結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第四十話 崩落は音を立てて

四十話

 

「親……父……!?」

 

ってことは……この人は、夏樹のお父さん……!?

 

改めて目の前の男を下からじっくり見る。

靴から胸まできっちり整えられた黒く光るスーツ。

身長は僕よりも高い。ということは目算だが190cm以上……。

小さな体型の夏樹の父親とは思えない。

背丈は受け継がれなかったようだ。

 

一方で顔つきはかなり夏樹と酷似している。

メガネを掛けていて知的なイメージが加えられているものの、目や口などのパーツが夏樹に非常に似ている。

 

「おやキミは……息子のご学友かね?」

「え、えぇまぁ……夏樹とは生徒会で……」

「僕の事を息子と呼ぶな」

 

僕の言葉を遮って夏樹が答える。

その声には怒りが混じっており、思わず喉まで出かかった言葉が詰まる。

 

「何しにきやがったテメェ」

「おや?父が息子を迎えにくるのはおかしいことかい?」 

「ッッッッッ!テメェ……!!」

「落ち着け夏樹!!」

 

飛びかかろうとした夏樹を押さえ込む。

どういうわけか知らないが、夏樹はとんでもなくこの人が嫌いらしい。

 

「ふむ、相変わらず嫌われているようだね。折角いい話を持ってきたのに」

「テメェの話なんざ聞きたかねぇよ!」

「スクールアイドル」

 

会話など元からする気はない。

そう言わんばかりに口から出たその単語に夏樹と僕は固まる。

 

「面白い噂を聞いてね。スクールアイドルのマネージャーをしてるんだって?」

 

マネージャー……とは少し違うような気はするが、まぁ世間一般の言葉で僕らの奇妙な関係性を表すとしたらそうなると思う。

 

「えぇ。それが何か?」

「結!お前は黙ってろ!」

「うっさいお前は頭冷やして下がってろバカ」

 

いつもヘラヘラしてる夏樹が名前をそのまま呼ぶくらい冷静さを失っている。

目の前の男と夏樹に何があったのかは知らないが、これ以上夏樹に会話をさせるのはあまり好ましくない。

強めに夏樹を抑えて前に出る。

 

「一応確認なんですが、あなたは夏樹の父親でいいんですよね?」

「むっ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は時雨椿。S &Tという会社でデザイナーをしている。よろしく頼むよ」

「雨宮結です。よろしくお願いします」

 

ガッチリ椿さんと握手をする。

大きな身長に違わぬ大きな手で包み込まれるように手を握られ少しドキリとして顔を上げる。

するとそこには椿さんの顔があり────

 

 

──────背筋が凍った。

一瞬で察した。

この人は───出来る。

そこにはあった全てを見透かされるような瞳。

この人の前で少しでも油断したら……足元を掬われる……っ!

 

「さて……話を戻すが。夏樹、さっき言ったことに間違いはないな?」

「…………ねェよ。それがなんだ」

 

椿さんの視線が僕から夏樹に移り少し安心する。

夏樹も僕が前に出たおかげで頭が冷えたようで、まともに会話をしている。

だがその冷静さは次の言葉で失われることになる。

 

「実はスクールアイドルの大手の学校に声をかけておいた。来月には転校する」

「…………は?」

 

あまりの事に思考が停止する。

ただ、一番最初に理解した単語は、夏樹と同じで、同時だった。

 

「「転校っ!?!?」」

「前々回の優勝校だ。そこなら思う存分素晴らしい環境で活動できる」

「ちょ、ちょっと待てよ!聞いてない!」

「……?言ってないからね」

 

待て待て!状況が嵐のように変わっていく!

落ち着け整理しろ頭を回せ!

 

「……えっ……と……!いろいろ聞きたいんですけど……!まずはなんでいきなり転校なんですか」

 

かろうじて1番聞きたかった事を絞り出すように聞く。

僕の問いに椿さんは迷う素振りもなく答えた。

 

「息子には最高の環境を与えてやりたいのさ。やりたい事らしいしね。それとも────なにかい?」

 

その瞬間、血の気が引いた。

獲物を捕まえる前の鷹のような、鋭く冷酷な目。

それがこちらを威嚇するように睨みつけていた。

 

「────僕のやり方に文句があるのかい?」

「───────!!」

 

思わずたじろいでしまう。

言葉が出ない。

何か反論しないと……!!

 

「僕は嫌だよ」

 

後ろから僕を飛び越えるように声が聞こえた。

 

「僕はみんなとじゃないと嫌だね。アンタのお膳立てのもとでなんかまっぴらゴメンだ」

「夏樹……!!」

「…………また我儘を……」

 

椿さんが頭を抱えたのと反対に、僕は安心した。

夏樹に転校の意思はない。

それなら、本人の拒否次第でどうにでもなる。

 

「……いいだろう。この話は一旦保留にしよう」

「どうあっても僕は転校なんてしねぇ。とっと失せろ」

「あぁ。そうするよ。……またね、夏樹」

 

意外にも椿さんはあっさりと引き下がり、車に乗って僕らの目の前から姿を消した。

 

……一方で。

こっちの男は鎮まりそうにないが。

 

「話してもらおうか」

「…………なにを」

「あの人と……夏樹の話を」

 

話題を踏み込むと夏樹は覚悟したかのように顔を伏せポツポツと話し始めた。

 

「──────僕の母親は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────母親が死んだ、か」

 

夏樹から聞かされた事実はそれはもう凄いものだった。

……僕が言うのもなんだが。

 

「一度、あの人と大喧嘩して、家なら用意してやるから出てけ!勘当だ!ってね。そして久々にあったら息子呼ばわり。あの野郎……!!」

 

夏樹がまた怒りで震え始めた。

僕はなんと言葉をかけるか少し悩み……

 

「とりあえず今日は帰って寝ろ。頭冷やしてから話し合おう」

 

と夏樹を返す事にした。

 

─────────結果、あんな事になるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日、2人とも遅いね」

 

ちぃちゃんが部室でそんな事を言う。

私は紬ヶ河に行ったけど、ちぃちゃん達は結達に2日間も休みで会ってないんだよね。

 

スマホをつけて時間を確認。

いつもなら結も夏樹くんももう来てる頃なんだけど……

 

「連絡つかないんでしょう?迎えにいく?」

 

すみれちゃんが一応といった感じで提案する。

連絡つかないって事は何かあったのかな。

文化祭で忙しいとかなら杞憂なんだけど……

 

「……かのんちゃんがずっとそわそわしてるし、練習どころじゃないね。行こっか」

「うえええっ!?そ、そう!?」

 

そんなそわそわしてたかなぁ!?

 

「結が絡むといつもこうよね。行きましょ」

 

呆れたようにすみれちゃんが立ち上がる。

いやいや!そんな事ないから!私いつも冷静だから!

 

「そんなに心配しなくても、あの2人なら大丈夫だよ」

「そうデス!夏樹と結は2人揃えばグッドコンビネーションなのデス!」

「あれ、名前呼び捨てなんだ」

「以前夏樹サンが『え〜距離感あるんだけど』とおっしゃっていたノデ、これを機に」

 

それ、結は言ってないよね……絶対巻き込まれてる……。

 

4人揃って階段を降りる。そういえば。

 

「私たち紬ヶ河に行くんだよね」

「そうだよ?」

「みんな行ったことあるの?」

 

私はこの前行ったことあるけど。

そう言ったら3人とも首を振った。

 

「女の子4人で行くのってどうなのかな……」

「まぁいいんじゃない?結達もウチに来てるじゃない」

 

それはそうなんだけど……

 

「私、前に行った時囲まれちゃったから……」

「囲まれるの!?」

 

なにそれ!?と言ったようにすみれちゃんが顔を寄せる。

思わずのけぞって肯定すると飛び跳ねるようにすみれちゃんは校舎を出て行った。

 

「……急にどうしたんだろ」

「あのグソクムシはきっと囲まれてチヤホヤされる事しか考えていないのデスよ。絶対騒ぎになりマス」

 

可可ちゃん相変わらず厳しい……。

 

「どうする?変装でもする?」

「変装って……そんな道具持ってないよ……」

「それにきっとすみれが既に騒ぎを起こしているハズデス。変装しても意味ないデスよ」

「そうそう。それに馬鹿にされるって。結と

夏樹くんに『……不審者がいるな』『すご〜く知ってる人に似てるね』って言われるよ?」

 

2人の物真似をすると「あははっ」とちぃちゃんと可可ちゃんが笑う。

 

「『ギャラ子達が迎えに来てくれるの嬉しい〜』とか夏樹なら言いそうだけどね」

「夏樹サンはその辺素直デスよね」

「そうそう。結なら『別に迎えに来なくても良かったけど……ありがと』ぐらいはぐらかすよ」

 

ちぃちゃんと可可さんが大きく頷く。

やっぱりそれはみんなの共通認識なんだ。

結はそういう所あるよね。

 

そうこう話していると紬ヶ河の近くまでついた。

校門をくぐると男子生徒が何人かこっちを見た。

いやぁ、やっぱり注目を浴びるか〜。

そう覚悟をしたが、男子生徒はこちらには目もくれず急いで校舎へ入って行った。

 

……あれ?前とは随分ちがうな。

 

そのまま校舎の中にお邪魔するとなにか騒がしく、人の行き来が激しい。

特に階段はドタバタしていて登って行く人降りて行く人が多いので、上で何かあったのかもしれない。

 

「なにかあったのかな?」

「大方すみれデショウ。マッタク、取り囲まれて鼻の下伸ばしているのが目に見えマス!」

 

可可ちゃんが腕を組んでぷんぷん怒っていると噂が人を呼んだのか実際に階段上からすみれちゃんが来た。

 

「ちょっとすみれ!どこ行ってたデスか!お陰で騒ぎに……」

「それどころじゃない!はやくこっち来て!」

 

可可ちゃんの言葉を遮るようにすみれちゃんが声を荒げる。

 

ただ事じゃない。そう察した。

すみれちゃんはそのまま背を向けて階段を登っていったので私はたちはその後を追う。

可可ちゃんも流石に勘づいたのかすみれちゃんに何も言わず神妙な顔をしている。

 

階段を登り切ると既にすみれちゃんは一つの教室の前に飛び込んで行った。

そこへ急いで駆けつけた私たちの目の前に広がっていたのは───

 

「ハァッ──ハァッ──!もう一回言ってみろ夏樹ィ!!」

「落ち着きなさい結!」

「────何度も言わせないでよ。僕は──」

 

 

今まで見た事ないくらい激怒している結と夏樹くんだった。

教室は机が散らかっていて2人ともボロボロで切り傷で血が出ているところもある。

すみれちゃんはいまにも夏樹くんに飛びかかりそうな結を止めている。

その様子から大乱闘していたのがすぐにわかる。

どうして……なにが……!?

 

 

 

「僕は結とは絶交だ!!!!この学校も、転校する!!!」

 

 

教室に響き渡るその宣言に私たちは言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回更新は7月20日水曜日
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