「2人とも、明日学校が終わったら僕の家に来て欲しい。そこで、見せたいものがある」
そういって次回の約束を立て、そのあと軽く連絡先を交換してその場はお開きになった。
その夜のこと。
一回の居間で僕はテレビを見ていた。
大体20時ごろだろうか。テレビ番組はバラエティ一色で今見ているクイズ番組も「ファイナルステージは駆け引き!じゃんけんクイズ〜!」と番組の終わりが近いことを教えてくれる。
暇でなんとなく見ているものの、学校で習うような本格的な歴史問題から現代の若者の流行りのような一般常識など、幅広いクイズを出していて案外面白い。
例えば今出ている漢字の読み問題なんかは簡単な方だろう。
「ひがしぐも?」
「…………しののめ、ですよ。叔父さん」
「ありゃ、違ったか」
風呂上がりの叔父さんが扉を開けてテレビを見るや否や即答したものだから正しい答えを教える。
叔父さんが頭を掻きながら笑うとテレビの芸能人も同じ間違いをして会場に笑いが起きた。
『ひがしぐもてアンタ単純か!』
『いや普通に読んだらそうですやん!』
『やったらクイズにならんわ!!』
そこでまた笑いが起きて隣にきた叔父さんも「そりゃそうだ」と笑った。
つられて僕も笑うと
『それでは続いての問題です!』
と番組は進行する。
『現在女子高生に人気の、神津島を中心に活動する、聖澤悠奈、柊摩央の二人組からなるスクールアイドルユニットの名前は何でしょう』
芸能人が一斉にパネルに答えを書き出す。
見たところやはり若い人は筆が進んでいるが、高齢や中年の人は厳しいようだ。
「難しいなぁ。結は知ってるか?」
叔父さんがさっぱりという顔をしてこちらを見る。
分からないけど……心当たりは。
「サニーパッションじゃないですか?」
「おぉ、知ってるのか」
「友達にいるんですよ。スクールアイドルが」
「へぇ〜」
あまりにも興味なさそうに叔父さんが呟くものだから会話は形だけで脳死なんだろうな、と思い僕も脳死でテレビを見る。
すると突然思い出したかのように叔父さんが手を叩き
「そうだ結、表参道のたこ焼き屋知ってるか」
と、こちらに目線を向けてきた。
表参道の……たこ焼き屋……?
「知らないですね」
「まぁあるんだよ。露店みたいなたこ焼き屋が」
それは場所が固定なのに車のように出店の要領で売っている、と言うことだろうか。
にしてもどうして急に。
「この時間帯によく開いてるらしいからちょっと買ってきてくれ」
パシリじゃないか。
いや分かる。夜も更けて少し小腹がすく時間帯だし事実お話を聞いて今すごく、たこ焼きの口だ。
じゃあ自分で買ってこい、と言いたいけどこの人は既に風呂を上がって外出用の服装ではない。
だから僕に……と言うことなんだろう。
「……あとできっちりお金は徴収しますからね」
僕も食べたい、というとても優しい慈悲のもと、ここは素直に行ってあげよう。
叔父さん曰くこの辺らしいんだけど……。
あたりはもううす暗くなってしまって夕焼けに近い。
本格的に暗くなると街灯がない場所は携帯でライトを付けながら歩かなければならない。
そうなると困るのでサクッと行って帰ろう。
足元に気をつけながら歩いていると少し前に明かりが見える。
ほんのりとソースの匂いもするし、ここがおじさんの言ってたたこ焼き店だろう。
「あれ?雨宮くん?」
「あん?澁谷さん?」
明かりの元にいたのは見知った顔だった。
こちらを見て驚いたように声を上げる彼女の横からひょこっと銀髪のお団子を作った女の子が顔を出す。
「澁谷さんなんでここに?」
「ここ、私の友達がバイトしてるんだ」
「かのんちゃんの友達の嵐千砂都ですっ!」
「どうも、雨宮結です」
ずいぶん元気な子だなぁなんて思ってると嵐さんがコトッ……と目の前にたこ焼きを差し出してくれた。
「サービス。食べていいよ」
「嵐さん……悪いですって。今日は客としてきたんだからお金払わせてくださいよ」
「千砂都でいいよ。あとサービスは黙って受け取っておくものだよ!」
ニコッと笑って座るのを促してくる。
うーん、彼女は手強い。謙遜は逆効果だ。簡単に譲歩させてはくれないだろう。
借りはあんまり作りたくはないけど、ここは甘えさせてもらおう。
千砂都さんに促された通り、澁谷さんの隣の席に着席させてもらう。
話も一区切りらしく、千砂都さんがコホン、と一息ついて話を始める。
「それで、スクールアイドルをしたい子だっけ?多分音楽科にはいないんじゃないかなぁ」
どうやら千砂都さんにかのんさんがスクールアイドルの相談をしていたようだ。
「やっぱり澁谷さんがスクールアイドルすれば?」
「だから私は人前で歌えないの」
まぁ一番の問題はそこだよなぁ。
「澁谷さん、可愛いのにな」
「ふぇっ!?」
あれ?変なこと言った?
「可愛いよね、千紗都さん」
「う、うん。それはそうだけど……結くん……」
なに?
少し間を開けてみるが千砂都さんも何も言わず、「うっわー……」みたいな顔してるだけで何も言わない。
本当僕なんか言った?
「その、雨宮くん、そういう……可愛いとかはあまり軽く言わない方が……」
あぁ、口が軽くてチャラくて嫌だみたいな話?
うーん、そう言われても。
「僕としてはそのオーバーサイズのパーカーをヘッドフォン込みで身に纏って絵になる女の子、世界中探しても1人だとおもっぼへっ!」
「もういい!もういいから!」
照れたからって引っ叩く必要ないでしょ!!
「私はスクールアイドルはしない!しないったらしない!」
あーあ。いじになっちゃった。
「まぁそれなら仕方ないんだけどさ。ざんねん」
たこ焼きを口に運びつつ惜しむ。
「真面目な話、俺は澁谷さんに歌うのをやめて欲しくはないけど」
「え?」
「好きなんもんを諦めるってのは思ってる以上に難しくて……悲しいよ」
最初から嫌いだったら良かったのに。
そんな事は何度も考えた。
でも、嫌いになれないんだ。
一度でも心から好きと思ってしまったものには。
「雨宮くん……」
「俺的にはできることなら歌えるようになった方がいい。好きに向き合って時に折れても……キミには立ち上がる資格がある。俺からの本気の、アドバイス」
俺が彼女に言えるのは、それだけ。
悲しい思いをするのは、きっと、俺だけで……
「俺……?」
「うん?」
「雨宮くんいま俺って言った?」
あっ。
「一人称僕じゃなかったっけ?」
「……僕からの本気の……」
「無理無理!やり直せないよ!」
側から見ていた千砂都さんまでツッコミを入れてきた。
クソ、無きことには出来ないか……。
「もしかして雨宮くんの素ってそっち?」
「…………違うよ」
「ほらほら素直になっちゃいなよ〜!」
くっ、クール系のキャラで通そうとしたのに……。
「いまのは気を抜いただけ。もう2度とみせない」
「えぇ〜」
澁谷さんが肩を落とす。
こっちの僕は口が悪いから得しないぞ。
「はいご馳走様!おわりおわり!解散!」
最後のたこ焼きを飲み込み立ち上がると澁谷さんも「あっ私も一緒に行くね!」と立った。
別に来なくていいけど……もう暗いし、女の子1人で帰らせるのも気分が悪い。
ついていってあげるか。
千砂都さんと別れて2人で道を歩きながら他愛のない話をする。
「寒っ、冬になりかけって感じだ」
「そうだね。パーカー着てても寒いや」
「う〜っ!」と身振るいしながらそういった彼女はどこか浮かない。
さっき歌えた方がいいとかキツめに言ったのが悪かったか?
「ねぇ、さっきの……」
「……なに?」
「キミにはって……雨宮くんには……」
「…………」
参ったな、僕、隙ありすぎじゃないか?
さっきから失言ばっかり咎められる。
「………………」
「………………」
僕が答えあぐねて沈黙の時間が続いていると隣の家の窓から沈黙を破るように声が聞こえた。
「ママママママママ〜♪」
「…………この声……!」
「律儀に……あの子は凄いね。正面から好きとぶつかってて」
音階を合わせるだけの簡単な発声。
それだけなのに練習の量が見て取れる。
「澁谷さんは、澁谷さんの心は、本当はどうしたい?」
今度は僕が問い返すと彼女は胸に手を当てて数秒間悩んだ素振りを見せて
「分からないの」
と言った。
……十分。立ち上がるのが嫌じゃなかったなら、何度だって立ち上がれる。
それが……僕にはない資格。
「いつか分かるよ。きっとね」
「ただいまです」
「おお、おかえり結」
あのあと交差点で澁谷さんと別れた。
別れるまで澁谷さんはずっと浮かない顔だったが仕方ない。
さて僕も部屋に戻って風呂の準備をするかぁ。
「じゃあ結、俺のたこ焼き出して」
「あっ」
「えっ?」
忘れてた……。食べて満足してたぁ……。
毎週月水金19時更新です。
次回は4月6日(水)です。