ようこそ愛憎混じる学び舎へ 作:妄想癖のメアリー
先のやり取りからずっと綾小路たちの方を見ていた水無瀬だったが、その影が見えなくなった辺りで龍園たちの方に顔を向けた。
中学の頃から喧嘩に明け暮れていた龍園からすると隙だらけの水無瀬だったが、不思議と手を出そうという発想は浮かんでこなかった。
「追わなくて良かったの?」
ここまで用意周到に事を進めてきた龍園が、あっさりと逃がしたことに伊吹は疑問を隠せない。
「……そもそもこんな手間のかかる事をしたのは、こいつのすかした面を崩してやりたかったからだ。アルベルトがやられた時点で頓挫しちまったがな」
そう憎々し気に話す龍園。先程までの機嫌はどこへやら、目の前でおもちゃを取られた子供の様に眉間に皺を寄せている。
「ほら、早く本題に入ろうよ。点呼まで時間があるとはいえ、これからBクラスのみんなで打ち上げをするんだから」
木に寄りかかりながら催促をする水無瀬。あくまで余裕そうな表情を隠さない彼に腹を立てる龍園だったが、早く済ませたいのは同じのようで話を始める。
「伊吹、アルベルトを連れてリタイアしろ。俺はこいつと話がある」
「……分かった」
そう言ってアルベルトの元へ向かう伊吹。流石に恵体のアルベルトを運ぶのは厳しいのか、先ほどから
うめき声をあげているアルベルトを起こして移動するようだ。
その様子を見届けた龍園はおもむろに話を始める。
「……今回の件、どこまで読んでいた?」
「と、言うと?」
あくまでも白を切るつもりの水無瀬に、警戒を緩めることなく続ける龍園。
「あの綾小路とか言う女。俺たちが出てきても何の焦りもなかった……それだけなら単に頭の緩いバカという可能性も否定できねえが、人質を取るって言った時の反応も一切なかった。お前が全て指示していたな?」
「随分と良く人を見ているね? まあ正解だよ。彼女には僕の指示に従って動いてもらった」
実際にはただ単に『堀北の体調が悪くなるように動いてほしい』と言っただけだったが、嘘はついていないからいいだろうと判断する水無瀬。
「ククク、まさかDの無能どもの中にそこまで有能な奴がいるとはな? だがお前の目論見は失敗に終わったぜ?」
想定外の事態ではあったが、依然こちらが有利であることには変わりないためご機嫌に語り出す龍園。
「あの黒幕野郎のことだ。こちらの目的に気が付いて対策をしてくると思った。だからその筆頭候補であるお前に、下着泥棒の罪を着せて動きずらくしてやったんだぜ? まさかキャンプ地から追い出されるとは思わなかったが」
「君の目的というと、Aクラスに情報を渡してポイントを得て、その上でAとDを潰し合わせる事でCクラスの一人勝ちするという事だろう? CPに大きな差が付いているDクラスが多少ポイントを得ても問題ないと考えた。大した計画じゃないか?」
心底感心した水無瀬の発言に、気を良くしたのか大きな声で続ける龍園。
「そこまで気が付いていたなら逆に滑稽だな? Dクラスのキーカードを取り返して俺の計画を妨害する事が目的と言ったところだろうが、あいにくともう葛城にはキーカードを見せちまったからなぁ!」
「……確かに、これで僕が君にAクラスとBクラスのリーダーを聞いて契約は完了される。今の僕たちには、AクラスとCクラスのリーダー当てによるマイナスポイントを、AクラスとBクラスのリーダーを当てることによって相殺する選択肢しかない」
「っは! よく分かってるじゃねえか? お前の敗因は、あの間抜けどもを信用しすぎたことだ。お前が居なくなってからの数日は酷かったらしいぜ? ああいう輩は、強制的に支配しないとまとまることを知らねぇ。日和見主義のてめえには分かんねえか?」
「……いいから、早くAクラスとBクラスのリーダーを教えてくれないか? それでこの話は終わりだ。負けだよ、僕の」
龍園の言葉に、表情から余裕が無くなる水無瀬。賭けに負けたこともそうだが、クラスメイトをバカにされたことに怒りを覚えているように見える。
「そう焦るな。ほら、これが写真だ」
笑いながら写真を見せる龍園。そこにはそれぞれのクラスのキーカードがはっきりと写っている。偽物ではない。
「ふむ、この2人がリーダーか。確かに確認したよ。茶柱先生の元へ行って契約書の空欄にも記載しようか『龍園翔が報告したクラスのリーダーはAクラスが戸塚弥彦。Bクラスが○○である。これにより2つ目の契約は完了される』ってね」
「ククク、そんな契約書もあったな? 確か
「おまけみたいな物だよ。そもそもクラスのリーダー情報、ましてやその証拠を持って来れるだなんて、最初は思ってもいなかったしね」
──そうして茶柱の元へと向かった2人。各クラスの担任はそれぞれのキャンプ地に拠点を構えている。その為向かう先はDクラスのキャンプ地であった。
「ではこの内容に間違いないな? 双方の同意があれば変更は可能だが、こちらが大変だ。しっかり擦り合わせはしておいてくれ」
「はっ。問題はねえよ。こいつも同じだ」
「はい。大丈夫ですよ先生」
点呼を除いて一切戻ってくることが無かった水無瀬が龍園と一緒に戻ってきたことに驚いたのか、Dクラスの生徒たちがざわめき始めた。しかし連日の騒ぎによって皆疲れているのか、そこに割り込む生徒は1人もいない。
「なんだ? 猿も騒ぎつかれると大人しくなるんだな?」
「あ? おい水無瀬! そんな奴と喋ってねえでこっち来いよ!」
「やめてくれよ2人とも……済まないね須藤。龍園君とは契約の事で少し話があるから、もうちょっと待っててくれないかい」
ここぞとばかりに煽る龍園。須藤が嚙みつこうとするが、水無瀬に言われては彼も矛を収めるしかないようだ。
「水無瀬……お前」
明らかに様子のおかしい水無瀬に困惑する須藤。
どう誤魔化すか考える水無瀬だったが、結論が出る前に龍園が大声で話し始める。須藤だけではなく、Dクラスの生徒全員に伝えるつもりのようだ。
「おいおい、あんまり触れてやるなよ須藤。お前らが頼りにしてるこいつは、たった今俺との
「賭けだと……? おいどういう事だ水無瀬。説明しろ」
芝居がかった龍園の言葉が聞き捨てならなかったのか、幸村が水無瀬を見つめる。
「まあ時期にわかるさ雑魚ども。お前らの怠慢のせいでこいつは負けたんだ。せいぜい悔やんで結果を待つんだな」
しかし答えを教える気は無いのか、龍園は笑いながら続けた。
「大丈夫だよ幸村君。悪いようにはならないって約束する。
────龍園君、最後の取引だ」
先程までの力ない様子から一転、強い意志を感じられる瞳で声を上げる水無瀬。
その代わりようにざわつきを取り戻すDクラスの生徒たち。
「おいおい、ここにきて負け惜しみか? ……いいぜ。お前が最後にどう足掻くか気になるからな」
呆れたように言ってキャンプ地から離れようと歩く龍園。Dクラスの生徒に取引を聞かせるつもりは無いようだ。
それは水無瀬も同じなのか、歩いて付いていく。
「おい……! 水無瀬!」
次第に遠ざかる水無瀬の背に向けて声を上げたのは池。
しどろもどろになりながらも、迷いの無い瞳でしっかりとその意思を伝える。
「俺バカだから取引とか、お前が何してんのかとか、その苦労とかわかんねえけどよ……あんま気負いすぎんなよ! みんなお前を待ってるんだぜ!」
水無瀬が立ち止まり振り返ると、そこにはサムズアップをした池が居た。
──その不器用な気遣いが、ひどく水無瀬には美しく見える。
「……カッコつけすぎだよ。池」
「う、うるっせ! 早く戻って来いバカ!」
そのやり取りに、Dクラスの生徒たちの間で笑いが起こる。
たった数日ぶりのやり取りだったが、ずっと分裂していた彼らの心を、確かに繋げたのだ。
「ッチ。つまんねぇ。早くいくぞ水無瀬」
「ああ」
この取引がどのように試験に影響するかなんて、Dクラスの生徒は誰も知らなかった。
だが、彼らは
目の前の孤独とも言える子供に対して、水無瀬は思考する。
(他人に全幅の信頼を寄せることは、とても難しいことだ。何事も1人で解決できるほどの能力を持った優秀な人物なら、なおさらね)
ふと昔のことを思い出したのか、水無瀬は遠い目で空を見上げた。
雨は、未だに降り続けている。
(だが覚えておいた方が良いよ龍園君。あらゆる犠牲を払って最後にたった1人、上った頂点から見下ろす景色って言うのはね──)
──酷く、酷く寂しく見えるんだ
『ただいま試験結果の集計をしております。暫くお待ち下さい。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用下さい』
「結局……戻ってこなかったね。水無瀬君」
「ああ。あの後もBクラスのキャンプ地に行ってたらしいぜ? 酷いよなーあんな事言わせといてよー」
「あはは……かっこよかったけどね。でも水無瀬君なら大丈夫だ」
「ええー? あんな事行ってたけど龍園に勝てるのかよ? ってか下着泥棒の件だって水無瀬じゃないって決まったわけじゃ……痛ぇ! 何すんだよ須藤!」
「水無瀬がそんな下劣なことするわけない。よくやった須藤。やんなきゃ私がぶちのめしてた」
「……お前。そんなキャラだったか?」
8月7日。長くも短い無人島での生活がついに終わりを迎えた。
ちなみに今の会話は上から櫛田、池、平田、山内、綾小路、須藤である。
両手の指をバキバキと鳴らす綾小路に若干引いてる須藤だったが、胸の前で組まれた両手は忙しなく動いている。試験の結果が気になってしょうがないらしい。
「てか、水無瀬はどこなんだよ。別に終わったんだからこっち来てもいいだろ」
「水無瀬君なら、あっちでBクラスの人たちと話してるよ」
Bクラスとは言っても、実際女子ばっかりである。試験中は大っぴらにプライベートの話をすることが出来なかったのか、今後の予定を事細かに聞かれているようだ。平田と並んでイケメンランキング上位に名を連ねているだけはある。
「……私、やっぱぶちのめしてくる」
「ちょ、綾小路さん!?」
そう言ってずんずんと歩き出す綾小路。
困ったように苦笑いを浮かべている想い人の腕を掴んでこちらへ引っ張ってくる。
「鼻の下伸ばしたりしないのはプラスポイントだけど、流石にこっち優先してほしい!」
「わかった、ごめんって」
「お前ら、ホント相変わらずだな……」
そうして皆の元へと帰ってきた水無瀬に池からのツッコミが入る。
激動の1週間が終わったばかりで、皆大なり小なり疲れを見せているが、この2人は平常運転らしい。
落ち切らなかった砂や泥で汚れている水無瀬のジャージの袖を握りながら、綾小路はポツリと言い出した。
「……私、頑張った」
「そりゃあ一番分かってるつもりだよ?」
「ご褒美くれるって言った」
「言ったね」
「私、頑張った」
オウム返しの様に呟く綾小路。
水無瀬も彼女が何が言いたいのか分かってきたらしい。
「……何が欲しいんだい?」
「頭なでて」
「……今?」
「いま」
「──はあ、しょうがない」
こうなったら一切引かないと理解しているのか、水無瀬は大人しく頭を撫で始める。
調子に乗ったのか、顔が汚れることも気にせず、正面から水無瀬を抱きしめる綾小路。
「……こいつら大衆の前ってこと忘れてないか?」
「あんま直視するな須藤。目が焼かれるぜ」
「俺はあやほり派なんだけどなぁ」
「……あやほりって何だろう?」
「あんまり気にしないで平田君。あなたまでそっちに行ったら終わりだと思うの」
「……? うん。わかったよ」
そんな外野のヤジにも気にせず撫で続ける水無瀬。こいつも大概おかしいが、それを指摘する野暮な人間はここにはいない。
「んふ、ふふふ。私には今この瞬間に得られる栄養素が足りてなかった。補充しないと私は死ぬ」
「……半年で変な知識増やしすぎじゃない?」
「えへ……えへへへ……」
「……」
この時の水無瀬は結構面白い顔をしていた。と、池は後に語っている。
「ッチ。馬鹿どもの顔を見に来てやろうと思ったら、何してんだスカシ野郎」
「龍園……!」
「何睨んできてんだ? 木偶の坊。今俺は機嫌が悪いんだ、きめぇから見て来んな」
「何の用かな龍園君。もう試験は終わっただろう?」
一触即発の空気を感じ取ったのか、平田が仲介をする。
ちなみに話題に上がっていた水無瀬はまだ綾小路とイチャついている。
「だから言ったろ? 馬鹿どもに伝えに来てやったんだよ。『水無瀬に感謝しろ』ってな」
「水無瀬君には感謝しているさ。彼が居なかったらそもそも試験どころではなかった。それは皆自覚している」
「そんなしょうもないこと言いに来たと思ってんのか? ……まあいい。おい! いつまでもいちゃついてんじゃねえ水無瀬!」
龍園が呼びかけるとようやく水無瀬は撫でていた手を止めた。
不満そうにぶーぶー言う綾小路をなだめて龍園を見る。
「おはよう。昨日ぶりだね、龍園君」
「のんきに挨拶してる場合かよ。俺はお前が裏切ってねぇかを確認しに来たんだよ。なれ合うつもりはねえ」
心底嫌そうな顔を浮かべて返す龍園だが、水無瀬は動じることなく笑顔で返す。
「裏切るつもりはないって言ったじゃないか。メリットなんかないし、それは君もわかるだろう」
「ッチ、まあいい。俺もここで結果を聞かせてもらう」
そう言うとこれ以上話すつもりはないのか、黙ってその場に立つ龍園。
水無瀬も綾小路に引っ張られて先ほどの続きをするようだ。
(いや……気まず……)
──そんな池の心の叫びも無理はないだろう。
「そのままリラックスしていて構わない。既に試験は終了している。今は夏休みの一部のようなものだ、つかの間ではあるが自由にしていて構わない」
気まずい時間は長くは続かず、キンとした拡声器の音と、真嶋先生の声が響いた。
そうは言われても、当然生徒たちの間には緊張が走っている。
「この一週間、我々教員はじっくりと君たちの特別試験への取り組みを見させてもらった。真正面から試験に挑んだ者。工夫し試験に挑んだ者。様々だったが、総じて素晴らしい試験結果だったと思っている。ご苦労だった」
その言葉で、1週間の試験が終わった実感がわいたのか、生徒たちからは安堵の声が漏れる。
それを咎めることなく真嶋は話を続ける。
「ではこれより、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う……一応言っておくが、この結果に間違いはない。私たち教員の間で何度も確認し直した」
「ん……?」
その物騒な前置きに、平田は違和感を覚えたようだ。
しかしその疑問を口にする前に、試験の結果が発表される。
「なお結果に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい」
「ッチ。結局公開されないのかよ」
「だから言っただろう?
「……」
いつの間にやら戻ってきた水無瀬と、龍園が何やら意味深な会話をしている。
「ではこれより特別試験の順位を発表する。最下位は────Cクラスの50ポイント」
「フン……」
あれだけ息巻いてた割には少ないポイントに、驚いた平田たちであったが、龍園は特に驚いたりはしていない様子だ。
「続いて3位はAクラスの70ポイント。2位はBクラスの90ポイント」
「……は? なんでみんなこんな低いの?」
余りのポイントの低さに驚く池。
もっともそれを疑問に思っているのは彼だけではないようで、各クラスの代表は信じられないと言ったように頭を抱えている。
そしてそんな彼らを気づかうことなく、真嶋は最後の結果を伝える。
「そしてDクラスは──」
一瞬だけ真嶋は手元の資料を見るが、深呼吸をして結果を伝える。
その様子に唾を飲む生徒たち。この試験で最もトラブルが発生していた噂のクラスが1位なのだ。注目を集めるのも無理はない。
「──
高評価や感想していただけると作者の励みになります!
答えられると確約はできませんが、ここはどうして?という質問や本文の指摘などでも嬉しいです!よろしくお願いします!
・全クラスに配られる300ポイント(物資譲渡により未使用)
・高円寺と堀北のリタイア‐60
・水無瀬と綾小路の点呼遅れ‐10ポイント
・A、Cクラスのリーダー当て+100ポイント
・スポット占領のボーナスポイント+25ポイント
計355ポイント
毎月160万ポイントの支給についてのアンケート
-
完全になかったことにする(修正)
-
今のままでいい
-
要素は残しつつ、無理のない範囲で