ポジティブ焦凍くん 作:フレイザードさん
エンデヴァーは悩んでいました。
焦凍くんがヒーロー殺しであるステインを捕まえたのは良い事です。しかも状況を聞いてみると、プロヒーローもステインによって倒されており、更にその場には焦凍くんのクラスメイトが2名いたそうなので焦凍くんがその場にいて良かったと素直に思えるのです。
脳無と呼ばれるヴィランは見つけてすぐにメドローア(掌)で消し飛ばしたそうですが、プロヒーローとクラスメイトの窮地を救い、更にステインもなぜか両手を失ってはいましたが命に別条はありません。
エンデヴァーも当然ヒーロー殺しの一連については報告を受けており、そこで被害者でもあり目撃者でもある緑谷という少年の供述も当然知っていました。どうやら焦凍くんはステインと近接格闘を繰り広げたらしく、最初はかなり接戦だったらしいのです。そして何度も攻防を繰り返し、ステインが持っていたナイフを焦凍くんに刺そうとして当たったと思ったら消えていたということでした。
ステインの攻撃が消えるのは理解できます。それは恐らくメドローアなのでしょう。しかし攻撃が当たったと思ったら消えていたというのがエンデヴァーを不安にさせるのです。その理由は焦凍くんから「この後試したい事があるから付き合ってくれ」と言われているからでした。また新しいバリエーションを編み出したのか……もうそろそろ必殺技を編み出すのをやめてほしいと思うエンデヴァーなのでした。
そんなエンデヴァーの不安など知らない焦凍くんは所員さんたちに少し話を聞いていました。ステインを倒した時に緑谷くんと少しだけ話していたので、焦凍くんの中にあった疑問を解決するために個性に詳しい所員さんに質問していたのでした。
「よくわかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、しかし珍しい仮説を立てていますねぇ」
焦凍くんの質問は所員さんにとっては寝耳に水のような話でしたが、所員さんも研究者気質なのか存外話が盛り上がったのでした。必要そうな資料をもらって纏めた焦凍くんは付き合ってくれた所員さんにお礼を伝えて訓練室へと向かいます。
職場体験も終了が近づいているので、焦凍くんはこの成果を試すべくエンデヴァーに相手をしてもらう約束をしているのです。今回編み出す事に成功したメドオーラでどこまで迫れるのか……本当ならメドオーラを纏いながらメドローアを撃ったりできれば遠近両対応の完璧戦術が出来上がるのですが、ヴィランが事件を起こし出動していたため今の焦凍くんではそこまで鍛え上げる事ができなかったのでした。
「焦凍、この職場体験でどこまで強くなったのか見せてみろ」
大人の意地で内心を出さないようにしているエンデヴァー。こんな時だけ頼れる大人を出す前にもっとやる事があったのではと思わないではありませんが、失敗を糧にして前に進めるのが人間の良いところなのです。
…
……
………
こうして始まった焦凍くんとエンデヴァーの模擬戦闘は無事に終了しました。エンデヴァーも五体満足であり、焦凍くんも新たな課題が見つけることができました。職場体験も含めてとても有意義なものになったと言えるでしょう。
焦凍くんは炎や氷のどちらかを出す事で機動性を高めることができます。炎と氷は同時に使うこともできるのですが、メドローアの時は両方の力を混ぜ合わせて使用しているためそこに炎や氷を使う事ができないのでした。
そのためメドオーラ状態で近接戦闘をしようとすると、どうしても自身の身体能力で移動しなければならないのです。ステインの時は互いに接近戦を選択したため噛み合ったのですが、エンデヴァーは自身の炎で空中含め立体的に移動するためメドオーラによる近接戦を行おうとしても離れられてしまうのでした。
その結果エンデヴァーは無事に生き延びることができたのです。訓練室は焦凍くんのパンチにより穴だらけになっているのですが、壁に腕が突き刺さったはずなのに音も衝撃も何もなくただ穴だけが空いているという光景はなかなか見られない事だったでしょう。
訓練室の修理が大変そうですが、腐ってもNo.2ヒーローであるエンデヴァーにとってそこまで痛手でもないので心配する必要もありません。エンデヴァーがこの職場体験において一番辛かったのは初日に先生たちが来た時なのですから……
職場体験も終わり、久しぶりな気さえする雄英高校へとやってきた焦凍くん。クラスメイトたちも心なしか現場を経験した事により少し逞しくなったような気がしないでもありません。爆豪くんのイメチェンには流石の焦凍くんも驚きを隠せませんでしたが、どうやら話題はヒーロー殺しに出くわしたという緑谷くんと飯田くんのようでした。
「でも……結局ステインを倒してくれたのは轟くんだから……」
その時の状況をクラスメイトたちに聞かれ、自分は何もできなかったから…と零しながらステインを倒したのは焦凍くんだと告げる緑谷くん。それを聞きピンクな女の子芦戸さんは焦凍くんにも話を聞いてきます。脳無を倒した事なら別に構わないのですが、ステインのほうはどうやって倒したのかはあまり言いたくなかった焦凍くんは話を逸らすために緑谷くんへと話しかける事にしました。
「そういや緑谷、この前の話だけどいいか?」
「えっ?この前の話って僕の個性の話だよね…」
「ああ、オレがお前に『お前の個性って誰かにもらったりとかしたのか?』って聞いたやつだ」
焦凍くんが聞きたかった事を言っただけなのですが、なぜかクラス中が静まり返りみんなが焦凍くんの言葉の意味を理解しようとしたり意味がわからず戸惑ったりしているようです。そしていち早くその言葉の意味を理解し、その真意を問いただそうとしたのは当人である緑谷くんではなく爆豪くんのほうでした。
「半分野郎っ!テメェどういう意味だコラァ!」
まるで緑谷くんが中傷され庇っているかのように聞こえる爆豪くんのセリフですが、本人的には「詳しく聞きたいので説明してほしい」と言っています。聞かれて困る内容でもないので、焦凍くんは全員に聞こえるように説明してあげることにしました。
・個性とは人体の中にあるプラスαであり、そのプラスαが個性因子と呼ばれその因子によって各々に個性が発現している事
・生まれた時にその因子を有しているかいないかで個性が発現するかどうかが決まると思われる事
・そしてその個性因子を有している者は大体4~5歳くらいには個性が発現している事
・緑谷の場合は最近個性が発現したと言っているが10数年にも渡り個性因子が止まり続け突然動き出すとは考えにくい事
・異形系でもない限り個性も最初は子供のようであり、人体の成長と同じように個性も成長するため発現した最初からそこまでの威力を持つ個性というのが考えにくい事
・つまり緑谷は個性に身体のほうがついていかなく自傷しているという点からなぜか個性のほうだけが出来上がっている事
・15年以上も無個性だったのに奇跡的に個性が発現したと考えるよりも、既に完成された個性をもらったと考えるほうが今の緑谷の状況を表現するのに自然である事
・相澤先生が抹消という一時的にでも個性を消せる個性を持っているのだから、もしかしたら個性を渡す個性なんていうものがあってもおかしくない事
これらは焦凍くんがエンデヴァーの事務所にいた時に所員さんにも意見を聞きながら立てた仮説です。ちなみに焦凍くんはもし緑谷くんが個性をもらっていたとしても、それについて何かを言いたいわけではありません。爆豪くんの眉間にとっても深い皺が寄っていますが、きっと「そんな考察があったとは…」といった感じで感心しているのでしょう。
そんな焦凍くんの仮説プレゼンが終わって教室中が静まっている中、相澤先生がやってきたのでこの答えはわからないままとなりました。相澤先生の話では、職場体験も終わり期末テストに入っていくそうです。なお、その期末試験の後には林間合宿も行われるそうで、クラスメイトたちは赤点を免れるべく気合い十分といった感じでした。
その後はいつも通りに授業が始まり、お昼休みには爆豪くんが緑谷くんをどこかに連れて行ったりしていたようです。焦凍くんもお昼休みに緑谷くんに話を聞きたかったのですが、先に相澤先生に呼ばれてしまっていたため職員室へと行くことにしました。
「ヒーロー殺しの件は聞いた。ステインの両手がなかったそうだが何をやったんだ?」
「切り札を使っただけです」
「……
「まぁそうですね」
相澤先生が聞きたかったのはヒーロー殺しの事のようです。焦凍くんと戦ってそうなったというのは聞いていたのですが、相澤先生の知っているメドローアで両手だけがなくなるとは思えなかったので直接本人に聞くことにしたのでした。
ですが焦凍くんの答えが簡潔すぎてまったく内容がわかりません。焦凍くんとしてもメドオーラはまだ移動に欠点があり改善方法を模索している段階なのでまだ完成していない以上あまり言いたいと思いません。ここで教師にアドバイスをもらう等と考えつかないのは、今までの焦凍くんの人生でそういった場面に出会わなかったので仕方がない事なのです。英才教育にこんな弊害があったとは誰も思いもしません。
わざわざメドローアを指してアレを使ったのかと聞いてくるあたり相澤先生も確信を持っていたのでしょうし、一応メドオーラはメドローアの派生なので間違っていないため肯定の返事をしておく焦凍くんなのでした。
実は相澤先生はヒーロー殺しの1件で各方面から焦凍くんの事を聞かれまくっており、ヒーロー業務と教師の他に焦凍くんに関する事で3足の草鞋状態だったのです。ヒーロー殺しの最後がどうやら動画で出回ってしまっていたようで、鮮明に映っているわけではありませんでしたが戦っている紅白頭が焦凍くんだとわかる映像でした。
しかも戦いが終われば返り血すら浴びることなくステインの両手がなくなっていたというなかなかショッキングな動画だったため、動画を見た人たちが解析し特定した結果雄英高校に通う1年生でエンデヴァーの子供という事まで判明していました。
何せ焦凍くんは雄英高校の体育祭でも1位となっていますし、何よりその過程でも注目を浴びまくっています。障害物競走では参加者全員を凍らせたり、地雷エリアでは炎のカーテンで邪魔したり、対人戦の時には相手を開始早々に火だるまにしたりと話題に事欠かない生徒だったのです。
ステインの戦闘映像の他に脳無のほうも多少撮影されていたりもしたのですが、こちらは一瞬でヴィランが画面から消えるという内容だったため吹き飛ばしたのかテレポートなどで飛ばしたのかという検証がされている程度でした。さすがに誰も消滅したとは考えつかなかったようです。
その結果相澤先生はドライアイに偏頭痛というデバフ持ちになってしまい、本気で焦凍くんをB組に送りつける事も考えていたのでした。しかし焦凍くんが万が一暴走した場合に止められるのが相澤先生かオールマイトくらいなので、この先もきっと相澤先生が開放されることはないでしょう。
もうすぐやってくる期末試験……その事を考えるとまた頭痛がしてくる相澤先生なのでした。