結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

39 / 44
第三十八話 紬ヶ河文化祭

 

神津島のライブから1週間後。

夏休みもすっかり明け、千砂都さんが加入しスクールアイドル部は絶好調の波に乗っているのを感じる9月。

 

学校が始まり夏休み明けで全員気が抜けてボケている生徒もちらほらいる。

 

この時間帯に校門をくぐるのは帰宅部ぐらいのものだが、僕と夏樹はスクールアイドル部の活動のために結ヶ丘に向かっている。

 

大体歩いて15分ぐらいだ。

その道を僕らは毎日部活のために移動している。

 

しかし今日は少し事情が違った。

 

僕はとある理由で職員室に寄ったため、夏樹に結女に先行させて、今僕は一人で結女に向かっている。

 

と、いってももう結女は目と鼻の先なのだが。

校門をくぐると人目につく。

他校の生徒が来ること自体は多分問題はないのだろうが、それでも男なので珍しいんだろう。

 

一方旧校舎は流石に新校舎と違って人の出入り自体が少なく、一度入ってしまえばめったに人とすれ違ったりはしない。

 

そうこうしてるうちに部室の前に来たので軽くノックする。

 

ちなみにノックをするのは、以前ノータイムで入ったらかのん達が着替えていて危うく僕の立場がなくなる事件があったからだが、それはまた別の話。

 

「入るぞ〜」

 

ノックに返事がないので声をかけるが中から答えは返ってこない。

静かにドアノブを回して扉を押すと中には誰もいなかった。

 

先に練習に行ってるんだろうか。となると屋上か。

 

そのまま荷物だけを置いて階段を登る。

するとすぐ屋上の扉が見えたので今度はノック無しで扉を開ける。

 

「みんないるか〜?」

「あっははははははは!!!!」

「あ、あんた真面目にやりなさいよっ!ふふっ、あっはは!!」

「あ、結くん。お疲れ様〜」

「…………何やってるの?」

 

扉を開けて真っ先に目に入ったのは床で笑い転げるかのん。

そして涙目になりながら笑うすみれさん。

そして倒れてる可可さんに、よくわからない奇天烈な動きをしている夏樹。

 

どう言う状況????????

 

脳が理解を欲して思わずそこにいた千砂都さんに説明を乞う。

 

「いやぁ息抜きにそれぞれソロで踊ろうってことになってね」

「うん」

「そしたら夏樹にも踊らせようってことになったの」

 

あれ、夏樹って確かリズム感が壊滅的で千砂都さんのダンス教室辞めたんじゃなかったか?

 

「で、あれ」

「…………あれとは」

 

千砂都さんが指を指す先には奇天烈な動きをする夏樹。

言うなればどじょうすくいが一番似ている気がする。

へっぴり腰でカクカク曲がる肘。なんだあれ。

 

「あれが夏樹なりの常夏サンシャインらしいの」

「…………千砂都さんって冗談よく言うよね」

「大マジだYO……」

 

えぇ……!?

いや、まぁ確かに?ダンスと言われれば見えなないこともないぐらいには……?

ダメだ。リズム感どころか体の使い方がクソすぎる。

なんであんな快活な振り付けがどじょうすくいになるんだ。

 

確か夏樹は体育は悪くないし、普通に運動できる方だったので、ダンスの音に合わせて動きをコピーするという所がダメなんだろうか。

 

「ま、まぁ二人の爆笑と夏樹の奇行はわかった。で、可可さんはなんで倒れてるの?」

「夏樹のダンス見たら笑い転げて顎外れて体力も尽きちゃった」

 

OVER KILL!!

笑っただけだろなんでそんな死にかけてんだ!!!

ギャグ漫画じゃねぇんだぞ!!!!

 

「はぁ、割と真剣な話があるのに」

「真剣な話?」

「それを今から話そうと思って……」

「あっ、ゆいちん〜!!どうだった〜?」

 

僕に気づいた夏樹が奇天烈ダンスを辞めてパタパタと駆け寄ってくる。

それをちょうどいいと思ってパンパン!と大きく手を二回叩く。

するとそれが集合の合図だと察した皆んなが立ち上がって近くへ寄る。

いくら笑っていてもこういうところできちんと切り替えられるところは皆んなの良いところだ。

何人か涙目になって未だに顔逸らして隠れて笑ってるけど。

 

「さて、まずは神津島のライブお疲れ様。どうだった?」

「すっごく楽しかった!」

「可可、天にも昇る気分デシタ〜!」

「私の初ステージにしては、悪くなかったんじゃない?」

「私はかのんちゃんと歌えて楽しかった!」

 

各々がそれぞれ笑顔で答える。

うん、これならいい反応が貰えそうだ。

 

「じゃあ次のステージの話をしよう」

「えっと近いイベントだと……」

「結ヶ丘の学園祭デス!」

「じゃあ1ヶ月半後だね!」

「いや、2週間後だ」

 

かのんの言葉を否定すると全員が首を傾げる。

 

「え?私たちの学園祭は一ヶ月後だよ?」

「誰も次のステージが、結ヶ丘の学園祭だとは言ってないぞ」

「それって……!!」

「詳しくは提案者の夏樹から」

「はいはーいっ!僕ら紬ヶ河高校学園祭では、生徒会ぎ好きな出し物を一つしていいよっていう特別ルールがあるんだよね」

「まさか……!?」

「そのと〜りっ!この特権で僕らはこの4人のライブをするっ!」

 

夏樹の提案に場が一気に色めき立つ。

無理もない。

前回の盛り上がりは凄まじいものだったし、あの興奮がまだ冷めないのだろう。

鉄は熱いうちに打て。

モチベーションがあるうちにどんどんステージに上げておきたい。

 

「かのん、いいよな?」

「勿論いいけど……学校に許してもらえるかな?」

 

かのんが腕を組んで考える姿勢を見せる。

しかし心配は無用だ。

 

「いや、もう許可は取ってある。というか取ってたから今日は遅れたんだ」

「え、そうなの?」

「紬ヶ河は快諾してくれた。あとはみんなと、結ヶ丘の許可だけだな」

「それはもちろん出たい!……けど、他校の文化祭にいいのかな……?」

 

まだ不安が残るらしいかのん。

そんなかのんに僕は指でピースサインを作り、人差し指を折ってみせる。

 

「学校の快諾理由は二つ。一つは結ヶ丘が姉妹校であること。交流とか銘打っておけば経費だって浮くし学校側も万々歳らしい」

「へぇ〜。あと一つは?」

「……これはすごく下世話な話になるんだが」

「うん」

「うちが男子校だからだ」

「あ〜」

「なるほどね……」

「?」

「??」

 

反応が2つに割れた。

察しいい組と悪い組だな。

 

「これはまぁそういう目で見られるって事だから慎重に考えて欲しいんだが……」

「大丈夫、かのんちゃんは私が見てるから」

「ちぃちゃん、どういう意味?」

「可可はそんなの分からないだろうし、私はいいわよ」

「なんデスかその言い方!すみれ、どういう意味か教えるデス!」

 

保護者って感じが出てるなぁ……。

まぁすみれさんと千砂都さんが二人の露払いをしてくれるなら問題ないだろう。

 

「曲は?どうするの?新曲?」

「いや常夏サンシャインをやろうと思ってる。流石にライブスパンが短すぎていまからだと色々間に合わない。衣装もそのまま。文化祭なんだから気楽にやったらいい」

 

みんなもアイドルが来るとなったら流石に色めき立つだろう。

 

「他に何か質問ある〜?」

 

夏樹が手を挙げて聞くよう誘うが、特に挙手の様子はない。

ということは……!

 

「決まりっ!次のライブは2週間後の紬ヶ河学園祭!がんばろ〜っ!」

「「「「お〜っ!!!」」」」

 

4人が続いて拳を天高くあげる。

やる気に満ちているようで何よりだ。

 

「じゃあ早速練習を……」

 

千砂都さんがそう仕切り始めた時、『ピリリリリリリリ!』と大きな音が鳴った。

着信音?と僕らが察すると同時に夏樹はポケットから携帯を取り出してその電話を取った。

 

「はいもしもし?…………あぁいいよすぐ行く!15分待って!」

 

そう言って電話を切る素振りを見せると夏樹はこちらに向き直って

 

「ごめん!文化祭の出し物で相談出た!行ってくる!」

 

と言って扉へ向かっていった。

生徒会は文化祭の実行委員の役割も担っているので、相談が出たなら夏樹が向かうのもおかしくない。

僕も行ってあげたほうがいいだろうか?生徒会だし。

 

「僕はいる?」

「いいよ、ゆいちんはここにいて!文化祭は任せなさいっ!」

 

腕を大きく振り下ろしサムズアップの姿勢を見せる夏樹。

そしてその煌めく笑顔のまま屋上の扉を開けて出ていった。

いつも以上に騒がしいな……!

 

「夏樹サン、いつもより元気デスネ」

「そういえば最近ずっとテンション高いな……」

「何か心変わりでもあったんじゃない?」

「心変わりねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心変わり?まぁあるにはあるかなー」

 

翌日放課後、僕らは教室でクラスの出し物の統括をしていた。

と言っても僕らのクラスは単純なお化け屋敷らしいから、作業しているみんなを見ながら予算についての相談を受けるぐらいしか仕事はないわけだが。

 

暇になった僕は昨日の発言が気になり、夏樹に最近元気な理由を聞いたのだが……。

あるのか。心変わり。

 

「心変わりって……彼女でも出来た?」

「ないない。そうじゃなくて。この前のライブの時思ったんだ。僕も何かしたいなーって」

「この前の……神津島の?」

「そうそう。かののんは歌えるように、ちさとんはかののんのそばにいる選択を、ゆいちんは……指輪作ってたし?」

「アレは僕がつけたんじゃないからな!?」

 

かのんの左手薬指に付けられた指輪をすかさずイジってくるなんて……油断も隙もない。

 

「まぁそういう風にみんな前に進んでる。でも僕何もしてないなーって。だから、この文化祭を成功させて、みんなの役に立つんだ!」

「…………そっか」

「そうとも!僕はやるよ!やる気が炎天下だぁ!」

 

うおおおおお!と言って教室を飛び回っていろんな人に手伝えることはないか聞いてまわる夏樹。

 

炎天下、誤用どころか全然意味違うけど……燃えてることは伝わってきた。

夏樹のために、僕も人肌脱ぐとしよう。

 

「雨宮、ここの提灯なんだけど……」

「ん、もう少し下の方が視界に入って雰囲気出ると思う」

「そうか、サンキュ!」

 

文化祭準備も盛り上がっている。

青春って感じだ。

普段は結ヶ丘に足を運んではいるが、僕の母校は間違いなくここだ。

恩返しというわけでもないが、盛り上がってほしい。

だから少しばかり、ハッスルのするのも悪くない。

 

その場に座り込んでお化け屋敷のセットを作る手伝いをしようとしたその時。

 

「すいませーん、雨宮結さんいますかー?」

 

ガラガラ、と扉を開ける音と同時にマリーゴールドの髪が揺れる。

ここは男子校。

自然と視線はドアに集まったが最後、その視線は逸れることを知らない。

 

「確認したいことが……」

「バッカかのんお前!」

「ほえ?」

 

急いでドアを閉めて隔離を試すも一人の力では閉めきれないほどの力でドアがこじ開けられる。

 

「雨宮テメェ!女出来たのかァァ!?」

「裏切ったな!死刑だ!そこに正座しろ!」

「介錯はしてやるからとっとと腹切れ雨宮ァ!」

 

教室の中から血相を変えた男子どもがこちらを睨んでくる。

待て待て!トンカチ持ったまま殺すはガチで洒落になってない!

 

「あ、あの〜私、雨宮さんに用事が……」

「聞く!聞くから一回教室から離れようかのん!一回この馬鹿どもの誤解を解く!」

「誰が彼女無しイコール年齢だボケェ!」

「言ってねェよ!?あぁもう夏樹!」

「はいはーい?」

「コイツら足止めしといて!」

「…………アイス2個」

「3個奢ってやるから!」

「よしきた!」

 

今まで傍観を決め込んでいた夏樹がヒョイと人混みを掻き分けて先頭に立つ。

そして……

 

「ここにとあるスクールアイドルのオフショットがある。1枚500円。……欲しい人?」

 

最悪だアイツ!隠し撮り画像売ろうとしてる!

 

「ちょっと待って夏樹くん、それ私も入ってない?」

「いいから!男子どもが夏樹に食いついてる間に逃げるぞ!」

 

クソ!あとで俺も推し(かのん)の写真一枚貰っとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんの用?」

 

なんとか追手を撒いて人気のない屋上までたどり着いた僕は満を辞してかのんに聞いた。

わざわざ学校までくるなんて相当重要な話なんだろう。

 

「あ、うん。それが……」

 

──────────話をまとめると。

 

「生徒会選挙……」

「うん、それで葉月さんが立候補するかで部の立ち位置が変わるかなって」

 

まだ始まってはいないが、生徒会選挙が終わる前に僕らの学園祭があるため、あの会長に活動の邪魔をされることはないだろう。

それだけわかっただけでもすごい安心感だ。

 

「ほら、今日結いなくて、明日も練習休みでしょ?だからできるだけ早く伝えたほうがいいと思って学校に来たけど……迷惑だった?」

 

上目遣いでこちらに許しを乞うかのん。

いや、僕の方が背が高いからこの距離で喋ると自然に上目遣いになるだけなのだが……。

というかそもそも。

 

「それLINEでよくないか?」

「あっ……」

 

僕の一言でかのんがやっと気づいたかのようにハッとした顔をする。

流石に頭緩みすぎだろ……。

 

「ご、ごめん……なんか、結と明日も会えないんだなーって思うと……会いに行くってことしか考えられなくて……」

「……は?」

「そうだよね。LINEしたらよかったね」

 

「思いつかなかったなー」と笑うかのん。

いやいや……自分で何言ってるのか分かってる?

 

「……とりあえず、かのんはライブの時ウィンク禁止」

「……なにそれ」

「うちの学校でガチ恋勢が増える」

「……なにそれ?」

 

首を傾げるかのんを前に僕は強く思った。

この女、文化祭当日は側を離れられないな……と。

 

 




次回更新7月13日水曜日。

これからオリジナル、『紬ヶ河学園祭編』始まります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。