ようこそ愛憎混じる学び舎へ   作:妄想癖のメアリー

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第27話 ドラマチックには程遠い

 

 山内の奇行がしっかりと堀北に折檻されたのち、堀北たちはベースキャンプへと戻ってきた。天候が悪くとも真夏の森の中は嫌に蒸し暑い。そんな中動いていた彼らは当然汗ばんでいた。

 

「堀北。早く洗った方がいい。流石に見ていられない」

 

 さらに堀北は掛けられた泥でひどい状態となっている。そんな彼女に心配そうに声をかける綾小路。

 

「ええ……流石にこの状態は少し辛いわ。山内君、あなたのことは一生恨むから。覚悟しておいて」

 

 そう言ってシャワー室へと向かう堀北。しかし向かった先には探索から帰ってきた女子たちが順番待ちをしている。

 皮肉なことに並んでいたのは軽井沢を筆頭としたグループの3人だった。これでは今から並んだとしてもかなりの時間がかかるだろう。いくら泥だらけとはいえ、先日バチバチにやりあった相手である軽井沢が彼女に順番を譲るとは思えない。あそこに割り込むのは難しいと言える。

 

「川を使ったらどう? その状態でずっといるよりかはマシだと思うよ」

 

「……はあ、そうね。それ以外方法はなさそう」

 

「私も泳ごうかな。伊吹さんも一緒に泳がない? 結構汗かいたと思うし。私たちが許可すればCクラスが川を使ってもいいよね?」

 

「私はパス。泳ぐのが好きじゃないから、大人しくシャワー室を待つ」

 

「じゃ、じゃあ私も……」

 

 伊吹に便乗するように、佐倉も男子の目に水着姿を晒したくないのか拒否した。堀北は、改めて一度シャワー室を見てから背を向ける。

 

「ほら、行くわよ。綾小路さん」

 

「んー……私は良いよ。ちょっとお腹痛いからこっちで空くの待とうかな」

 

「……そう。わかったわ」

 

「もしかして一緒に行きたかった?」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら聞いてくる綾小路。

 

「体調が悪くても口は減らないみたいね?」

 

「堀北が怒ったー。逃げろー」

 

「……はあ。全く」

 

 そう言って駆け足でシャワー室へと向かった綾小路に呆れたように呟く堀北。この一週間で様々なことがあったにも関わらずブレない彼女を羨ましく思ってしまうのは仕方がないだろう。それだけこの試験において堀北の心労は大きいのだ。

 

 

 

 そうして堀北がテントへと戻るのを確認した綾小路は、そこからさらに10分ほど過ぎたあたりでテントへと戻る。

 入り口をくぐるとそこには荷物を抱え込んだまま下を向いている堀北が居た。

 

「……あ」

 

 それに気が付いたのか、綾小路と目が合う堀北。その瞳はどこかゆらゆらと揺れていた。いつもの凛とした目つきとは似ても似つかない。

 そうして立ち上がった彼女はふらふらと近づいてくる。

 

「どうしたの?」

 

「ついてきて……ここでは話せない」

 

 そう一言残してキャンプ地から離れる堀北。人が居ない森の中へと入っていく。

 

「どうしたの? 体調悪いんだから無理して外出ない方がいいよ」

 

 その気づかいに答えることなく、堀北は歩みを進める。

 数分程歩いた2人。彼女が止まったのは、キャンプ地が見えなくなるほど遠いところだった。

 

「堀北? ……ってちょっと」

 

 立ち止まった堀北を見て声をかける綾小路、その答えは小さな抱擁であった。

 あまりに急な行動だったため驚く彼女だったが、自身の胸元からすすり泣く声が聞こえた来たためその声は尻すぼみとなる。

 

「少しだけ……このままでお願い」

 

「ん、わかった」

 

 堀北がこうなってしまった原因を知っている彼女だったが、まさかここまで追い込まれるとは思っていなかったためか困ったように答える。しかし突き放す気は毛頭ないようで、その形の良い頭を撫でる。

 置かれた手に対してピクリと反応した堀北に対して、いたずらが成功した子供の様に語り掛ける綾小路。

 

「ふふ。いいでしょ? 私も水無瀬によくやってもらってた」

 

 ──その姿はどこか仲のいい姉妹のようにも見えたという──

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「……ええ。ありがとう」

 

 それから少しして落ち着いたのか、スッと離れる堀北。やはり行きなり抱き着くのは少し恥ずかしかったのか少し顔を赤くしている。

 

「で、どうしたの?」

 

 いつもだったらからかっているであろう綾小路だったが、状況が状況であるため本題へと入るようだ。

 

「……盗まれたのよ」

 

「盗まれた? ……それって」

 

 そう言って視線を下に向ける綾小路。彼女が言おうとしていることが何となくわかったのか、それを否定する堀北。

 

「下着じゃない、キーカードよ……完全に不覚だったわ。水無瀬君に見せる顔がないわ……」

 

「悪いのは盗んだ人、堀北は悪くない」

 

「だとしても責任問題よ……どんな理由があろうと、私はリーダーとしてやるべき事が出来なかった……私を信用して任せてくれたのに」

 

 悔しさの他に、どこか焦りや恐怖が表情に出ている堀北。確かにリーダー情報が流出すれば、試験の結果に大きな影響を及ぼす。体調を気使ってリーダーを他の人に任せようとした水無瀬を説得してリーダーになったのだ。その結果がこれでは落ち込むのも無理は無い。

 

「自分を責めないで。気休めにもならないと思うけど、堀北は頑張ってた。切り替えて今は状況を把握した方がいい」

 

「そうね……ありがとう」

 

 そう言って状況の確認を行っていく2人。

 

「盗まれたタイミングは川で体を洗っていた時で確定なの?」

 

「それは間違いないと思う。今日探索に出かける時に持っている事は確認したから」

 

「そう。だとしたら怪しいのは……やっぱり軽井沢か伊吹?」

 

「そうね。嫌がらせとしても、彼女の性格的にありえない話ではないわ」

 

 前者であればただの嫌がらせ。意味など全くないが、水無瀬の件で派手にやりあった2人のため軽井沢が恨みを残している可能性も否定できない。と補足する堀北。

 

「残念だけど確率は低いよ。軽井沢はずっとシャワー室の前にいたし」

 

「そう……でも伊吹さんが犯人だとして、一体何のメリットがあるの? もしスパイだとしても、今回の試験では彼女の所属するCクラスとは協力関係を結んでいるわ」

 

 解せないという様子の堀北だが、綾小路はありえないことではないと考えているようだ。

 

「……考えられるのは他のクラスとも私たちと同じような取引をしている可能性。私達Dクラスの他に、Bクラスにも追い出された生徒が居たから、例えば『Aクラスにこの2つのクラスのリーダー情報を渡す代わりにポイントを貰う』という取引があったとしても何らおかしくない」

 

「それは……確かに盲点だったわ。だとしたらわざわざ危険を冒してまでキーカードを盗んだ理由もうなずける。証拠として見せる必要があるから……」

 

 彼女の言葉に合点がいったのか、苦い顔をして呟く堀北。

 

「だとしたらかなりまずい状況。仮にCクラスがAクラスと取引を結んでいた場合、同時にリーダーを当てられてしまったらそれだけで-100ポイント。AクラスとBクラスのリーダー当てで相殺できたとしてももらえるクラスポイントは270。大きい収入だけど……」

 

「Cクラスとの取引で結局PPの収入は0。この結果じゃクラスの士気に影響を及ぼすわ……()()()()()()()()()()()()()0()って」

 

 その時のクラスの状態を容易に想像することができた堀北は、顔を青ざめながら小さく語った。

 

「とりあえず戻ろう? 堀北。伊吹を疑うなら目を離すとまずいよ。持ち逃げされるのが一番最悪のシナリオでしょ?」

 

 そう言って歩き出した綾小路の言葉に同意した堀北は、その後をついていく。

 

 

 

 それから戻ってきた2人は、キャンプ場の不穏な空気を感じ取った。

 それは仮設トイレの裏手から見える、薄暗い煙が原因だ。 焚火をするには早すぎるし、場所もおかしいことに気づく。

 

「あの煙は? 一体何があったの?」

 

 堀北は近くで騒いでいた池を捕まえて事情を聞いた。

 

「それが大変なんだって。火事だよ火事! トイレの裏で何か燃えてんだよ!」 

 

 シャワー室の前に並んでいた女子は全員いなくなっている。 

 火事の騒ぎを聞きつけて移動したのだろう。

 

「伊吹さんの姿も見えない。この火事も彼女の仕業かも。彼女はどこに?」

 

「火事に気づいて、今しがたあっちに歩いていったところだ」 

 

 急ぎ仮設トイレの裏手に行くと、そこには平田たちの姿があった。そして伊吹の姿も。

 堀北は伊吹に声をかけようとしたが、その横顔をみて躊躇った。 それは、伊吹の表情があまりにリアルだったからであろう。

 火事が起こっていることに戸惑いを隠せない。そんな顔をしていた。

 

「……彼女がやったんじゃない、ということ?」 

 

 そんな疑念が堀北を襲い、迷いが生じる。

 キーカードを盗むとしたらもう伊吹しかいない。火事を起こすとすれば伊吹しかいない。 

 なのに、その伊吹は現場にまだ残っていて火事に驚いている。

 

「これは……マニュアルが燃やされたの?」

 

 堀北も見覚えのある部分に気がつき、そう問いかける。

 

「うん。どうやらそうみたいだ。誰がこんなことを……」

 

「……次から次へと……」

 

 堀北は小さく呟き、悔しそうに目を伏せた。

 

「僕の責任だよ。マニュアルは鞄の中に保管していたんだ。テントの前に積んであったし、昼間だから誰かに盗られたりするなんて思いもしなかったんだ。でもまずはきちんと消火しないと……」

 

 火元を確実に立つことを優先したのか、平田は川でペットボトルに水を汲んでいる。

 

「どうしてこんなことに……なんで皆仲良くできないんだ……」

 

 微かに震える手を抑えながら呟く平田。いつも水無瀬とクラスをまとめていた、普段の明るい彼はどこへやらその形相はとても同じ人間とは思えない。

 

「平田、無理をしないで。一人で背負いすぎる必要はない。とりあえず皆のとこへ向かおう」

 

 不器用な慰め方だったが、今の平田の気持ちを切り替えるきっかけにはなったようだ。

 

「ああ、そうだね。試験も残り一日。ここを乗り切れば皆きっと元に戻る……そうじゃなきゃいけないんだ」

 

 そう呟く平田は、どこか強迫観念にとらわれているようにも見える。

 2人が戻ってくると、軽井沢を筆頭に男子と女子がにらみ合う形で言い争っていた。

 

「何なのこれ? やっぱうちらのクラスに裏切者が居るって事なんじゃないの? 下着泥棒に続いて、ホントありえないんだけど」

 

「は? またそれ蒸し返すのかよ。結局水無瀬に罪を擦り付けたところで何も変わらないし、そもそも下着泥棒とこの件は全く関係ないだろうが」

 

 落ち着いたであろう話題を掘り返す軽井沢に文句を言う池。他の男子も声こそ上げないが概ね同じ意見のようだ。

 

「何蒸し返すって。あんなの納得できるわけないじゃない。結局あんたらの誰かがやったんでしょ? この放火の件だってそう、誤魔化すにはうってつけじゃない?」

 

「……ふざけんなよ軽井沢。水無瀬がどんな気持ちでここを出てったと思ってんだ!」

 

 その軽井沢の言葉で声を荒げる男子たち。水無瀬のことを言われたことが相当頭に来たらしい。

 

「知らないわよそんなの。大体あんたがいくらでっかい声上げても一番怪しいことには変わらないわよ! いつもいつも女子の体の話ばっかりで気持ち悪い」

 

「こんなところでやるわけねえだろ! 俺はこの試験では頑張ってきたつもりだぜ。いっつも偉そうにふんぞり返ってるお前とは違ってな」

 

「ウッザ。水無瀬君の金魚のフンの癖に偉そうに言ってんじゃないわよ!」

 

「金魚のフンとか関係ないだろ。もう呆れたわ。少なくともお前の方が正しいって思ってるやつはそんなに多くないと思うぞ?」

 

 呆れたように吐き捨てる池。彼の許容できる範囲を大きく超えたのか、もう取り付く島もない様子だ。

 男子だけでなく、女子の大半も軽井沢の発言を肯定する気は無いようで、ただ女王様に目を付けられないように目線を下に向けている。

 

「……ふん、もういいわよ。ホント最悪のクラスね」

 

 そう吐き捨てて速足でテントへ戻って行く軽井沢。

「お前、もうあんな奴についていかない方がいいと思うぞ」

 

「……うっさい。アンタには関係ないでしょ」

 

 先程まで一緒に声を荒げていた篠原たち軽井沢グループも同様に下を向いている。先程まで口うるさく言い争っていた男女もしんと気まずい空気となっている。

 

「──ってうわ、雨降ってきたじゃねえか。とりあえず荷物だけ中に入れようぜ」

 

 朝からずっと曇りだったが、察し合わせたかのように雨が降り始めた。

 池の一言に、向かい合っていた生徒たちが動き始める。

 

「おーい平田! 指示をくれ!」

 

 そう池が平田に声をかけたが、じっとその場から動かない。

 平田は何も無い空間を見つめてずっと動かなかった。 

 そうしている間に、雨音はどんどんと大きくなっていく。

 

「平田……?」

 

 様子がおかしいと気が付いた池が、平田の傍に近づくが、それに気が付く様子は一切ないようだ。

 

「どうして……どうしてこんなことになるんだ……これじゃ、あの時と同じだ……」 

 

 小さく呟いたその意味は理解できるはずもなかったが、ただ事じゃないのは確かだ。 

 いつも冷静で落ち着きのある平田らしくない。

 

「僕は──なんのために、今までなんのために……」

 

 遠くから平田を呼ぶ声。それでも平田は、聞こえていないのか動こうとしなかった。

 綾小路ががそっと肩に手を置くと、びくりと驚き、ゆっくりと振り返った。

 

「……平田、池が呼んでるよ」

 

「……え? あ、ああ」

 

 そのタイミングで雨が降ってきたことに気が付いたのか、空を見上げる平田。

 

「池たちを手伝った方がいい。服とかも干しっぱなしだし」

 

「そ、そうだね。行ってくるよ」

 

 そう言ってぬかるんできた地面を駆ける平田。

 

「ったく、平田の奴も大変だよな。こんな状態のクラスのまとめをひとりでやらないといけないんだからよ」

 

「いくら彼でも、ここまで立て続けに問題が発生するとショックだろうね。今まで仲良く過ごしてきたのも踏まえると余計に」

 

 そのやり取りを傍から見ていた須藤と綾小路は、平田の苦労を想像して苦い顔をする。

 

「……とりあえず荷物の片付け先やっちまおうぜ」

 

「うん」

 

 そうしてすでに片付けを始めていた生徒に交じって手伝う2人。幸いにもほとんど終わっていたのか、1分程度で完了した。

 その間に綾小路は先ほどから姿が見えない伊吹と堀北について考えていた。

 

(とりあえず私は私のやるべき事だけ考えればいい。後は水無瀬が何とかしてくれる)

 

 片付けを終えた綾小路は、浜辺へと続く道を見据えて、ゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

「で? 結局あんたは下着泥棒の罪でキャンプ地を追い出された挙句、その後何も説明しないままこの土砂降りの中私を呼び出したわけ? 水無瀬」

 

「いやいや、人聞きの悪いこと言わないでよ神室さん。説明だってこれからするんだからさ」

 

 時は数分ほど前に戻る。Bクラスのキャンプ地から少し離れた森の中で2人の男女が話をしていた。

 と言っても浮いたようなものでは一切なく、その場には緊迫した空気が流れている。本来は敵同士の2人、会っているところを見られただけで問題が生じるだろう。

 

「はあ……ま、別に誰かさんのせいで慣れてはいるけど、抜け出すの大変だったんだから。で、ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」

 

 頭の中で小柄な銀髪少女がニヤニヤと笑っている。それを隅に追いやって神室は話を続けた。

 

「もちろん、その為にわざわざ時間をおいて呼び出したんだ。何を聞くかを君の仲間たちでまとめてもらいたかったからね」

 

「こっちの行動も全部お見通しって事? まあいいけど」

 

 水無瀬の言葉に呆れたようにため息を吐く神室。しかしその次には表情を締めはっきりと話し出した。

 

「じゃあ一つ目。龍園と何の取引をしたの?」

 

 一切言葉を濁さずに聞いてきた神室が少しおかしかったのか、いたずらな笑みを浮かべながら聞き返す水無瀬。

 

「やっぱり気になる?」

 

「当たり前。この前のあんたの話を聞く限り、CクラスとDクラスは協力関係のはずでしょ。どうしてこんなややこしい事態になってるのよ」

 

 数日ほど前、他のクラスの偵察に向かっていた生徒が酷く急いだ様子で帰ってきた。話を聞けば「水無瀬が下着泥棒をしたせいでクラスを追い出された」とのことらしい。

 実際は冤罪だったという補足もその後された。しかしこの状況に心穏やかではないのが、水無瀬と協力関係を結んでいた坂柳派の生徒だった。

 

「簡単に言うならAクラスとBクラスのリーダーを教える代わりにプライベートポイントをよこせって事だよ。その他にも物資提供とかいろいろあるけどね。まあでもこんなんじゃ終わらないだろうね。恐らく伊吹ちゃんは間違いなく()()()()()()()()()()()

 

 重要なことだけをピックアップして伝える水無瀬。この少ない言葉だけで彼女はその本質を理解したようだ。

 

「クラスポイントよりもプライベートポイントを優先したって事ね……いいえ、だとしても理解できないわ。仮にCクラスがDクラスのリーダーを当てるつもりだったとしても、わざわざそんな危険を冒す必要ないじゃないの」

 

「クラスリーダーが鈴音ちゃんであるという確固たる証拠が必要だとしたら? Cクラスが取引を結んだのが僕達だけとは限らないよ」

 

「証拠……ってまさか……!」

 

 各クラスの状況を照らし合わせて残る可能性を見つけ出した神室。

 

「そう。C()()()()()A()()()()()()()()()()()()()。恐らくは僕たちと同じ条件でね。その様子じゃ、葛城君は誰にも話していないみたいだね。そして他のクラスからポイントを搾り取った上で……」

 

「お互いのクラスを潰し合わせて、龍園だけ一人勝ちするって事なのね……」

 

 最悪の可能性に気が付いた神室は、爪を噛みながら憎々し気に呟く。

 

「生活にかかるポイントを100と仮定した場合、このまま行くと

 ・Dクラス:270ポイント

 ・Cクラス:170ポイント

 ・Bクラス:50ポイント

 ・Aクラス:170ポイント位になるんじゃないかな。

 形としてはDクラスの圧勝だけど、その代わりとして僕たちは300CP分の負債を毎月抱えることになる。結果的には赤字だね。その上Cクラスは400CP分のポイントをゲット。敵ながらあっぱれだ」

 

 そう楽しそうに語る水無瀬。余りに無責任なその態度に神室は苛立ちを隠せない。

 

「……今回限りは敵が悪かったわね。ルールの裏を突く発想と行動力が足りていなかったわ」

 

「まだ負けたと決まったわけじゃないよ?」

 

 諦めたように語る神室に、水無瀬はあっけらかんと答える。

 

「は? ここから勝てるってあんたは思ってるわけ?」

 

「まあ見てなって。そろそろ皆動き出す頃合いだろうからさ」

 

 あくまでその内容を教える気は無い水無瀬。

 いつも肝心な事をはぐらかされる神室はため息を吐いて答えた。

 

「はあ……まあいいわよ。そこまで言うなら信じてあげるわ。どうせもう引き返せないんだし」

 

「けっこう優しいんだね? 有栖ちゃんが懐くのもよく分かる」

 

「……あんた、それあいつに言ったら殺されるわよ」

 

「ははは、違いない」

 

 

 

 

 

 side:綾小路

 

 私は靴が泥だらけになるのも気にせず地面を蹴り伊吹の後を追っていた……この状況は私が仕組んだ事、それでも心配だ。

 

 例えば事故が発生して堀北が怪我を負っていたら……私は自分の判断を正しいと言い切れるだろうか。いや、きっと言い切れるだろう。()()()()()()()()()()()()のだから。それでもその身の無事くらいは祈らせてほしい。堀北は水無瀬の次にできた友達だから。堀北は私がやった事を知っても多分怒らない。自分に実力が足りなかったことを悔やんで、それでも素直に認めることが出来ずに皮肉を吐いて終わりだろう。だからこそ、最良の結果を届けたい。それが友達を騙してまで勝負を賭けた私の義務。

 

 入学してからまだ半年も経っていないが、その日常は私の中の価値観を大きく変えた。入学してすぐは水無瀬が居ればそれでいいと思ってた。それを彼に言うと、「そんな寂しいことを言うもんじゃない」ってやんわりと怒られていたけど、その意味も今ではよく分かる。あの白い部屋に閉じ込められていたら、友達と過ごす楽しさを一生理解することがなかった。

 

 大粒の雨で視界は数メートル先ほどしか確保されておらず、一本わき道に入れば迷い込んでしまいそうだったけど、雨のお陰で二人の足跡がぬかるんだ地面に残っているので、それを追うだけで済むのは楽だった。後ろでまとめた髪の毛から垂れる水を邪魔くさく思いながら、私は足跡をたどる。足跡は深い森の中へと続いていた。暗くなる視界を懐中電灯の光で補い走る。

 そこから30メートルほど進んだ進んだ先で、一瞬だけ視界の端に光が見える。

 

 雨の中小さな雑音のように聞こえてくる人の声を耳にし、私は姿を隠す。 そこに誰がいるのか、何を話しているのかは些細なことだ。問題なのは私が見つかること。それさえなければ状況は後からいくらでも把握できる。

 

 それから程なくして懐中電灯の明かりが遠ざかっていく。どうやら終わったらしい。 念のため警戒しながら近づいていく。するとそこには……。

 

「っ、堀北!」

 

 大木の傍で、事切れたように意識を失い倒れた泥まみれの堀北の姿があった。 力なく崩れた手の近くにはキーカードが1枚落ちている。手ひどく殴られたのか、顔や手足に青い痣があった。明らかに普通にできたものじゃない。

 痛々しい痣に触らないように、ゆっくりと抱きかかえる。

 

「ん……いっ」

 

「気がついた?」

 

「あやの、こうじさん……?」

 

「無理はしないで、怪我をしてるし熱もある」

 

 自分の状況を理解したのか私のジャージを震える手で掴む堀北。

 

「ごめん、なさい。私、止められなかった……!」

 

「大丈夫。今は帰ろう?」

 

 その手を取って堀北を抱きかかえて帰ろうとした瞬間──2つの光が反対側から近づいてくる。

 

 

 

「随分と感動的なシーンじゃねえか? まるで映画のラストシーンみてぇだ。なあ伊吹?」

 

「どうでもいいから早く済ませてよ」

 

「龍園……」

 

 そこに現れたのは龍園と伊吹、龍園のジャージは濡れているだけだったが、伊吹の方は泥だらけになってる。

 

「そんなに睨むなよ? あーええっと、綾小路だったか?」

 

「……恨むなら私を恨むんだな。そいつが想像以上に抵抗するから手加減できなかった。倒れてからもうわ言のように『水無瀬』って呟いてたし、どんだけだよ」

 

「ははは! そりゃあいい。これから全員集合するからな。感動の再会が見れるぜ!」

 

「……堀北の体調が心配。もうこれ以上どうしようもないし帰らせてもらう」

 

 自分の中で怒りが溜まっていくのを感じていた……私は都合の良い奴だ。こうなることくらい想定していたはずなのに、いざ目の前にしてみると感情をコントロールできなくなってしまう。

 いつも以上に冷たく言い放った私に対して、龍園は笑いながら答える。

 

「そいつは無理だ。これからお前たちには水無瀬の奴を呼び出す人質になって貰うんだからな!」

 

「水無瀬の所にはアルベルトを向かわせてる。さっき無線機で呼びかけたから今にでも水無瀬を連れて来る。痛い目見たくなければ大人しくしておいて。私も無意味に殴ったりしたくないし。水無瀬もこいつが聞きたいこと聞いたらすぐ開放する」

 

 ハイテンションで語る龍園と、その補足をする伊吹。完全にあちらが勝った気でいるが、それを聞いて安心した。

 アルベルトっていう生徒がどんな人かは知らないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな話をしている間にも、少し先から懐中電灯の明かりが見えて来る。

 

「ククク、来たみたいだな」

 

「ダメ、よ、綾小路さん……早く私を置いて逃げて」

 

「熱で頭おかしくなった? 私が堀北を置いていくわけない……いいから、そのままでいて」

 

 そんなやり取りをしている間にも明かりはどんどんと近づいてくる。影で隠れてて見えないが、もう1人の人を抱えて歩いてきているようだった。

 ……早く来てくれないかな、堀北が大変だ。

 

「早かったじゃねえかアルベルト。水無瀬の奴はその辺に置いといて……は?」

 

 木々の間を抜けてきたのは、水無瀬を担いだアルベルトではなく、その逆だった。

 

「──うわ、ホントに集まってるじゃん。って大変だ!」

 

 米俵の様に担いでいたアルベルトをその辺の草むらに放り出して、水無瀬はこちらに向かってくる。

 全身を震えさせている堀北の心配をしているようだ。

 

「こんなに寒そうにして、ほら、これかけて」

 

「み、なせくん?」

 

 肩にかけたバックから予備のジャージを取り出す水無瀬。堀北はぴんぴんしている水無瀬に驚いているようだ。

 

「おい、てめえどうやってアルベルトを……!」

 

「ほら、帰った帰った。これだけ体が冷えてるんだし早く暖めないと。結構道ぬかるんでて転びやすいから気を付けてね」

 

「ん。分かった」

 

 ……もういいや。全部水無瀬に任せよう。これだけ大変だったんだから最後位は頑張ってもらわないと。

 そうして私は堀北を抱えて走り出す。

 

「っ、伊吹! あいつらを追え!」

 

「おっと、彼女たちを追いかけるなら僕を倒してから行くことだね。僕と話したかったんだろ? 逃げも隠れもしないさ。逆に2人でこっちを見ていた方が得策だと思うよ?」

 

「ッチ、戻れ、伊吹」

 

 後ろではそんなやり取りが聞こえる。まるでどこぞのヒーローみたいだ。

 ……水無瀬、ちょっと楽しんでる? こっちは大変だったのに

 

「綾小路さん……?」

 

 目が覚めてしまったのか弱々しくこちらを見つめる堀北。その目には置いてきて良かったのかという不安が浮かんでいる。

 ……今思えば、水無瀬は肝心な時いっつも遅れて来るし、その上焦ったところを見たことがない。でも、どんな問題も必ず解決してくれる。

 

「堀北は頑張ったんだから、あとは水無瀬に任せよう? 大丈夫……だって」

 

 

 

 

 

 ────私のヒーローは、いつも遅れて助けてくれるんだから────

 

 

 

 

 




久しぶりだから色々矛盾があるかもしれません!
その時はやんわりと教えていただけると幸いです!

高評価や感想していただけると作者の励みになります!
答えられると確約はできませんが、ここはどうして?という質問や本文の指摘などでも嬉しいです!よろしくお願いします!

龍園君が契約相手をAクラスからDクラスに変えた理由を少し補足しなおしました

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