ようこそ愛憎混じる学び舎へ 作:妄想癖のメアリー
櫛田とのいざこざを解決した水無瀬は、寝付けなかったのかベットから出て寮のロビーへと向かった。
この前の一連の騒動により坂柳、綾小路と3人で一緒に寝ていた水無瀬だったがどうにも彼女らは彼を眠らせてはくれないらしい。
水無瀬が真ん中で3人で川の字になって横になる中、後ろから抱き着いて来たり、太ももに足を巻き付けてきたりとやりたい放題だった。
「……」
そんなことを思い出しながら、部屋に戻るのが億劫になりロビーの椅子に座り込む水無瀬。
ふとエレベーターを見たら7階から1階に降りてきていた。一人でロビーで座っているところなんて、見られたら気まずいと思ったのか気配を消す水無瀬。
そこから出てきたのは堀北だった。やけに警戒しながら寮の外へ出ていく彼女。
その様子を見て気になったのか水無瀬は彼女のあとを追いかけた。
「(随分と緊張した表情をしていたな。一体何をするつもりだ?)」
寮の裏手の角を曲がりかけたところで身を隠す水無瀬。
堀北の足が止まり、そこにはもう一つの影があった。
「鈴音、ここまで追ってくるとはな」
一体こんな時間に会って何をするつもりだと思っていた水無瀬だったが、その声には聞き覚えがあった。
「もう、兄さんの知っている頃のダメな私とは違います。追いつくために来ました」
「追いつく、か」
堀北堀北兄だった。苗字から分かる通り、彼女の話に出ていた兄である。
「Dクラスになったと聞いたときは3年前と何ら変わらないだろうと思っていたが、どうやら俺の予想は間違っていたようだな。まだ慣れていないようだが、お前は確かに成長の兆しを見せている。いったい何がお前をそこまで変えた……友人か? 男か?」
「それは……」
後者の方に大きく反応した堀北。それを見た堀北兄は驚いたのか一瞬間をおいて告げる。
「……男か。まあそれは良い。だがお前はまだ自分の欠点に気が付いただけでそれを改善できていない。今のままのお前で満足しているようなら、到底Aクラスにはたどり着くことはできない」
「絶対に、絶対にたどり着きます!」
「無理だと言っているだろう。相変わらず聞き分けのない妹だ」
堀北の兄貴は、一歩距離を詰め、陰からゆっくりとだが姿を見せる。その表情には一切の感情が無く、ただ興味のない存在を見る瞳をしていた。
堀北の兄貴は無抵抗な妹の手首を掴み、強く壁に押し付けた。
「どんなにお前を避けたところで、俺の妹であることに変わりはない。お前のことが周囲に知られれば、恥をかくことになるのはこの俺だ。今すぐこの学校を去れ」
「で、出来ません……っ。私は、絶対にAクラスへと上がって見せます」
「愚かだな、本当に。昔のように痛い目を見ておくか?」
「兄さん───私は───」
「お前には上を目指す力も資格もない。それを知れ。せいぜいその男とやらと恋愛ごっこにでも興じているといい。どうせ3年でも経てばすぐに消える関係だろうからな」
堀北の体がぐっと前に引かれ、宙へと浮く。それを見て危険と判断した水無瀬が飛び出そうとした時だった。
「──水無瀬君を……彼をバカにしないでください! ──」
「……!」
反撃されるとは思ってもみなかったのだろう。首元を掴んでいた手を捻り押し返す堀北。
しかしその後すぐに体制を立て直した堀北兄。一触即発の雰囲気の中それを止めたのは水無瀬だった。
「その辺で終わらせといた方がいいのでは? 貴方の行為は今すべてこの端末に記録されています。僕の友達にこれ以上暴力を振るうつもりなら容赦する気はない」
「み、水無瀬君!?」
堀北兄の肩を掴んで端末のカメラを向けていた水無瀬。にこにこしながら此方を向いている彼とは対象に、堀北兄は鋭い眼光を彼へと向ける。
「盗み聞きとは感心しないな?」
「そんなに怖い顔をしないでくださいよ。目の前で友達が暴行されそうになってたんだ、僕も内心穏やかじゃないんでね」
「いいからその手を放せ」
「それはできない相談です」
そう言って睨み合う両者。少しの間沈黙がその場を襲う。
「やめて、水無瀬君……兄さんも」
「……」
彼女から出たとは思えない絞り出したかのような声に、渋々手を放す水無瀬。
その瞬間、とてつもない速度の裏拳が彼目がけて飛んでくる。
それを受け止め手首を捻る水無瀬。体制を崩した堀北兄だったが、急所へ的確に蹴りを放つ。
「おっと」
当たれば一発でで意識を失ってしまうだろう威力だと分かる。堀北兄は僅かに疑問の表情を見せ、呼気を吐くと右手を真っ直ぐ開いた状態で伸ばして来る。掴まれれば地面に叩きつけられる。そう直感し、水無瀬は左手の裏ではたくようにして流す。
「いい動きだな。立て続けに避けられるとは思わなかった。それに、俺が何をしようとしたのかもよく理解している。何か習っていたのか?」
攻撃を止め、そう問いかける堀北兄。
「いいえ。ただ幼少期から殴られ慣れているんでね。このくらい簡単ですよ」
「それって……」
ひょうひょうと語った彼の言葉に心当たりがあったのか、そう呟く堀北。
「お前が水無瀬か。噂は良く聞いている」
「……因みにどんな噂で?」
「今年度の入学試験を満点で合格。身体能力も目を見張るものがあり歴代で最も優秀な生徒と評判だ」
「そっちか、良かった」
もう片方の方だったら恥ずかしくてたまらないと思う水無瀬。心底安心したようだ。
「鈴音、お前に男ができたとはな? 友達もいなかったお前に、正直驚いた」
振り返って堀北にそう語りかける堀北兄。その言葉の内容とは違い、全く信じていない様子だったが。
「ち、違います! ……水無瀬君とはそんな関係じゃありません……」
「……そうか……!」
そう言うと、後ろで安心していた水無瀬の顎に向かって見事なフォームで後ろ回し蹴りをする堀北兄。
「ちょ! 絶対私怨入ってるだろ!?」
僅かに体制を後ろに下げ、それを回避する水無瀬。その攻撃が予想外だったのか、本気で抗議する。
「何のことだろうな?」
そう言って追及を逃れる堀北兄。
「(兄妹ってやっぱ似るんだな……)はあ、まあいいでしょう」
そんなことを思う水無瀬であった。
それに構うことなく堀北兄は彼女に告げる。
「水無瀬柊。お前が居れば少しは面白くなるだろうな。……そして上のクラスに上がりたかったら、死にもの狂いで足掻け。それしか方法は無い」
「そんなこと言ってますけど、この映像をばらまいたら困るのは貴方なのでは? ……そうですね、この学校の特別試験や上級生の要注意人物等の情報を教えて貰えるなら削除させて頂きますけど?」
いつにもなく悪い顔で交渉する水無瀬。それに対して堀北兄は余裕そうに語る。
「この端末は盗撮防止のために録画時は音が鳴る仕様だ。その嘘は通じない」
続けて語る堀北兄。
「……だが俺はお前を気に入った。情報については放課後暇な時生徒会室に来い。全てを教えることはできんが、基本的には空いている。……それと女遊びも程々にしろ、お前は上級生の間でも有名人だ。せめてやるなら見えないところでやれ」
「やっぱ噂になってるじゃないですか!?」
そんな水無瀬の反応に面白そうな表情を浮かべながら彼は立ち去った。
その後2人は寮の近くにある公園で話し込んでいた。先程のやり取りで疲れたのか別の理由かは定かではないが、3人用のベンチに2人は寄り添って座っていた。
「……最初から聞いていたの? ……それとも偶然?」
「偶然だよ偶然。夜寝苦しくて外で風にあたろうと思っていたら、君が見えたんだ。話しかけようと追いかけていたらって感じかな? ……あんな状況の中で見過ごすことは僕にはできなかった。ごめんね、堀北さん」
「……いいえ、ありがとう。嬉しかったわ」
「そっか、良かった。それにしたって君のお兄さん。随分と強かったね? 危うく路上で朝日を迎えるところだったよ」
「空手……5段、合気道4段だから」
「水無瀬君も何かやってたの? その……あの言葉」
「ああ、そのままの通りだよ。この前話したみたいにね」
「そう……ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまって。兄さんも悪気があってやったわけじゃないと思うの。……悪いのは、不出来な私だから……」
「……自分を卑下する発言はするもんじゃないよ。それに分かってるさ、君もそのお兄さんも優しくて不器用なだけだって」
落ち込む堀北に対して優しく語りかける水無瀬。
「兄さんが……?」
あっけに取られる彼女に対して続けて語る。
「ああそうさ。だから僕たちはAクラスになって彼に認めてもらうしかない。また一つ手伝う理由が増えたね? 僕は今まで通り、君の味方だよ。一緒に頑張ろう?」
彼女の艶のある髪を撫でながら語った水無瀬。
堀北も一切抵抗せずに、すっかり身を任せていた。
「うん……ありがとう水無瀬君。その、もう少しこのままでいいかしら……?」
「お安い御用だよ」
満天の星空の下、話に花を咲かせる2人であった。
──翌日──
「須藤くん、話があるのだけど」
朝、授業前に堀北が須藤に話しかける。昨日の一件があった翌日だ、須藤は不思議そうに彼女を見つめる。
「あ?」
そんな須藤に対して堀北は続けて語る。その内容は昨日の発言についての謝罪だった。
「昨日の勉強会のことでなのだけど。私は感情に任せてあなたに酷いことを言ってしまった。他人の夢とその頑張りを否定する事は何人たりとも行ってはならないと水無瀬君に言われ、納得した。私が悪かったわ、本当にごめんなさい」
頭を下げて謝罪する堀北。
「……おう」
「昨日あんなことを言ってしまった後で提案しずらいのだけど、もう一度勉強会に参加して貰えないかしら。……私はAクラスに上がるという夢がある。そのために誰1人として退学させたくないの。どうかお願い」
そう言ってもう一度頭を下げる堀北。そんな彼女に須藤も居心地が悪そうに頭を掻きながら謝罪した。
「……まあ、元は俺らが騒いでたせいだしな。すまんかった。ぜひ参加させてくれ」
「ええ、よろしく」
そう言って仲直りした2人。その後池と山内にも謝罪をした堀北。結果として山内は「櫛田ちゃんが来るなら行く」と言い、ほか2人は快諾した。
そして残りの1人を参加させるため、午前の授業が終わった後、昼休みに堀北は櫛田の元へと向かっていた。
「櫛田さん? ちょっといいかしら?」
「うん! 何かな? 堀北さん」
昨日の1件があったとは思えないほど元気に答える櫛田。そんな彼女に対しても堀北は謝罪をする。
「昨日はごめんなさい。あなたは何も間違っていないのに私はただの憶測で酷いことを言ってしまった。……その、もし良ければ、これからも私たちに協力してくれないかしら?」
「協力っていうのはAクラスを目指すことの協力?」
「ええ、そうよ」
「それ、信じられないって言うか……無理じゃない? あ、別に堀北さんをバカにしてるわけじゃないんだよ? ただなんて言うか……クラスの皆も大半は諦めてるって言うか」
「現状のAクラスとのポイント差が激しいから?」
「うん……正直、追いつける気なんてしないよね。来月もポイントがもらえるかどうか怪しいしさ。意気消沈って感じ」
だるーんとテーブルに上半身を倒す櫛田。
「水無瀬君もAクラスを目指してるの?」
上目遣いで聞いてくる櫛田。少し間をおいて堀北は答える。
「……なぜ彼の名前が出て来るのかは疑問だけど、そうよ。私と彼はお互いに協力を惜しまないつもり。綾小路さんもね」
「そうなんだ! わかった。私も堀北さんの仲間に入れてよ。Aクラスを目指すっていう目標に」
「ええ、彼との話し合いで、このクラスがAクラスに行くためにあなたは必要不可欠と理解した。改めてお願いするわ」
「うん! よろしく! それに……水無瀬君を渡す気は無いからね? 堀北さん」
「……何を言っているのかよくわからないわ」
そんなやり取りの後、教室にて昨日のメンバーで話し合いをしていた。堀北が最初に切り出す。
「この間の勉強会で、あのスタイルの勉強方法はダメだと気が付いたの。あなたたちは学業の基礎が出来ていない。それを悪く言うつもりもないし、無理やりやっても頭には入らない。そこで、その問題を解決する策を思いついたの」
「どんな方法なんだ?」
茶化さず真剣に聞く須藤。
「今から2週間。あなたたちは平日の授業を、死ぬ気で勉強しなさい」
皆があっけに取られているのを置いて彼女は続ける。
「普段、3人は授業中真面目に取り組んでる?」
少し間をおいて気まずそうに池が答えた。
「……いや、授業が終わるのをボーっと待ってる」
「そう、あなた達は1日に、6時間無駄な時間を過ごしていると言うことよ。わざわざ放課後に1、2時間確保して勉強するよりも、遥かに膨大で貴重な時間をロスしているということ。これを有効活用しない手はない」
「授業の内容なんて、全くついていけてねぇよ」
「わかっているわ。だから、更に休み時間を利用して、短い勉強会を開くの」
そう言って堀北は次のページをめくった。そしてどういう仕組みかを書き綴っていく。 要約すると。1時間の授業が終わったら、すぐに全員で集合し、授業で分からなかった部分を報告する。そして10分の休憩の間に、堀北がそれに対する答えを教える。
そしてまた次の授業へ、という流れだ。もちろん、これはそう簡単な話じゃない。 授業についていけてない須藤たちが、短い時間で学習できる保証はどこにもないのだ。
「ま、待てよ。なんか頭が混乱してきた。本当に上手くいくのかよ」
池たちも、それが大変なことだとすぐに気づく。
「そうだよ、10分の休憩じゃ、分からなかった部分の解説とか無理じゃない?」
「心配ないわ。水無瀬君がその授業中、全ての問題に対して分かりやすく解答をまとめておくから。それを綾小路さんと櫛田さん、私の3人がそれぞれマンツーマンで教えればいい」
「けどよー……間に合うとは思えねえよ。高校の勉強難しいしさ。わけわかめだし」
「1時間で学ぶ授業の内容は、意外と少ないものよ。ノートにして1ページ、精々2ページね。そこからテストに関係のありそうなものだけに絞り込めば、半ページ分の知識を詰め込むだけで済む。どうしても時間が不足する場合にだけ、昼休みを利用する。私は問題を理解してとは言わない。頭にそのまま叩き込んで欲しいだけ。大切なのは授業の時は先生の声、黒板に書きだされる文字だけに集中すること。ノートを取る作業は一旦忘れて」
「ノートを取らない、ってことか」
「書きながら問題や答えを覚えるのは案外難しいものよ」
「……よし、わかった。やってみる」
そう言って受け入れた須藤。今までのやり取りからして、入学前の彼らでは考えられなかった。この1か月でいかに成長したかがよく分かる。
それを見て 水無瀬が追加で説明する。
「よし、これで平日の勉強に関しては以上だね。次は休日、土日の勉強会についてだ」
「えー!? 平日だけじゃなくて土日もやるのかよ!」
そう抗議したのは山内。絶対に嫌だという思いがひしひしと伝わってくる。
「当たり前だろう? 僕達の目標はクラスの半分だ。平日だけの勉強では足りないよ。それにみんなで土日勉強するなんて青春だと思わないかい?」
「……確かに! 女の子と勉強なんて最高だな!」
水無瀬の言葉に納得してやる気が出て来る山内。わかりやすい男である。
最もここにいる女子3人の好意はすべて水無瀬へと向かっているのだが、それを言うのは蛇足だろう。
「毎週土曜日の午後1時から休憩挟んで計2時間ほど勉強しよう。その後はそれぞれ自由に遊んでもらって構わない」
「……なんか行ける気がしてきた! 頑張ろうぜお前ら!」
池がそう奮い立てる。昨日の事件があったとは思えないほど、良い雰囲気がそこには広がっていた。
「よし! じゃあさっそく明日の授業からだ。今日は解散でいいよ!」
水無瀬が手を叩いて解散を宣言する。それぞれの充実した学生生活のための戦いが今始まったのである。
「水無瀬、帰ろ。最近坂柳も忙しそうで誰も帰る人がいない」
「ああ、最近一緒に帰れてなかったからね」
「堀北に続いて櫛田まで落とした、悪い男。卒業後はパキスタンにでも帰化するの…?」
「いや落としてないし。一夫多妻制じゃないか。僕は日本で骨を埋めるつもりだよ」
「じゃあ最終的に誰か選ばないといけない。その時のためにいっぱいアピールする」
「誰か選ぶねえ……参ったなあ」
彼の進む道の先は、前途多難であろう。
高評価や感想していただけると作者の励みになります!
答えられると確約はできませんが、ここはどうして?という質問や本文の指摘などでも嬉しいです!よろしくお願いします!
皆がこの小説に求める要素
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綾小路や坂柳とのイチャイチャ
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上記以外のヒロインの追加
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恋愛要素以外の日常パート
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本編を早く進めること
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その他(感想で書いて頂けると助かります)