ソーは自分が経験した事を信じられないでいた。つい数秒前までサノスの巨大船から攻撃を受けていたはずなのに、視界がぐるりと回るとサンクチュアリⅡは消えており、船も全く別の場所にいた。ロキ達も困惑している。
「カーク、いったい何が起きたんだ?」
「俺のディスカバリーには特殊なワープシステムが搭載されている。それを使って逃げたんだ。本当ならあのクソ紫ハゲをブチ殺すところだが、大勢の民間人が乗っている船の避難を優先すべきと判断した。データ、現在位置は?」
カークの問いに男の声で返事が来た。恐らくディスカバリーに乗っているカークの副官だろう。
『現在位置は先程の位置から50000光年離れた宙域です。現在周辺をスキャン中』
「50000!?」
バナーはもちろんヘイムダルもびっくりしていた。一瞬でこんなに遠くまで飛べるとは…
「まあまあ遠くまで飛んだな。損害報告を」
『サンクチュアリⅡによる攻撃でシールド出力が22%低下しましたが、ディスカバリー及びステイツマンに損害はありません』
「わかった。あのデカ船にはどれだけダメージを与えた?」
『しばらく動けない程度には』
それはいい知らせだ。相手が動けない間に早く民を地球に避難させねば。
『艦長、12時方向よりアンノウン接近中。数は1、恐らく小型船』
「全くこの船は人気者だな。戦闘準備を…」
「待ってくれ、通信が入っている」
ヘイムダルがコンソールを操作すると、モニターに6人の男女が映った。
『こちらベネター号。救難信号を受信して飛んできたんだが、問題はないか?』
バナーが確認すると救難信号を切り忘れていたようだ。
「こちらステイツマン。来てくれて感謝する。本艦は自力航行が出来ない状態だが、上にいるディスカバリーが救援に来てくれた。救難信号を切る前に問題が起きてそのままにしていた、申し訳ない」
『問題?何かトラブルでも?』
「サノスっていう紫色のサイコハゲに襲われてな。ディスカバリーがいなければ本船は沈んでいただろう」
すると6人の顔色が変わった。
『今、サノスって言ったか?』
「ああ。知り合いか?」
『…あいつを追いかけていてな。話すと長くなる、直接会って話さないか?』
「なら俺の船に来ないか?」
そう言うのはカーク。
「俺はカーク。ディスカバリーの艦長だ。広めの会議室もあるし出来立ての飯も用意出来るぞ」
まさかガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのメンバーと会えるとは思ってなかったよ。スター・ロードかっけえなあ。それはともかく、まず俺はディスカバリーからステイツマンに複数の大型レプリケーターを運び込んだ。これでアスガルドの民に温かい食事を提供できる。保存食だけだと気が滅入るからみんな喜んでくれた。
次にレイブンでソー達4人と一緒にディスカバリーへ戻った。それと同時にデータの誘導でベネター号の小型ポッド、スペース・ポッドも格納庫に着陸した。流石にベネター号は大きいから格納庫に入らなかった。でもデザインが素晴らしい。
軽く挨拶を交わしてから会議室へ移動。レプリケーターで飯を用意すると言ったらみんな驚いていた。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのメンバーはカレーを注文。ソー達はシャワルマを食べた。確かアベンジャーズのエンディングで食べていたな。俺はもちろんハンバーガー。やはり美味いな。ハンバーガーは素晴らしい食べ物だ。穀物、肉、野菜をバランス良く接種できる。ダイエットコークを飲めばカロリーは実質ゼロだし。
「さて、それじゃ飯も食い終わった事だし話を進めようか」
それぞれメンバーが自己紹介をする。よく考えるとここにいる面子はなかなか凄い。世界を救ったヒーロー達が勢ぞろいしている。俺だけなんかアウェイ感を味わってる。最後は俺の番か。
「俺の名前はジェームズ・T・カーク。惑星連邦宇宙艦隊所属、このUSSディスカバリーの艦長を務めている。階級は大佐。カークと呼んでくれ」
「惑星連邦…聞いたことある?」
「いや、ないな…」
みんな首をかしげている。まあそうなるよな。
「ちょっと信じられないかもしれないが…俺は違う世界から来た人間だ。元の世界にはアスガルドは存在していないしな」
「えっ」
「データ、説明を頼むよ」
すると俺の後ろにホログラムのデータが出現した。見た目はもちろんデータである。どうやらソー達はデータが俺の副官だと思っているみたいだ。実際頼れる副官だしな。
「皆さんはじめまして。ディスカバリーの艦載AI、データです。本艦は宇宙艦隊司令部の命令を受け、銀河系内で発生した時空間異常についての調査任務を実施していました」
会議室中央のモニターに表示したのは銀河系の図で、太陽系を含めた5か所で時空間異常が発生しているのが見える。でもこれは真っ赤な嘘。神様に言われて転生しましたとか言っても信じてくれんだろう。
「本艦はサンクチュアリⅡのような純粋な戦闘艦ではなく、科学実験や調査を主任務としている先端技術実験船ですので、今回の任務を問題なく実施していました。しかし最後の時空間異常点において時空が大きく破れているのを発見しました」
スタートレック:ピカードのシーズン2エピソード1のような緑色の時空間異常をモニターに出すと、科学者であるバナーが質問をしてきた。
「あれは…宇宙に穴が開いている?いったいなんなんだ?」
「解析不明です。タキオン・レベルは低く、本艦が到着した時は安定していました。しかしその後時空間が急速に不安定になり、逃げようとしましたが間に合わず、ディスカバリーを巻き込んで時空間は消滅しました」
「俺は死んだと思ったけど無事だった。んで救難信号を受信したから現地に向かったら、見たことがない船に聞いたことがない国名。俺は違う世界に来ちまったと確信したよ」
話を終えると色々と質問された。まずはピーター。
「サノスの船をボコボコにしてたけど、どんな武器積んでるんだ?実験船にしては重武装だと思うんだけど」
「そんなに強くはない。指向性エネルギービームのフェイザー、反物質弾頭を搭載している光子魚雷、真空エネルギー弾頭を搭載している量子魚雷、敵艦の電子機器を無力化するイオン・ミサイルぐらいだ。それにこれぐらいの武装は32世紀じゃ最低限必要な装備だぞ」
「32世紀やべえな…」
次にソー。
「カークはなかなか鍛えているみたいだな。戦えるのか?」
「基本的に俺はここで指揮をするのが多いな。でも海兵隊式訓練を受けた後に特殊部隊の訓練も受けている。剣やハンマーは難しいが銃やナイフなら任せてくれ」
「それは頼もしいな」
実はポイントを使ってバイオプラントを買った。これは映画版バイオハザードに出てくるアイザックス博士が開発した身体機能管理システムで、これを体内に取り込んでいると超人的な戦闘能力、肉体の損傷に対する修復能力、敵の様々な攻撃パターンを即座に予測し対応できる『格闘予測ソフトウェア』を使えるようになる。
「それで今後の話なんだが、まずこれを見て欲しい」
俺はサンクチュアリⅡの艦橋をズームした画像を出した。サノスがキレて何か叩いてる図だ。自分の思い通りにいかなくて物に当たるってなかなかのクズだよな。こんなんがリーダーの組織にはいたくないね。
「この左手の金ピカ手袋に付いている紫色の石はインフィニティ・ストーンの1つなんだろう?」
「その通りだ」
ソーが詳しそうなので説明を任せる。
「あれはパワー・ストーンだ。ザンダー星でノバ軍が保管していたはずだが、サノスの手にあるということは既にサンダー星は滅んでいるだろう」
「嘘だろ…」
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーで見たけど綺麗な星だったよな。よく滅ぼせるな、サノスのイカレポンチは。ちょっと脳みそ湧いてるとしか思えん。
「スペース・ストーンはアスガルドで保管していたが今はここにある。サノスが奪いに来たがカークのお陰で逃げる事が出来た。タイム・ストーンとマインド・ストーンは地球でアベンジャーズが持ってる。ソウル・ストーンの所在は誰も知らない。つまりサノスが次に行く場所はリアリティ・ストーンが保管されているノーウェアだろう。ここ数年コレクターに預けているからな」
「あいつに預けるとか正気かよ」
見てくれと言動は確かにアレだけど、アスガルドが2つもストーンを持つのは良くないから預けたんだよな。でもアベンジャーズは2つ持ってるよな。まあマインド・ストーンはヴィジョンになってるから持ってるとは言えんか。
「そこで提案なんだが…ピーター、ガーディアンズを率いてノーウェアへ行ってリアリティ・ストーンをサノスより先に回収して貰いたい。コレクターに、サノスが狙っていると言えばすぐ渡してくれるはずだ」
「分かった。パッと行ってサッと貰ってくるさ」
「カークは引き続きステイツマンを地球まで曳航してくれ。地球に着いたらアベンジャーズに連絡してくれれば話がスムーズに通る。バナーはアベンジャーズのメンバーだから、ロキがいてもそこまで問題にはならないはずだ。出来ればノルウェーのトンスベルグに船を降ろして欲しい。あそこは父が眠っている場所なんだ」
「了解。超特急で地球に向かうよ」
「で、俺はちょっとニダベリアに行って武器を調達する」
「あの伝説の場所か?宇宙がビビる最強の武器を作ってるだろ!俺も行ってみたいな!」
初めて見た時はたぬきなのかウサギなのか分からなかったロケットがウキウキしてる。これが元人間とは思えんな。
「ドワーフのエイトリにサノスを殺す武器を頼む。ロケット、君がベネター号の船長殿か?」
「おうよ、お察しの通りだ」
「なるほど、風格がある。一緒に行ってくれるか?俺がナビゲートする」
「船長に聞くよ。おっと俺が船長だったな、よし行こう!」
「素晴らしい」
「俺が船長なんだけど」
ピーター置いてけぼりなのウケる。
「あの」
と言いながら手を挙げるのはガモーラ。
「私はソウル・ストーンがどこにあるか知ってる」
「何だって!?」
聞くと、昔サノスの仲間だった頃に調べるように命じられ、ヴォーミアという惑星にある事を突き止めていたそうな。でもサノスは両親を殺したクソ野郎だったから内緒にしてたらしい。
「ただし、惑星のどこにあるのか、どうやって手に入れるのかは分からなかった。ストーンキーパーという監視者がいるらしいわ」
「なるほど…」
入手方法は愛する者の魂と引き換えなんだよな。だったら…
「ガモーラ、君は極力前線に出ない方がいいと思う」
「何ですって!?」
「いや、気を悪くしたなら謝る。だがサノスがソウル・ストーンを手に入れるには君の知識が不可欠だ。つまり君を誘拐して情報を引き出そうとする可能性が高い。最悪の場合、君の仲間を捕まえて拷問するかもしれない」
「それは…」
実際映画じゃネビュラを拷問していたしなー。出来ればサノスに捕まる前にこちらで保護したいところだが。ならこうしよう。
「1つの案だが、ガモーラは俺と行動を共にする。この艦なら絶対に安全だからな。まず地球にアスガルドの民を避難させる。その後ピーターを追ってノーウェアに向かうというのはどうかな?」
ピーターが凄く嫌な顔をしている。知ってるけど念の為聞いておくか。
「…もしかして2人って、お付き合いしている感じ?」
「えっ!?いや、その…まあ、そういう事、だな!」
カップルを離れ離れにさせるのは重罪だから駄目だな。百合の間に挟まる男と同じレベルの極悪人になってしまう。
「じゃあピーター達と一緒に行くしかないな。だが念の為にこれを渡しておくよ」
そう言ってガーディアンズの目の前にレプリケーターで作り出したのは2つの機械。1つはゲームボーイサイズのもので、もう1つはモンスターボールみたいなやつ。ポイントを使って購入したものだ。
「これは?」
「まず右の機械は携帯型スクラントン現実錨。これを起動すればある程度まで現実改変を無効化出来る。リアリティ・ストーンの能力は現実改変だろ?サノスに取られた時に対抗する為の機械だ。ただし効果範囲は2立方メートルだ」
SCPの世界ではおなじみのスクラントン現実錨。意外と安くてびっくりした。
「左のは個人用シールド発生装置。ただでさえ頑丈なサノスがパワー・ストーンで自身を強化している。でもあいつの口からビームが出るわけじゃない。全力でぶん殴られてもこれがあれば無傷で済む」
ピーターは恐る恐るといった様子でシールド装置を手に取る。
「そりゃすげえな。どれぐらいの強度があるんだ?」
「それにはピーターの協力が必要だ。ちょっと立ってくれ」
「えっ」
「そうそう、ここに立ってもらって、よし。で、シールドを起動して…ソー、ちょっとピーターを殴ってくれ」
「ええっ!?」
「良いのか?」
「大丈夫大丈夫」
ソーの腕に電流が走り、ピーターの顔は真っ青。
「いいか?」
「良くない!」
「よし、行くぞおおおおおお!」
ソーのかみなりパンチ!ピーターはシールドをつかった!ソーは吹き飛んで壁にぶつかった!ロケットはポカーンとしている。そしてロキはニヤニヤしている…
「うぇ!?痛くない!てか俺動いてない!」
「なんて硬さだ…びくともしない」
「強度はこれで証明されたな。あと全員に恒星間通信装置を渡しておくからやばくなったらすぐ連絡してくれ」
必要な物を渡し終えて会議はおしまい。俺は再びディスカバリーとステイツマンをワープさせて地球軌道上に到着した。この間僅か3分。
「この時代の地球はあまり発展してないな。軌道エレベーターもないし、そもそも宇宙船飛んでないし」
「今の地球は2018年だから仕方ないさ。君の世界ではどんな歴史を歩んでいたんだ?」
バナーに聞かれてちょっと考える。確か2063年にフェニックスが初めてワープ航行に成功したんだったかな。その後は色々あったなあ。
「22世紀前半の惑星連邦成立前に4年ほど敵対的な宇宙人国家と恒星間戦争をして、その戦争後に連邦が成立したんだけど、その後も200年ぐらい定期的に戦争したり外宇宙から機械生命体が侵攻してきたり…」
「随分長い間戦争しているな。そんなに好戦的な連中だらけなのか?」
ロキも驚くレベルらしい。
「まあ色々とな。26世紀にはタイムトラベルのせいで歴史の大規模改変とかが起きたり…なかなかカオスな歴史を歩んできたよ」
「タイムトラベル!?それは凄いじゃないか!」
「歴史的な出来事を観察することが可能になったのは素晴らしい事だ。だが29世紀にとあるバカが1944年の歴史に介入して、ナチス・ドイツがアメリカの征服に成功するという歴史を作りやがった。その結果大規模な過去改変が発生して大変な事になった。そいつのタイムシップを破壊したから全ての改変は消滅してめでたしめでたしとなったわけだ」
「そんな恐ろしい事が?」
「もしこの世界でタイムトラベルが可能になったとしても、絶対に過去を変えないようにするんだな。誰しも変えたい過去を持っているだろう。だがそれを変える事によって改変が発生する。最悪の場合自分が消滅するかもしれないし」
バック・トゥ・ザ・フューチャーがいい例だよな。母親と父親の恋愛に干渉したせいで主人公が消えかかっていたし。
「肝に命じるよ…」
そうこうしているうちにデータがアベンジャーズの本部であるアベンジャーズ・コンパウンドに通信を繋げる。
「アベンジャーズ本部、こちらブルース・バナー。応答してくれ」
『…バナー?本当にバナーなのか!?』
「その声はトニーか!元気か?」
『まあまあってところかな。それよりバナー、君は3年間もどこに行ってたんだ?ロマノフが悲しんでいたぞ』
「色々あってね。でも今は緊急なんだ。今すぐ地球に降りて話をしないといけない。ソーの故郷、アスガルドが木端微塵になって避難民を大量に乗せているんだ。本部の近くに宇宙船を降ろしていいか?」
『そういう事情か。分かった、適当な場所に降ろしてくれ。医療スタッフを準備しておく』
「ありがとう」
今度はトニーと話せるのか!おらすっげぇワクワクしてきたぞ!
「データ、アベンジャーズ本部上空にジャンプしてくれ。今のステイツマンが大気圏突入に耐えれるかわからん」
「了解です、艦長」