ハイスクールで「ブッ殺す!」~ペッシじゃないけど『ビーチ・ボーイ』~   作:MISS MILK

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今回は少々長いので前編後編に分けてお送りします。


第七話「姉貴と悪夢と神話とそれから」(前編)

 ──────ギ、ギギィ…………

 

 

 

 

 

 重苦しく開かれたオカルト研究部部室の扉。

 アルミ製のはずのそれは、重厚な重きを以て音を立てた。

 

 俺は、その様子を畏怖の面持ちで眺めていた。否、身体だけではない。身も心も凍てつく程、俺は内心焦っていた。

 

 なぜなら、俺は扉が開かれるその直前にした鈴のような声──────それに聞き覚えがあったからだ。

 

 

「ま……まさか、だ…………だってあれから一日も経って──────」

 

 

 俺は上がる心拍数に心配を感じる。

 

 そうだ。得てして、良い予感は当たらないが、嫌な予感は……──────

 

 

 

「久しぶりだね、ペッシ」

 

「──────―姉貴!」

 

 

 

 うっそだろお前。

 

 俺は思わず天を仰ぎ…………

 

 

「キャ!」

 

「お久しぶりです!!!!」

 

 

 リアス先輩を蹴飛ばし、手を揃え腰を直角に曲げて頭を下げる。

 俺からすれば、この非常事態に比べればこの部屋の惨状やオカ研部員などどうでもいいのだ。

 

 

「そう、堅くならなくていいんだよ、ペッシ。私と君の仲じゃあないか」

 

「いえ……そういう訳にも…………」

 

「ペッシ?」

 

「ですが……」

 

「ペッシ」

 

「俺と姉貴は血筋的に……」

 

「ペッシ」

 

「うっす」

 

 

 俺は諦めて頭を上げる。

 

 そして──────そこには金髪碧眼の少女がいた。

 

 俺は背筋を伸ばして、傍に侍る。

 

 

「けれど、本当に久しぶりだね、ペッシ」

 

「いや、数か月ちょいぐらいですよ? 会ってなかったの」

 

「そういう問題じゃ……ああ、まあ、いい。君は女心に疎いなあ。御父上を見習い給え。イタリアの人間として女の扱いを心得てないのは関心せんぞ?」

 

「…………はい」

 

「ん? 声が小さいな?」

 

「はい!」

 

「うむ。よろしい」

 

 

 何というのだろう、この尻に敷かれているような感じは……。

 

 とはいえ、従う他ない。

 俺はチラリと少女を見やる。

 

 ゴシック調のスマートな意匠のドレスに、ロングコートを合わせ、ベルトで引き締めた格好。

 頭にはベレー帽を被って、金糸と見間違うようなきめ細やかな金髪と蒼玉(サファイア)のような三白眼がトレードマーク。

 

 何を隠そう、この少女は俺の家系が長年仕えている本家の人間なのだ。

 しかも、本家当主第一子長女。その権力は巨大なファミリー内でも五指に入るほど。

 

 で、俺はそんな本家のお姫様と不幸なことに……

 

 

「ペッシ~、何か言ったかい?」

 

「…………いえ」

 

 

 …………幸運なことに幼馴染な訳である。

 

 とはいっても、俺と姉貴は二年違いの歳の差。

 姉貴は背が低く、よく中学生と間違えられるが、その実高校二年生なのだ。

 

 

「──────っと、忘れるとこだったよ」

 

「…………? そういえば、姉貴は何をしに来たんです?」

 

「それを今からやるところさ」

 

 

 姉貴は俺の前を通り過ぎ、地面に転がっているリアス先輩へと歩み寄った。

 

 それから姉貴はドレスの裾を上げ、右足を天高く振りかぶり……、

 

 

「よ、っと!」

 

「がッ──────ハッ!?」

 

「あちゃあー……」

 

 

 ドゴッ! と鈍い音を響かせて、思いっきり腹にローキックを見舞った。

 それはもう奇麗なフォームでだ。

 

 俺も思わず、「おお」と拍手をしてしまった。

 ああ、決してスッキリしたとかじゃない。

 

 

「かっ、ケホッ、カハッ……」

 

「やあやあ、御機嫌よう。リアス・グレモリー嬢」

 

 

 咳込み蹲るリアス先輩へ屈み、顔を覗き込む姉貴。

 

 

「こっちを見ろ、私はそう言ったはずだが?」

 

 

 姉貴はリアス先輩の髪を掴み、持ち上げる。

 

 ところが、プライドか血統の貴さ故か、リアス先輩は覗き込んできた姉貴に対し、睨んでしまう。

 

 あーあ。俺はそう漏らすが、既にもう遅かった。

 

 

「なんだ、その生意気な態度は?」

 

 

 ──────バチン……ッ!! 

 

 

「あ゛ぎっ!?」

 

 

 部屋に鋭い音が響く。

 見れば、リアス先輩の頬は鋭く紅葉が刻まれていた。

 

 姉貴は残酷な笑みを粛々と浮かべ、リアス先輩の顎を掴む。

 

 

「ほら、この私が聞いてやっているんだ。どうにか言ったらどうなんだい?」

 

「こんなことをしてただで──────」

 

 

 ──────バチン……ッッ!!! 

 

 

「あが!?」

 

「おや、なんとか言ったかい? どうも最近、耳の聞こえが悪いんだ。もう一度、言ってくれるかい?」

 

 

 姉貴はリアス先輩の端正な顔を掴み、目を合わせた。

 顔を近付け、もう一度頬を張る。

 

 

 ──────バチン……ッッッ!!!! 

 

 

「ぐぎぃっ!」

 

「おやおや、なんて不細工な悲鳴なんだ。まさか、公爵家長女・魔王の妹がこんな声を出すとはねぇ」

 

 

 更にもう一度、頬を張る。

 そして、それを何度も何度も繰り返す。

 

 

「うんうん、素晴らしく美しい顔だよ、キミ」

 

 

 声は恐ろしく優しい。

 

 白磁の肌が張り、喉が震える。

 その度に脳を溶かすような甘い言葉が放たれる。

 

 まあ、声に見合わず行為はえげつないのだが。

 

 

「知ってるかい、リアス・グレモリー? 君のことはギリシャ神話やローマ神話、北欧神話でも有名なんだよ?」

 

「………………」

 

 

 …………あんだけ、殴られりゃ意識も飛ぶか。

 

 リアス先輩は顔を腫らし、「コヒューコヒュー」と掠れ声を漏らしている。

 顔の肌は真っ赤に紅潮に腫れあがっているし、唇も切れているため喋るのは困難だろう。

 

 しかも、未だ姉貴に顎を捕まれたままだ。喋ろうとも口が開けない。

 

 

「なんとか言ったらどうだい」

 

「…………っ」

 

 

 オマケにもう一発。

 

 今度は手を放してフルスイング。

 リアス先輩は床を転がり、顔を打つ。

 

 ありゃ、トラウマになりそうだなー、怖いなー(棒読み)。

 

 だが、悪夢はまだ終わらない。姉貴は良い笑顔で口を開くのだった。




正式な名前は次話で出ます。

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