「師匠、今日も山を見てくるよ」
「あぁ、ちょっと待てシグロ。今日は客が来るから家に居てほしいんじゃ」
獣型の魔物を倒してから数日後。シグロは今日も山を見てくると言う建前で山に入ってきた魔物を倒そうとしていた。
しかし師匠に呼び止められ、不満げな顔で家にトボトボと戻っていく。
「そう不満げな顔をすんじゃない、お前さんに会わせたい相手が居るんじゃ」
「会わせたい相手?」
シグロは疑問を浮かべながら師匠の顔を見る。シグロは師匠と山奥で二人で暮らしているため、人と会うことは殆ど無い。
たまに山へ入ってくる人間は居るが、そういう人物は極度の方向音痴で道に迷ったか、何か犯罪を犯して逃亡してるかの二択である。
だからこそ珍しかった。師匠に知り合いが居たことと、この山にちゃんとした目的があって人が来ることが。その上、自身にも用事がある相手が居ると言う。自身のことを知ってる人物は殆ど居ない筈なのに、一体誰だろうか……期待と不安を胸に抱いてその客が来るのを待つことにした。
「もしもーし! ここに格闘家バカは居るー?」
しばらくすると、玄関の方から声が響いた。それはシグロが聞いたことがない女性の声であったが、師匠は聞き覚えがあるのか、玄関の方へと走っていき扉越しにその相手に飛び蹴りをした。
「誰が格闘家バカじゃあ!」
「師匠!?」
いつも穏やかで、縁側でお茶ばかり飲んでいる師匠が廊下を走り、玄関へ蹴りを入れたことに驚きを隠せないシグロ。
シグロは自身の知っている師匠が何処かへ行ったような感覚に陥り、目の前の光景を処理できずにポカンと口を開けてそれを見守る。
「全く、危ないわね。親友との再開を飛び蹴りで済まそうだなんてね」
扉が家主によって壊されると同時に、玄関前に立っていた人物が見えるようになった。
黒い三角帽子に黒のマント、先端に宝石のようなモノが付いている杖、長い金髪とブーツ、ある魔物の特徴である細長い耳をしている女性は師匠の蹴りを抑えていた。
「やっぱり儂の蹴りは読まれておったか」
「魔法って便利だよね~近接攻撃すら防げるんだからね」
「そんな使い方をするのはお主だけじゃろ……」
よく見ると師匠が放った蹴りは女性の目の前で止まっていた。それは当たる寸前で止めたと言うより、空中で壁にぶつかっているかのように。
「ま、魔法……? 魔法ってあの魔法?」
シグロは『魔法』と言うモノは聞いたことはあったが、その目で見たことはなかった。昔聞いた話では火を操ったり、空を飛んだり出来ると聞いたが、シグロには目の前で何が起こっているのか分からなかった。
魔法の知識が殆ど無いのと、魔法と言うもの自体を初めて見たからである。
「あれ、君は魔法を見るのは初めてなのね」
女性の言葉にシグロは何回も首を振る。
その光景が面白かったのか、女性は少し笑うと後ろを向いた。
どうしたのだろうかと思いながら玄関から出た。師匠はいつの間にか蹴りを止めており、女性と同じ方向を見ていた。
「ならあの子と会えば良い刺激になるかもね」
「あの子?」
シグロがそう呟くと山を登ってくる少年が見えた。その少年はシグロよりも二つほど歳が上だろうか。女性と同じ帽子とマントを付けており、長めの杖を振り回すように持ちながら、叫び声を挙げ、此方へと走ってきていた。
「ぬおぉぉぉはあぁぁぁ!! やっと着いたぁ!」
「お疲れ様だね~」
「お疲れ様じゃねぇよシショー! なんで俺を置いてったの? ねぇ、置いてく必要ねぇだろ。あんただけ飛行魔法で飛んでいきやがって。俺まだ覚えてねぇから知ってるよね? 仕方がないから全力疾走してきたよ、俺は魔法使いだから体力無いのにさ!」
「なんじゃこやつは……」
師匠は家の前で急ブレーキをかけて女性に向かって文句を言いまくる少年に対して冷たい目を向けていた。シグロも知らない少年を見て「うわこいつやべぇ」と思って、距離を取ろうとした。
「お? お前がシショーの言ってた爺さんの弟子か。俺の名前はウォルドだ。俺の夢は『誰も死なない世界を目指す』これ一つだ!」
「え、あ、あぁ。オレはシグロだよ、よろしく」
ウォルドと名乗った少年はシグロの肩をバンバンと叩きながら高笑いをする。異様にテンションが高かったり、自身の夢を唐突に言うウォルドに対して苦笑いをしながら場をやり過ごそうとする。
「珍しいね、ウォルドがあんなにテンション高いなんてね。歳が近い子と会えたからからかもね」
「いつもがどうかは知らぬが、あれはそれだけじゃないじゃろ……」
女性はウォルドを孫を見守るお祖母ちゃんのような瞳で笑顔を浮かべる。そんな女性に対して、師匠は冷静に物事を見ながらため息を付く。
「そうえばウォルド、ここに来るの遅くなかった? 道にでも迷ったのね」
ウォルドを止めようとしたのか、唯々今になって思い出したのか。女性はウォルドに向かって質問をする。
真面目な質問だと感じたのか、シグロの肩をバシバシと叩くのを止めて頭をかきながら口を開いた。
「実は山登ってる途中で魔物に会って、突然襲い掛かってきたから倒してたから遅れた。ついでに道にも迷ったから遅れた。関係ないけど、途中で拾い食いした」
「後半二つが主な理由に思えるんだけどね~?」
「シショー……そんな細かいところ気にしてるとシワが増えるぞ」
正直なのは良いとは思うんだけど……そう思いながら、ため息を付いてこめかみを抑える。
そんな女性を見かねたのか、ウォルドはキメ顔で細かいことは気にするなと声をかける。言葉が悪かったのだろう、たった一言でウォルドは女性の怒りを買った。
「ほらほら、そんな言葉を言うのはこの口かね~」
「
「ハハハ……って、ウォルドちょっと良い!?」
女性はウォルドの頬を掴んで限界まで引っ張った。ウォルドは痛いと抗議するが、女性は聞く耳を持たず頬を離す気はない。
シグロはその光景を眺めていたが、ウォルドが先ほど言ったことを思い出して女性を止める。
「どうした、魔物なら魔法で倒して山に放置してきたぞ。浮遊魔法も筋力もない俺だと運べないからな」
「ふ、浮遊魔法? いや、それよりも魔物を倒したって本当?」
シグロは浮遊魔法や、先ほどの飛行魔法と言ったモノが気になるが一旦置いておくことにし、一番気になっている魔物を倒したことについて聞いた。
「あぁ、本当だぞ。このババ……シショーに教わった魔法があればイチコロさ。シショーに使ったら俺がイチコロにだけど」
女性に一言余計だよと言われるが聞こえないふりをしているウォルドを見て、シグロは頭を回す。
魔法そのものが強いのか、それともウォルド自身が強いのか……さっきの女性は師匠の攻撃を魔法で受け止めていた。
なら、少なくとも魔法そのものは強力なのだろう。魔物を倒せるほどの実力者であるのは間違えないようだし、戦えば何か見えてくるものがあるかもしれない。
そう考えてシグロは口を開く。
「なぁウォルド、オレと勝負しよう」
「え?」
「…………あぁ、いいぜ!」
シグロの言葉に一瞬ポカンとした表情をしたウォルドだったが、ニヤリと笑い杖を強く握った。
【ウォルド】
魔法使いで15歳の少年。杖と帽子を持っている。
【シショー】
ウォルドの師匠。シグロの方の師匠と区別するため、シショーと呼んでいる。