アイアンマンことトニー・スタークは腕を組んで空を見上げていた。周りには大勢のスタッフが同じように空を見ていた。念の為に武装チームも待機している。それにしてもバナーから連絡が来た時はとても驚いた。ソコヴィアの戦いで姿を消したもんだからロマノフはとてもがっかりしていた。早く付き合えばいいのに。
しかしあのアスガルドが吹っ飛ぶとは信じられないな。ソーの声が聞こえなかったが無事だろうか。そう簡単にやられるとは思えないけどな。
『ボス、衛星軌道上の2隻の宇宙船に動きがありません。本当に降りてくるのですか?』
トニーをサポートするAI、F.R.I.D.A.Y.からの報告に首を傾げる。
「2隻?バナーが乗ってる船だけじゃないのか?」
『光学観測の結果、大きく派手な宇宙船の上に別の宇宙船がいます。上にいる宇宙船が下の宇宙船をフックのようなもので掴んでいるようです』
「おんぶに抱っこ、というやつか」
その時突如空に青い光が瞬き、トニー達の上空200メートル程の位置に宇宙船が出現した。よく見ると派手な宇宙船はあちこちにダメージを受けている。上にいる宇宙船が曳航してきたのか?いやそうじゃなくて。
「…F.R.I.D.A.Y.、何が起きた?こいつらどこから来たんだ?」
『軌道上からワープしたのではないかと推測します』
「なるほど…」
そしてゆっくりと宇宙船は降下し、トニー達の眼前に着陸した。上にいる宇宙船は着陸せず、後部から小型の降下艇らしき航空機がこっちに向かってきた。クインジェットよりごつい見た目だがデザインは好きだな。それが着陸すると後部からまずバナーが出てきた。
「ブルース!」
「トニー!」
思わず駆け寄ろうとしたが、後ろから出てきた男を見て足が止まった。
「やあ。何年ぶりかな?」
緑色の服を着たロン毛のイケメン、そしてどこか人を馬鹿にするような口調。どう見てもニューヨークで戦ったロキだった。初めて会った時のようにニヤッとした表情を見て、俺は素早く合図を出し武装チームがトニーの周りで銃を構えた。
「おい、どういう事だ?まさか脅されてるんじゃ…」
「違う違う。落ち着いてくれ、色々と積もる話があるんだ。彼は敵じゃない。敵だったらニューヨークの時みたいに殴ったりぶん回してる。だから武器を下ろすように言ってくれ」
「…わかった」
チームに武器を下ろさせ、改めてバナーと抱き合う。
「よく戻ってきてくれた」
「帰りが遅くなってすまない」
「いいんだ。それで他のメンバーを紹介してくれ、ロキ以外」
「冷たいなあ」
ロキはシカトしていかついアスガルド人と握手。
「ヘイムダルだ。アスガルドでは番人を務めていた。王からアベンジャーズの事はよく聞いている。よろしく頼む」
「こちらこそよろしく。ソーはいないみたいだけど大丈夫なのか?」
「問題ない。王は寄り道をしてから地球に来るそうだ」
「なるほど…てかソーは遂にアスガルドの王様になったのか!」
「紆余曲折あったが無事に王になられた。それも長い話があるんだ…」
本当に色々あったみたいだな…次はこれまた鍛えてそうな男。
「はじめまして。ジェームズ・T・カーク、ディスカバリーの艦長だ。アスガルドの避難船受け入れ感謝する」
「トニー・スタークだ、よろしく。あの艦やこの降下艇のデザインは素晴らしいね」
「なかなかイカすだろう?特にあのエンジンが分離してるところが大好きなんだ」
あのぷかぷかしている細長いのがエンジンだって?分離しているのに推進力が伝達するのか…
「どんな技術を使っているのか気になるよ。カークはアスガルドの人間には見えないけどソーの知り合いなのか?」
「知り合ったばかり、というべきかな。この避難船、ステイツマンから発せられた救難信号を受信して、その後色々あってここまで曳航してきたんだ」
「救難信号?平和な話じゃなさそうだな。場所を変えて話をしようか」
「そうしよう。アスガルドの民についてだが、ソーからの伝言でノルウェーのトンスベルグに移住したいとの事だ」
「すぐには難しいだろうが調整しよう。とりあえず俺が持っているリゾートホテルを10軒ちょっと確保してあるから、しばらくはそこで過ごしてもらうよ」
「助かるよ。故郷を失ったばかりだから、今は少しでも休息が必要だ」
本部内の会議室に移動してお互いに状況を説明した。まずアスガルド側の話だが、サノスっていうサイコパスがとんでもない事を仕出かすつもりなのは理解した。6つあるインフィニティ・ストーンのうち、現在3つがこの地球にある。この情報を掴んだら必ずサノスは地球を攻撃するだろう。ただタイミングが最悪すぎる。
「そういえばキャプテンは?えっクリントもいない?じゃあサムはどこ?ま、まさかロマノフも?」
2年前に起きたソコヴィア協定絡みの内乱のせいでアベンジャーズは事実上の瓦解状態。メンバーだったスティーブ、サム、ロマノフ、クリント、ワンダ、ヴィジョンはアベンジャーズを去った。残っているヒーローは俺とローズ、そしてバナーだけになってしまった。その事実を知ったバナーは頭を抱えて愕然としていた。
「たった3年でチームがこんな事になっているなんて…これでは地球を守りきれるかどうか…メンバーに連絡は取れないのかい?」
「一応スティーブに繋がるフリップフォンはある。あるんだが…」
連絡・追跡等も含め、俺は一切のコンタクトをしていない。やろうと思えば出来るが、アベンジャーズの瓦解の原因が自分にもあると考えると躊躇してしまう。しかし全宇宙の危機が迫っている今の状況を自分達だけでは対処できないのも事実。それにワンダと一緒に暮らしているヴィジョンにも連絡をしないといけない。やる事が多すぎるがやるしかない。
「まずはストレンジに連絡しよう。彼がタイム・ストーンを持っている。事情を説明すれば協力してくれるだろう。スティーブには俺から電話する。ワンダとヴィジョンの潜伏場所はF.R.I.D.A.Y.に調査させよう」
「わかった。アメリカ政府には連絡を?」
「放っておく。ロスは相変わらずのヒーロー嫌いだからな。連絡したところで何か出来るとも思えん」
「それだけど政府もそんなに馬鹿じゃないみたいだ」
と言うのはカーク。胸に付いている小さなバッジからホログラムデータが投影されている。あんなサイズでどうやったらそんな機能が…
「ロス国務長官率いる部隊が南から接近中だ。完全武装のVTOLが5機、うち4機は兵士で一杯。光学迷彩を使用しているがディスカバリーのセンサーには丸見えだ」
「まずいな…とりあえず兵士には帰ってもらってロスと話をしないとな」
「それなら俺も協力する。政治家ってのは嫌いだけどいないと困る存在だからな」
外に出るとクインジェットが荒々しく着陸し、あっという間に兵士達に取り囲まれた。ロスの部下なだけあってよく訓練されているみたいだな。ロスもこっちにやってきた。
「スターク!一体どういう事だ!いきなり軍のレーダーが反応したというから来てみたら、こんなでかい宇宙船を許可なく地球に着陸させるとは!」
そこそこブチ切れているロスだが、ロキの姿を見て目をひん剥いている。
「お前は…ニューヨークの!」
「落ち着けロス!彼は敵じゃない。説明するからお前の部下に銃を下ろすように言ってくれ」
「信用できる訳ない!ニューヨークで何人死んだと思っているんだ!奴は戦犯だ!」
激おこなロスの前に両手を上げながらカークが歩み寄る。
「国務長官。過去の事はさておき、彼や他のアスガルド人は全員が避難民だ。貴国は非武装の避難民に武器を向けるような野蛮な国なのか?」
「何だと!?」
「それにだ、ここにいるロキは現在のアスガルド国王であるソーの弟だ。アスガルドと戦争する気がないなら今すぐ武器を下ろす事をおすすめする」
「何を偉そうに…お前は何者だ!?」
「ジェームズ・T・カーク。ただの艦長だよ。とにかく武器をしまってくれ。そんなのを向けられたままじゃ話もできん。そもそもここはスターク・インダストリーズの施設であり、ここにいるスタークの私有地だろ?俺はそんなに法律は詳しくないが、アメリカには『私有地に宇宙船を着陸させてはいけません法』でもあるのか?」
「黙れ!こいつらを連行しろ!」
カークの説得を完全に無視したロス。こいつこんなに石頭だったか?
「仕方ない」
そう言ってカークは指を鳴らす。すると近付いてきた兵士達が一斉に
「カーク、何をしたんだ?」
「ディスカバリーからトラクタービームを発射して全員を掴んだだけだ。死にはしないさ」
そしてカークはロスに向き直り、今度は強めの口調で説得を始めた。
「いいか国務長官。私は32世紀の別世界地球から来た軍人だ。21世紀の武器など一斉通用しない。銃弾やナイフはもちろんNBCR兵器も含めて全てだ。やろうと思えば10分以内に地球そのものを破壊できるだけの力がある。だがそんな事はしない。我々惑星連邦は平和主義の恒星間国家なのだからな。あんたがダイヤ並みの石頭で融通がきかない人間なのはよく分かった。だが今は武器をしまって話を聞け。分かったか?」
「…いいだろう。少し熱くなりすぎた、すまない。部下を降ろしてくれないか?」
「もちろん」
再び指を鳴らすとゆっくりと兵士達とクインジェットが降りてきた。吹っ飛んだ武器も持ち主に返ってくる。まったく32世紀ってのはどんでもない技術のバーゲンセールだな。ヘリキャリアがおもちゃレベルじゃないか。
ロスを連れて会議室に戻り最初から説明した。が、やっぱりロスはロスだった。アベンジャーズの再結集の許可は出さないし、軍が動くからお前らは大人しくしていろと言う始末。そろそろバナーがキレそうでやばい。
「お言葉だが長官」
カークの口調からも怒りが伝わってくる。
「今の時代ではアメリカ軍が世界最強の軍隊であるという事は分かっている。しかし貴国の軍だけでは間違いなく勝てない。というか地球上の全ての軍隊を集結させたとしても無理だろう。サノスにとって核兵器なんかパーティークラッカーと同レベルだ」
「だがソコヴィア協定がある以上勝手に動く事は許されない。国連の委員会承認が無ければ…」
「その委員会とやらを開催するのに何ヶ月かける気だ?サノスはそんなに待ってくれんぞ。例外規定はないのか?」
「抜け穴はない。あったら問題だからな。国連が機能不全にでもならない限り無理だ」
するとカークがとんでもない事を言いだした。
「そうか…なら当面の間は大人しくしているしかないな」
「「「「「えっ」」」」」
俺やバナー、ロキ、ヘイムダルは『こいつ何言ってんだ』という驚きで、ロスは『こいつ素直に言うこと聞くやん』という驚きだったに違いない。
「ならとっとと委員会を招集して活動許可を出してくれ。その間は情報収集に務めるとしよう」
「カーク、それでは…!」
「後ろから撃たれるのは嫌だろう?キャプテン・アメリカのように追い回されながらサノス達と戦うのはリスキーだ」
そう言いながらウインクをしてきた。なるほど、理解した。
「分かった。ロス、あんたの言う通りにするよ。ただアスガルド人をホテルに連れていくのを止めないでくれ。彼らは俺の客人だからな」
「それは認めよう。では私はこれで。何かあったら連絡する」
そう言ってロスは兵士達を連れてクインジェットで帰っていった。それを見届けた後、カークに尋ねる。
「それで?本当のところどうするんだ?」
「さっき国連のメインサーバーをハッキングしてソコヴィア協定の中身を一通り確認した。ロスの言う通りあの協定に抜け穴はないようだ。でも…」
カークはロキみたいにニヤリとした。
「