「あのコンチキショ〜許すマジ〜!!」
かのんの店に行くなり聞こえたのは可可さんの怒りの声。
店の端のテーブルにはすでにかのんと可可が座っていてなにやら相談中らしい。
「かのんさんも書いてくだサイ!」
ビタン!とテーブルに紙を叩きつける。
かのんはそれを手に取ってまじまじと見つめる。
「これは……?」
「退学届けデス!!」
「えええっ!?」
「退学ぅ!?」「2日目にしてぇ!?」
「そりゃこうなるよ!!!」
とんでもなく物騒な会話してるな。もう帰って良いかな。
そんなわけにもいかないんだろうな。
「可可さん、退学とか聞こえたけど?」
「結サン!聞いてくだサイ!結ヶ丘はスクールアイドルはダメなんです!」
「それで退学?」
「ハイ。こんな学校にいてもしょうがありまセン。2人で別の学校に行ってスクールアイドルを始めまショウ」
「いやいや無理でしょ……」
「大丈夫。編入試験で他の学校に行くことも出来マス。家はどこら辺デスか?」
「ここです……」
「そうデシタ。ではここら辺の学校デ」
「待て待て暴走しすぎ」
とんでもない速度で展開する話にセーブをかける。ソファー席である可可の隣に腰掛け彼女をなだめる。
「気持ちは分かるけどそれは親も許してくれないよ……」
「お姉ちゃん……」「学校辞めたいの……?」
「やめない!!!!大丈夫!!!!」
かのんが焦った声で弁護する。
そりゃ娘が学校辞める話してたらなぁ……とは思う。
「あうあ〜どーしてこうなるデスカ〜!」
完全に溶け切った表情で投げやりに可可さんが言葉を吐く。
こればっかりは……規則がらみとなると、大きくクーデターを起こすしかないのが社会の通説だ。
「生徒会長だけが問題なの?」
「そうなの。音楽のレベルが下がるって……」
「なるほど。本当にそれだけなのかなぁ」
「というと?」
「創始者の娘だからっていくらなんでも音楽にこだわりすぎに感じるんだよねぇ……そう言う人ならまぁ仕方ないんだけど、別の理由があるような……」
「別の理由?」と2人が僕に聞いてきたが、特になにか思いたるわけでもないので首を横にふる。
「ま、それを確かめるために、明明後日、直接話を聞こうかなって」
「明明後日?」
「直接とは……結ヶ丘は女子校デスヨ?」
「まさか不法侵入?」
「するわけないでしょ。その日に生徒会の交流会があるらしくて、その時に会えそうなんだ」
「生徒会?」
「結って生徒会なの?」
「まぁね」
へぇーと2人から感嘆の声が漏れる。
イヤイヤなったとは言えない。
「にしても……噂の孤高の生徒会長様の壁は厚いな」
「ごめんね。私に任せて、なんて言っておきながら……」
「違いマス!かのんサンは優しいデス!とっても優しい!この学校に来なければ、かのんサンとも出会えていませんデシタ。だからどうしてもかのんサンとスクールアイドルを始めたい」
運命にはかならず意味があるってどこかで聞いたことがある。
可可にとってそれは、かのんとの出会いだったんだろう。
そんな思いを感じたのか「ありがとう」「こちらこそデス!」と感謝を伝え合っている。
こういうの、青春っぽくていいな。
「モチロン、結サンともスクールアイドルをやりたいと思っていマスよ?」
「僕は男だから……」
「問題ナイデス!むしろ新しくてイイデス!」
「……しないよ?」
ちょっと本気度を感じたので強めに否定すると「えぇ〜!」と肩を落とす可可さん。
男でもいいのか。もう勧誘botになりつつあるな。
「まず男がやっていいか以前に、スクールアイドルを良く思わない層がいるから」
「可可の周りにも鼻で笑うような人がいマス……」
アイドルは夢を届ける華やかな仕事。スポーツのような泥臭さを決してステージ場ではださない。
だから「お遊びの楽な部活」なんて評価を下す人は少なくない。
もちろん実際はそんなことはないのだが、μ’sというグループが活躍していた全盛期、黄金期などと呼ばれた時期にスクールアイドルの数は急増し、母数の増加に伴ってお遊びの部活としてのスクールアイドルも増えてきたらしい。
泥臭いイメージがないのはある意味プラスなのだが、マイナスでもある。
「でも可可はスクールアイドルはとっても素晴らしいモノだと思ってマス」
「……私も!」
結局のところ、それはどんなコンテンツにもあることだ。それを割り切るのは常に自分自身で、分かってくれる人がいるならそれでいい。
可可さんは決して日に照らされた明るい部分だけのスクールアイドルを見ているわけではなさそうだ。
リアリストゆえに前を向くのは彼女の長所だ。
「そうとなったら、どうにかスクールアイドルを許可してもらえないか、明明後日の結果次第。僕の頑張りにかかってるね」
「うん。私も頑張るよ」
前のめりになって意気込むかのんに僕らは安心した。
「うぃっすー!!」
「ういっすー!!」
「……なにそれ?」
「挨拶。結もほら、ういっすー!」
「……うぃっすー?」
「「ういっすー!!」」
なにこれ儀式?
「今日は結くんもいるんだね」
「こんにちは千砂都さん。その節はどうも」
彼女にはかのんを任せられたのでこの通りとかのんを差し出す。
差し出された張本人は「えっなになに?」と困惑しているがそんなかのんをまじまじとみた千砂都さんは「よし!」とサムズアップをした。
「なんなのぉ〜?」
「細かいことは気にしないで。それよりなんで千砂都さん?」
「あぁうん。ちぃちゃん音楽科の生徒だから、葉月さんの弱点聞けないかなって」
なるほど。僕と同じでまずは情報収集からということか。
当の本人はなんかマンマルに見惚れてるけど。
「千砂都さん、結果どうでした?」
「もう、きたばっかなのに!」
「なんでもいんだよ?恋って子が敵対しているグループとか、実はお化けが大の苦手だとか、とにかく私たちが有利になるあの子の弱点を〜!」
「ん〜?弱点は一言で言うと〜」
「一言で言うと……?」
「弱点は〜」
「弱点は……」
「弱点は〜〜?」
「弱点は…………!」
「ないYO!」
ないんかい!
「音楽家の子にいろいろ聞いてみたんだけどね、むしろ頼りにしている子も多いみたい。それに理事長は彼女のお母さん、葉月花さんと知り合いらしいし。だから、あの子がダメっていうことをひっくり返すのは相当難しいんじゃない?」
それはなにか……奇妙な話だ。
文武両道才色兼備人望抜群の人だ。人のの接し方だって心得ているはず。
人気者になればなるほど妬まれることが多い。
それがないということは、相当な善人なんだろう。
だとしたらスクールアイドルだって目の敵にする必要はないはずだ。
今の話を聞く限り、音楽の名を冠しているとは言え、普通は「新しい音楽に挑戦するのは良いことです」とか言って部活を認めてくれそうな感じだってする。
「あのね、一旦他の部を作るか、入ってみてそこで歌うのはダメ?」
「他の部で?」
「うん。他の部で怒られず活動を続けて、チャンスが来たらスクールアイドルを始めるとか」
名案だ。お遊びでやるならこれ以上ない。
ただかのんはスクールアイドルをやりたいんだ。
もちろん……
「それじゃダメ!」
「なんで!?」
「この状況を許したらあの学校は全部葉月さんが好きに出来るってことになる。それはダメ!」
反発するに決まってる。
「って言ったって、スクールアイドル部は認めてもらえなかったんでしょ?」
「だったら別の方法を考える。可可ちゃんが困ってる」
「そうかもしれないけど……」
「それにね、そんな理由で他の部に行ったら、その部に失礼だし……」
1人真剣じゃない人がいるだけで部は即崩壊する。
だから、かのんの意見はただしい。
みんなが真剣にやるから意味があるんだ。
それはスクールアイドルでも同じ。
だからかのんは、
「それに私、本気でちょっとスクールアイドルに興味があるの」
スクールアイドルを譲らないんだろうな。
「かのんちゃん……」
「今なんて……!?」
「お姉ちゃんが……アイドルぅ!?」
そんな驚くことか?かわいいだろ。澁谷かのんは。
まぁ人柄がアイドル向きではないのは分かる。
ファンサとか無理そうだもんな。
「でもまぁ、かのんはアイドルのポテンシャルはあるよ」
「結くんが思うポテンシャルって?」
「幼馴染の千砂都さんはもう分かってるんじゃない?」
意地悪に問いかけると黙りこくる千紗都さん。
本人はポカンとしているが。
「私に、アイドルの才能が?」
「うん、あるよ。胸張って」
「お姉ちゃんにアイドルの才能なんてあるのー?」
「家族の方は気付けなくても無理はないよ。かのんの才能は他人に向けて発するものだから」
「私が他人に向けて……?」とずっと悶々としているかのんは本当に無自覚なのだろう。
かのんの才能、それは圧倒的な「カリスマ性」。
耳と目を引く歌声とパフォーマンス。人を動かす行動力と問題に対し真摯な姿勢。
彼女は人を救うスクールアイドル像そのものに近い。
「私の武器……歌ってこと……?」
「本人が答えを出すことは永遠になさそうだけど。帰ろう千砂都さん」
「ま、待ってよ!答え教えてよ!」
やだよ恥ずかしいじゃん。
荷物をまとめてドアを開けると千砂都さんが苦笑いで着いてくる。
「ちょっと2人とも〜〜!!!!」
そんな言葉を最後にドアを閉め切り、かのんの声は聞こえなくなった。
自覚しないところが、アイドルだよなぁ……。
毎週月水金19時更新です。
次回は4/15(金)です。