ポジティブ焦凍くん 作:フレイザードさん
「このガキを殺されたくなかったら動くんじゃねぇ!!」
本日も職場体験中の焦凍くん。初日の平和など何処へ行ってしまったのか、今日も個性犯罪者による事件が発生しています。いくら日本の犯罪率が低いとはいえ、小競り合いのような揉め事までなくなるわけではないのです。
状況を見たところ複数のヒーローや警察、そして野次馬の一般人がヴィランを遠巻きに囲んでいました。そんな中で注目を浴びているヴィランですが、爪が伸びる個性なのか犯人の指からは鋭い爪が伸びており人質と思われる小さな女の子の頭を掴んで首に爪を突き立てていました。
その足元には両親と思われる男女が倒れていて、2人とも腹部を突き刺されたのか出血し早く助けなければ危険な状態です。周囲にはプロヒーローが集まって趨勢を見守っておりますが、ヴィランが少しでも力を込めれば人質の女の子の首を貫かれる可能性があるため動くに動けないようでした。
こんな時にミッドナイトのような個性持ちがいれば相手を無傷で拘束する事ができたり、葉隠さんなら見つからず助けたりできたのかもしれませんが、残念ながらこの場にいるヒーローたちにそんな事をできる者はいないようです。
事件の報を聞いたエンデヴァーに連れられてやってきた焦凍くんですが、焦凍くんの個性もエンデヴァーの個性もこういった状況においては有効に活用できる個性ではありません。しかも今回は人質が子供のため、纏めて凍らせて無理やり確保するという方法も使えないのです。
「あのヴィランに捕まっている子供を何とかしないと動けんな」
警察も集まりヒーローたちと一緒になって必死に説得しているようですが、ヴィランのほうはどうやら溜まりに溜まった不満がふとしたキッカケで爆発してしまったようです。その結果たまたま歩いていたこの親子が巻き込まれたのでしょう。
ヒーローたちに対して随分と攻撃的になっている事から、もしかしたらヒーローを目指したけれど夢が叶わず自暴自棄になってしまったのかもしれません。支離滅裂なヴィランの言葉を冷静に分析していき突破口を見つけ出そうとヒーローたちも頭をフル回転して考えています。
少しでも視界が悪くなればヴィランの隙を突くことができるのにというエンデヴァーの言葉を聞き、焦凍くんはそのチャンスを作り出す役目を名乗り出ることにしました。
焦凍くんは炎を氷の力を身体の中で混ぜ合わせる事によってメドローアを作り上げましたが、身体の外で炎と氷を合わせることで大量の水蒸気を生み出す事もできるようになりました。自分1人だけだったら屋外での使用は効果が薄いと思っていたのですが、周囲に味方がいる現状ではそれだけに専念できるためまるで濃霧のような状況を作り出すこともできます。
ヴィランに見つからないように風上にある建物の陰へと移動し、両手に炎と氷を生み出す焦凍くん。その状態でメドローアの時と同じように両手を組み合わせると、組み合わせた両手から大量の水蒸気が吹き出していきます。普通ならそのまま空中へと上がっていくのですが、少しばかり氷の割合を増やすことで空へと上がらない霧はヴィランのほうへと向かっていきました。
…
……
………
ヴィランによる事件は焦凍くんの活躍もあって人質も無事に助けることができ、犯人であるヴィランも逮捕することができました。現地で焦凍くんがやらないといけない事は特にないので、そのままエンデヴァーと共に事務所へと戻り報告書を作成していきます。
出来上がった報告書を所員さんに提出するときに、昨日も話題になった『ヒーロー殺し』の話の続報を教えてもらいます。どうやらヒーロー殺しは現在保須市にいるようで、その情報と共に場合によっては救援を求められるかもしれないという事でした。
焦凍くんとしては「そんな悪質なヴィランがいるとわかっているのなら、さっさと近くのヒーローが倒せばいいのに…」と思っています。焦凍くんは世間一般の並ヒーローの強さを知らないのでこの感想は民間人と同じで一般的なものです。もしかしたら焦凍くんの感覚はヒーローよりも一般人に近いのかもしれません。
「もしかしたらだし、その時はエンデヴァーさんだけになるかもしれないから気にしないで」
所員さんからそう言われましたが、別に行きたくないわけではありません。ヒーロー殺しと呼ばれるほどのヴィランならば、プルス・ウルトラの精神を宿す焦凍くんは更に壁を超えることができるかもしれないという期待もありました。
そんな焦凍くんの期待は虚しくも外れてしまいます。エンデヴァー事務所へとやってきた報告は『脳無襲来』でした。とはいえ超再生やショック吸収を持っていると思われる脳無は普通に戦えば面倒なヴィランには間違いありません。そのためエンデヴァーと共に焦凍くんも保須市へと向かうことにしました。
保須市へと入ったあたりで焦凍くんに思わぬ連絡が入ります。相手は緑谷くんのようで、内容は保須市のある場所を示していました。焦凍くんがそれを見た最初の感想は「5W1Hくらいちゃんとしろよ」というとても常識的な事です。所員さんに報告書を提出したりしている焦凍くんは連絡については少々うるさくなっていました。
一応クラスメイトなのできちんと返事をしてあげ、その結果クラスメイトの飯田くんがヒーロー殺しへ挑んでいるかもしれないという事を知ります。なるほど、つまり彼も自分の壁を越えたくてヒーロー殺しを利用してステップアップを計画していた……というのが焦凍くんの考えでした。
飯田くんの兄がヒーロー殺しによって再起不能にされ、その復讐のために飯田くんは保須市へと職場体験にやってきていたのですが、いずれ復活するであろう兄のために復讐するなんて焦凍くんには考えつかなかったのでした。
「エンデヴァー、脳無をさっさと倒してヒーロー殺しも倒してくる」
「なに……どういうことだ!?」
現在向かっている先には脳無がおり違う場所にはステインがいるという二択なのですが、ヒーローたらんとする焦凍くんにどちらかを選ぶという選択肢はありません。既に一度倒している相手なので手間取るつもりなどまったくないのです。
そのためエンデヴァーにその旨を伝え、エンデヴァーと二手に別れてそれぞれ別の脳無の元へと向かうことになりました。その際にエンデヴァーから「間違っても殺すな」と念を押されている焦凍くん。相手を見てもいないのにそんな約束はできないと素直な焦凍くんは正直にエンデヴァーに言っています。
…
……
………
ヒーロー殺しと呼ばれるヴィラン『ステイン』……彼がなぜわざわざヒーローを殺して回っているのかというと『ヒーローは高潔であるべし』という自身の憧れを具現化した社会にしたいがために、自身の基準に満たないヒーローを贋作と称し殺して減らすことで理想のヒーローだけを残すという破綻した理想主義者なのでした。
そんなヒーロー殺しがヒーローを殺す事はもうありません。
1人のヒーローの卵の活躍によってです。もちろんそのヒーローの卵とは焦凍くんの事です。
事件解決の時間を短くするというヒーロー名に恥じない活躍で、脳無をメドローア(掌)で瞬殺した焦凍くんはそのまま緑谷くんが伝えてきた場所へと飛んで行きました。その先ではヒーローが倒れており、飯田くんも倒れており、緑谷くんは突っ立っていました。ステインの個性によって身動きを封じられているのですが、来たばかりの焦凍くんにはそんな事はわかりません。
焦凍くんが到着した時には何やらヒーロー殺しが理想を語っていました。
その内容は焦凍くんの行動理念と一致するところもあり、まさに焦凍くんの求めているヴィラン像でした。苦難を乗り越え理不尽を覆しヒーローたらんとするプルス・ウルトラの精神……そんなヒーローと相対するは人々の平和を脅かし強大な力で襲いくるヴィラン。
ステインはそんな理想のヴィランとして焦凍くんの目の前に立っているのです。
しかし飯田くんが兄の仇やら自分が倒したいやら言っているのは少々思うところのある焦凍くん。大体プロでもないヒーローの卵が勝手に復讐だなんだと語るなど失礼な話です。そのため焦凍くんは見るに見かねて飯田くんに伝えることにしました。
「飯田、お前がやっている事は
クラスメイトを励ましつつインゲニウムに対しても高いハードルを課す焦凍くん。もし飯田くんが「兄さんは必ずヒーローとして戻ってくる!」と何度もインゲニウムに伝えていれば、インゲニウムはきっと期待に応え復活してくれるのです。
後ろで緑谷くんがナイフに気をつけろや血がどうとか言ってくれているのを聞き、焦凍くんは接近戦は危険だと判断します。そしてあえて接近戦にて戦う事を決めました。今までオールマイトやエンデヴァーと戦う事はよくありましたが、恐らく強敵と言える強力なヴィランと対峙した焦凍くんは切り札を切ることにしました。自身の切り札がどれくらい通用するのかの試金石にしようと思ったのです。
焦凍くんが特訓の結果新たに編み出したのは、メドローアを放出せずに身体に纏わせる技でした。
メドローアという必殺技を持っていてもオールマイトたちに勝てなかった焦凍くんは、なぜ勝てないのかをしっかりと考えていたのです。その結果、手の動きを見切られているのでは?と判断したのでした。そして近接格闘となるといかに学生レベルでは優秀な焦凍くんでもプロヒーローには敵わないという事もあり、最終的に『オレ自身がメドローアになることだ』という結論に至ったのでした。
身体にメドローアを纏う状態……これをメドオーラと名付けた焦凍くん。これならばオールマイトと接近戦をしても勝てるだろうという切り札なのです。
そしてそんな消滅ビームの塊となった焦凍くんにステインでは為す術もありませんでした。ナイフで斬りかかっても触れた先から消滅していき、ステインは両手を失った状態で御用となったのでした。両手が極端に短くなったステイン……焦凍くんはまさにヒーロー名を体現しています。
それでも両手消滅だけで済んだのはステインの格闘技術が優れていたからに他なりません。もしこれが他のヴィランだった場合は頭が無くなっていたり、身体に穴が空いていたりしたでしょう。もちろん焦凍くんが誰にでも
その後エンデヴァー含めいろんなところに報告したり忙しかった焦凍くんですが、一番面倒だったのは緑谷くんでした。彼は考察が好きなのかブツブツと自分の考えを垂れ流す癖があります。更にフルカウルとの違いがどうのとか思考しているようで、あまり今回使った切り札について触れられたくなかった焦凍くんは、逆に緑谷くんに質問することにしました。
「なぁ緑谷、お前の個性って誰かにもらったりとかしたのか?」
「……えっ!?どどどどどうしてそう思うの?」
個性や相手について考えるのは緑谷くんの専売特許ではありません。焦凍くんもクラスメイトの個性などは見てわかる範囲では考察したりしているのです。その中で焦凍くんが引っかかった部分があったのが緑谷くんの個性なのでした。
緑谷くんについては個性の発現が遅かったため個性に身体のほうがついていかず自傷してしまうと聞いていましたが、焦凍くんの中では納得いかない点があったためこの機会に聞いておこうと思ったのです。
なぜ緑谷くんがそんなに慌てふためいているのかわかりませんでしたが、生憎時間がなかったためその答えを聞くことなく緑谷くんと別れる事になりました。警察などを含め話さないといけない事が多かったので焦凍くんは気にしていませんが、質問された緑谷くんはなぜか気が気じゃありません。
また教室で聞くわ、とアッサリとした別れに質問された緑谷くんのほうが心配になってしまいました。とりあえずグラントリノに、そしてオールマイトに伝えておかなくちゃ…と結果的に心労だけが溜まった緑谷くんなのでした。
そんな事をまったく知らない焦凍くん。緑谷くんへの質問も確信があったわけではなく、彼の個性についてはそう考えたほうが自然だなと思ったから聞いただけなので既に頭から抜けています。ヒーロー殺しとの戦いは焦凍くんにとってとても実になる有意義なものなので、次にオールマイトと戦う時にビックリする顔が目に浮かぶようでご機嫌なのでした。