ポジティブ焦凍くん   作:フレイザードさん

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家庭訪問と焦凍くん

 

 

エンデヴァーというヒーローがいます。

 

彼自身はNo.2ヒーローと呼ばれ、とても優秀なヒーローです。オールマイトほどではなくとも、その名前だけで個性犯罪の抑止になる程には優秀なヒーローの1人です。

 

多弁なほうではないのであまりメディアに露出したりしませんが、その他の並み居るヒーローたちでは敵わない程度には実力のあるヒーローです。

 

ですが現在、その優秀なNo.2ヒーローはその他のヒーローたちに囲まれています。

 

エンデヴァーも冷や汗を流し、彼らの視線を受け止めています。

 

 

……

………

 

 

校長先生から家庭訪問の打診を受け、帰宅した後にその旨を伝えた焦凍くん。それを聞いたエンデヴァーは全てを察しました。()()()()急用ができてしまったため体育祭には行けなかったエンデヴァーですが、ちゃんと体育祭の様子はテレビで確認していたのです。

 

それまでもオールマイトたちから度々苦情を言われていただけに、そして体育祭が終わって帰ってきた途端に家庭訪問があると聞かされれば察するのに特別な能力など必要ありません。ちなみにエンデヴァーは『オールマイトに攻撃する』という事に関しては特に問題視していません。

 

自身が倒せない実力を持つオールマイトを倒せるほどであれば、自分が届かなかった高みへと至ってくれるだろうという期待があるからです。果たしてこれが親バカなのかモンスターペアレントなのか……まともな親子関係どころか夫婦関係すら構築したことのないエンデヴァーでは理解の及ばない領域なのかもしれません。

 

担任はイレイザーヘッドであるという事も聞いていたので、恐らくイレイザーヘッドが来て体育祭での事を文句言われる程度の事だろうと予想したエンデヴァーでした。

 

職場体験という実習イベントがもうすぐやってくる事は自身で事務所を持っているエンデヴァーは知っている事なので、焦凍くんがどこのヒーロー事務所に職場体験に行くのかは別としてイレイザーヘッドからの文句はその時に済ませてしまえば良いだろうとたかをくくっていました。

 

 

 

そんなエンデヴァーの考えなど知らない焦凍くん。今日も通常通り雄英高校へと通っています。教室へ入りいつも通りボケーッと外を眺めていたら、クラスメイトの飯田くんの兄であるプロヒーローインゲニウムがヴィランによって大怪我をしたとの事でした。しかも報道では再起不能とまで伝えられているそうです。

 

飯田くん本人は気丈に「兄はきっと大丈夫さ!」と振る舞っていますが、クラスメイトたちはそんな飯田くんを心配している様子でした。ちなみに焦凍くんは特に心配などしていません。

 

ヒーローならばきっと不死鳥のごとく蘇り何事もなかったかのように…いやもしかしたら以前よりもパワーアップして戻ってくるかもしれないなどと考えていました。もしこれをインゲニウムが聞いたのなら、きっと立派なヒーロー精神を持っているであろう彼は、焦凍くんの期待に応えてくれるかもしれません。

 

 

相澤先生が教室へと入ってきて、突然ヒーロー名を考えるという事になりました。体育祭の放送を見たヒーロー事務所が、職場体験先として希望の生徒を指名する中で1年生にも多くの指名が入っていたという事でした。

 

わざわざ指名数まで公表され、クラスメイトたちは自分にどれだけの指名があったのか…と期待に満ちた表情で自分の名前を探しています。もちろん絶対にその中から選ばないといけないわけではありませんが、やはり自身を選んでくれたというのは嬉しいものなのでしょう。

 

焦凍くんも内心ではドキドキしながら自分の名前を探してみたのですが……なぜか焦凍くんの名前はありません。焦凍くんの名前って葉隠さんの個性のように見えないのでしょうか。

 

「轟、お前の行く事務所はここな」

 

自分の名前を探していた焦凍くんに相澤先生が1枚の紙を手渡します。そこにはエンデヴァー事務所と書かれていました。どうやら焦凍くんだけは行き先が決められていたようです。実のところ焦凍くんにもかなり多くの指名が来ていたのですが、雄英高校としても何も知らないヒーロー事務所に焦凍くんを送り出すわけにはいきません。

 

何せセキュリティチェックのためにメドローアを撃とうとする焦凍くんですから、取り扱いに長けた…それでいて何か問題が起こっても対処でき責任を持てる人物でなければならないというのが校長先生や担任含め教師たちの総意なのでした。

 

決して『テメェもいつまでも押し付けてないで味わいやがれ』というエンデヴァーに対する意趣返しではありません。プロのヒーローはそこまで狭量ではないのです。

 

 

選ぶ事もなく職場体験先が決まってしまった焦凍くん。行き先がエンデヴァー事務所ならば職員たちも顔見知りなので文句もありません。それに焦凍くんには別の思惑もありました。既に自分の持っているメドローアは知られてしまったので、新たな必殺技も考えたかったのです。

 

そんな焦凍くんの考えを教師たちが知れば、きっとエンデヴァー事務所に押し付けた自分たちの判断を英断だったと思うでしょう。雄英高校のファインプレーによって多くのプロヒーローたちの精神は守られたのでした。

 

 

指名数でクラスメイトたちがキャッキャしていた中、相澤先生によって職場体験先で名乗るヒーロー名を考えるという事になります。ミッドナイト先生も参加し、考えたヒーロー名を確認してアドバイスなどをくれるという事でした。

 

 

「ヒーロー名、プルス・ウルトラ」

 

 

焦凍くんが考えたヒーロー名です。苦難を乗り越え理不尽を覆すヒーローという意味と、そんなヒーローに対して苦難や理不尽を課すヴィラン…ついに焦凍くんはヴィランにも宿敵であれと要求しだしました。

 

「…却下」

 

ミッドナイト先生的には理想を語る青臭さは好みではあるのですが、このままだと焦凍くんがヴィランにも試練と称してメドローアを撃ちそうなどと、焦凍くんにすれば「失礼な」と言いだしそうな事を思ったので却下しました。自身に注がれる相澤先生の冷たい視線のせいではありません。

 

先生たちは焦凍くんのメドローアを特別危険視して警戒しているのですが、焦凍くんの個性は熱と冷気を操るため実はどれも危険な事が頭から抜けていました。心操くんが火だるまになっていたり、生徒たちが氷漬けにされたりしていたのですが、消滅よりは遥かにマシだったためそう考えるのも仕方ない事なのかもしれません。

 

ちなみに心操くんはトラウマになりました。

 

「そうそう、轟くんの家庭訪問はその時に一緒にやるから」

 

考えたヒーロー名を却下されてしまったため悩んでいた焦凍くんにミッドナイト先生が家庭訪問の話をします。生徒たちが校内にいない職場体験中ならば教員として働いているミッドナイト先生たちにも時間ができるため、その時に焦凍くんの家庭訪問を行うという事でした。

 

ヒーロー名は悩んだ結果『ショート』になりました。自身の名前でもあり、事件解決までの時間を短くするという意味も込められています。これには意味を聞いた教師2名もそれでいいかといった感じです。

 

対峙したヴィランの命が短くなりそうな気がしなくもないですが、わざわざ意味を言う機会などないでしょうし傍から見れば自分の名前だなとしか思わないだろうという事が決め手でした。ちなみに脳みそヴィランは焦凍くんと対峙してから1分もかからない内に消滅してしまいましたので、ある意味このヒーロー名の由来の意図の通りの活躍をしていたのでした。

 

クラスメイトたちはそれぞれ自分の個性に根ざしたヒーロー名を考えて発表していきました。『爆殺王』などといったヒーロー名(?)を聞いた焦凍くんは、なんとなく頭の中で自分の個性で表すのなら…『氷炎将軍』かな?などと考えてしまいましたが、それを発表する事はありませんでした。自分の炎に『メギドの炎』などと名付けている焦凍くんですが、さすがに友達がいない以外に爆豪くんとネーミングセンスまで似ているとは思いたくなかったのでしょうか。

 

 

……

………

 

 

「こうした形で会うとは思わなかったけれど、ようやく会えて光栄なのさエンデヴァー」

 

校長先生がエンデヴァーに対しての言葉だったのですが、なぜか言葉に棘があるように聞こえます。職場体験兼家庭訪問という事でエンデヴァーの事務所へとやってきた焦凍くん。一緒にやってきたのが校長先生を含めオールマイト、イレイザーヘッド、ミッドナイト、プレゼントマイク、ブラドキング、セメントス、更には保険医であるはずのリカバリーガールまでいます。

 

エンデヴァーもこんなに大勢で押し寄せてくるとは思っていなかったのか、珍しく気圧され気味な感じです。とりあえず事務所内にある応接室へと移動し、そこで話をするという事になりました。

 

「轟少年、私たちは少しエンデヴァーと話があるから席を外していてくれないかい」

 

オールマイトからそう言われてしまったので、焦凍くんはエンデヴァーに何かやることがあるのかを聞き、そのまま顔見知りの職員さんのところへと行ってしまいました。

 

応接室では全員がソファーへと腰を下ろし、事務員さんが持ってきてくれたお茶をテーブルへと置いていってくれます。その間雄英高校教師陣は静かにエンデヴァーを見つめており、エンデヴァーも冷や汗を流し、彼らの視線を受け止めています。

 

そして事務員さんが礼儀正しく一礼してから退室したのを確認し、全員が一斉にエンデヴァーへと思いの丈を伝えました。

 

「君ほんと何やらかしてくれてるんだい!?」「どういう教育したらあんなんなるのよ!?」「お前ヒーローとして恥ずかしくないのか!」「ていうか親としてやらなきゃならない事があるだろ!」「世間の親に謝れ!あと世間のヒーローにもっと謝れ!」

 

これにはエンデヴァーもビックリです。

 

言われている事は至極もっともな事なのですが、教師たちがここまで焦凍くんの事を思って熱心になってくれている事に驚いているのでしょう。プロのヒーローであるだけでなく、プロの教師として生徒の事を思いやる心にエンデヴァーは感動しているかもしれません。

 

「まず伝えておく。すまなかった」

 

これにはエンデヴァーも頭を下げます。この「すまなかった」という言葉には体育祭に行かず任せた事に対してだけでなく色々と含まれているのは言うまでもありません。

 

もちろんそんな謝罪で気が済むわけもなく一通り言いたい事をぶちまけていく様子は音声がなければまるで悪質なクレーマーのようなのですが、言っている内容はエンデヴァーとしても言い訳できる事ではないので黙って聞いています。あまりの勢いにエンデヴァーもどうしたらいいのかわからないほどです。

 

本当ならばもっともっともっともっと文句を言いたいところなのですが、そこはヒーローであり教師でもある大人たち…言ってどうなるわけでもないので、まずは原因を聞き出すことにしました。直接文句を言えた事で少しは気が晴れたようですし、気持ちの切り替えは大事な事です。

 

エンデヴァーから幼少期の頃の焦凍くんの話を聞き、疑問点は都度各々が質問しエンデヴァーが答えていきます。

 

その結果、エンデヴァーが言っていた事が間違いなわけではなかったようです。それもそのはず、『理不尽や苦難を覆していくのがヒーロー』というのは雄英高校でも教師たちが言っている言葉でもありますし、それについては誰も文句はありません。強いて言えば『困った人を助けるのがヒーローだよ』とか、『悪い人たちを懲らしめるのがヒーローなんだよ』といった子供向けの表現だったらと思わないでもありませんが、それをどう解釈したらああなるのかエンデヴァーにも教師たちにもわかりませんでした。

 

なお、言っている事は存外マトモだったとはいえやっている事は普通ではなく虐待と判断されてもおかしくないのですが、そこはもう過ぎた話という事でした。過ぎた話ではありますが、お咎めがなかったわけではありません。ミッドナイトやリカバリーガールから滾々とお説教されてしまうエンデヴァーでしたが、何せヒーローとしては一人前でも親としては半人前以下なので反論しては更にお説教されるという始末です。

 

その時に話に出てきた個性婚というところにも言いたい事はありましたが、個性婚だから焦凍くんのような存在が生まれるわけではありません。もし個性婚の子供が全員焦凍くんのようなら大変な事になってしまいます。

 

エンデヴァーも家庭訪問でまさかここまでボロクソに言われると思っていなかったので疲弊気味でした。ここまで精神的に追いやられたのはいつ以来だろうか…などと関係ない事を考えるくらいには参ってしまいました。精神ポイントなんてものがあれば最早ゼロに近いほどなのですが、ここからいよいよ本題へと入っていきます。

 

今まで全部が本題ではあるのですが、もしこれが焦凍くん以外だったらそこまで重要な話でもなかったのです。

 

例えば言動が荒く見た目も含めヴィランっぽいとクラスメイトたちに揶揄されている爆豪くんですが、もし彼が焦凍くんのようになっていたとしても対処のしようはいくらでもあります。少々怪我人などは出るかもしれませんが、それでも死者が出たりするような重大な危険となる可能性は低かったでしょう。もちろんどのような個性であっても使い方を誤れば危険なのは当然の話です。

 

「そういえばだけど…メドローアと彼が呼ぶあの技、あれを教えたのは君かい?」

 

オールマイトは雄英高校入学前どころか10歳にも満たない頃に焦凍くんと出会って知っていますので、エンデヴァーから自分を超えろと言われているという事も当人から直接聞いていました。その上、対自分用の必殺技を編み出したのもその時に聞いていましたが、そんな小さい頃にあんな技を1人で編み出せるとは思っていなかったので、オールマイトの中ではエンデヴァーが授けたのだと思っていました。

 

オールマイトの口から出たこれこそが本題の中の本題であり、教師だけでなくエンデヴァーも当然認識している焦凍くんの必殺技です。対オールマイトのために編み出したというその必殺技は、正しく『必ず殺す』という意味ではその名に恥じないだけの威力を持っています。

 

というかあんな技を何かや誰かに使ったら殺すどころか消滅するわけですから、そんなものを向けられているオールマイトとしては気が気じゃありません。何より自身の後継者と言える少年にソレが向けられたら……今の少年では為す術もなく消え去るでしょう。

 

そしてもしここでエンデヴァーが「私が教えた」と言ったのなら、オールマイトは自身の必殺技をエンデヴァーに撃ち込むつもりで拳に力を込めています。

 

「いや、私ではない」

 

「ふむ、じゃあどうやって彼はあんな技を身に着けたんだい?」

 

否定したエンデヴァーに校長先生から次の質問がやってきますが、メドローアについてはエンデヴァーが答えられる事はありません。何せ、エンデヴァー自身もある日の夜に突然メドローアの標的となっているのですから……おかげで自宅の壁も屋根も消え去って大変だったのは余談です。

 

ここで教師陣から入試と体育祭の映像を録画したものが渡され、応接室にあったテレビから焦凍くんの映像が流れます。入試の時の映像には巨大ロボにメドローアを撃つ焦凍くんの姿が、そして体育祭では爆豪くんに放ったメドローア(指)の場面が流れました。更にイレイザーヘッドの話ではUSJにて巨体のヴィランを一瞬で消滅させたという事なので、もう1つパターンがあるという事をエンデヴァーは知ることになります。

 

つまり焦凍くんのメドローアには3つのパターンがあるという事がこの場で明らかになりました。もしかしたらまだ他にもあるのかもしれないという懸念はありますが、今のところ判明しているのはこの3パターンです。これを知って改めて肝が冷える思いをするのはオールマイトとエンデヴァーの2人です。エンデヴァーは自業自得と考えられなくもないですが、オールマイトは思いっきりとばっちりです。

 

まずあれはどうやっているのかとプロヒーローたちが集まって焦凍くんの必殺技について話し合いますが、半冷半燃の個性なのに何をどうやったらあんな消滅ビームが飛び出すのかまったくわかりません。こればかりはハイスペックという個性を持つ校長先生にもわかりませんでした。

 

まさかキッカケが『いちごソフトクリームを食べて思いついた』などとは、いくらプロのヒーローだろうと思いつくことはできないのでしょう。

 

 

 

この後も家庭訪問から発生した『焦凍くん対策会議』は遅くまで続けられました。

 

 

 

 

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