薄暗い、どこまでも続く薄明の空間に、『彼』は浮かんでいた。疲れ果て、そして全てをやり終えた『彼』は、意識を完全に手放して眠り続ける。彼自身が、どこまでも続く蒼穹に抱かれていると信じて。『彼』を
その『彼』を見下ろす、1つの影があった。いや、それは1つだけであっただろうか。たしかにその影は、1つに見える。しかしそれは、千にも達する多くの存在へと姿を変える。だが次の瞬間、再びそれは1体の人?の影へと存在を収束させた。
「やれやれ、失敗したなあ……。九郎ちゃんを鍛え上げる障害として配置したはずの『駒』だったのに……。
九郎ちゃんが
黒づくめのスーツを着用した、眼鏡の女に『見える』その存在は、肩を竦める。
「九郎ちゃんとマスターテリオンを使っての計画は、完全に失敗に終わった……。次の計画を立てるにも、正直なところ何をどうやったものか……。最初から計画の立て直しってのは、頭が痛いよね」
「ふ、では少し休みを取って遊ぶのも悪くはないのではないか? なあ、ナイア」
黒づくめの女の影から湧き出て来た、ターバンを巻いた浅黒い肌の黒衣の男性が、にやりと笑いつつ語る。黒づくめの女は動じた様子も無く、空間に亀裂が入ったかの様な笑みを浮かべた。この男も、この女も、『ある存在』の分魂、分身、化身、一部にして一側面であり、同時に本体でもあり得るというややこしい存在なのだ。
「おや、黒の
「ふ、してやられたよ。武公君は最後の最後で、正解を掴み取った。それに敬意を表して、もう彼自身には手は出さんよ。
もっとも、『
「やれやれ……」
「グオオオォォォン……」
もう一柱、新たな影が現れる。3本脚で某映画のエイリアンの様な胴体を持ち、頭部は存在せず太い鞭の様な触腕の様なものがそこから伸びてうねっている。やはり色調は、影の様に黒い。
「……なるほど。どうせ遊ぶならば、せっかくココに存在しているんだから、コレを使えばって事かい?」
「グオオオォォォン……」
三柱にして千柱にして一柱であるその影たちは、薄明の空間に横たわる『彼』に向かい、空間の亀裂にも見える笑いを……嘲笑を向ける。『彼』は未だ目覚めない。そしてナイア、黒の
幾多の、無数の化身が姿を現す。しかしその数は一柱とも千柱とも分からない。そしてその存在たちは、『彼』に対して次々に力を与えて行った。
『ククク、そう言えばコレは『ナコト写本』を『喰らって』いたんだったね。でもせっかくの『リベル・レギス』が
ああ、普段使い用に『ハンティング・ホラー』も付けてやろう。動力になる魔導書はどうしようかな? 『ナコト写本』の、ギリシャ語版でも埋め込んでおこうか』
『ではわたしは、『
『グオオオォォォン……』
『ほう、ではわたしはわたしの活動している世界における、『ネクロノミコン』の原書である『キタブ・アル・アジフ』でも贈ってやろう。まあ、ナイアの世界のソレと違い、魔導書の精霊は宿っておらぬがね』
『ガガガ・ガガガガ・ガガガ……』
『ふむ。ならばあたしは、『サンの七秘聖典』を贈るか』
『僕は『エイボンの書』にしようか』
『では自分は『黄衣の王』かな』
『魔導書ばかりではバランスが悪いな。溜め込んだ科学知識を与えてやろうか。発狂しかねないレベルの物をな。ククク……』
『コレはもとより発狂しているのではなかったか? だが狂気に堕ちたままでは、ちょっと面白く無いな。霊的な加護を与えて、疑似的に……。あくまで疑似的に、正気を保たせてやろう。いつ壊れるかわからない、疑似的な正気をね。ククク……』
『その辺の調整は任せた。ではわたしは『無名祭祀書』でも……』
『ゴオオオォォォ……』
『なら『ルルイエ異本』でも』
『だったら『エルトダウン・シャーズ』なんかも面白いよね』
『じゃあ我は……』
『それでは小生は……』
一柱にして千の姿と人格を持つその存在は、気分が赴くままに『彼』に対して手を加えて行く。その多くは、『彼』に数多の魔導書を埋め込むと言う手法であったが、一部では直接的な加護を与え、一部では超科学技術の知識を与える場合もあった。
そして幾多の化身は、いつの間にかたった1つの
『『『『『『さあ、ではコレを送り出そうか。コレは世界に破滅をもたらすのか? それとも救いとなるのか? まあどちらでもいい。僕はこれ以上の手出しをせずに、その過程をこそ、楽しませてもらおう。はははははは! あはははははは!!』』』』』』
そして這いよる混沌、無貌の神ナイアルラトホテップは『彼』をある並行異世界へと落とし込んだ。『彼』はそのまま落ちて行く。墜ちて行く。おちていく。
後にはたった1つの千の笑声が残る。薄明の空間に、高らかに笑声が響き渡った。
*
『『『『『『あはははははは!! はーっはっはっはははは!! はははははは!!』』』』』』
*
こうして『彼』は、『世界』に降り立った。『彼』の半分は、ナイアルラトホテップが邪悪な目的を達成せんと創造した世界に於いて、『主役』を鍛え上げるための試練、障害として置かれた『駒』だ。そしてもう半分は、その『駒』が擦り切れつつあったため、補修用の材料として使われ消費されてしまったはずの、何処かの世界から漂ってきた死者の霊魂である。
『彼』には『駒』として生きた生涯の記憶と、補修材料として使われた死霊の記憶の両方がある。双方の霊魂は完全に融合し、完全に結合していた。
そして『彼』は、今日も
「変……神……!!」
「!? その姿……。まさか、お前も……? お前も仮面ライダーなのか?」
『……
そんなわけで、サンダルフォンことリューガは強化再改造された上で『仮面ライダーSPIRITS』世界に落っことされました。せっかく青空に抱かれて、あの世に行けるはずだったんですが。ナイアルラトホテップは、多分もう出て来ないかと思います。世界の外から、嘲笑いつつ眺めているんでしょうね。
あと、本作品を読む上で、仮面ライダーSPIRITS原作を既読の方がいいですね。できるだけ原作知識なしでも読める様にしたいと頑張ってはいますが、なかなか難しいです。