ポジティブ焦凍くん 作:フレイザードさん
雄英高校体育祭まであとわずか……
クラスメイトたちはとても盛り上がっていました。焦凍くんも内心ではウキウキしており、当日は持てる力の全てを出してみせようと意気込んでいました。家でも体育祭がある事と意気込みを伝えたのですが、エンデヴァーは仕事で来られないとの事です。
「私は急用(予定)があるから行けないが、教師たちによろしく伝えておいてくれ」
「ああ、わかった」
「あとお前にとっては意味の薄い行事だからそこまで張り切る必要はないぞ。余力を残して戦うのもヒーローには必要な事だ」
「…なるほど」
今のところ学校では全力で戦ったりした事のない焦凍くんですが、エンデヴァーからそこまで言われては仕方ないと体育祭を適度に戦う事に決めました。エンデヴァーとしてはあの消滅ビームさえ使わなければそれで良かったのですが、きちんと伝えないエンデヴァーが悪いとしか言い様がありません。
モチベーションが著しく下落した焦凍くんですが、つまりクラスメイトを鼓舞し連帯感を深める良い機会だと思うことにしました。
クラスメイトとは違う意味で頑張る事を決め登校した焦凍くん。とはいえ本日は通常通りの授業だったので何も問題はなかったのですが……クラスメイトたちはそれぞれ仲良くなった者たちが寄り集まったりしていますが、未だに友達のいない焦凍くんはボケーっと外を眺めたりしています。
すると教室の外でガヤガヤと小競り合いが聞こえてきました。A組に対し宣戦布告がどうこうのいう事を言っている生徒たちが焦凍くんの目に映りました。なるほど、そういう事なら頑張らないとな……などと考えている焦凍くん。体育祭が楽しみになってきました。
なおエンデヴァーからの伝言はきちんと焦凍くんから教師陣へと伝わっており、教師たちが「あの野郎、逃げやがった…」とこぼしていたのは本人たち以外誰も知らない事です。教師たちはエンデヴァーの「よろしく」が「やらかさないようによろしく」である事を正確に汲み取っており、短い言葉で正確に言葉の意味を汲み取るのはプロヒーローの必須技能なのかもしれません。
生徒登校時の巡回などもまだ継続されており、ヒーローたちの安全に対する意識の高さは素晴らしいものです。元凶である焦凍くんはそんな出来事は記憶の彼方にあり、既に興味も失っているのですが毎朝巡回するヒーローを見て近隣の評価は上がっているので結果オーライなのでした。
…
……
………
そして体育祭は無事に終了し、焦凍くんは話があるという事で相澤先生に呼び出されています。焦凍くんが部屋に入ると、そこには校長先生をはじめとしてオールマイトやプレゼントマイクにミッドナイトまでいました。
「さて、俺たちが言いたいことはわかっているな?」
呼び出した当事者である相澤先生がそう切り出しますが、焦凍くんに心当たりはありません。てっきり学年1位おめでとうとかそういう話かと思っていたので頭の中にはクエスチョンマークが浮かんでいました。
するとプレゼントマイクが室内にあったテレビの電源を入れます。そこには本日あったばかりの体育祭の映像が流れていました。この雄英高校の体育祭はテレビ中継されていたこともあり、その放送された録画を見返しながら言いたい事があるようです。
「まず第一競技からだ」
第一競技と言えば障害物競走です。この時に焦凍くんがやった事と言えば『スタート直前に全員の下半身を氷漬けにした』くらいのものです。前に並んでいたヒーロー科には腰まで、後ろのほうにいたサポート科や経営科などには足首までといった感じでなるべく混戦になるように焦凍くんが運営に配慮した優しさなのです。
緑谷くんのような小さい子は胸まで凍っていたような気もしないでもないですが、そこはプルス・ウルトラの精神です。
「ヒーローには困難を、他の生徒たちにも配慮した良い采配だったでしょう?」
「誰もそんな事は頼んでいない」
そのおかげでみんなが勝利を求めて必死に頑張る事になったのですが、どうやら先生たちはあまり良く思っていないようです。
ちなみに焦凍くんは全員を凍らせた後さっさと飛び去っていっています。エンデヴァーにできる事を焦凍くんができないはずもなく、身体から炎を噴射し猛スピードで空を駆けることで第1関門を通り抜け、第2関門を素通りし第3関門を過ぎるのに5分もかかりませんでした。
「最初だけならまだ良かったわ。その後のアレは何よ?」
ミッドナイトから出てきた言葉から察するに後半がダメだったようです。
第3関門である地雷エリアを抜けたあたりで地上に降り、他の生徒たちが追いついてくるのを待っていたのがいけなかったのでしょうか。
それとも生徒たちが見えてきた時点で地雷エリアの前に巨大な炎の壁を作り出し、勇気を振り絞って炎を越えた先で地雷に引っかかり阿鼻叫喚となったのがいけなかったのでしょうか。
答えは全部なのですが、実況のプレゼントマイクも盛り上げていたし、観客たちも派手な演出に喜んでくれていたようなので焦凍くんは褒められると思っていただけに予想外な表情です。
そんな焦凍くんの様子に頭痛が痛いといった教師たちですが、まだまだ話は終わっていません。
テレビには次の種目である騎馬戦の映像が映っています。障害物競走が予想外に混戦だったため、普通科やサポート科の生徒たちも混じってキャイキャイとハチマキを取り合っています。
ちなみに焦凍くんは爆豪くんを最初に誘いました。理由は自分と同じで友達がいなさそうだったからです。その後八百万さんという女の子から声をかけられたのですが、焦凍くんは彼女の事をゲテモノ好きの悪食と認識しており、八百万さんがその誤解を解くために苦労したという一幕もありました。
誤解の原因は八百万さんの個性を知らず、また「なんでも作り出せる」という便利な個性があるとも思っていないという先入観があった事と、いろんな物を出しているのを見ていたせいで「食べたものを身体の中で組み立てて出す個性かな?」と勘違いしていた事でした。そんな某EAT-MANのような個性だと思っていたため、八百万さんは無機物を食べる悪食だと思っていたのです。
八百万さんの個性が創造という物を作り出す個性だと教えてもらった焦凍くんは八百万さんと、あと彼女と一緒にきた葉隠さんと組むことになります。葉隠さんが言うには「USJでヴィランと一緒に凍らされた貸しがあるから決勝戦に連れてけ」という事でした。身に覚えのなかった焦凍くんですが、透明人間である葉隠さんを認識したのが今なので仕方がない事なのです。
ここまでだけであればただの騎馬戦なのですが、開始の合図と共になぜか参加者全員が焦凍くんたちの騎馬へと顔を向けていました。これは恐らく障害物競走で1位となった爆豪くんのハチマキに1000万ポイントという得点が割り振られているのが原因なのでしょう。また凍らされるんじゃないかという不安からの表情ではないはずです。
とはいえ騎馬戦自体は爆豪くんがピョンピョン跳ねながら勝手に戦っていたので焦凍くんたちは特にやることもなく突っ立っていました。
「みんながんばっていますね」
「どこ目線なんだい君は……」
普通に思った事を言っただけなんですが、オールマイトから突っ込まれてしまいました。騎馬戦については本当に何もしていなかったのでクラスメイト目線のつもりだったのですが、もう少し感想を言ったほうが良かったのでしょうか。
「ここからだよ」
校長先生が続きを促すと、画面には最終種目である対人戦が映し出されていました。焦凍くんの相手は普通科の心操くんという生徒です。焦凍くんも今日対戦したばかりの相手の事はきちんと覚えています。
『お前、エンデヴァーの息子なんだってな。いいよな恵まれた環境でのうのうとヒーロー目指せるんだからな』
そんな声が映像から流れてきます。この時焦凍くんは「そういえば下剋上を宣言してたのコイツだっけ…」と心操くんを見て思い出しました。彼も普通科では満足せずプルス・ウルトラの精神を宿しているのでしょう。
そう思った焦凍くんはきっと乗り越えられると信じて……開始の合図と共に心操くんを火だるまにしました。
「アアアアアァァァァァァァァ!!!!!アヅイッ!ガアアアアアアアアアァァァァァ!!!」
「ストップよ!!もう止めなさい!!」
ミッドナイトが慌てて止めに入り、コンクリートのステージを転げ回る心操くんの消火作業を行っています。会場はドン引きしていますが、焦凍くんにとっては小学生の時にはエンデヴァーとの特訓で経験している事であり、普通科という事も含めて考慮しているつもりでした。
「これを見て何か言うことがあるか?」
「彼にヒーロー科はまだ早いかもしれませんね」
「ヒーロー科全員に謝れ」
相澤先生はヒーロー科の生徒を見縊っているようです。焦凍くんからすれば、クラスメイトたちはあの程度の事など簡単に乗り越えるだろうと思っており、また乗り越えられなければヒーローの卵を名乗る資格すらないと考えていました。焦凍くんのヒーローの基準がオールマイトやエンデヴァーである以上、その卵たちに課せられる壁は察して余りある高さなのでしょう。
心操くんが消火され退場していき、勝ち残った生徒たちが次々と戦っている様子を見ながらそんな事を考えていました。
そんな焦凍くんの次の対戦相手はクラスメイトの緑谷くんです。彼は自分を痛めつけるのが大好きで、何度も自傷を繰り返しながら授業を受けていたのを焦凍くんは見ています。オールマイトが他の生徒に比べて気にかけているのは周知の事実ですし、焦凍くんも何度かオールマイトに勝負の誘いをした時に緑谷くんがどうこうという理由で断られた事もありました。
気にかける事それ自体は別に構わないのですが、せっかく編み出した対オールマイトのための必殺技を試す事ができないため、焦凍くんの中で緑谷くんは好感度の低い人物だったのです。
『轟くん…君は僕なんかよりもずっとずっと強い。でも…僕は負けないっ!』
何やら覚悟を決めたような表情の緑谷くんが開始の合図と同時に飛び出していきます。しかし残念な事に相手は焦凍くんです。雄英高校に入学するまで、焦凍くんが相手にしてきたのはオールマイトとエンデヴァーなのですから、個性を持て余して自傷しまくっている緑谷くんが勝てる道理はありません。更に緑谷くんがどれだけオールマイトと似たような攻撃をしようと、本家の攻撃を味わっている焦凍くんからすれば避けるのも逸らすのも苦労しませんでした。
それでも最後まで諦めずに立ち向かってくる様子を見て「そのマゾっ気がなくなればもっとマシになるのに…」と、焦凍くんは緑谷くんの性癖を残念に思っていました。
「んー!轟少年も緑谷少年も良いファイトだったね!」
「緑谷が自分を痛めつけるのが好きなマゾじゃなかったらもっと良かったかもしれませんね」
「違うよっ!緑谷少年はそんなんじゃないからね!?」
どう見ても自傷して自分で乗り越えて悦ってるようにしか見えなかった焦凍くん。オールマイトは否定していますが、お互いの性癖を語り合うような仲なのでしょうか。そんなが知られればクラスメイトの芦戸さんあたりが騒がしそうな気がします。
オールマイトは自傷とかしないからマゾじゃないだろうし…などと余計な事を考えていた焦凍くん。テレビではついに決勝の場面が映っています。プレゼントマイクの派手な実況と共に、焦凍くんと爆豪くんが舞台へと上がってきました。
『ここまで来たら四の五の関係ねェ!!ぶっ殺す!!』
爆発を駆使して勢いよく飛び出す爆豪くん。きっと爆豪くんの戦闘能力は1年生の中でも屈指のものでしょう。焦凍くんの炎や氷も器用に爆発で切り返しながら避けるだけでも今までの生徒たちと違うことがわかります。そして何度目かの衝突の後、爆豪くんが不意に舞台に降り立ちました。
『テメェ!本気出しやがれっ!!』
焦凍くんが本気ではない事に憤る爆豪くん。それなりに派手に戦っているため盛り上がっているしこのままでいいんじゃね?と思っている焦凍くん。2人の思惑はまったく一致しません。爆豪くんは「もっと勝つ気で来い。オレはそれを越えてやる」と言いたかったのですが、焦凍くんは「メドローアを使え」と言われていると受け取りました。
そしてそんな爆豪くんのプルス・ウルトラの心意気を感じた焦凍くんは決断します。
人差し指を立っている爆豪くんに向け、指先がチカッと光ったと思ったら爆豪くんは肩を押さえながら膝を付いていました。そのまま氷漬けにされた爆豪くんは審判であるミッドナイトの判定によって負けとなり、焦凍くんの優勝が決まったのでした。
「これは何をしたんだ?」
「必殺技です」
「もっと詳しく説明しろ」
オールマイトのいる前で対オールマイト用の必殺技の1つであるメドローア(指)の説明をしたくなかった焦凍くんですが、オールマイトが今度きちんと時間を取って相手をするというので受け入れることにしました。
既にメドローアは教師陣に知られているため、それを指先から弾丸のように高速で発射しただけなのでそこまで長い説明ではありません。オールマイトは「え…?それ私に飛んでくるの…?」などと言っていましたが、オールマイトのために編み出したのだからオールマイトに使わないはずがありません。
わざわざ体育祭が終わった後に体育祭の映像を見るという意味のない事をした焦凍くん。もう帰っていいかな?などと考えていたら、まだ何か伝えたい事があるようです。それぞれの顔を見回してみると、何やら真剣な表情で何かを決意したかのような意思が表れていました。
そして校長先生が代表して焦凍くんにそれを伝えます。
「それじゃあ、君の家に家庭訪問に行くからよろしくね。あ、エンデヴァーには急用でもいいけど、その場合は事務所まで行くって伝えておいて」