結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第四話 大好きっていま叫ぼう!

「僕の家に来て欲しい」そう言って昨日は解散したものの、具体的な時刻は決めていなかったため、僕は自分の部屋でインターホンが鳴るのを待っていた。

 

にしても……。

 

「おそい」

 

普通なら学校が終わってすぐ来るものじゃないのか。時刻はもう17時学校が終わってしばらく経つ。

居残り勉強とかさせられているのだろうか。

もしくは……スクールアイドル関連で学校と何か揉めているか。

 

うーん、どうしたものか。

 

連絡を取りたいが、なんだかんだあってもLINEすら交換していないので連絡を取る手段がない。

昨日会った時に聞いておけば良かった。

 

変な噂を立てられるかもしれないが、ここは彼女達の学校に迎えに行くのが最善かもしれない。

 

そう思い立って下の階に降りると叔父さんがいて声をかけてくれた。

 

「結、どっかいくのか?」

「友達を迎えに」

「…………そうか」

 

今の数秒の沈黙は、『虐められてた結が友達作れている。良かった』のような意味だろう。

おじさんには心配ばかりかけさせて申し訳ない。

折角だから家に来ることも伝えておこう。

 

「女の子2人、部屋に呼ぶ予定だけどいいですかね?」

「おう、お前がいいなら……え待て女の子?」

 

目をギョッと剥き出し首を180度回転させてこちらを見る叔父さん。

 

「はい女の子。同学年の。友達ですけど」

「お、おう!友達か!そういうのから始まる時もあるわな。手を出すのはやめとけよ」

 

下世話すぎる。

初めてこの叔父さんに鬱陶しさを覚えた。

 

「それじゃあ行ってきます!」

「おーう、いってらっしゃい!」

 

イラついて乱暴に放った言葉は叔父さんにはノーダメージのようで元気よく返される。

無敵だあの人は。

 

でも取り合えずは

 

「結ヶ丘ってこっちだよな……」

 

足を進めるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

それから10分ほど歩くと、竹下通りの有名なアイドル街に着いた。

 

ここを抜けると結ヶ丘らしい。

普段の学校とは反対方向でなんだか新鮮な感じがする。

 

横を見るとスクールアイドルの缶バッチやうちわが売ってあった。

 

有名になったら渋谷さんたちもこんなことをするのだろうか?

 

今は澁谷さんを迎えにいくことが先決なので後回しだが、機会があればじっくり見たいものだ。

 

しかしこうしてみるとアイドル街だというのに通行人は結構女性の比率が多い。

いやむしろ女性の方が多いのか?

 

少しずつだが澁谷さんたちと同じ制服の女の子を見かけるので、学校は終わったのだろう。

 

そんなことを考えながらよそ見をしていると正面に強い正直をもらいよろめいた。

一方、「ギャラッ!?」と奇妙な声をあげた金髪の女の子は男女の体格差からなのか、大きく地面に尻餅をついて痛そうに尻をさすっている。

 

これはよそ見をしていた僕が悪い。

 

「大丈夫ですか?」

「えぇ、問題ないわ。ショービジネスじゃこれくらい体を張って……」

「しょーびじねす?」

「何でもないわ!」

 

なにやら奇妙な言葉を発した彼女は素早く立ち上がり僕の前を歩いて行った。

 

なんだ今の人。

 

ぶつかったってことは僕と逆方向にいかないとおかしくないか?

なんで来た道を戻ってるんだこの子は。

この道を往復しているとか?

まさか。そんな意味のないことするわけないか。

 

まぁ別に気にすることでもないか。

 

にしても綺麗な人だったな。

澁谷さんたちと同じ制服だったし、コスプレでもない限りは高校生、それも結ヶ丘だろう。

それでいて金髪ブロンドとはなかなかに天性の美形だ。

あとで澁谷さんに誘えるかもしれないと伝えておこう。

 

 

「あれ?結くん?」

 

ん?呼ばれた?

 

振り向くとそこには昨日会った彼女の姿がいた。

そう、澁谷かのん。

 

ではなく…………。

 

「千砂都さんじゃないですか」

「あーやっぱ素じゃない感じ?」

「その件は記憶から消していただけると」

 

痛いところを本当に……!

 

「ところで澁谷さんの連絡先知らないですか?」

「知ってるよ?知らなかったの?」

「昨日今日会ったばかりなんですよね」

「そうなの!?なんかすごく打ち解けてたから勘違いしちゃった」

 

まぁ確かにそう思われても仕方ない。

昨日会った人とスクールアイドル、なんて普通はしないか。

それも異性だし。

 

彼女からスマートフォンを見せられたので覗き込むようにして確認する。

 

「結くん……!」

「はい?」

「近い……!」

 

えっ?

 

千砂都さんのスマートフォンから顔を上げれば目と鼻の先に千紗都さんの顔があり、見つめ合う形になった。

 

「あっ、えっと、ごめんなさい」

「ううん、いいの。でもなんて言うか、結くんってそういうところ、鈍いよね」

 

そういうところ……とは?

 

「どういう所?」

「ヒミツ。そういうのはかのんちゃんにね。それよりかのんちゃんに用があるんじゃないの?」

 

そうだった。すっかり忘れてた。

 

LINEに「今どこにいる?」とメッセージを送ってみるも即返信されるような気配はない。

 

見てないなぁ……?

 

「返信ないし、やっぱり結ヶ丘まで迎えに行くことにします」

「そうだね。多分まだ2人とも学校にいると思うよ」

「分かった。じゃあまた」

 

おもわぬ情報提供者に感謝し、踵を返す。

さて、もう夕焼けという時刻も過ぎ去りかけている。

急いでいこう。

 

「待って!」

 

背中に投げかけられたその声に足を止める。

 

「なんですか?」

「その、かのんちゃんのこと……」

 

澁谷さんの……?

 

「かのんちゃん、音楽科落ちてからね、すごく落ち込んでて……本人は表に出してないみたいだけど……」

「…………だろうね。気にしてないって言っても限度がある」

「だから、かのんちゃんを救って欲しいの」

「救う?」

「うん」

 

こちらを一途に見つめて頼み込む千砂都さん。

言葉にしなくても分かる。彼女の真剣さが。

 

「……なんで僕?」

「なんか……結くん……似てるから。かのんちゃんに」

「それは……」

 

僕と彼女が……似ている……ね。

 

「言い得て妙、かもね」

 

今の彼女と僕は、確かに似ているかもしれない。

いや、似ているからこそ、僕は彼女を助けたいのかもしれない。

 

だから僕は千砂都さんに笑って

 

「澁谷さんのこと、まかせてよ」

 

と答えた。

 

ビュン、と大きく風が吹く。

まるで背中を押すように吹いたその風は通りを駆け抜け、頬を切り裂くように熱く熱気を孕んでいた。

嗚呼、春だ。これから始まる。全てが。

僕も、始めるんだ。彼女を、澁谷さんを助けることで。

 

「結くん!」

 

僕の名前をよんだ千砂都さんは僕の答えに呼応する様に強く微笑んで

 

「またね!」

「…………また!」

 

期待を込められた言葉を引き金に僕は駆け出した。

 

目まぐるしく景色が変わる。すっかり夕焼けになった街並みを越え、開けた場所に出る。

大きな交差点越え、だんだん人が少なくなる。

国道から距離がでてきた証拠だ。

 

学校が近くなってるってことだ。

周りに結ヶ丘の学生服を着た子が多くなり、一目散に走り去る僕を物珍しそうに見る。

 

多分今の僕は街中で走る奇妙な人なんだろう。

 

でも人目なんて気にしてられない。

いま、走り出したいから。

 

次第に校舎が見えてきて校門も目の前に見える。

そんな時、

 

「ガッカリするんだよ!」

 

遠くからの聞き覚えのある声に、今まで全力疾走だった足が止まる。

 

「いざって時に歌えないと、周りのみんなもガッカリさせちゃうし……なにより自分にガッカリする!!そういうの……もう嫌なの!」

 

 

「「応援します(マス)」」

 

彼女の叫びに応えなきゃいけない。

いつのまにか走り出して校門まできた僕は彼女にそう言い放っていた。

 

そしてそう思ったのは僕1人だけじゃなかったらしい。僕の存在に気づいた2人がこちらを見る。

澁谷さんが苦しそうに目を逸らした。

 

僕らをガッカリさせないか不安なのはわかる。

けど、これは譲れない。

僕の独善的な贖罪(しょくざい)

彼女を信じること。

それが今の僕にできる、精一杯の誠意の表現。

 

悔しそうな澁谷さんを見て可可さんまでも叫ぶ。

 

 

「かのんさんが歌えるようになるまで、諦めないって約束しマス!」

「僕だって、かのんの歌が聞きたい。いや、みんなに聞いてもらいたい!だから今僕はここにいる!あの日あの時、路地裏で君を拒否しなかったのは!君を信じたいと思ったからだ!」

 

「だから!」「だから!」

 

「試してくれまセンカ?可可と」「僕たちと」「「もう一度だけ、始めてくれませんか(センカ)?」」

 

 

静かな校舎に2人の声だけが響き渡る。

こだますることもなく静寂に消えたその願いは僕らの時間を止めた。

 

一瞬のようで永遠に思える静寂のあと、澁谷さんは無言で校門であるこちらへ歩みを進めた。

 

ゆっくり一歩ずつこちらへ向かってくる澁谷さんはヘッドフォンを付けた。

もう、僕らの声は……

 

「いいのかな……」

 

僕の隣。校門まで歩みを進めた彼女が小さく放った言葉に僕は何も考えず、心の赴くまま答えた。

 

「当たり前だろ」

 

次の瞬間、隣にいたはずの彼女は校舎へ駆け出していった。

 

それを見送る僕には、心なしか。

 

彼女の背中に、翼が見えた。

 

「やっぱり私、歌が好きだ!」




毎週月水金19時更新です。
次回は4月8日(金)です。
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