なのかもしれない。

 

「じゃあ別れのアレしよっか」

「ハイデス!」

「アレ?」

「ギャラ子手でピース作って〜」

「ん、やろうか」

 

誰ともなく自然と円形に集まる。

そして、

 

「「「うぃっす」」」

「「「うぃっす」」」

「「「「「「うぃっす〜」」」」」」

 

船の汽笛が鳴る。

さぁ、船上の旅の始まりだ。

優雅に夜の海を眺めて……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ、何かある旅に倒れているわね」

「うるさいデス……」

 

そんな余裕は彼女になかったらしい。

可可さん船酔いするタイプかぁ。

 

「酔い止めいる?」

「もらいマス……」

「あら、アンタも船酔いするの?」

「車酔いはする方。船は初めてだから念のために持ってきたけど、思ったより揺れてないから平気」

「スミマセン……酔い止めありがとうございマス……」

「さっきも言ったけど、そんなに揺れてないのにな」

「お二人にまた会えると思うと興奮して昨日は眠れなかったデス……」

 

寝不足かぁ。そりゃ体調不良にもなる。

 

「デスが、もう大丈夫デス!予定通り船上での練習を……!」

 

ぐらり、と船が揺れる。

少し大きな波にあたったのかもしれない。

その影響で可可さんがパタリと床に倒れ込む。

 

「何故床が揺れるのデスか〜!!揺れなければ可可は……!!可可は〜っ!!!はぅっ……」

「寝ちゃった」

「めんどくさいんだから」

「かのん達も寝たら?」

「結は?」

「みんなと同じ部屋で寝るわけにはいかないし、別室で起きてるよ。しないといけないこともあるし」

 

立ち上がって廊下へ続く扉を開ける。

 

「じゃ、おやすみ」

 

扉の横にあるスイッチを押して消灯する。

「おやすみ〜」という声が聞こえたのを確認して、そっと僕は扉を閉じた。

 

 

さて、僕はここからだ。

夜ということもあり、大抵の乗客が床に着いているのか船内はどこもガラガラだった。

なのでちょうどいい椅子と机を見つけ出すのは案外早かった。

 

持ってきたリュックを下ろし、椅子に腰掛ける。

 

また船内がぐらりと揺れた。

けれど、そこまで大きなものではない。

このくらいの揺れでよかった。これなら──出来る。

 

僕はリュックからそっと小箱を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー」

 

大きく息を吐く。

大体のことが済んで安心してため息が出てしまった。

 

周りを少し見渡すと船内のカーテンから光が溢れており、いざ開ければ眩しいくらいの朝日が僕を照らした。

 

集中しっぱなしで足も頭をピリピリしてきた。

一度外の空気でも浴びに行こう。

 

立ち上がって荷物を纏めて船上へ出る階段へ向かう。

 

「あら?」

「おっ」

 

ちょうど船上へ上がる階段ですみれさんがいたので少し驚く。

 

「早いわね、結」

「僕はずっと起きてたから。すみれさんこそ早いね」

「私は……そうよかのん見なかった?」

「かのん……?いや……」

 

かのんがいない?

もしかしたら僕たちよりも早く船上に出てるのかもしれない。

同じ考えに至ったであろうすみれさんと一緒に鉄製の階段を登る。

 

すると予想通り、船上にはかのんがいた。

…………よくわからないポーズで。

 

「なにやってんの……?」

「分かったヨガ!じゃなかったらバレエのポーズ?いや能力開眼?」

「話しかけないで」

 

おぉ?いつになく集中モードだかのん。

 

「作詞……思いつかないんだよね……」

 

……スランプってこと?

 

「いつもはこうしてると閃くんだけど……」

「そのポーズいつもやってるのか……」

「曲と振り付けは出来てるから。今回は皆んなとちぃちゃんの事とか書こうと思ったんだけど……」

「はやくしなさいよ。覚えなきゃいけないんだから」

「だよね〜。可可ちゃんは?」

「爆睡してるわ。起きたら元気になってるでしょ」

 

他愛もない雑談をしていると船が大きく汽笛を鳴らす。

初めて乗る船のその音は、やはりどこか現実感がなくて。

 

「この先にある島も東京だなんて信じられないわね」

「そして、そこでもスクールアイドルを頑張っている人たちがいる。凄いなぁ、スクールアイドルって……!!」

 

そう言った彼女は目を輝かせ、遥か遠くの未来を見据えていた。

彼女の目には希望が映っているはずだ。

なんて綺麗な目だろう。

僕が彼女を応援する理由は、あの目なのかもしれない。




次回更新6月15日水曜日19時
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