タイトルが仮なのは許してね。
はるか昔、この世には魔王が世界を征服しようとしていた。人々は恐怖と悲鳴を残して瞬く間にその数を減らしていった。
その行為を見過ごせないと大天使は異世界から人を転生された。その人物は『転生者』と呼ばれた。
転生者は剣と魔法を扱い、魔王に操られていた魔物を倒して、数人の仲間と共に魔王を討伐した。転生者はその名誉と功績を称えられて『勇者』と呼ばれるようになった。
そのような出来事から数百年、魔物と人間は共存を少しずつ始めていた。そしてそのような世界で唯一勇者の血を引く少年が居た。
「ふっ、やぁ、はぁ!」
彼の名前は『シグロ』。ある事情によって一人になっていた自身の身元を引き取ってくれ、強くなるために鍛えてくれる師匠が住んでいる山奥で修行を続けている人物である。
「今日も精が出るのぉ」
頑丈そうな杖で体を支えている師匠は、シグロの動きが良くなっているがまだ粗削りだと考えながらも、まだ若いから仕方無いと笑顔を浮かべる。
シグロが師匠の元へ来てから一年、13歳の少年として見るならばそこら辺で人を襲う魔物と戦えるほどの動きをしているが、自身の弟子として見るならまだまだ弱い。これに尽きる。
「シグロー! 山菜を取ってきてくれないかのぉ」
「分かった!」
同じくらいの強さを持つ誰か、もしくは自身以外の何か強大な力を持つ者が現れれば、今以上に強くなるのでは無いかと考えるが、焦らずに少しずつ強さを磨いていけば良い。時間はあるのだから。
そう考えながら、シグロが山菜を取りに行っている間に朝御飯の準備をする師匠がであった。
「これは食えて、これは食えなくて……あぁ、これは無限爆笑騒音茸か。旨くはあるけど、後が大変だから止めとこう」
修行をしていた山頂から少し降りて、山菜が生えている場所へやってきたシグロ。
生えているものを見比べながら食えるか食えないかを調べていく。途中で長い名前の笑い茸を見つけたが、旨い代わりに一日中笑ってしまう特性があるため見なかったことにした。
「ん? この足音は……また『魔物』か」
籠の半分ほど山菜が入った辺りで、自身のでも師匠のでもなく、大きさと見た目から魔物の足跡があることに気付いたシグロ。
「最近多いな、なにかあったのかな?」
本来、この山に魔物は存在しない。たまに迷い込だり、魔物が食料である動物を追いかけてくる内に登ってくることはあるが、それは月に一回あるか無いか程度である。
しかしここ最近は毎日のように魔物が山に入ってきている。シグロからすれば自身より弱いが、体格も何もかも違う魔物は良い修行相手なのであまり気にしていないが、これは明らかに異様な光景である。
「…………分かんないからいいや」
シグロは理由を考えてみたが、数秒ほど立って諦めた。考えるよりも体が動くタイプであるため、何かしらを考えようとしてもシグロには分からないからである。
取り敢えず魔物が居たら戦う。修行にもなるし、食料にもなる。シグロからすれば一度に二つの事が出来て楽になる。要するに一石二鳥である。
「この足跡を辿っていくと、アッチの方向か」
獣のようであるが、獣のそれよりも一回り大きい足跡を辿っていくとそこにはシグロの探しているモノが居た。
丸太のように大きな2本の牙、鞭のようにしなやかで長い尻尾、猪をそのまま2本足で立たせたような、凡そシグロの2倍……三メートル程の魔物が山道を歩いていた。
「今日は獣型の魔物か」
「あぁ? なんだてめぇ。ここは俺の縄張りにするんだ。人間は出てけ」
獣型の魔物はシグロの物音に気が付くと、後ろを振り向いて自身半分程度しかないシグロを見下ろした。
「断ると言ったら、どうする?」
「そうか……じゃあ、死んどけ」
魔物の言葉に対して頬を少し上げて質問をすると、魔物は残念そうな声を出しながら拳を握った。
瞬間、魔物は笑顔でシグロに向かって拳を振り下ろした。しかしシグロは後ろへ跳び、山に生えている木に足裏を着けて魔物へと勢いよく突っ込み、今のお返しかのように、拳を振るった。
「なにっ!? ぐっ!」
魔物は攻撃をかわした上に反撃されるとは思わず、地面を削りながらもシグロから視線をずらさない。思った以上の力を持つシグロに対して油断は出来なく、一瞬でも視界から居なくなると不利になるからである。
「遅い!」
「ぐあっ、ぐぅぅぅうぉぉぉぉああああ!」
シグロは空中で錐揉み回転しながら、魔物の頭へと踵落としをした。その衝撃で脳が揺れて倒れそうになるが頭を振り、雄叫びをあげて体を無理矢理起こす。
「はぁ、タフな奴を相手するのは面倒だね……」
「許さねぇ、お前だけは絶対に許さねぇ! ぶっ殺してやらぁぁぁ!!」
耳を塞ぎたくなるほど程の声をあげ、魔物はシグロを睨み付ける。本人からすれば見下していた人間に反抗され、たった二撃で追い詰められそうになっているのだ。逃げようと思えば逃げられるだろうが、本人のプライドが許さなかった。今すぐ目の前に居る人間を血祭りにすることしか考えていなかった。
「そんなに許さないって言うなら別にいいさ。かかってきなよ」
その言葉が合図となったのか、魔物は両腕を広げてシグロは迫っていく。大方、シグロを両手で掴んで握力で命乞いをするまで握り潰そうと考えているのだろう。しかし、シグロにはそんな簡単な策は通じない。
「じゃあね」
魔物の両腕をすり抜けるようにして懐に入り、顎目掛けて拳を天高く振り上げた。
脳は揺れ、視界がぼやける。朦朧とする意識の中、魔物が自身は空を見上げているのだと認識すると同時に地面へと背中を着き、そのまま動かなくなった。
「ふぅ、終わった終わった。じゃあこいつを持っていって早く師匠の所へ帰ろう」
こうしてシグロは倒した魔物を担いで、師匠の元へ戻っていく。
これが、シグロの日常。師匠の元で体を鍛えて、山に入ってくる敵対的な魔物を修行感覚で倒して、師匠の元へと運んでまた体を鍛える。それこそがいつも通りの日々であり、日常であった光景である。
日常は唐突に終わりを告げる。例えそれが平和であろうと、地獄であろうと構わず。
【昔話】
超要約すると「神様に転生させられて魔王倒したら勇者と呼ばれたお」って話です。
【シグロ】
この作品の主人公で13歳。師匠の元で修行しており、魔物に勝てる程度には強い。主に拳で戦う。
【師匠】
主人公の師匠。お爺さんだけどとっても強い。主に拳で戦う。