ランダムアタッカーオプスの後、地球軌道上でリトリビューション、タイガースと合流し、レインズ艦隊長との4者会議が行われた。
レイエス率いるリトリビューションはフェニックスオプスを見事成功させ、SDFの空母をEMPに無力化して試作エアシップを強奪してきた。タイガースは水星近辺にて航行中だったSDFの輸送艦を強奪。艦隊再建に必要不可欠の貴重な金属資源を手に入れた。
「艦隊長、今後の方針はどうしますか?」
『うむ。最初はリトリビューションにはディーコンオプスを実行してもらう予定だったが、それよりも優先してやって欲しい任務がある。バーンウォーターオプスだ』
土星の衛星タイタンに存在する燃料補給所の破壊任務。確かにこっちの方が優先だよな。SDFは大損害を受けてしばらく大人しくなるだろうし。まあ化学兵器も十分危険だけどな。この時代の化学兵器ってどんなやつなのか気になる…前世だとサリンとかVXガスとかノビチョクとかが有名だったな。時代が進んでいるこの世界だともっとえげつない化学兵器が作られてそう。
タイガースは引き続き哨戒任務にあたるとのこと。リトリビューション以外に運用可能な唯一の戦闘艦だが、所詮は駆逐艦だから出来る事は限られる。仕方ないね。
『カーク艦長、SDFは今後どのような行動を起こすと思う?意見を聞きたい』
会議の最後の方でレインズ艦隊長に話を振られたので返事をする。
「火星の復讐に燃えるSDFが取る戦術は2つのはずです。1つは被害の復旧、戦力の回復に務めるべく戦闘を避ける。SDFの勢力下にある土星はもちろん、各地に展開中の部隊から戦力を引き抜いて火星の防備を固めるのではないかと」
『それが道理だな』
「もう1つは、感情に任せてディスカバリーを捜索、その途中で見かけたUNSAの拠点や部隊に無差別攻撃を仕掛けるのではないか、というものです。あのプライドが高そうなコッチの顔にこれでもかと泥を塗りたくった訳ですし、ホームベースである火星が今まで見たことがない船に襲撃された。しかもUNSAではなく惑星連邦という聞いた事がない組織に。相当怒り狂っているでしょう。ただ正直、この線は薄いと思います。イカレポンチなのは分かっていますが、それでもコッチは優秀な人間です。感情に任せて大暴れ、という事はしないでしょう」
コーヒーで喉を潤してから俺は続けた。
「これは私の推測ですが、SDFがジュネーブ及び月に対する奇襲作戦を行うにあたって、連中は大量のスパイを地球に送り込んでいる筈です。AATISの破壊工作を実行したライア中佐もその1人でしょう。優秀な人員を潜入させ、時間をかけてUNSAの情報を入手、最適な作戦を計画し、最高のタイミングでUNSAを殴りつける。ここまでは良かったがイレギュラーが起きた。レイエス艦長率いる精鋭のSCARチーム及び勇敢な海兵隊の活躍によりSDFは撤退、月の奪還も成功した。そして今まで地球上に存在しなかったこのディスカバリー。その後の戦いにおいてもUNSAが勝利を重ねています。戦力の差では負けていても勝機はこちらにあります」
『そう言ってもらえて我々も嬉しいよ。火星から回収したデータの解析も進んでいる。その中にジュネーブ近郊に潜伏中のスパイ及びセーフハウスの場所も確認できた。じきにスパイ網は壊滅するだろう』
その後、ディスカバリーの今後の方針について話し合ったが、遊撃隊として動くのがベストだと進言した。コッチ君が俺の予想以上にブチ切れていた場合、薄い線と言った第2の戦術を取る可能性がある。こっちは3隻しかいないのにそんなことされたら、UNSAが受けるかもしれない被害は重大なものになる。また地球攻撃なんてされたらたまったもんじゃない。なので敢えて俺が太陽系内を堂々と飛び回ることでUNSAから目を逸らせる。要は囮だな。レイエスやフェランは反対していたけどレインズ艦隊長の賛同を得て押し切った。
「それで艦長、ここで一体何をするんですか?」
ヒロセ大尉が不思議に思うのも道理。彼の目の前にあるモニターは太陽系全体を表すもので、リトリビューションとタイガースの現在位置が表示されている。そしてディスカバリーの現在位置は火星と木星の公転軌道の間に存在する小惑星帯である。
「ちょっとした実験をしようと思ってね。俺も初めてやるから成功するかは不明だが」
そう言って俺は船を近くにあった手頃なサイズの小惑星に近付ける。
「データ、トラクタービームの操作はこっちでやる。フックの操作は任せたぞ」
「了解です、艦長」
トラクタービームでゆっくりと小惑星を船の下部に近付ける。それと同時に下部に設置した頑丈なフックが展開する。これは火星での大暴れで大量に稼いだポイントを使用した。
「そのまま…そのまま…よし!捕まえました!」
「よくやった、データ」
2つのフックでディスカバリーは小惑星をがっちりと掴んだ状態だ。
「小惑星をどうするので?まさかこれを火星に一杯投げつけるとか…」
「しないからね!?え、俺の事何だと思ってるの?」
するとコール少佐は目を背ける。え、こっち見てよ。
「控えめに言って…常識が1ミリも通用しない人…ですかね?」
「えぇ…」
…気を取り直して。実験を進めよう。
「それじゃあデータ、胞子ドライブ起動。目標は10キロ先。ブラック警報」
今回の実験はフックで別のものを掴んだまま胞子ドライブが使えるのかどうか、というもの。これが出来ればある作戦を実行に移せるからね。
「準備完了、いつでもどうぞ」
「よし、ジャンプ!」
「データ、どうだ?」
「船体及びフックに異常なし。小惑星は…掴んだままです。内部構造にも変化なし!成功です!」
「よし!!」
これで作戦はうまく行くだろう。みんなニッコリだな!
「よし、じゃみんな行こうか?」
「作戦目標は?」
「SDFから空母を貰おうと思ってね、タダで」
SDFの空母ケルベロスは天王星第5衛星ミランダの小惑星帯にある秘密乾ドックにて修復作業の真っ最中だった。リトリビューションによるフェニックスオプスの影響で、エンジンがEMPでお釈迦になったからだ。更に言うとスケルター隊の損耗も無視できないレベルだった。
幸いドックに予備のエンジンパーツは揃っていたので、予定では増援のスケルター隊が到着してから作業を進める筈だった。しかしディスカバリーの火星攻撃が全てを変えた。24時間体制で修復作業を実施し可及的速やかに火星へ帰投せよ、とのコッチ艦隊長からの命令でクルーは大忙しだ。
優秀なクルーとドック員のおかげで修復作業は佳境を迎えており、このペースで行けば明日には出発できる。ケルベロスの艦長は艦橋でリラックスしていた。試作機を奪われた上、複数のエースパイロットを失った事は大きな損失だ。だがこの借りは必ず返してやる。
その時艦橋に警報音が鳴り響いた。
「何事だ!」
「機関室より報告!メインリアクター及びドロップリアクターが原因不明のオーバーロードを起こしているとのことです!」
「何だと!?」
艦長の顔が真っ青になる。メインリアクターは名前の通り艦全体の動力源だ。それと同じくらい重要なのがドロップリアクターだ。こいつが無いと光速を超えたジャンプが出来ない。もし爆発を起こせば間違いなくケルベロスはドック諸共木っ端微塵だ。
「何とかしろ!」
「駄目です!完全に制御不能です!」
「吹き飛ぶまでどれくらいだ?」
「このままでは…あと15分もないかと!」
「最悪だ、くそったれ!こちら艦長!総員退艦せよ!繰り返す、総員退艦!リアクターが吹っ飛ぶぞ!通信士官、火星に緊急連絡を!救助を要請するんだ!あと乾ドック指揮所に連絡して作業員を退避させろと伝えろ!」
「もうやっています!艦長も急いで下さい!」
艦内は大混乱に陥るも、皆プロの軍人らしく命令に従い素早く退艦を実施した。15分程の時間しかなかったが、なんとか時間までに全員の退艦が完了した。爆発から逃れるべく全力で乾ドックから離れる。
「こんな事で艦を失うとは…恥ずかしくて死にそうだ!艦隊長になんとお詫びすればよいか…」
「艦長…」
避難するシャトルの中で艦長は悔しそうに壁を叩いていた。
「もう間もなくかと」
「そうか…」
気力を振り絞って艦長はケルベロスの最期を見ようとモニターに目を向ける。しばらくすると突然青白い光と共に
「………あ?」
「えっ?」
避難したクルーや作業員はしばらくフリーズしていたが、乾ドックそのものは残っていたので大急ぎで戻った。ドックへの被害はなかったものの、ケルベロスは忽然と姿を消してしまった。
「なんでぇ?」
艦長の疑問に答える事が出来る者は誰もいなかった。
ちなみにケルベロス消失事件を聞いたコッチは反射的に隣にいたロボットを素手で殴り壊した。
「艦長、弾薬等の物資補給が完了しました。いつでも行けます」
「了解だ、ゲイター」
リトリビューションは補給を終えて地球から土星へ、すなわちバーンウォーターオプスを実行するところだった。そこにディスカバリーがジャンプしてきた。それを見ていたレイエスは、32世紀の宇宙船は全部あんな感じのデザインになるのだろうか、そもそもどんな世界になっているのだろうかと少し考えた。
しかしディスカバリーの真下にある物を見て、そんな考えは銀河の果てまで吹き飛んだ。いつの間にかディスカバリーの下部にでかいフックがあり、その先にはSDFの大型空母がぶら下がっていた。よく見たらこの前天王星で無力化したケルベロスじゃないかあれ?
「通信士官、ディスカバリーに繋いでくれ」
「了解です、どうぞ」
「こちらリトリビューション。ディスカバリー、応答せよ」
『こちらディスカバリー。驚かせてすまない。こいつを持ってくるのに苦労したよ』
持ってくる?戦闘して鹵獲したということか?ただ見た感じケルベロスに損傷は見当たらないな…
「カーク艦長、それは…ケルベロスですよね?」
『その通り。俺の知らない間にSDFが天王星に店を構えていてね。覗きに行ったらEMPでエンジンをやられた中古空母を格安で売りに出していたんだよ。これはお得だと思って買おうとしたんだが、いざ支払いって時に財布を忘れた事に気が付いてな。うっかりしていたよ。で、どうしても欲しかったから万引きしてきた』
真顔でそんな事を言うもんだからリトリビューションの艦橋にいた全員が爆笑した。空母を万引きってパワーワードすぎる。こんなの笑うなと言う方が無理だ。
「ち、ちなみに乗組員はどうなったんです?」
『それなら大丈夫だ。火星攻撃時にそちらが用意したウイルスを使用して、ケルベロスのリアクターが吹き飛ぶという偽のデータを表示させたんだ。連中慌てて船から逃げていったよ。艦内のロボットも停止済みでシステムは完全に掌握している。軽く調べたがEMPでフライになったエンジンもほとんど修復されているから、色を塗り替えてUNSAの旗を掲げれば問題ないと思う。どう使うかはレインズ艦隊長次第だがね』
その後ケルベロスはカーク艦長の言った通り、UNSAカラーに塗り替えられて正式に運用される事になった。SDFの他の空母と異なり、ケルベロスには強力なレールガンが搭載されているので艦隊戦でも活躍してくれそうだ。ただしばらくは乗組員の訓練が必要なので前線に出るには時間がかかるだろう。あと艦名はケルベロスからヘラクレスに変更となった。ギリシア神話においてヘラクレスがケルベロスを捕えて地上に連れ出した話があるそうだ。
「よしゲイター、土星へ行こう。SDFから燃料を奪い取ってやろう」
「了解です、艦長!」