ポジティブ焦凍くん 作:フレイザードさん
個性という能力をもった人々がいる世界……
そんなあるところに轟焦凍くん(3)という男の子がいました。
焦凍くんはお父さんであるエンデヴァーから炎の個性を、お母さんからは氷の個性を受け継いだことで大層期待され育てられました。
お父さんからは常に「
お父さんであるエンデヴァーはヒーローというお仕事をしていて、よく「襲い掛かる理不尽を覆し、苦境を乗り越えてこそヒーローだ。焦凍も私を超えてナンバー1ヒーローとなれ」とまるで催眠術のように繰り返し語りました。
5歳の頃にお母さんに突然お湯をかけられる事件が起こりますが、焦凍くんは「なるほど、これが襲ってくる理不尽というやつか…お母さんも協力して教えてくれてるんだな」と前向きに事を考えていましたが、その日からお母さんは入院することになってしまいました。
6歳になった焦凍くんですが、父親であるエンデヴァーの激しい訓練を熟していけどもエンデヴァーには勝てた事はありません。拙い炎と氷で現ナンバー2ヒーローであるエンデヴァーに勝てる道理はないのですが、焦凍くんはそう思っていませんでした。
そんなある日、いちごソフトクリームを食べていた焦凍くんに天啓が下りてきました。
(イチゴとソフトクリームは別々でも美味しいのに、合わせて食べたら最強じゃん。つまり炎と氷のパワーを合わせたら最強なんじゃない?)
と、いうことでした。
そこから試行錯誤の日々が始まり、ついに焦凍くん(8)は自身の体内で炎の力と氷の力を混ぜ合わせる事に成功します。
早速試してみようと家の近くの公園へ向かい、胸の前で手を組み合わせ力を溜めた状態で弓を構えるような姿勢を取り、石でできた彫像に向けて一気に力を開放した焦凍くん。放った光が消えたところには……文字通り何もありませんでした。びっくりした焦凍くんは慌ててお家へ帰りました。
ある日の夜…「
部屋にいたエンデヴァーは突然強烈な悪寒に襲われ、気が付けば部屋の窓から外に飛び出していました。そしてそのすぐ後に自分の部屋の方向に視線を向ければ、強烈な光が通り過ぎたと共に、まるでくり抜いたかのように壁や屋根の一部が消えていました。破片などもなく、まるで消しゴムで消したかのようにです。
ヴィランの攻撃か!?と思いながらその方向へと顔を向けてみると、キャッキャ笑いながらこっちを見ている焦凍くんと目が合いました。なぜこんな事をしたのか…エンデヴァーが怒りながら尋ねると、焦凍くんは「すごいねお父さん!これがヒーローなんだね!」と笑顔で見上げています。
エンデヴァーは顔面蒼白になり己の過ちを悟りますが、そんな事は焦凍くんは知った事ではありません。どれだけ口で説明しようと、あるいは暴力とも言える折檻をしようと、焦凍くんはエンデヴァーから襲いかかる理不尽に屈しませんでした。
そんなある日、町へと出かけた焦凍くんはヴィランの犯罪現場に出くわす事になります。そこで遂にナンバー1ヒーローであるオールマイトと出会う事になりました。ヴィランを捕まえ、颯爽と去っていこうとするオールマイト。そんな空へと飛び出したオールマイトに向かって、一条のごん太ビームが襲いかかりました。
オールマイトはすぐにその攻撃に反応し防御しようとしますが、やってくるビームを見てなぜか身体が回避を選んでいました。そして攻撃の元を見てみると、他に誰もいない公園でプスプスと小さな煙をたてた小さな子どもがエア弓道のような姿勢でこちらを見ていました。
「少年、どうして私に攻撃してきたんだい?」
「お父さんからオールマイトを超えろって言われてるんだ。勝負してよオールマイト!」
オールマイトがその少年のところへと向かい、理由を聞いてみると自身を超えろと言われているという返答……よくわからなかったオールマイトは詳しく聞くことにし、だんだんと頭が痛くなるような気分になってきました。
話を聞いていけばいくほどエンデヴァーへ脳内で罵声を浴びせかけるオールマイト。まさかさっきのビームが対自分のための必殺技だとは思いませんでした。そして「まだ威力が足りないのかな?」と言いながらさっきの技を再度実演してくれるのですが、そこでオールマイトは先程その攻撃を避けたのが正しい判断だったと実感します。
なぜか公園に置かれていたオールマイトの石像に向かって技を放つのを見ていたのですが、そのビームが通り過ぎた後には何もありませんでした。砕くのでもなく、溶けるのでもなく、まさに消滅と言っていい表現しかできない結果にオールマイトは口を引き攣らせながら何度もこの技は人に向かって使ってはいけないと言い含めました。
「轟少年、君が使ったコレはとても危険なものだ。人に向かって撃ってはいけないよ」
「大丈夫だよ。(普通の)人には撃ったことないから!」
聞けばこの技を使ったのはオールマイトとエンデヴァーだけという事です。オールマイトの中で「ざまぁ」という気持ちと「どんな教育をしているんだ」という気持ちが沸き起こりましたが、もちろん顔には出しません。
その日から焦凍くんとオールマイトの歪な関係は始まりました。ヴィランあるところにオールマイトあり、そしてオールマイトあるところに焦凍くんあり…ただし生活圏に限る。
1度もオールマイトに攻撃を当てることができず、そしてエンデヴァーに何度も叩きのめされながらも日々力をつけていく焦凍くん…己の必殺技を更に必殺にすべく改良を重ねていき、いくつかの派生技も編みだすことに成功します。
14歳の中学2年生になった焦凍くんは、そういえば自分の必殺技に名前を付けていない事を思い出しました。学校の成績も良く、博学な焦凍くんは炎の力のほうにメギドの炎という年齢相応な名をつけ、氷の力のほうは優しいお姉ちゃんから昔言われた「氷がキラキラしててオーロラみたいね」というところからオーロラにしました。
メギドとオーロラを合わせた必殺技……焦凍くんはこれにメドローアと名付けることにしました。
弓のように構えて全力で放出するメドローア(ごん太ビーム)、指先から範囲ではなく速さを追求したメドローア(指)、手のひらから距離は短いが照射する事で広範囲となったメドローア(掌)というのが今の焦凍くんの切り札です。
そんな切り札を更に強力なものにすべく炎と氷の力も磨いていたある日の夕方、エンデヴァーから今後の進路について話がありました。
「焦凍、高校は雄英から話が来ているそうだ。そこで倫理についてしっかりと学んでこい」
なぜヒーローについてではなく倫理なのか…焦凍くんは理解できませんでしたが、特に否定する理由もなかったので承諾しておくことにしました。その裏ではオールマイトから苦情をもらっていたり、ヴィランになるとは思えないが余波でうっかり巻き込まれたりしたらシャレにならんといういざこざがあったのは焦凍くんにはわからない事です。
後日オールマイトに出会った際に雄英へ進学すると伝えると、どうやら焦凍くんが入学する時期にオールマイトも教員として雄英高校に勤めるという事でした。なるほど、これでいつでもオールマイトと戦えると喜ぶ焦凍くん…そんな姿を冷や汗を流しながら眺めるオールマイトでした。
雄英高校の推薦入試は焦凍くんにとって簡単なものでした。ついでに一般入試で使用されるという仮想ヴィランである巨大ロボットとも戦わせてもらえたのですが、メドローア一発で終わってしまい何の感慨も沸かないまま帰路に着きました。
焦凍くんにとってはその程度の認識でしたが、それを見ていた現役ヒーローである教員たちにとっては衝撃的な光景でした。エンデヴァーの息子という肩書はあるものの、まだまだ中学生だと侮っていたにも関わらず一瞬で巨大ロボを倒すというのは信じられないものです。
しかも巨大ロボが目の前にいるのに焦る様子もなく、弓を構える姿勢になったと思ったら突如放たれたビーム……そしてその先にあるのは上半身が無くなったロボ。残された下半身は綺麗にくり抜かれたかのような有り様で、どうやってこの結果になったのかまったくわかりません。様々な検証の結果、あれは消滅させるビームであるという結論になりました。それだけでも驚愕だったのですが、何よりも驚いたのはそれが対オールマイトのための技だった事です。
オールマイト本人から事情は聞かされており、その場にいた教員たち誰もがエンデヴァーに対して怨嗟の声をあげていたのは考えるまでもないことです。
理不尽を覆すのがヒーロー=ヒーローなら突然の攻撃にも対処できて当然。という図式を焦凍くんが持っている事を知っているオールマイトはその旨を説明し、更にエンデヴァーからも倫理についてよーく教育してほしいという懇願にも似た要望が届いているという事を同席していた根津校長からも聞かされます。
こうして自分たちもいつあの消滅ビームが飛んでくるかわからないという状況の中、焦凍くんの真っ当ヒーロー化教育が始まることになりました。
そんな事を知らない焦凍くんは、現役ヒーローが教員として多数在籍する高校生活に想いを馳せていました。世間知らずな焦凍くんにとって、身近なヒーローといえばオールマイトとエンデヴァーしか知りません。
そしてその二人のヒーローをどちらも焦凍くんがまだ倒せていないため、焦凍くんの中のヒーローの基準がこの二人になっていたのです。
果たして雄英高校の教師たちは無事に焦凍くんに倫理を教えることができるのでしょうか。