結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第四十二話 時雨夏樹のお話

 

突如扉の向こうから現れた姉に驚く。

 

「やぁやぁ。かのんちゃん元気にしてたかなー?」

「紬さん!なんでここに!?」

「いやいや、ちょっと話したいことがあったんだけど……もしかしてそれどころじゃない?」

 

まぁ……事態はこちらとしては深刻だ。

ねーちゃんの話なんていま聞く余裕あるだろうか。

それより……

 

「なんで此処に?かのんの家、姉さん知ってた?」

「いやいや、弟に用があるってなったら普通学校行くでしょ。そしたらなんか倒れて女の子が連れて行ったって噂聞くじゃん?で、もしかしたらと思ってかのんちゃんを当たったのさ」

「でも、それだけで私の家の場所は……」

「それはとある人から教えてもらった。弟が倒れて緊急って言ったら快く教えて貰ってね?」

 

ねーちゃんが扉のさらに向こうに笑いかける。

……?扉で死角になっているが、他に誰かいるのだろうか。

 

「お邪魔しています」

「なっ……!?」

 

本日、二度目。

ねーちゃんの登場と同じく、扉の死角から出てきたその人に言葉を失う。

いや、あるいはねーちゃんの登場よりももっと意外。

それは本来、ここにくる理由すら見当たらない人。

 

「葉月さん!?」

「なんでここに……!?」

 

結ヶ丘組が驚いて息を呑む。

僕も全く見当がつかない。

 

「単刀直入に言いますと、時雨夏樹さんの事についてお話ししたいのです」

「……夏樹の?」

「はい。彼の……昔の話を」

 

どういうこと?

 

「待って待って!全く状況が理解できない!」

 

僕と同じで頭がこんがらがったかのんが大急ぎで止める。

 

「まず、なんで夏樹くんの過去のお話を葉月さんが知ってるの?」

「それは……お恥ずかしながら──」

 

かのんの問いに葉月さんは少し言いづらそうな雰囲気をただよわせ……答えた。

 

「──私、中学時代、彼と交際しておりまして……」

 

…………ん?

んんんんんんんんんんんんん????

 

「「「「「交際ぃ!!??!?!?!?」」」」」

 

「待て待て!葉月さん夏樹の元カノ!?!?」

「元カノ……?とはスラングでしょうか?」

「とぼけられてんの僕!?わっかんねぇんだけど!?」

「いつ!?いつぐらいに!?」

「中学2年生の間1年間……。幼馴染のご縁がありまして」

「幼馴染……!?アンタ達幼馴染だったの!?」

「実家が太く、結ヶ丘設立の資金援助をしてくださった方の息子として仲良くして欲しいと母が……」

「情報量がスゴいデス!!」

 

な、なるほど……!

一学校の設立者の娘と、有名ブランドを父に持つ息子。いいところの習い事とかをしてればなにかはぶつかるか。

いやでも付き合ってたとかそんな話初めて聞いたが……!!

 

「意外過ぎて言葉も出ないけど……まぁわかった。で、今度は僕たちに肩入れする理由を教えてもらおうか」

 

正直なところ、そこが一番聞きたい。

スクールアイドルを続けている僕たちは本来目の敵であるはずだ。

 

「結ったら口悪くない?こんなだったっけ?」

「あはは……本人いわく、生理的に苦手なタイプらしいよ」

 

かのん、すみれさん、小声でも聞こえてるからな。

 

「………スクールアイドルを認めない事と、この問題は別の事です」

「……へぇ」

「友人と離れる事は……悲しい事ですから」

 

…………それとこれとは別問題。

っっっっっっあぁムカつく!!!

大人っぽいし正論だ!

正論すぎて僕が子供みたいじゃないか!!!

 

「…………っ分かったよ!休戦!休戦協定!聞かせろ葉月恋!!」

「恋で大丈夫です」

「……葉月、さん」

「……まぁ構いませんが」

 

やっぱコイツ大人っぽくて腹立つ!!

 

「結、子供っぽい……」

「かのーん!!!」

 

気にしてるんだからー!!!

 

「コホン、話を戻しますね」

 

あ、茶番いい感じですか?そうですか。

それでは真剣モードで。

 

「その昔……彼と出会った小学生の時、彼は……時雨夏樹は。一言でいうなら、今にも倒れそうでした」

「……それは」

「何かに追われているようで──何かに縛られていたあの人を救いたくて──私は声をかけました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞼を開けると時計が16時を示す。

────いつもなら練習の時間だな。

そんな事をぼんやりと思う。

既に退部した僕には関係のない話だけれど。

 

ボーッと天井を見つめていると昔のことを思い出す。

彼女と初めて出会ったのは──バレエの教室だったか。

 

『あの……大丈夫でしょうか?』

『ハァッ──ハァッ──!!大丈夫……だから……!!退いてて……!!』

 

そう言って彼女を押し退けて鏡の前で練習を続けて。

 

『オーバーワーク?になってしまうと先生が……』

『関係ない!!僕は──もっともっと強くなるんだ──!!母さんの代わりに──!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さんの代わり?」

 

かのんが首を傾げる。

 

「それを話すなら少し話は長くなるのですが……話さなければなりません。おそらく、今回のお話はそこが原因ですから」

 

……少しだけ、察した。

そして話が見えてきた。

 

「あの時は必死で彼を練習から離れさせようとして……子供ながらに行動しました。そして──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は唐突に僕の手をとって走り出した。

先生の静止も耳に入れず、扉を抜けて外へ駆け出す。

 

『おい!なにすんの!』

『お出かけ!しませんか!』

『はぁっ!?』

『楽しいこと!いたしましょう!』

 

そのまま手を引いて街へ出た僕ら。

そのままゲームセンターに駆け込み

 

『はぁっ、はあっ、こことかどうでしょう!?エアホッケーがあります!』

『……お金あるの?』

『あっ……』

『……はぁ。帰る』

 

クルリと踵を返して背を向けた時、後ろから聞こえた一言で僕は動きを止めた。

 

『バレエ、楽しくないのですか?』

 

明らかに心配している声色で僕に問う彼女に苛立ちを覚えた。

だからなるべくそっけなく返した。

 

『でも、続けなきゃ』

『……それは、何故?』

『……僕のせいで母さんがいないから。僕が母さんの代わりにならなきゃ。母さんより、スゴい存在にならなきゃ』

 

あの時の僕は本当に切羽詰まっていたと思う。

どんな表情をしていたんだろう。今となっては思い出せそうにない。

 

『母さんの代わりは……僕しかいないんだ』

 

ただ、彼女はあの時言ってくれたことは今でも思い出せる。

強引で、理論なんてなくて、無茶苦茶だったけど。

 

『それなら、あなたの代わりは誰もいません!!今私と遊んでくれる方は、あなたしかいません!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かの為を背負いすぎている夏樹さんに、それはどう聞こえたのかは分かりません。ただ──」

「……ただ?」

 

葉月さんは愛おしそうに遠くを見つめながら言葉紡ぐ。

 

「あれから彼は……少し笑うようになりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

『……1ゲーム』

『……はい?』

『100円だけある。1ゲームだけな』

『……!はい!』

 

嬉々としてエアホッケーの反対側に着く彼女をみて、100円玉を入れる。

始まったゲームは……楽しかった。

 

『ああっ!?』

『いや弱すぎだろ……』

『こういう所は初めてで……そういうあなたこそお上手ですね』

『習い事たくさんしてるせいで、覚えるのには自信あるんだよね。だから僕の方が有利。でもまっ、手加減はしないけどっ!』

『ああっ!?』

 

たった100円のゲームだ。1、2分ですぐ音が止まりエアーが出なくなる。

 

終わりを察してスマッシャーをしまうと目の前で寂しそうな彼女が目についた。

 

『どうしたの?』

『あぁいえ──楽しかったので、少々口惜しいなと』

 

彼女のその表情を見た時、口から言葉が勝手に出た。

 

『次はどこ行く?』

『……え?』

『だから、次はどこに行くのって言ったの。お金が必要なら明日でもいいから』

『……!!それなら……!!』

 

それから──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それから私たちは遊ぶようになりました。次第に彼は明るくなり……その、ものの成り行きで交際もしました」

「一番大事なところすっ飛ばすなよ!!!」

 

そこが聞きたいんだろうが!!

 

「いえその……『なんどもお出かけしてるんだし、付き合ってみる?』とナツの方から……」

「ナツ?」

「あぁいえ!!!!夏樹さんの方から!!」

 

なんだ、ただの呼び間違えか。

 

「おそらく。恐らくですが。夏樹さんは母親に関してなにかトラウマを抱えており、それが今回の原因なのではないかと……」

 

葉月さんが語り終わる。

 

……なるほどね。大体分かったし、問題解決の糸口も見えた。

 

「それなら簡単ね。夏樹を捕まえてそのトラウマを解決したらいいわね」

 

すみれさんが勝ち誇ったように提案する。

 

「そうだよね!そうしたら夏樹くんも戻ってくるよね!早速夏樹くんを捜しに行こう!」

「夏樹サンは大事な友達デス、勝手に転校なんてさせまセン!」

「うん。もうスクールアイドル部の一員だもん。私も幼馴染だし、話ぐらいは聞かなきゃ納得できない」

 

続々と立ち上がって夏樹を助けようとする意思を示す。

ただ──────。

 

「ね、結も夏樹くんを捜しに……」

「僕はいかない」

 

ただ、僕は乗り気ではない。

 

「ちょっと結!喧嘩したからっていくらなんでも意地張ってたら……」

「そういうことじゃないんだよ」

 

僕の意図を唯一汲み取ったねーちゃんがかのんを止める。

そして、続けて、というアイコンタクトをねーちゃんから受け取ったのでゆっくりと、自分の感情を整理しながら僕は口を開く。

 

「アレが本心かそうでないか、どういう状況だったかはさておき……夏樹は僕らの前でハッキリと『退部する』と言ったんだ。落とし前はつけもらう」

 

ギシリ、と椅子の背もたれが音を立てる。

 

「絶交を語るってのは、そんな簡単なことじゃないよ」

 

今まで意気揚々としていたみんなが黙りこくる。

 

「……それは分かった。じゃあ、結は夏樹を連れ戻したくないの?」

「…………いまは、思わない」

 

少し考えて、そう答える。

少なくとも、考えて出た答えだ。

後悔はないし、間違ってもないと思う。

 

「僕は神様じゃない。救える手の範囲は限られてるし、目に見える全ての範囲を救おうなんてことは難しい」

 

きっとどこかで救うもの救わないものの取捨選択をして……清濁合わせてみんな生きている。

そしてその取捨選択で全てに共通することは。

 

「助かりたいとも思ってない奴は結局、何やっても救えない。だから今の夏樹を、僕は救おうとは思わない」

 

たとえ誰に何を言われても。

 

「僕が助けるのは、手を伸ばしてきた奴だけだ」

 

僕の言葉に部屋が沈黙で満ちる。

 

 

 

 

 

 

結局、その日はこれ以上いても進展がないと何処からともなく提案され、解散となった。

 

それから僕が次に夏樹と会うのは、1週間後。

文化祭前日となる。

端的に言えば────夏樹は学校に来なくなった。




次回更新7/27水曜日19時
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