ポジティブ焦凍くん 作:フレイザードさん
エンデヴァーの事務所にて「大人だけの話し合いがあるから適当に過ごしておけ」と言われた焦凍くん。取り急ぎやらないといけない事はないので、顔見知りの事務員さんのところにでも行こうかと思っていました。
焦凍くんが歩いていった先ではどうやら休憩している所員さんたちがたむろしているようで、ワイワイと話し声が聞こえてきます。盗み聞きするつもりはありませんでしたが、普通に会話しているのでその声は焦凍くんにも聞こえてきました。
「相変わらずエンデヴァーさんの威圧感はすごいよねぇ」
「炎の中からギラリと光る眼光!なんかもう目で殺す!みたいな感じだもんね」
「ヴィランもあんな眼光で睨まれたら一目散に逃げ出すんじゃない?」
どうやらエンデヴァーは見た目でも犯罪抑止に役立っているようです。所員さんたちはそんなエンデヴァーを尊敬しているので、言葉だけだとディスってるように聞こえますがそんなつもりはありません。
そんなエンデヴァーは現在雄英高校の教師たちの総口撃を受けてボロカスに扱き下ろされているのですが、無駄に防音性の高い応接室のおかげで所員評価が下降する事態は免れそうです。もしかしたらそんなエンデヴァーのダメな部分が露見することにより、実は人間味のある人だったんだ…といった不良が雨の中で子猫を拾うのと同じようなギャップはあるかもしれません。
ギャップはあるかもしれませんがもし今のエンデヴァーの様子が露見した場合のエンデヴァーの評価は『ヒーローとしては優秀かもしれないが、人間として親としては最低』という内容となるため、やはり所員さんたちに見られないほうがエンデヴァーのためでしょう。
焦凍くんはエンデヴァーが所内で普段どういう風に過ごしているのかは知らないので、ワイワイしている様子を見て家とは違ってアットホームな事務所なんだなぁと思っています。実際はエンデヴァーがいる時の所員さんたちは緊張感を持ってピリリとした雰囲気だったりするのですが、そんな様子を見た事のない焦凍くんに察しろというのは無理難題でしょう。
ちなみに焦凍くんの家にはアットホームのアの字もありません。
どのような苦境や困難があっても即座に解決してみせるという、エンデヴァーのヒーローとしての矜持がそうさせるのでしょうか……実際は元来のエンデヴァーの性格と、焦凍くんによる不意打ち理不尽アタックがいつ飛んでくるかわからないため自宅なのに気の休まる瞬間がないだけだったりするのですが……それが判明する日が来る事を祈るばかりです。
元々友達が少なくそこまで話し上手ではない焦凍くんは、たむろっている所員さんたちの会話に水を差す必要もないかと訓練用の部屋へと移動していきます。今回の職場体験を利用して新しく必殺技を編み出したいというのが焦凍くんの狙いだったので、来て早々にヒントを得られたのはまさに僥幸という他ありませんでした。
訓練用の部屋はエンデヴァーも利用するため耐火性能に秀でた構造となっているようで、ここでなら焦凍くんは存分に自身の個性を鍛える事ができます。メドローアは焦凍くんにとって対オールマイト用であり切り札でもあるので、まずは炎と氷の上限を上げるようにしようと意気込んで訓練に取り組んでいました。
一通り訓練を終えた頃には一緒にやってきた先生たちはエンデヴァーとの話し合いが終わって帰ってしまっていたようで、それを後から聞いた焦凍くんは「家庭訪問って生徒抜きだったっけ…?」と困惑していました。雄英高校の校風が『自由』なので、きっと世間一般の家庭訪問と一緒にしてはいけないのでしょう。
見送りをした所員さんから、先生たちが帰る際に焦凍くん宛の荷物を預かっていたというのでそれを受け取った焦凍くん。
受け取ったのは本でした。子供向けの『よいこわるいこ』という絵本から『倫理学入門』といった専門書や『家族とうまくいく100の言葉』という本に『常識知らずは恥知らず』なんていう本まであります。
しかも先生からの伝言として「これらの本を読んで感想文を書くこと」という事を所員さんから伝えられた焦凍くん。他のクラスメイトたちがこんな課題を出されたら職場体験どころの話ではないでしょう。ですが焦凍くんは職場体験がエンデヴァー事務所なので自宅から通える範囲ですし、出された課題も夏休みの宿題と同じレベルなので気にしていません。
その日は何もする事なく家に帰ることになった焦凍くん。やった事は訓練しかなかったので、早速先生から与えられた課題を終わらせてしまう事にしました。焦凍くんは宿題を最終日に必死になってやるような真似はしません。そして焦凍くんは幼少の頃からの英才教育により頭脳も優秀なのです。
全部の本をさっさと読んで、課題であった感想文を完成させました。全部の本の感想を、1つの感想文に纏め上げたのです。焦凍くんは自身の会心の出来に非常に満足しています。焦凍くんが聞いた伝言は「全部の本を読んで感想文を書くこと」なので、それぞれに書けとは言われていません。
一休さんのトンチのように常識に囚われない焦凍くんは『常識知らずは恥知らず』という本から何を学んだのでしょうか。
…
……
………
翌日もエンデヴァー事務所へと向かった焦凍くん。エンデヴァーからは「これから自分たちをサポートしてくれている所員たちと交流する事」を言い渡されました。所員さんからミルクココアをもらい、焦凍くんたちは他愛もない話で盛り上がっています。
「エンデヴァーさんもねぇ…No.2なんて立派なんだから自信を持っていればいいのにねぇ」
そして話題はどうやらヒーローランキングについてに移っていったようです。エンデヴァーが世間で1位になれないというような言葉を所員さんも聞いた事があるので、それについて気にしなくてもいいのにという事を言っています。
これが『ヒーロー四天王』や『ヒーロー八卦衆』とか『ヒーロー十六神将』といった別の呼び名でもあれば違ったかもしれませんが、ヒーローランキングというものがあるせいで順位付けされてしまうのがエンデヴァーにとっては不運というしかなかったのでしょう。
その結果焦凍くんはエンデヴァーから「オールマイトを倒してNo.1になれ」という期待をかけられているので、焦凍くんもヒーロー順位付け社会の弊害を受けた被害者と言えるのかもしれません。
「そういえば昨日渡した本で感想文書かないといけないって大変じゃない?」
「もう終わったから大丈夫ですよ。あのくらいならすぐに終わりましたから」
「さすがエンデヴァーの息子さんねぇ…うちの子にも見習わせたいわ~」
先生からの伝言を焦凍くんに伝えた所員さんから感想文について聞かれた焦凍くん。しかし既に感想文を書き終えているということを伝えます。事実を知らない所員さんはあれだけの数の本の感想文を全部書き終えたという事を聞き感心していました。
当然の事ですが、所員さんはそれぞれの本についてそれぞれに感想文を書いたのだと思っています。100人が聞いても100人が所員さんと同じ感想を抱くでしょう。全部で10冊近くある本の感想を3枚の原稿用紙に収めた焦凍くんはある意味とても優秀だと思います。
そんなのんびりした雰囲気の中で和やかに話していた焦凍くんたちですが、世間はそれほど和やかではありません。所員さんたちの話題はヒーロー殺しへと移りました。それもそのはず、いま世間では『ヒーロー殺し』というヴィランが猛威を振るっているという話題が大きく取り沙汰されているのです。
ヒーロー殺しによって少なくないヒーローたちが命を落とし、または再起不能にされているという話は焦凍くんにとっても他人事ではありません。きっとプルス・ウルトラの精神で挑んだのでしょうが、惜しくも力及ばず散っていったヒーローたちの無念を受け継ぎ、そんな巨悪を滅してみせようと焦凍くんは決心しました。
先生からの課題図書の中にあった『ヒーローのお仕事:入門編』には残念ながら「ヴィランを滅してはいけない」とは書かれていなかったようです。
今のところ職場体験というか、訓練と日常会話くらいしかしていない焦凍くん。決して事件が起きてほしいといった縁起の悪い願いは持っていないので平和なのは良い事だと思っています。しかしそんなささやかな平和を乱す者たちがいるのもまた事実なのでした。
個性犯罪者による事件の連絡を受け、エンデヴァー事務所も慌ただしくなります。さっきまでワイワイしていた所員さんたちもしっかりと気持ちを切り替えて、まさに人々の平和を守る戦士たちのような顔つきです。
「焦凍、行くぞ。しっかりとついてこい!」
エンデヴァーから呼び出され、共に出動する焦凍くん。現場では民間人が逃げ惑ったりカメラを向けたりと混沌とした状況になっています。エンデヴァーと焦凍くんが到着した時には、人質を取ったヴィランが何やら叫んでいる様子でした。
「焦凍、お前ならこの状況をどう解決する?」
「燃やしたら人質も燃えるから纏めて凍らせるかな」
そんな焦凍くんの答えを聞いてエンデヴァーは少しだけ安堵しました。エンデヴァーの予想では「メドローアを撃つ」と言い出すと思っていたのです。というか何で自分にはメドローアを撃つのにヴィランに対しては手加減するんだ?という疑問も湧いてきましたが、今はそれどころではありません。
メドローアを撃つという選択肢を選ばなかったのは良かったのですが、焦凍くんの言った「人質ごと纏めて凍らせる」というのは如何なものか…と、雄英高校の倫理教育について文句を言いたいエンデヴァーでした。もしそんな文句を言っていたら雄英高校の教師たちに激怒されそうですが、既に激怒されているエンデヴァーは心の中で思うくらいに留めるのでした。
本当は少しくらいは手伝わせようかと考えていたエンデヴァーでしたが、このままだとメディアの前で焦凍くんが氷像を作りかねないため断念しました。被害や損害ということで考えると焦凍くんの方法はとてもリスクの少ない良策であると考えているのですが、プロヒーローであるエンデヴァーは結果が良ければ経過などどうでもいいだろうとは言えないのです。
「お前は何もしなくていい。しっかりと見ていろ」
思案した結果この事件はエンデヴァーが解決することにしました。炎を操るエンデヴァーなら周囲にも被害が及ぶのではないかと思っていましたが、そこは流石プロヒーローです。炎を巧みに操り見事に人質を救出しヴィランを逮捕してしまいました。
ヴィランのほうも焼けてはいるものの命に別状はないようです。
無事に事件を解決し、事務所へと戻って報告書を書いている焦凍くん。エンデヴァーの戦い方は知っていましたが、ヴィランと対峙している様子を見て参考になる事があったようでした。書き終えた報告書を所員さんに見てもらい、特に訂正などもなかったので提出して本日の業務は終了です。
所員さんから「もう帰ってもいいよ」と言われたのですが、少し試したい事があった焦凍くんは訓練室を借りることにしました。元々いちごとソフトクリームの混ざり具合でメドローアを開発した焦凍くんでしたが、所員さんたちと話している時に1人の所員さんが「少しだけミルクを足すと美味しいんだ」と言ってコーヒーを飲んでいたのを覚えていたのです。
つまり炎と氷の割合を変えれば新しい技ができるんじゃないか…と考えていたのでした。
焦凍くんの頭の中では氷のように質量を持った炎や燃える氷が思い浮かびます。実際に試してみようとメドローアをイメージしつつ炎と氷の力の比率を変えようとしますがうまくいきません。仕方がないので次の技を試すべく、体内で炎と氷の力を混ぜ合わせていきます。
焦凍くんは普段は炎と氷の力を操り、そして切り札としてメドローアがあります。しかしこれだけではまだオールマイトにもエンデヴァーにも勝てていません。オールマイトもエンデヴァーも実は生きるために必死なのですが、それでも結果として焦凍くんに勝っているのでプロのヒーローは伊達ではないのでしょう。
やはり難点は接近戦か…というのが焦凍くんの戦った感想なのでした。焦凍くんも決して接近戦が苦手なわけではありません。たとえ現役のプロヒーローが相手でも十分に渡り合えるだけの実力はあるのですが、それだけではオールマイトを倒すには不足していました。
そこでオールマイトだから…などと悲観的に考えるような焦凍くんではありませんでした。オールマイトという高い壁を打ち崩すべく、この困難を乗り切るためにプルス・ウルトラの精神で特訓を重ねていきます。もちろん焦凍くんも多感な年頃の高校生なので、負けて悔しいという気持ちは持っています。
そんな悔しい思いをバネにして、焦凍くんは遂に新たな技を編みだす事に成功したのでした。