結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第四十一話 大喧嘩

夏樹の父親と名乗る男が現れた翌日、学校に来てみるといつもと違うことが一つ。

 

「お、雨宮。っはよー」

「おはよ。夏樹に用があるんだけど知らない?」

「時雨?あー、確かにいつもならこの時間には登校してるよな……俺はまだ見てねぇ」

 

そうか。あんなことがあったんだし、昨日眠れなくて寝坊とかしてるのかもしれない。

 

ひとまず昨日のことを話すために僕は席に座って夏樹を待った。

 

───そうしているうちにHRが始まった。

 

「はーい全員席に座れー」

「先生、夏樹が来てませんけど」

「ん?欠席連絡は貰ってないが……寝坊か?」

 

先生が首を傾げると教室が笑いに包まれる。

「夏樹寝坊!?やっべ絶対イジるわ」と微笑ましい会話が辺りで聞こえるのと裏腹に……僕は妙に胸騒ぎがしていた。

 

そしてその胸騒ぎは当たることになる。

 

「時雨?まだ来てないだろ」

「…………そうか」

「そんな心配かよ雨宮。もうあいつ休みだって」

 

昼休みまで来ないとなると大半の人は何かあったと察し夏樹はもう休みだろうと割り切っていた。

もちろん、僕も頭ではそう思っていた。

ただ何故か、顔を見ないと、という謎の緊張感があった。

 

 

 

結局────夏樹が来たのは全ての授業が終わってからだった。

 

6限と終わりのHRが終わり、全員がそれぞれ鞄を持ち教室を出て行くなか、それは人の流れに逆らうように教室に入って来た。

 

僕は夏樹を見つけて安心した。やっと現れてくれたという安堵。

だが、安堵はそう長くは続かない。

 

「時雨じゃーん!もう学校終わったけどどした?」

「…………………」

 

無言でクラスメイトの絡みを無視する夏樹。

 

──────何かがおかしい。

 

こちらに一直線に向かってくる夏樹になんと言葉をかけるか迷う。

だが先に口を開いたのは夏樹の方だった。

 

「────ゆいちん」

「…………なに」

「──────お願いがあるんだ」

 

俯いて顔がよく見えないが、夏樹は淡々と言葉を紡ぐ。

まるでこちらの回答などどうでも良いかのように。

 

「────スクールアイドル部は、これから結一人で支えて欲しい」

「………………は?」

「────僕はもう……いられないから……」

 

なに……を……

 

「夏樹……それって……」

「僕……転校するんだ」

「……ッ!?待て!それは無しって話だっただろ!」

 

昨日の夏樹は確かに嫌だと言っていたはずだ!

 

「考えが変わった。それだけ」

「それだけなわけないだろ!ちゃんと話せって!」

「……ゆいちんには関係ない」

「なッ…………!?」

 

あまりにも淡々と答える夏樹に驚くと同時に、あまりにもムカついた。

 

「関係ないってなんだよ!?僕は……!!」

「黙って。…………ゆいちんには分からないよ」

「分かんないから聞いてるんだろうが!」

「聞いたところでどうするつもりさ!」

「どうにかする!」

「そうやって何も考えずに……!いいよね結ちんは!背負うものが無くて!」

 

…………背負うものがない?

 

「ちょっ、待て雨宮!」

 

次の瞬間、僕は右腕を大きく振りかぶっていた。

その後どうなったかは語るに堕ちる。

左頬を抑えながら夏樹はこちらを睨む。

 

「いいよかかって来い!!俺の過去なんてテメェにはクソどうでもいいもんな!?殴り合ったらちょっとは分かるかもしんねぇ……」

「……ッ!!」

 

俺の言葉を遮るように左頬に激痛が走り、地面に倒れ込む。

…………痛ェ……!

 

「そうだったね……結は猫かぶってたんだった……!話し合いは(こっち)の方が好都合かも……!!」

「待て2人とも落ち着け!」

「オイ誰か雨宮止めろ!」

 

クラスメイトが間に入って止めてくる。

立ちあがろうにも体を抑えられて立てない。

 

「なんの騒ぎよ……」

 

教室の扉の方から見知った声が聞こえる。

この声は……!

 

「すみれさん……!?どうしてここに……!?」

「どうしたもこうしたも、アンタ達を迎えに来たんでしょうが。何してるのよ」

「…………すみれ、邪魔しないでくれるかな。今取り込み中なんだ」

「…………夏樹?」

 

いつもと違う夏樹の様子にすみれさんがたじろぐ。

 

「……ねぇ結、これって何が……」

「僕はスクールアイドル部を退部する。あとは6人で頑張って」

 

すみれさんが話し終わるよりも先に結論を淡々と話す夏樹。

すみれさんが言葉の意味を咀嚼しようとして固まる。

一方で僕は──

 

「勝手な事言ってんじゃねェよ!!」

 

すみれさんの登場で驚いたクラスメイトの力が弱まっている事を感じたので、ここぞとばかりに力を入れて拘束を振り解く。

そのまま一心不乱に夏樹の元へ飛び込んだ──までは良かった。次の瞬間腹部に激痛が走る。

 

それが鳩尾に蹴りを入れられたと気づいた時にはもう既に床に転がり込んだあとだった。

 

「カッ……ハッ……!!」

「…………もう分かり合えないね。絶交だ。……いままでありがと」

「テ……メェ……!もう一回……!!」

 

腹部の激痛を堪えながら立ち上がる。

意識が朦朧として耐えきれない……!

けど……一発……!

あのバカを殴っておかないと気がすまねぇ……!

 

「ハァッ──ハァッ──!もう一回言ってみろ夏樹ィ!!」

「落ち着きなさい結!」

 

すみれさんが俺を静止する。

力が出せなくてすみれさんの腕の力で充分動けなくなったまま、夏樹の顔を見上げる。

夏樹はこちらを見下ろしたまま大きく息吸って答えた。

 

「────何度も言わせないでよ。僕は結とは絶交だ!!!!この学校も、転校する!!!」

 

その言葉を最後に、僕の意識は黒く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら知らない天井だった。

という事を普通の人は何度体験するのだろう。

多くても一回だと思う。

ちなみに僕は……2回目だ。

 

「ここは……?」

「結おきた!?」

「うおっ!?」

 

視界が至近距離のかのんで埋まり、思わず変な声が出る。

 

驚いて飛び上がると周りにはすみれさん千砂都さん可可さんと揃い踏みだった。

 

「ここ……」

「結、目の前で倒れちゃったからとりあえず私の部屋まで運んできたの」

 

あぁ……なるほど……僕あの時夏樹と喧嘩して……

ん?んん???

 

「っとおおおおおお!?」

「わあっ!?」

 

全力で横へ転がりベッドから落下する。

 

「結!?凄い勢いで転がり落ちたけど大丈夫!?ちゃんと寝てなよ!布団かけてあげるから!」

「……あのままベッドの上にいる方が大丈夫じゃないからいい」

 

かのんの部屋のベッドとはつまりそういうことになってしまう。

僕の日常はまだ平和でいて欲しい。

……いい匂いしたな。

 

「結くん……???????」

「ハイッ!?なんでもありません千砂都さぁん!」

 

かのんで邪な考えは千砂都さんの前ではしない方がいいな……怖い。

 

「…………夏樹サン……どうしたんでショウ……」

 

可可さんの小さなつぶやきで空気が一気に重くなる。

全員が暗い顔をして俯く。

 

「……私は認めないわよ」

 

いの一番に発言したのはすみれさんだった。

 

「私を散々勧誘しておいて、勝手に抜けるなんて認めないわ。どんな手を使ってでも連れ戻す」

 

覚悟の決まった目で喋るすみれさんに息を呑む。

 

「でも、事情がわかんないよ。夏樹くんは話してくれる気配がなかったし……」

 

かのんの一言でさらに空気が沈む。

確かに、僕があそこまでして話しても喋らなかったんだ。

そんな簡単に物事は進まない。

 

頭を抱えていると部屋のドアから『コンコン』とノック音が聞こえた。

 

「……?お母さん?いまちょっと大事な話し合いしてるんだけど……」

 

かのんが立ち上がってドアを開く。

そして次の瞬間、全員が言葉を失った。

だがそこにいたのはかのんの母親ではなく……!

 

「なっ……!?」

「えっ……!?」

「どうして……ココに……!?」

 

全員扉の前の人物に固まる。

だって……そんなはずはない……!!

こんな所にいるはずが……!?

 

 

 

 

 

 

「やっほー。暗い顔して、らしくないぞー?」

「ね、ねーちゃん……!?」

 




次回は諸事情により休載させていただきます。
次回更新は7月25日月曜日19時
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