万引きしたケルベロスをUNSAに渡した後、俺は遊撃隊としてどう動くか考えていた。本当なら冥王星まで行ってディープエクセキュートオプスをやろうと思っていた。なんか潜入任務ってかっこいいし。でもコッチのアホが、
『指導者会議などしている暇があったらディスカバリーを探せ!』
みたいな命令を出したのかは知らんが、とにかく会議は中止になったっぽい。くそコッチめ。
遊撃隊の役割はシンプルだ。本隊であるUNSA艦隊とは別に行動し、ターゲットを選ばず状況に応じて戦闘目的を変更する。ならどうするか。
「嫌がらせに徹するとしよう」
「具体的には?」
「そうだな…シンクレア大尉?」
「は、はい!」
急に話を振られてびっくりしているシンクレア大尉。コール少佐より胸でかいよな…
「例えば君が事故にあって入院していたとする。早く怪我を治して職場に復帰する為に、毎日リハビリも頑張っている。そんな時いきなり病室に君が一番嫌いな人間が、アポ無しで、しかも毎日無駄話をするだけの為にやってきたらどんな気分になる?」
「それはとてもストレスが溜まりますね、宇宙空間に生身で放り出したいレベルで」
「だよね?それと同じ事をコッチにしてやろうかなと」
至るところに艦艇の残骸が浮遊し、吹き飛んだフォボスとデイモスの破片が漂う火星宙域。軌道上のタルシス造船所はもちろん、火星地表の造船所も全力で新造艦を建造している。コッチ艦隊長の命令で火星は総動員体制で被害の復旧に努めているのだ。
衛星破壊の影響で火星地表にも残骸が降り注いだが、高性能防空システムにより効率的に破壊された為、地表の被害は少ないものとなった。造船所とメインフレームへのウイルス攻撃も何とか復旧が完了した。
タルシス造船所のコマンドセンターで造船所所長と副官が仕事に追われていた。彼らはこの造船所の責任者であると同時に、火星宙域の防衛責任者でもあるのだ。そのせいで普段の数倍の仕事に対処する羽目になった。
「これであと少しだな。一息入れるか?」
「そうですね。これが片付けば家に帰れますよ。あのまずいレーションにはうんざりです」
「まったくだ。嫁の作った料理に叶うものはないからな」
2人はちょっぴりウイスキーを入れたコーヒーをチビチビ飲みながら窓の外を眺める。目の前を冥王星から転属してきた駆逐艦が警戒任務に出撃するのが見える。
「それにしてもあの敵の船、ディスカバリーはとんでもないやつだったな」
「UNSAではなく別の所属だと言ってましたね。確か…惑星連邦でしたか?聞いたことがないです組織名です」
「私もだよ。だが今までのUNSA艦艇とはデザインはもちろん武装も防御も全てが違う。本当に別組織なのかもしれんな」
「では惑星連邦は我々の戦争にUNSA側で参戦してきたと?」
「連中から正式発表はない。だが…」
そう言って所長はモニターに画像を表示した。3隻の艦艇が映っている。
「これは地球にいる我々のスパイが撮影したものだ。地球軌道上にてリトリビューション、タイガース、そしてディスカバリーが横並びになって航行しているのを確認している」
「そうなりますと我々はかなり苦しい立場になりますね。UNSAの2隻だけならまだ何とかなるでしょうけど、1隻で火星をここまで滅茶苦茶に出来る船が敵になるとは…」
「まあな。だがまだ負けが決まっているわけではない。我が艦隊は数を大きく減らしたが直に回復するだろう。それにここだけの話だが…」
所長は声を落として副官だけに聞こえるように言った。
「
「それはっ…本当ですか?確かに性能は証明済みですけど、コストやらなんやらの問題で同型艦製造計画はなかったはずでは?」
「俺も今朝聞いたんだが本当だ。元々は評議会が司令部に内緒でこっそり建造していたらしい。自分達の避難船としてな。だが火星攻撃を受けて評議会が情報を開示した、って話だ。司令部の友人に聞いた話だと1隻はここ、もう1隻はコッチ艦隊長率いる第8軌道艦隊に配属されるらしい」
所長は知らない事だが、評議会は司令部はもちろんSDF内部にも情報が漏れる事を防ぐ為に徹底的な情報統制を実行していた。極秘造船所には外部との通信システムがない、完全なスタンドアローンになっていた。ネットワークに繋がってないからウイルス感染や情報漏えいが生じる恐れはほぼ皆無だ。評議会直属の部隊が施設を管理している為、セキュリティーは万全だった。故に司令部は気付く事が出来なかった。
「久々に聞いた素晴らしいニュースですね!」
「しかもオリンパス・モンスに搭載されているF-SPAR、あれの改良型が搭載されているそうだ。若干デカくなったみたいだがエネルギーチャージにかかる時間が減った上、威力も20%ぐらい上がったそうだ。これであのディスカバリーなんか一捻りだ」
そんな事を話しながら2人で窓の外を見ていた時だった。いきなり目の前にあのディスカバリーが出現した。
「………んっ?」
「………あれ?」
2人はお互いの顔を見合わせ、もう一度窓の外を見る。やはりディスカバリーがいる。酔いが回った訳ではなさそうだ。
「警報を鳴らせ!総員戦闘配置!!」
「稼働する全ての対空兵器を敵艦に向けろ!」
「どこから来やがった?レーダーには何も反応がなかったぞ!」
「哨戒中のスケルター2個小隊及び駆逐艦2隻がこちらに来ます!到着まであと2分!」
するとディスカバリーから全周波数帯にて通信が入ってきた。
『こちらUSSディスカバリー、艦長のカークだ。コッチ艦隊長はいないのか?』
「ど、どうします?返事します?」
「しないと撃たれるぞ?俺がやろう」
所長はパネルを操作して返事をする事に。
「こちらタルシス造船所コマンドセンターだ。艦隊長はいない」
『どこに行ったんだ?』
「軍機だ。敵に言うわけ無いだろう」
『そりゃそうか。じゃまた30分後に来るわ』
そう言い残し、ディスカバリーは艦全体がきりもみ回転して瞬間移動していった。
「え…それだけ?攻撃しないの?何の用で来たんだよ!ていうかもう来んなよ!しかもまた消えたし!なんでなんでなんで!?」
「落ち着いて下さい所長!」
30分後。本当に来た。
『ちわーす、カークでーす。おっと爆竹みたいじゃんそれ。で、コッチ君いる?え、まだ帰ってきてないの?わかった、じゃーね』
前回と同じ場所に出てくると予想して爆雷を設置していたが全く効果はなかった。
「クソッ!」
「駄目でしたか…もっと置きます?」
「やめとけ。置きすぎるとコマンドセンターも吹っ飛ぶぞ」
「確かに…F-SPARここに配備して欲しいですね」
「いいなそれ。でもエネルギー足りるか?」
「あー…難しいかもですね」
また30分後。なんかキレてる。
『おいコッチ!出てこいこの野郎!!居留守使ってんじゃねえぞ!そこにいるのはわかってんだ!!』
ゴオンッ!!ゴオンッ!!
「いないっつってんだろ!てか叩くのやめろおおおおお!!!!」
ディスカバリーは分離型ワープナセルをコマンドセンターの上部にガンガンぶつけていた。15回ぐらいぶつけてから帰った。大した被害はなかったが造船所にいた全員が恐怖した。あいつ頭おかしいだろ!
この後更に4回来た。そのせいで造船所にいる人間は全員ぐったりしていた。駆逐艦による至近距離からの攻撃も効かず、高速で体当たりしたA-JAKは文字通り砕け散った。だがディスカバリーは一切反撃せず、口を開けばコッチを出せの一点張りだった。
『なあ、ちょっと聞きたいんだけどいい?』
今までとは違い、少し申し訳無さそうな感じの声だったので、所長は返事をする事に。
「なんだ?」
『あのさ、もしかしてだけど…今日コッチ帰ってこない感じ?』
「……………」
『いや、ほら、3時間待ってあげたんだけど全然来ないしさ、ね!ひょっとして仕事忙しいのかなーなんて、思ったり思わなかったり…』
所長は疲れていた。本能的に言おうとした。あともう少しで帰ってくるぞ、と。しかし彼はプロの軍人だった。
「…軍機を言う訳がないだろう。用がそれだけなら帰ってくれ」
『そっか…じゃあ今日はこれぐらいにしておくわ。すまんな、時間取らせてしまって。じゃあ
「二度と来んなクソ野郎!!」
こうして所長達の長い一日は終わった。帰投したコッチ艦隊長に詳細を報告すると、
『この距離でも抜けないのか…駆逐艦とはいえそれなりに火力は………A-JAKの乗員は?…無線操縦…ブースターも付けて加速したのに駄目か………所長、このカークという男だが、具体的に私に会って何をしたいのか、言っていたか?』
「いいえ、艦隊長。こちらからも聞きましたし、必要なら伝言も受けると言ったのですが、直接言うから良いと…」
『そうか分かった。所長、限られた戦力で被害を出さずに良く耐えてくれた。苦労をかけてすまない。だがあと5日で戦局は大きく変わるだろう』
「オリンパス・モンスの同型艦ですね?」
『その通り。UNSAもこの事は気付いていない。私が知ったのがこの前だったからな。評議会はもっと我々を信用してほしいものだ…それはともかく、君の提出した造船所にF-SPARを設置する案だが私も賛成だ。エネルギーの問題については地上から軌道エレベーター経由で送れば良い』
だが、とコッチは顔をしかめる。
『残念ながらF-SPARの現物がない。2番艦、3番艦への資材が最優先で回されているから新しく作るにしても時間がかかる。最低でも1ヶ月はかかってしまうだろう』
「そうですか…無い物ねだりは出来ませんな。今あるもので対処しましょう」
『それしかあるまい。だが明日また来ると言っていたんだろう?どう対処する?』
「現有戦力でははっきり言って勝てません。場所が場所だけに攻撃手段が限られますから。かと言って相手の通信を無視した場合攻撃してくるかもしれません。明日は地上攻撃用の大型貫通爆弾等を敵艦直上より投射する予定です。あとは行き当たりばったりになるかと…」
『なるほど…せめて造船所が動かせれば良かったのだが設計上不可能だからな』
そして翌日。所長は叫んだ。
「来ないのかよっ!!!」
「艦長、今日は行かないんですか?」
「今日の火星急行はやめておこうかな」
火星急行とは昨日の作戦の事だ。ネーミングはもちろん東京急行から取った。太平洋戦争時の鼠輸送の事ではなく、冷戦時代から旧ソ連空軍・ロシア空軍の戦略爆撃機、哨戒機、偵察機、電子戦機等が日本の周辺を飛行し、東京に近づく飛行コースで哨戒・偵察を行なうやつの方ね。
「行くって言ったんじゃ?」
「だから行かない。すると連中は肩透かしを食らう。待ち構えているのにあいつなんで来ないんだよおい、って感じでイラッとしない?」
「艦長、性格悪いですね(なるほど、それは確かに)」
「考えている事と言いたい事が逆転してない、コール少佐!?」