ポジティブ焦凍くん   作:フレイザードさん

8 / 10
苦難と焦凍くん

 

「轟さん、作戦は何か考えていらっしゃいますの?」

 

隣にいるクラスメイトの八百万さんから声をかけられた焦凍くん。現在は期末試験として相澤先生と戦うことになり、ペアの相手である八百万さんとスタート位置に立っています。他の生徒たちもそれぞれペアの相手と共に別の先生と戦う事になっているのですが、どうやら個性相性なども考慮されているらしく抹消という個性を持つ相澤先生を焦凍くんの相手に当ててきたようでした。

 

「こっちで相澤先生を引きつけるからゴールに向かっててくれ」

 

焦凍くんの戦い方はあまり協力プレイに向いていないため、自身が1人で戦っている間に条件を達成する方向で提案する焦凍くん。決して『オレを置いて先に行け!』という名場面を再現したいわけでも、『別に倒してしまっても構わんのだろう?』と名言を言いたいわけでもありません。

 

エンデヴァーやオールマイトのような単騎での戦い方しか見ておらず、自身もそういった戦い方しか磨いてこなかったので単純に八百万さんが邪魔なだけなのでした。

 

もちろん八百万さんはそんな焦凍くんの意見を聞いて2人で協力すべきと反論してくるわけですが、チョロチョロされては全力を出すのに支障が出るためそれらしい言葉を重ねて説得するあたり焦凍くんの戦闘力だけではない優秀さが伺えます。

 

 

その結果見事条件を達成した焦凍くんと八百万さん。やはり開幕メドローアで相澤先生の意識を焦凍くんに向けたのが良かったのでしょう。八百万さんが移動するルートをあえて炎の海や氷の山にすることで「そこは通らないだろう」という意識の間隙を突いたのも良策だったと言えます。

 

八百万さんはそんな中を防火服などに身を包みながら必死になって移動していたので、まさに生きるか死ぬかの瀬戸際を経験する良い機会になってくれたようです。少々苦言を言われましたが、プルス・ウルトラの精神を説くと納得してくれるあたり八百万さんにも雄英高校の教えはしっかりと根付いているのでしょう。

 

 

林間合宿には全員参加という事が伝えられましたが、焦凍くんは補習になってしまいました。勉学も実習も文句を言われない程度には好成績を残している焦凍くんですが、先生たちはこの機会にみっちりと一般常識やヒーローとしての心構えなどを教え込むつもりのようです。

 

特に今回メドローアを連発され、やっと見つけて早々に個性を抹消して組み伏せてやろうと思っていたら意外にも体術でも善戦され、インターバルの間にメドローア(指)を撃たれて命からがらだった相澤先生。捕縛布で捕らえようにもメドローア(掌)で消されたりと、どちらが挑んでいるのかわからなくなるほどに苦労させられたのでその鬱憤も溜まっているようでした。

 

それと同時に事前に焦凍くんの相手をよくしているオールマイトからアドバイスをもらっていたからなんとかなったものの、一歩間違えば撃ち貫かれて死んでいただろうというのが相澤先生の感想でもあります。そのため今後はもっと自身の研鑽もやっていこうと決心するのでした。自分の今に満足せずに更に上を目指すというのはまさにヒーローの鏡です。

 

ここに『教師』と『ヒーロー』と『焦凍くん係』と『更なる自己研鑽』という並のヒーローでは到底できないような事を目指す先生が誕生したのでした。自分にも苦難を課し乗り越えようとする姿は雄英高校の教師としてとても立派なものだと思います。

 

 

……

………

 

 

期末試験も無事に終わり全員が林間合宿に行けるということで盛り上がるはずのクラスメイトたちなのですが、一部の雰囲気が険悪であるせいで何やら全体的に微妙な空気になっています。主に爆豪くんと緑谷くんが原因であり、更にそのキッカケを作ったのは焦凍くんである事は言うまでもありません。

 

しかし当の原因である焦凍くんはそんな心当たりはないため、エンデヴァーと戦ってみてわかった自身の戦闘方法の欠点を改善することを考えていました。一方の緑谷くんは精神的な面で非常に追い詰められていました。

 

焦凍くんの考察によって自分の個性が外部からの後付けであることが見抜かれ、その後に爆豪くんに詰問された緑谷くん。なんとか爆豪くんを誤魔化したつもりでしたが、爆豪くんにはそんな誤魔化しなど通用しないので何か言う度に悪いほうへ転がるばかりです。

 

一時的に借りていてまた返すのなら話は別ですが、譲り受けたのですから今は自分の個性として胸を張れば良かったのでしょう。しかし緑谷くんには無個性だったのに自分だけがオールマイトという正義の象徴から個性を受け取ったという負い目があるため強く言えないのでした。

 

せめて自分1人の時に言ってくれれば…と思わないでもありませんが、クラスメイトが揃っている中でそんな考察を言った焦凍くんを責めても仕方がありません。何せ自身も人の個性を考察してはブツブツと独り言を言って周りに聞かれたりしているので、自業自得という言葉を身を以て体験した緑谷くんなのでした。

 

そのおかげで期末試験で爆豪くんとペアとなった緑谷くんたちも補習対象になってしまっているのですが、そんな補習の間でなんとかしたいと思っている緑谷くん。オールマイトからもこれ以上どうしようもないのなら個性をもらった事を伝えても構わないと言われているので、そんな事を言ったら益々険悪になりそうな事を最終手段として考えているのでした。

 

 

そんな緑谷くんが言い訳する覚悟を決めている中、クラスメイトの仲違いの原因という意識のない焦凍くんはまた職員室に呼び出されてしまいました。呼び出される理由にまったく心当たりのない焦凍くんですので、やっぱり補習は取り消しかな?などと考えていました。

 

「この前の読書感想文やりなおしな」

 

「何か問題でもありましたか?」

 

「問題しかねぇよ」

 

相澤先生から告げられたのは職場体験中に先生たちから課された感想文の事でした。ちゃんと読みやすく簡潔に、10冊ほどの本の感想を原稿用紙3枚に纏め上げた力作だっただけに焦凍くんも納得がいきません。

 

プロのヒーローたちであればこの短い言葉の応酬で真意を察するのでしょうが、まだ学生でヒーローの卵である焦凍くんではそこまでの言語把握能力は養われていないようです。合理的な相澤先生ならばこの合理的な感想文を褒めることはあれど、やりなおさせるとは思っていなかった焦凍くん。まだまだ人を見る目も養わないといけないようです。

 

これから『ヒーローも人間である』という事などを含め多岐に渡り焦凍くんに教え込まないといけない相澤先生。頭に『除籍』という言葉が浮かばないのは、USJの時や保須市などにも現れたという脳みそヴィランなどがいるヴィラン連合という組織が出てきたのも大きな理由の1つでありました。

 

なおステインの「贋物を淘汰し本物の英雄を」という一連は撮影され拡散されているのですが、その中で焦凍くんが無傷でステインを捕まえている事から「次代の本物のヒーローは育っている」と世間では認識されているようです。体育祭では炎を操り氷を操りそのレベルの高さを見せつけただけではなく、プロのヒーローですら敵わないほどに凶悪なヒーロー殺しというヴィランでさえ倒すその姿はとても頼もしいものに見えたのでした。

 

そんな焦凍くんが相澤先生の担当するクラスへとやってきたのはきっと運命だったのでしょう。

 

オールマイトを除き、雄英高校で唯一と言っていい焦凍くんを抑えることができる存在なのですから、もし他の先生が担当していた場合はどうなっていたのか想像もつきません。当の焦凍くん本人にそんなつもりはまったくなかったとしても、やはり万が一の事も考えておくのはヒーローとして教師として当然の危機管理といえます。

 

結局感想文の何が悪かったのか教えてもらえなかった焦凍くん。相澤先生からは「どこが悪いのか自分で考えてみろ」と言われてしまったので、渋々突き返された感想文を受け取り教室へと戻っていきました。

 

 

林間合宿まであと僅かとなった頃のある日の放課後、焦凍くんは以前体育祭の時に約束した『オールマイトに相手をしてもらう』という約束を果たしてもらうために待ち合わせの場所へと向かっていました。既にオールマイトが先に来ており、そしてなぜか緑谷くんも一緒にいます。なぜ緑谷がいるのか…?と表情だけでなく全身で疑問を表していた焦凍くん。どうやら緑谷くんの用件は「自分とも本気で戦ってほしい」という事でした。

 

「轟くん、君はすごい。体育祭の時にそれは十分にわかってる。それにステインの時だって僕は見ているだけだった。でも…僕もグラントリノの下で磨いた力を君に見てほしいんだ」

 

緑谷くんとしてはここで焦凍くんと全力で戦い、自分の成長を見せた後で個性の話をするつもりなのです。ただ個性をもらったという事実だけを話すよりも、その上で磨いた力と自分の信念を伝えておきたいとオールマイトに願い出たのでした。

 

その話を緑谷くんから聞いたオールマイトは最初は断固反対していたのですが、男同士ぶつかり合わなければ伝わらない事もあるという青春イベントに感動してしまいつい了承してしまったのです。

 

 

 

その結果オールマイトは片腕を失いました。

 

 

 

最初は炎と氷で相手をしていた焦凍くんですが「かっちゃんの時と同じように僕にも本気で来てほしい!」という緑谷くんのプルス・ウルトラの精神を見てメドローアを解禁したのです。爆豪くんの時と同じようにメドローア(指)にすればよかったのですが、緑谷くんの青春の熱に当てられたのか全力を出すために弓のように構えたメドローア(ごん太ビーム)で応えた焦凍くん……そして避けずに自身の全力パンチで迎撃しようとした緑谷くんを突き飛ばしたオールマイトの右腕が犠牲になってしまいました。

 

自分のせいでオールマイトの腕がなくなってしまった事を嘆く緑谷くんと励ますオールマイト。これがヴィランからの攻撃などであれば「オールマイト……腕が!!!」「安いもんさ。腕の1本くらい…君が無事でよかった」となるのですが、ただの模擬戦闘で起こってしまっているだけに緑谷くんの後悔も一入です。

 

もはや号泣しながら自責の念で潰れてしまいそうな緑谷くんは、保健室に向かうというオールマイトに支えられて去っていきます。不慮の事故とはいえ片腕となった事でオールマイトの戦闘力の低下は否めないかもしれません。

 

しかしそこは平和の象徴オールマイト……まさに今訪れた苦難を乗り越えるため、もしかしたら最先端の義手など新たなる力を手にして焦凍くんの前に立ってくれるだろうと前向きに考えることにしました。そこにはオールマイトから焦凍くんへの気遣いや励ましを含んだ言葉の中に「この程度で終わる私ではないよ」という言葉もあったからです。

 

つまり乗り越えてみせようという意思表示だと…No.1ヒーローというものを見せてあげようという事なのでしょう。既に個性を譲り渡し、今も残り火を燃やしながら戦うヒーローに寄せられる期待にしては非常に重いと思われます。

 

しかしそんな重圧とも言えるような期待に応えてこそ、まさにヒーローと呼ぶに相応しい在り方なのかもしれません。

 

 

 

事の詳細を聞いた教師陣は「責任は全て自分にある」というオールマイトからの言葉もあって当事者2人にはお咎めなしという事に決定しました。お咎めなしといっても対外的にという意味であって、焦凍くんと緑谷くんには反省文1000枚という大作でもできそうな量を課せられてしまいます。

 

オールマイトの片腕消失という大事件。流石に雄英高校としてもヒーローたちとしても看過できる状況ではないため、急遽オールマイトのフォロー体制も整えることになりました。迅速に今後の事を決めていく教師たち……彼らはいつかこうなる事を予期していたのです。消滅ビーム撃ちまくってる生徒がいるのですから、むしろ今まで誰も犠牲になっていなかったのが奇跡だったのかもしれません。つまりこれは予知レベルで教師たちが共有していた未来だったのです。

 

念のため待機させていた当事者2人にはメンタルケアが必要か判断するために担任である相澤先生が様子を見に行ったところ、緑谷くんのほうは世界が終わったかのような絶望の表情をしておりメンタルケア必須になっていましたが、焦凍くんのほうも「もう林間合宿行かずにやらないと終わらないんじゃね…?」などと難しい表情で考えていました。

 

そんな難しい表情で考え込む焦凍くんを見て、ようやく自分の持つ力が及ぼす影響を理解してくれたのか…と、まだまだ焦凍くんの事を理解しきれていない相澤先生でした。緑谷くんのほうが放っておけば自殺するんじゃないかというくらいの状態ですから、相澤先生がそう考えてしまうのも仕方のない事です。

 

とりあえず今日はもう帰れと言われた焦凍くんと緑谷くん。

 

読書感想文のやりなおしと反省文1000枚という途方もない(課題)を相手にしないといけない焦凍くんは果たして迫りくる林間合宿までに無事終わらせることができるのでしょうか。

 

 

そしてオールマイトは平和の象徴として不死鳥の如く蘇る事はできるのでしょうか。

 

 

 

 

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