結とかのんの始まり物語   作:cinnamon

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第五話 ありがとう

「私……歌えた!?」

 

道の中央で驚愕する澁谷さん。

 

「歌えた歌えた!!!私、歌えたよね!?」

「ん。ばっちり見てた。完璧」

 

今度はヘッドフォンなし。衆人のど真ん中で大歌唱。

結果は拍手喝采。

大成功以外の言葉があるだろうか。

 

「これで澁谷さんもスクールアイドルにいいっ!?」

「歌えたぁ〜っ!歌えたよぉ〜っ!」

 

ちょっと!振り回すのやめて!抱きしめないで!!人目!人目あるから!!澁谷さん!!

 

可可さんも止めて!

って感動して拍手が止まってない!!ストッパー僕だけ!?

 

「なんの騒ぎ?」「なんかショーやってるらしいぞ」「なんか聞こえだぞ!」「映画の撮影?」

 

ほらー!勘違いギャラリーが続々と!

 

……これは仕方ない。

 

「逃げるよ澁谷さん!」

 

彼女の手を取って観衆の中を駆け抜ける。

 

「まっ、待ってくだサ〜イ!」

 

後ろから可可さんがついてきたのですかさず彼女の手も取る。

 

「さぁこのまま僕の家に直行するよ!」

 

 

 

 

 

「ここが僕の家だよ」

 

あのあと無事観衆を撒いて路地裏を駆け抜けて無事、自宅前に来た。

 

「なんていうか……」

「普通の家デスネ……」

「悪かったな。どんなだと思ってたの」

「クラブ」「バー」

「僕そんなチャラ男に見える?」

「うん」「ハイ」

 

悲しい事実だ。

今からにでも歌舞伎町への引越し手続きをした方がいいのかな?

 

「とにかく僕の部屋においで。話はそこから」

 

玄関の扉を開けて今を確認すると叔父さんはおらず仕事中と察する。

 

上がって上がって、と2人を促し階段を登り部屋の扉の前まで案内をする。

 

「はい、ここが僕の部屋、いらっしゃい」

 

自分の部屋の扉を開けると目の前に飛び込んできた景色に後ろの2人は歓声を上げた。

 

「「かっわいい〜〜!!!!」」

 

「すごい、アクセサリーだらけだぁ」

「ん、僕の趣味でね、可愛いものから綺麗なものまで、ネックレスからアンクレットブレスレット、果てはイヤリングまでなんでもあるよ」

 

文字通り、壁一面に飾り付けられたアクセサリー。

ガラスのケースに入っている奴は高価なものだが、それを除いても数え切れないほどある。

 

「こういうの、好きなんだ」

「昔からね」

「宝石が好きなんデスか?」

「んー、まぁ好きだけど、アクセサリーが好きな理由はその美しさかな。装飾品として人を輝かせるのが凄くいい」

 

ハマったのは小学生の時。

たしか女児向けの本の付録についていたおもちゃのアクセサリーを見て、心が奪われたのが始まり。

よく覚えている。

 

「宝石とかも勿論あるけど、フラワーレジンとかもあるよ。ほら、この辺とか可可さんに似合うんじゃないかな」

「ほわぁ〜素敵デスぅ〜!……?結サン、こちらは?」

 

可可さんが部屋の隅にあった段ボールを不思議そうに見る。

その瞬間僕の心臓は大きく跳ねた。

大丈夫、大丈夫。

そう繰り返し頭の中で唱えても呼吸は激しくなり自分の体温が下がっていくのがわかる。

 

「雨宮くん?」

 

澁谷さんの呼びかけでハッとする。

大丈夫、この子達は悪意があるわけじゃない。

だから、大丈夫。

 

一度大きく息を吐いて落ち着く。

 

「……ハァ〜。……それはね、失敗作」

「シッパイサク?」

「そう。レジンに失敗したやつとか、宝石が酷く傷ついたやつのゴミ箱」

「作るのデスか?」

「……中学生の頃はね、作ってたんだ」

 

何か不穏な雰囲気を感じたのか2人が言葉をつぐむ。

 

「今日話したかったのはこの事なんだ。これが、僕のトラウマ」

「トラウマ……」

「中学生の時にね、いじめられてたんだ。僕。まぁ女っぽい趣味だからね。子供には善悪の判断がつきにくいし、仕方ないよ」

 

自分を励ますように笑うと2人は顔を下げる。

暗い話題だ。仕方ない。

 

名前も結って女らしくて、女だの女々しいだの散々な言われようだった。

 

でも今では僕は気にしていない。

あの頃はみんな子供だったのだから仕方ないし、女っぽい趣味であることは事実だ。

 

「それで僕はアクセサリー作りをやめたんだ。集めることはまだしてるけどね」

「ゴメンなさい……可可はそんなこととは知らず……」

「いや、その件はもう自分の中で整理がついてるから大丈夫。それより、僕はこれからの話がしたい」

「これから……?」

 

澁谷さんが不思議そうにこちらを見る。

そう、これからだ。過去のことはもう折り合いはついた。だからこれからのことを話さないといけない。

 

「僕は指導役のダンサーとして協力するけど、ハッキリ言って難しい」

「なんで?路地裏のダンスは凄かったよ?」

「あれはストリートダンスだよ。即興かつ、魅せ方がアイドルとは全然違う。だから、正直な話、ダンスの部分は期待しないで欲しい。別の指導役をみつけた方がいいかも」

 

僕がそう告げると澁谷さんは少しの間逡巡すると、「分かった。その辺は友達に頼んでみるよ」と言ってくれた。

アテは僕の他にいるらしい。

 

「代わりにと言ってはなんだけど僕はこっちで援助する」

 

トントンとガラスケースを叩く。

意味を察したのか可可さんが確認をとる。

 

「つまり……衣装のアクセサリーを担当する、という事デスか?」

「そう。手作り、とはいかないけど、なるたけいいものを見つけてくる」

 

こちらの提案に2人とも逡巡して

 

「大丈夫。むしろこんないいアクセサリーをつけられるなら歓迎だよ」

 

と澁谷さんが笑う。

 

「じゃあ改めて、衣装係が僕」

「あ、可可もやりマス!」

 

それは助かる。衣装係は多ければ多い方がいい。

 

「じゃあ可可さんと僕が衣装係。作詞は澁谷さん。作曲が可可さん。あとは振り付け係が……」

「ちぃちゃんに頼むね」

「千砂都さんデスネ!頼もしいです!」

 

千紗都さん……前にたこ焼き屋でバイトしてた子だったか。

あの子ダンスもできるのか。

機会があれば今度一緒に踊ってみたいものだ。

 

「とりあえずはこんな感じで役割分担は十分かな。澁谷さん」

「なに?」

「改めて聞くけど」

 

一呼吸置いて彼女に聞く。

真っ直ぐ目を見て。

 

「やるんだよね。スクールアイドル」

「……もちろん!始めるよ」

 

彼女の強い意志を感じるような返事で安心した。

……けど可可さん。

 

「やったデス〜!これで百人力、いや一億万人力デス〜!」

 

澁谷さんを抱きしめるのはやめてあげてほしい。

澁谷さんが苦しそうにジタバタしてるから。

胸に顔を埋められてるから喋ることができないのか。

 

2人とも僕を置いて百合営業しないでほしい。

一応結構真面目な雰囲気のつもりだったんだけど。

 

「ってこんな時間!もう外暗いよ!」

 

ぷはっ!と可可さんの胸から脱出した澁谷さんが窓の外を見て驚く。

 

学校終わった時点で既に17時だったのに、そこからいろいろあったからな。

 

「じゃあ今日は解散しようか。2人とも送るよ」

「あ、可可は大丈夫デス!帰り道に寄るところがあるノデ!」

「寄るところ?」

「スーパーデス!可可、1人暮らしなので自炊用の食材を買わないと行けないのデス」

 

あーなるほど。

 

「じゃあ途中まででもいいから送るよ。行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから少しの間歩いた。

3人でいる間、今後の活動の内容もすこし話したが、なんだかんだ、互いの学校の話になった。

 

「生徒会長の葉月恋ねぇ。なんでそんなに嫌ってるんだろうな」

「それは私にも分からない」

 

謎に包まれた生徒会長。

まるで学園ドラマだ。

そういう生徒会長に限って、悲しい過去が……って考えすぎか。そういうのは物語の中だけかな。

 

「あ、可可はここでいいデス」

 

交差点の前で可可さんが立ち止まる。

彼女はここまでらしい。

 

「ありがとうございマシタ」

 

ペコリと頭を下げてくれる。

いい子だなぁ〜。

 

「いやいいよ。夜中に女の子だけってのも悪いし。改めてまた明日、澁谷さんの家で」

「ハイ」

 

手を振って可可さんはその場を離れた。

 

「今日と昨日で色々あったね」

 

再び歩き出した澁谷さんはそんなことを言った。

 

「街中で可可ちゃんにであって、路地裏で雨宮くんと会って、歌えるようになって……もうクタクタ」

「今日はゆっくり休んでって言いたいけど、いま凄く歌いたいでしょ」

「うっ……」

 

図星だ。

帰ったら絶対鼻歌歌いながら上がったままのテンションで夜更かしする。

それ自体はいいんだけど、ちゃんと釘を刺しておかないと本当に寝ないまである。

ちょっと注意したから大丈夫だろうけど。

 

「やりすぎだけは注意ね」

「アッハハ……」

 

乾いた笑いはやめてほしい。

注意してくれるよな?分かんなくなる。

 

「雨宮くん」

「ん?」

「…………ありがとね」

「…………なにが?」

 

こちらも見ずに感謝を述べる澁谷さんに付き合う。

 

「いろいろ。スクールアイドルを手伝ってくれること。こうやって送り届けてくれること。そして……」

「それ以上は聞かないよ」

 

続くのは、「歌えるようにしてくれて」だろう。

でも、アレは僕が勝手にやったことだ。

感謝される筋合いなんてないし、その資格もな……

 

「ううん、私、ちゃんといいたい。雨宮くんの都合もあるかもだけど……でも歌えるようになったのは雨宮くんと可可ちゃんのおかげだから。ありがとう。雨宮くん」

 

……参ったな。

こんなに純粋ならこっちが悪いみたいじゃないか。

 

「わたしもここまででいいよ。じゃあね」

 

こちらに背を向けて手を振って道なりに進む澁谷さんの後ろ姿に僕は。

 

「こっちこそ!」

「……?」

「ありがとうな」

「…………なにが?」

 

意地悪そうにこちらに問い返す澁谷さん。

分かってるだろそんなの。

 

「さぁね」

「ふふ、雨宮くんは言葉にしないことが多いね」

「余計なお世話だ」

 

いいんだよ。伝わってるから。

 

「じゃあね、雨宮くん」

 

今度はちゃんと笑って手を振る澁谷さん。

……ちょっとお返ししてやろう。

 

「…………また明日。()()()

「!!」

 

目一杯驚いたような顔をしたかのんは僕への返事に少し悩んで

 

「うんっ!また明日ね。()!」

 

今日イチの笑顔で彼女はそう言った。

 

…………クッソ、可愛いじゃないか。

ちょっとドキッとしちゃったよ。

 




毎週月水金19時更新です。
次回は4月11日(月)です。

書き溜めが少なくなってきたので近いうちに少しお時間を頂いて休載させていただくかもしれませんががんばります。
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