結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

40 / 44
第三十九話 それは青春の1ページ

 

閑話休題、ではないが。

今回は結ヶ丘ではないとある1日を話そう。

 

僕ら、雨宮結と時雨夏樹はあくまで紬ヶ河高校に通っている。

いつも結ヶ丘にお邪魔しているおかげでこの学校の思い入れが少ない。

とはいっても、入学式も体育祭もこの学校で参加したので、もちろんそれなりに友達はいる。

というより、僕らは生徒会ということもあって、学年の中では名前が通る方で、僕らを一方的に知っている人たちが多い。

 

というわけで。

 

「雨宮さん、木材足りないんだけど予算が……」

「雨宮!こないだ相談した女装メイド喫茶の件なんだが……」

「雨宮っち、ナマモノって売ったらダメだっけ」

 

とまぁ文化祭前はあっちこっちで名前が呼ばれてしまう。

もう一人の生徒会員に仕事を分配してやりたいが、夏樹はヘラヘラしているのでみんなから「アイツを頼りにするのはちょっと……力仕事だけかなぁ……?」と苦笑いされている。

 

ので、僕がこの学年の頭脳としてなんとか事を回している。

 

一方で、頼りになる人がいないと言えばそうではない。

例えば……

 

「おむすび、去年の予算申請書持ってきたぞ」

「ありがとうございます」

 

この人は花田(はなだ)先輩。

3年の生徒会員で僕のことをおむすびと呼ぶ。

初対面の時に「ゆい」を読み間違えて「むすび」→「おむすび」と呼び始めたのが始まり。

 

「夏樹は?」

「夏樹なら多分呼べば来ますよ」

「そんなアン◯ンマンみたいな……」

「助けて夏樹ー!」

「はいは〜いっ!?なになに!?」

 

試しに呼んでみると教室おくからドタバタと片手にトンカチを持ちながら教室の扉の前まで飛び回ってきた夏樹に花田先輩がゲンナリする。

 

「本当に来るのか……お前視聴覚の鍵知らね?」

「あー………っと、確かイッチ先輩が持って行ったよ」

「オッケー、じゃあ一基(かずき)にあたるわ」

 

一基先輩は2年先輩……だったと思う。僕は会ったことはないが、向こうが僕を生徒会として認知していてたまに夏樹から話に出す人だ。

 

そんな彼が視聴覚の鍵を持っていると知った花田先輩は踵を返して廊下を帰ろうとした。

しかし、何か思い出したのかまた180度体を返してこちらを振り返った。

 

「そういえばお前ら、結ヶ丘のスクールアイドル呼ぶんだって?」

「あれ、ハナちゃん先輩の所まで噂回ってるんだ!」

「そりゃもう。2年の奴らみんな楽しみにしてるぞ。…………で、実際どうなんだ」

「……どうなんだとは」

「可愛いかっつー話だよ!言わせんな無粋だな!」

 

下品な笑みを浮かべる花田先輩を前に「みんなに釘刺しておいて正解だったなー」としみじみ思う。

 

「可愛いですよ!僕のオススメは……白髪の子と金髪の子です」

「おっ、夏樹は話がわかるね!おれも写真見た時その二人がいいと思ってんだよね」

「写真?」

「ホームページのだよ。ポスターとかないからさ、俺ら結ヶ丘のホームページの練習風景見て誰が推しなのかっつー話してんのよ」

「へぇ〜」

 

確かにちゃんと宣伝写真というのは撮ったことがなかった……。

ラブライブも近いし、そういうことも近いうちにしておきたいな。

 

「で、お前はどうなんだよ、おむすび」

「……どう、とは」

「誰が推しかっつー話だよ」

「僕はオレンジ色の髪の毛の子ですね」

「へぇ、お前あぁいうのがタイプなんだ。後ろ結びしてる女の子、いいよな」

 

後ろ結び……?

あぁそうか。練習風景の写真しか知らないということは、普段練習で頭を結んでるかのんしか知らないのかこの先輩。

まぁ髪型で推しているわけではないが……面倒臭いのでそれでいいか。

 

「そういう事です」

「で、ぶっちゃけどうなの?好きなの?ガチ恋?」

「は?どうやったらそういう発想になるんです?」

「怒んなよ。だってそういうファンも少なくないぜ?同年代の可愛いアイドルに惚れてるやつの何がおかしいんだ?お前は違うのか?」

「違います。僕がかのんを特別視していることは認めますが、それはファンとして推しているだけです。恋愛感情なんてのは一ミリもありません」

 

キッパリ言い切ると夏樹が隣で笑った。

 

「ゆいちん厄介オタクみたい」

「やっか……は!?」

「いるよな〜こういう『俺は違うんだぜ』って奴。こういうやつほど愛がデカくて面倒なんだよな〜」

 

いやいや……僕は別に他の人を蔑んではいないし、かのんの魅力は広まるべきだと思ってる純粋無垢なファンだと思うが……!

 

「で、ハナちゃん先輩、こんなところで油売ってていいの?」

「あ、確かに。一基ントコ行かなきゃだわ。んじゃな」

 

夏樹の一言で廊下を走り抜けていく花田先輩。

途中作業中の看板を塗る男子3人を飛び越えて警戒に角を曲がり、先輩の姿は見えなくなった。

 

「嵐のような人だな……」

「そう?あの人いつもあんな感じだよ?」

「そういえば夏樹は終始タメ語だったけど仲良いのか?」

「体育祭の時に2年のエリア手伝ってね〜」

 

体育祭……。別に大きな出来事もなかったから適当にやっていたが、夏樹は裏でせっせと人脈作りをしていたらしい。

ご苦労な事だ。

 

「っと、僕らも仕事しないと怒られちゃう」

「仕事って言っても僕が統括してるからお前は力仕事だけだろ。こっちもちょっとは手伝え」

「それならこの仕事とかどう?」

 

ピラリ、と一枚の紙を僕の眼の前に夏樹が出す。

それを受け取り文字を追う。

 

「『各クラスの出し物把握と要望のまとめ』。これは?」

「先生から。各クラス回ってこーいって。これなら二人で仕事出来そうじゃない?」

「じゃあ手分けして俺は1組から。お前は3組から……」

「待って待って!一緒に回ろうよ!」

「一緒にってなんで……?」

「寂しいじゃん!友達と一緒に過ごすのが青春って習わなかった!?」

 

習わなかったが。

ただまぁ言ってることは一理ある。

別に効率重視というほど急いではいないし、夏樹がそうしたいならそうしてあげるべきかもしれない。

なんて言ったって夏樹は今回の文化祭に僕の倍以上気合を入れているようだから。

 

「わかったよ。1組からいくぞ」

「ぃやったー!デートだぁ!」

「お前みたいな男と付き合うのは人類が滅亡した時だけだよ」

 

 

 

 

 

 

─────────1組─────────

 

「1組はお化け屋敷だな」

「僕らのクラスだねー」

 

サラサラと紙に『お化け屋敷』と記入する。

要望は……僕らは生徒会で深くかかわってないからわからないな。

このクラスでまとめてるのは……

 

(みなと)!」

「んー?何だ雨宮?こっち忙しいんだけど、作業しながらでいい?」

「大丈夫。なにか足りないものとか困ってる事ない?」

「足りないもの困ってる事……?俺に女がいない」

「そういうことは聞いてない」

 

どう考えても文化祭の出し物の話だろうが。

 

「それ以外はまぁ順調かなー。もう少しスペースは欲しいけど」

「スペースかぁ……廊下までスペースを広げるとか?」

「夏樹の意見も悪くはないが、その廊下が通行止めになるのは良くない。もう少し大きい部屋を借りれないか僕らで聞いてみる」

 

答えながらペンを紙に走らせる。

 

『1組 出し物:お化け屋敷

   要望:スペースの増加』

 

 

 

─────────2組─────────

 

「ウチは占い焼きそばだ」

「占い焼きそば?」

「そうさ。占いで出た運勢によって食べられる焼きそばが変わるんだ!」

 

元気よく2組の代表、(たちばな)が答える。

 

「どういう出し物だよ……」

「それ回転率悪くなーい?」

「大丈夫!占いはプラス百円のパーティ用プランみたいなもんで、したくなかったら普通に焼きそばを頼める!」

 

そこはしっかり考えているのか。

 

「しかも!占いの結果は全て塩焼きそば!」

「そこ確定したら面白みゼロだが!?」

 

百円を無駄にするゴミイベントじゃねぇか!

 

「占いパターンは三つ!手相!水晶!タロット!」

「わぁっ!よりどりみどりってことだ!」

「そしてどれを選んでも塩焼きそばになるっ!」

「じゃあダメじゃん!?」

 

夏樹も思わずツッコミに回るほどのイカれた出し物だな……!

 

「そういうなよ。クラスの意見が占いと焼きそばに分かれてなんとか折衷案のここに落ち着いたんだぜ?」

「だとしてもそれは詐欺だ。占いの結果はおみくじでもなんでもいいから変わるようにしとけ」

 

『2組 出し物:占い焼きそば

    要望:折衷案の提案』

 

 

─────────3組─────────

 

「我々は女装コスプレ喫茶をやります!」

「ここはまだまともだな……」

「男に生まれたからにはやっぱり一度は美少女になるべきなのです!」

「あ、やっぱりイカれてるかもしれない」

 

思想がちょっと怖いわ。

 

3組代表、志那川(しながわ)が力説する横で夏樹は教室内にかけられた大量の衣装をみて回っている。

 

「メイド服、チアガール、ゴスロリ……なんでもあるねー」

「予算は大丈夫なんだろうな……」

「問題ありません!これ全て!私の私物ですので!」

「「私物ぅ!?」」

 

アレもこれも、このフリフリした可愛いやつもお前の!?

 

「私、こういう日が来ることを待ち望んでおりました……!堂々と男が美しい女性になるチャンスを!」

「お、おうそうか……それでなにか要望はないか……?」

 

ここに長くいるのは不味い……さっさと要望を聞いて帰ろう……!

 

「要望!それはもちろん、結さんが女装してくれる事です!」

「そうかそうか……それじゃ持ち帰って検討して……なんて?」

「前から思っていたのです!背丈があるとはいえ、整った顔つきに細い腕!貴方、きっと可愛くなれます!」

 

おいヤバいってコイツ!なんとかここを脱出しなければ!

助けを求めて夏樹の方を振り向くと……!

 

「ラブハートビームっ♡」

「…………なにやってんの」

「見てわかんない?プリキ◯アになったの」

 

いや見たらわかるが。

見たらわかるがなんでいつの間にかプリ◯ュアのコスプレしてんだって聞いてんだ。

 

「夏樹氏、ラブハートビームなんて技はありませぬ。此方に必殺技一覧をまとめた紙が……」

「あ、あのミニスカポリス着たーい」

「お、見る目がありますな!それでは……」

 

ノリノリで着替えてる夏樹に志那川が付き添う。

いよいよメイクまで始めて手がつけられそうになくなったので僕は帰ろう……。

振り向いて扉に手をかけた瞬間、後ろから袖を掴まれた。

 

「逃がさないよゆいちん……!!」

「チャイナ服とバニーガール……選ばせますぞ……!」

 

こっわ!ゾンビかよ!そしてどっちも嫌だが!?

 

「僕はまだ仕事があるので……!」

「逮捕するーっ!」

「ミニスカポリス夏樹さん!やっちゃってください!」

「おぉい!強要罪だろうがコレ!」

 

 

 

『3組 出し物:女装コスプレ喫茶

(僕からの)要望:倫理観が欲しい』

 

 

 

 

 

 

─────────帰り道にて。

 

「はぁ……はぁ……疲れた……!!」

「そう?僕は楽しかったけど」

「誰のせいだと思ってんだ!」

 

結局あの後、多勢に無勢、1対2には勝てず、あらゆる女装を決めさせられたあと、3組では撮影会が始まり、大きく道草を食ってしまった。

 

結果、その後の予定に大きく狂いが生じてドタバタと仕事を捌いていたら、帰る頃には既に夕焼けが浮かんでいた。

 

「明日はスクールアイドル部もオフだし……!ゆっくり休めるからいいか」

「当分忙しくなるからね。休めるうちにたくさん休もう!」

 

ググッと背伸びする夏樹の影が後ろへ長く長く伸びる。

今日は散々な目にあったけど……悪くはなかった。

 

「あぁ────楽しいな」

 

ポツリと横から聞こえてきたその声は、小さいけれども確かに聞こえる声で、この時間を愛おしく想うことが伝わるような声色で続ける。

 

「僕、この学校に入って良かった。ゆいちんと出会えて良かった」

「────僕もだよ」

 

多分、人生で見たら、この高校3年間はとても短くて。

それでも、みんなと過ごせるこの今を大事にしたい。

嬉しいこと悲しいこと、全部を体験して、日々に色をつけていく。

青春の1ページに栞を付けて良いのなら。

いま間違いなくこの瞬間に挟むだろう。

この感情を、この時間を、この親友を、素敵だと想う今を、閉じ込めたいくらいだ。

 

 

 

────────だがしかし。

世界はそううまく回っていないらしい。

神様は無粋で、幸せな瞬間を見逃さず試練を与える。

 

「ここにいたのか。夏樹」

 

思えば、僕はこの時、夏樹が見えていなかった。

アイツの抱えているものを。

道端に止まった車から出てくる人影を見た瞬間、青ざめていく夏樹の顔を。

 

「さぁ、帰ろう。いい話があるんだ」

 

車から降りてきた男が差し伸べた手を見た夏樹が今まで見たことなかった感情を見せた。

僕が他人のこの表情をみるのは────久しぶりだ。

夏樹の放つ感情は──────『怒り』

 

真っ黒に渦巻く闇のような怨嗟のこもった声で、夏樹は目の前の男の正体を語った。

 

 

 

「親父────!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回7月15日金曜日19時更新
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。