あれから1週間。ついに今日レインズ艦隊長から報酬を貰える事になった。貰ったらそのまま次の世界に旅立つ事になっている。もちろんそんな事を言っても信じてもらえないだろうから嘘の理由を伝える事にした。
『地球から見てさそり座の方向に約500光年離れた位置にあるさそり座ν星。7つの恒星から成る七重連星系であるこの星だが、観測データによると時空に歪みがある事が判明した。ここを無理やり通過すれば元の世界に帰れる。なお時空の歪みは通過後に消えるから問題はない』
という説明をした。さそり座ν星は存在するけど時空の歪みとかは嘘。でもUNSAにそれを知る方法はない。むしろ500光年も離れた場所に行ける事に驚いていたな。
あと火星だが評議会が盛大にやらかした。艦隊再建に伴い色々と大規模な政策変更を実施したのだがこれがひどいものだった。元々SDFは全ての男性に12歳から15年間の兵役を義務付けていたが、徴兵年齢の下限を大幅に下げてなんと6歳から生涯兵役義務というルールに変えちまった。しかも男女問わず。12歳から兵役ってルールもかなりぶっ飛んでるのに、それを6歳に下げるって頭おかしいだろ。そんな小さい子供に何が出来るんだ?
他には不足気味の各種物資(食料品・医療品を含める)の民間での販売を禁止し、評議会が定めた平等なルール(上流階級優先)に則り配給制となった。ついでに今までの労働基準法が廃止となって、1日の労働時間が15時間にされたそうな。最後のが地味にえげつない。
ただでさえ負け続けの軍や評議会に不満が溜まっている火星市民。そこにこんなイカれたルールを押し付けられた市民達の怒りが爆発した。再び大規模なデモが火星の至る所で発生したが、例によって評議会は排除を命令。C12バトルタンクやC6ロボット達が銃を構えてデモの中止を命じるも市民達は応じない。まあ当然だわな。
するとロボット達は一斉に射撃を開始、市民達は悲鳴を上げながらバタバタと倒れていった。逃げ惑う市民達の背中に容赦なく発泡を繰り返すロボット達。市民達が逃げ込んだ建物を吹き飛ばすバトルタンク。いやマジでドン引き。エクストリームドン引きだよ。映像を見せたけどレインズ艦隊長達も顔がこわばっていたし。火星版血の日曜日事件じゃねえかよ。
その惨劇を知ったSDF地上軍の大多数が市民側について評議会への攻撃を始めた。火星内戦の発生である。秘密警察やプロパガンダ部隊が反撃するも、彼らは純粋な戦闘部隊ではないので壊滅するまでそう時間はかからなかった。んで評議会は輸送船で逃走を図るもスケルターがエンジンを蜂の巣にして撃墜。生き残った評議会メンバーを拘束した地上軍の責任者がUNSAに連絡してきたのが3日前の事だった。
民間人で構成された火星臨時政府はUNSAに対して、SDF高等評議会メンバーの生き残りを引き渡す用意がある事や、即時の停戦要請、終戦に向けた交渉の要請を連絡してきた。UNSAは二つ返事でこれを受諾。カムホームオプスから帰還したばかりのヘラクレスは、回収した遺体を降ろした後、外交官を乗せて火星にジャンプ。昨日交渉がまとまり戦争は終わった。ヘラクレス艦上にて調印された降伏文書の内容は以下の通り。
・その所在地に関わらず、SDF軍全軍及びSDF高等評議会直属の全戦闘部隊へ無条件降伏を布告し、全ての指揮官はこの布告に従う事。
・SDF軍と火星市民へ敵対行為の中止を命じ、艦艇・航空機、軍用非軍用を問わず財産の毀損を防ぎ、SATO軍総司令部及びその指示に基づき火星臨時政府が下す要求・命令に従わせる事。
・火星臨時政府に所属する公務員とSDF軍の職員は、SDF降伏の為にSATO軍総司令部が実施・発する命令・布告・その他指示に従う事。なお非戦闘任務は引き続き実施する事。
・戦時中及び戦争以前にSDF軍及びSDF高等評議会が太陽系内にて実行したSATO軍所属軍人・UNSA所属民間人の虐殺行為について、火星臨時政府は関与した人物及び関係資料を速やかにSATO軍に引き渡す事。
・UNSAは上記の戦争犯罪についての裁判を1年以内に実施する事。
・火星臨時政府とSDF軍は、捕虜として抑留しているSATO軍所属軍人及びUNSA所属民間人を即時解放し、必要な給養を受けさせる事。
(6つ目の項目については、SDF軍が軍人・民間人問わず捕虜を取らずその場で処刑するよう評議会及び軍司令部から命令を受けていた事が判明。実際にSDF施設に捕虜がいない事も確認された為、降伏文書から削除された)
引き渡された評議会メンバーや虐殺に関わった人間、当時の命令書等の関係資料を回収したUNSAは裁判の準備を大急ぎでしているんだと。だいぶ年寄りの被告もいるみたいだから死ぬ前に裁判したいってのもあるんだろうね。
地球に帰還したレイエスはSATOから勲章が授与された。アメリカ軍で言うところの名誉勲章レベルのやつらしい。ソルターやオマー軍曹も同じ勲章を貰ってた。おまけにリトリビューション所属の海兵隊員は全員1階級昇進となった。
レインズ艦隊長は現在ドック入りのリトリビューションの正式な艦長としてレイエスの名を推薦した。更にリトリビューションとヘラクレスはSCARチーム専属艦艇として運用されるようになるらしい。ただでさえ船いないのによく海軍が反対しなかったな~と思っていたら、俺が盗んできた造船所を使って艦隊再建を進めるみたい。何でも海軍はアドミラル級を一回り大きくした空母の建造計画を進めているそうだ。ちなみにアドミラル級はリトリビューションの艦級の事ね。
そのリトリビューションだが、ヘラクレスの設計思想に習って大型レールガンを装備する事になった。元々近接防御火器や対空ミサイルしか搭載していなかったけど、オリンパス・モンスの登場でもっと火力載せないといかん、みたいな考えになったそうな。
あと昨日の夜レイエス達に誘われて飲みに行った。ブラック企業で社畜をしていた俺の肝臓はアルコールに強くなっていたので、結構な数のボトルを開けた。ビール、ウォッカ、バーボンなどなど…酒はやっぱうまいね。てかレイエス酒強すぎだろ…カシマはぶっ倒れていたぞ。
そして今、俺はディスカバリーの格納庫でレインズ艦隊長達とお別れの挨拶をしていた。新品ピカピカのジャッカルとレイブンは隣に置いてある。あとで試運転しないとね。
「本当に感謝しているよ、カーク艦長。地球を代表して礼を言わせてくれ」
「こちらこそお役に立てて光栄です、艦隊長」
その後レイエス達ともお別れの挨拶をして彼らがレイブンに乗り込む時に俺はある物をレイエスに渡した。現在UNSAで使われているデータチップだ。
「これは?」
「多分数年すればあなた方でも作る事が出来るはずの物だ。きっと役に立つはず。地球に帰ったら見てみると良い。うまく使えば地球のさらなる発展に繋がるだろう。
そう言って俺は人指し指と中指・薬指と小指をくっ付け、中指と薬指の間と親指を開いて、相手に掌を見せるヴァルカン式挨拶をした。これやってみてかったんだよね。難しいけど。
格納庫からレイブンが出ていくのを見送った後、俺は艦橋に移動してデータに命じた。
「よし、まずはさそり座ν星にジャンプしよう。七重連星をこの目で見てみたい」
「了解です、艦長。胞子ドライブ起動します」
さらば(この世界の)地球よ!
クルンと回りながら姿を消したディスカバリーをレイエス達は眺めていた。
「行ってしまいましたね…」
「未来は色々とぶっ飛んでるということがよくわかったよ」
イーサンはカークから貰ったデータチップの中身を見ていた。
「艦隊長、これはすごい代物です。モニターに出します」
モニターに表示されたのは大型の人工衛星のようなもので、それらは大量に地球軌道上に設置されていた。そして一斉に起動すると地球を囲む形にシールドが展開したのだ。カークが渡したのは、『スタートレック:ディスカバリー』シーズン3にて地球連合防衛軍が使用していた惑星防衛シールドの設計図と運用システムだった。
「これは凄いな…だがイーサン、実際問題これを作れるのか?」
「我々は既にエネルギー系兵器を運用しており、F-SPARの開発にも成功しています。それらの技術を兵器からシールドにシフトすれば恐らく可能でしょう。しかしカーク艦長の言う通り数年の時間はかかります」
「SDFと睨み合っているうちは作れない…いや、人間同士で争っていては話にならないということか」
「この30年間、我々は常に戦ってきましたからね…」
1年後、SDFの戦争犯罪についての裁判がジュネーブにて開廷。今までSDFが実行した数々の戦争犯罪が明らかとなり地球市民は衝撃を受けた。それまでの地球市民の認識では『あの事件はSDFの仕業だろう』『またSDFか』ぐらいのものだったが、裁判で実際の被害の大きさや残虐性が公表されてドン引きしたのだ。特にチタニアでの入植者虐殺事件については、ヘラクレスが回収してきた遺体の状態やSDFから押収した資料等が伏せ字無し(遺体にはモザイク加工がされた)でネット上で公開された。
裁判の結果、評議会メンバー及び虐殺に関わった人間のほぼ全員に死刑判決が、残りの人間には終身刑が言い渡された。エウロパ兵器工場攻撃及びジュネーブ奇襲攻撃を計画・指揮したコッチも当然死刑となった。判決の1週間後に死刑が執行され、コッチ達死刑囚は全員銃殺刑で処刑された。死刑囚達は最後まで喚き散らしていたが、銃殺隊を指揮していたレイエスに、
『火星が永遠かどうかは知らないが、今確実に言えるのはお前達の罪は永遠に消えないという事だ。それに死は恥ではないと言うのなら、生きている事は恥なんだろう?良かったじゃないか、死ぬ事が出来て。こちらとしてもお前達が死んで本当に嬉しいよ』
と言われて口を閉じたという。遺体は火葬された後に大西洋で散骨された。遺体が埋葬された土地が聖地となるのを防ぐ為の措置である。
火星臨時政府は死刑執行の数日後に公正な選挙を実施。これをもって火星臨時政府は火星政府となり、正式にUNSAに加盟した。軍備制限により火星政府の軍隊である火星防衛軍は小規模なものとなっている。駆逐艦以上の大型艦を保有出来ず、エネルギー系兵器の艦艇搭載も禁止された。かつてSDFと地球が争った原因の1つであるヘリウム3・メタンハイドレート等のエネルギー資源やレアアース資源の採掘及び貿易に関する条約が締結され、地球と火星の国交正常化がここに実現した。
それから4年後。UNSAエネルギー技術本部の責任者、コール中佐率いるチームがカークが残していった惑星防衛シールドシステムの開発に成功。シールドの強度は小惑星帯での衝突実験、リトリビューションによるレールガン攻撃実験、更にF-SPARによる攻撃実験でその強度が保証されている。また、このシールドは起動している惑星大気圏内へのジャンプを妨害する機能を持っており、半年後に地球と月、その3ヶ月後には火星に設置された。装置の小型化も進みつつあり、リトリビューションにて実施試験が行われている。
この世界の地球はこれからも発展していくだろう。
これが七重連星か!すげーな!写真撮っておこ。
「まさに芸術的、という言葉がぴったりの光景ですね」
「そうだな。さて満足したから次の世界に行こうか」
「了解です。まずは通常ワープに入ります」
すると見慣れたワープの光景が。やっぱこれだよなあ。
「それでは胞子ドライブを起動します」
「やってくれ」
次はどんな世界に行くのだろう。楽しみだ!
次の世界はどこにするかまだ決めていません。
なので更新が遅れるかもです。