昏き天使と仮面ライダー   作:雑草弁士

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004話・BADANの再動

 BADANが世界中の空軍基地を撃滅してから、4ヶ月が経過した。あれから後、BADANはなんら動きを見せず、鳴りを潜めている。

 そんな中、ライダーマン……結城丈二は、本郷たちにサンダルフォンが引き渡した3枚のデータディスクの解析を行っていた。だが結城の頭脳をもってしても、情報ごとに別種の暗号化をかけられている執拗なまでの内容隠蔽には、かなり苦戦している。

 結城は各仮面ライダーに通信を送り、これまでの情報を共有する。

 

『今まで分かった事を伝える。以前に話した事と内容が重複する部分もあるから、それは勘弁してくれ』

 

『ああ、了解だ』

 

『ちゃっちゃと教えてくれや、結城さん』

 

『ああ、まずはBADANと言う組織についてだ。かつて仮面ライダーが戦って来た悪の組織、ショッカー、ゲルショッカー、デストロン、GOD機関、ゲドン、ガランダー帝国、ブラックサタン、デルザー軍団、ネオショッカー、ドグマ王国、ジンドグマ。これらの背後に居たのが、BADAN……。

 と言うよりは、これら組織の首領、大首領、それらはBADAN大首領の『影』でしか無かったんだ』

 

 そして結城は、次々に情報を開示して行く。

 

『BADANの最終目的は、既に皆が知っている通り、地球の全人類の魂を『何か』のエネルギー源として用いるべく、全人類の抹殺だ。だがディスクの情報の解析結果から明らかになった、もう1つの目的がある。

 BADANの大首領は、今現在何処かの異空間に幽閉されている。それまで腹心の部下であった者に裏切られてな。そしてその『牢獄』から思念の糸を伸ばして、各々の組織の大首領などを操っていたんだ。BADANのもう1つの目的、それはBADAN大首領を何とかして、その『牢獄』から救出する事なんだ』

 

『『『『『『!!』』』』』』

 

『その具体的方法については、まだデータディスクの解析が終わっていない。と言うか、このデータディスク内にその情報があるかどうかも分からないんだが。

 それと、風見……V3が叩いた黒いピラミッドのミイラの改造人間なんだが。あれは拉致した人間を長期保存するための、素体としての改造手術の様だ。……奴らはあれを素体として、これまでに敗れた怪人魔人、改造人間を復活、再生できる。ただの再生怪人よりも数段上、生前と変わらないかソレに迫る戦闘能力を持って。

 幸いなのは、一部の特殊な処理を施された怪人以外には、かつての魂が宿らないという事だろう。単なる操り人形に過ぎないんだ。その方が扱いやすいという側面もあるのだろうが、大半は破壊力だけの獣に過ぎない。……とりあえずは、このぐらいだ』

 

 結城の説明が終わる。仮面ライダーたちはBADANの動きを探るべく、世界各地に散った。

 

 

 

 

 

 

 ICPO本部のモニターの中に映し出された夜空に、ぼおっと輝きが灯る。それは光り輝く3つの紋様だ。その紋様は天空に円を描く様に動き、光で魔法陣を構成して行く。地上でそれを見た人々は、(おのの)き恐れた。

 

『な、なんだアレは!』

 

『あれもバダン!?』

 

『な、なん……だ? あ? あああっ!?』

 

 突如として魔法陣の中央部がうねり、光が渦巻いた。その渦巻は地上で恐れ見守っていた人々を、次々に大空へと吸い上げ、吸い込んで行く。

 

『うわあああぁぁぁ!?』

 

『空に、空に吸われるうぅ!?』

 

 そう、これはBADANの4ヶ月ぶりの作戦である。魔法陣は異空間を使い、別空間へとつながるゲートだ。この魔法陣を使い、BADANは世界各地の大都市から人間を狩り集めているのである。

 

 人間を吸引、吸収する魔法陣は、世界の都市の大空に展開されている。東京、ロサンゼルス、パリ、モスクワ、シドニー、香港、北京、サンパウロ、ロンドン……。ICPOで協力者として扱われ、世界各地の仮面ライダーたちに指示を出していたライダーマン、結城は唇を噛む。

 

(モスクワは洋と一也、パリは風見と敬介、シドニーは茂とアマゾン、ロスには本郷さんと一文字さんが急行している。だが東京には滝さんとアンリの仮面ライダーでは無い人員のみ。他の香港、北京、サンパウロ、ロンドンに回せる戦力は……)

 

『もっとだ! もっと寄せろ!』

 

 東京にいる滝の声が、通信機越しに聞こえた。結城の表情に、形だけかも知れないが余裕が戻る。そうだ、まずはやるべき事をやらねばならない。結城は通信機のマイクに向けて、言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 通信機から、結城丈二の言葉が聞こえる。

 

『沖一也の話によれば、シャトルを飲み込んだ円形のホール……魔法陣は、空間をこじあける事で『場』を作っている。おそらくそれを維持させているのは、周囲の円形状の光だ。渦の中ではなく、外側の光に衝撃を与えれば……』

 

 その言葉に、輸送ヘリコプターの扉を開け放して外を見遣っていた滝が、グレネードランチャーにグレネードを装填する。そして彼は叫んだ。

 

「ありったけでいこうぜ。考えんのはそれからだ。……オラァ!! 1人も渡しゃしねえ!!」

 

ドン!! ……ドガアアアァァァン!!

 

 東京上空で、人々を吸引している光の渦のフチに、滝が撃ったグレネードが着弾した。すると唐突に、光の渦がうねり、歪んで、吸引をいったん停止する。

 

「へっ、意外とモロいじゃねえか!! どうりで空軍から叩くワケだ!!」

 

 そして地上から、一筋の光が飛び上がる。

 

「トオォ!!」

 

 両脚からジェットを噴いて、天空へと駆け上がるその姿は……。BADANの改造人間ZX(ゼクロス)である。ごく一部の者しか知らぬ事であったが、BADANにより洗脳されていた彼は、なんらかの偶然かそれとも必然か、奇跡的に洗脳状態を脱し、脱走してBADANへの戦いを挑んでいたのだ。

 そして天空へ飛翔したZX(ゼクロス)は、全身を真紅に輝かせて光の魔法陣の外縁部へとZX(ゼクロス)キックを見舞う。次の瞬間、光の魔法陣は爆発して粉々に粉砕される。

 

「き……」

 

「消えた……」

 

「や、やった!」

 

「やったぞーーー!!」

 

 地上の人々は喜び叫ぶ。そして空中に吸い上げられていた人々が、ぼたぼたと地面へ落下してきた。

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、モスクワで……。

 

「チェーンジ! エレキハンド!!」

 

「スカイキック!!」

 

 

 

 

 

 

 そしてパリで……。

 

「V3……キイイィィック!!」

 

「X……キイイィィック!!」

 

 

 

 

 

 

 シドニーで……。

 

「ガアアアァァァ!!」

 

「超電……パアアアァァァンチ!!」

 

 

 

 

 

 

 ロサンゼルスで……。

 

「「ライダー……ダブルキック!!」」

 

 

 

 

 

 

 ICPOの本部で、結城はモニターを眺めていた。仮面ライダーたちが間に合った各地の魔法陣は、全て跡形もなく破壊されている。東京、モスクワ、パリ、シドニー、ロサンゼルスの民衆は救われた。……だが、仮面ライダーたちの手が届かなかった都市もある。

 結城は、機械化されている己の右腕を、壊れそうな程の力をもって握りしめる。

 

 だが、その眼が見開かれた。

 

 

 

 

 

 

『……ネオ・ブラックロッジ、出陣だ』

 

「「「はっ!! 大導師の命のままに!」」」

 

 

 

 

 

 

 ロンドン上空に、突如として巨大な影が出現した。まるでドラム缶の様な胴体をした、全高80m余りの巨大ロボットである。その数、12機。ちなみに先頭を飛んでいる青い色をした指揮官機以外は、人工知能(AI)操縦の無人機だ。

 

「全破壊ロボに告ぐ。目標、魔法陣外縁部。遠慮はいりません、破壊光線をお見舞いしてやりなさい」

 

 12機の破壊ロボから、ビームが放たれる。それはロンドン市民を吸い込みつつあった魔法陣の外縁部に、わずかなズレも無く叩き込まれた。瞬時に魔法陣は打ち砕かれ、爆散する。

 吸い込まれつつあった人々は、ばらばらと地面へと落下して行った。

 

 

 

 

 

 

 香港上空にも、破壊ロボの集団は出現していた。こちらは赤い色をした指揮官機に率いられている。そして指揮官機からの指示が飛んだ。

 

「おらぁ! あの魔法陣を叩き壊せ! 兵器使用自由(オールウェポンズフリー)だ!」

 

 破壊ロボの群れが、ビームだけでなくミサイル、機銃まで使って魔法陣を破壊する。人々が、空中から落下し始めた。

 

「破壊ロボども! 救助活動開始だッ!! せっかく救った命、取りこぼすな!!」

 

 赤い指揮官機が、エンジンを噴かす。12機の破壊ロボは、落下しつつある人々に向けて飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 ここは上海。ここでもBADANの魔法陣は、緑色の指揮官機に率いられた合計12機の破壊ロボにより、粉砕されていた。そして破壊ロボ群は、空の魔法陣に吸い込まれかけていた人々、そのまま落下したら怪我をしかねない人々を、次から次へとトラクタービームで救助して行く。

 

「……くそ。間に合わず拉致されたのが11人。落下した事による負傷者が29人。多いと見るか、少ないと見るか……」

 

 緑色の指揮官機操縦席で、操縦者が毒づく。そして全ての救助活動が終わると、破壊ロボ群は再び空の彼方へと飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 南米の都市サンパウロの上空にも、BADANの魔法陣は輝いていた。人々が、それに吸い込まれていく。

 

「わあああ!!」

 

「きゃああぁぁっ!!」

 

「た、助けてくれ!!」

 

 そして夜空に、エンジン音が響く。

 

ドルルウウン!! ドルルウウン!!

ドルン! ドルン! ドルルウウン!!

 

ギャギャギャギャギャッ!!

 

 凄まじいホイールスピンの音を立てて、1台の大型バイクが駆けた。大空を、夜空を駆けた。車輪からは摩擦で激しく火花が立ち上っている。その大型バイクは、『虚空そのものを路面として』天を駆けていたのだ。

 

 バイクの名を、ハンティング・ホラーと言う。乗り手は漆黒の天使、サンダルフォンだ。彼は呟く。

 

『……喰らい破れ、ハンティング・ホラー』

 

 ゴオッという風切り音を立てて、ハンティング・ホラーは夜空を駆ける。大空を駆けるその車体が、魔法陣に突撃。そしてその前輪が、魔法陣の外縁部を『喰らった』……。

 

パァン!!

 

 風船が破れる様な音と共に、あっけなく魔法陣が消滅する。爆発も何も無い。そこに何も存在していなかったかの如く、消滅してしまったのだ。そして魔法陣に吸い込まれつつあった人々が、重力に引かれて落下を始める。

 

「きゃ……」

 

「わ、わあああ!?」

 

 そして昏き天使(サンダルフォン)が呪文を唱えた。

 

無究光(エイン・ソフ・オール)照らせし(とお)神柱(セフィロト)魔書(グラン・グリモール)()りて、四言神諱(テトラグラマトン)駆動(くどう)せしめよ。

 (ふか)基層(イエソド)を、母胎(ラクヘス)聖合(せいごう)せしむるがゆえに』

 

 サンダルフォンの両の手から、その指先から、幾本もの……無数の光の糸が伸びる。それは落下する人々を捕らえると、そっと地面へと降下させた。

 その場の人々が助かったのを見遣ると、サンダルフォンはハンティング・ホラーのハンドルを取る。そして空中でアクセルターン。ハンティング・ホラーのタイヤが『虚空を噛んで』火花を散らす。次の瞬間ハンティング・ホラーは空の彼方へと走り去って行った。

 

 後には涙を流し、神が昏き天使を遣わしてくれた事に感謝の祈りを捧げる人々が残された。

 

 

 

 

 

 

 滝はバイクに跨って湘南海岸の堤防の上から、よろよろと浜辺を歩く1人の男を見下ろしていた。その男は、あのBADANの改造人間ZX(ゼクロス)の人間態である。ZX(ゼクロス)は見るからにズタボロで、かなりの傷を負っている。

 

「……滝、久しぶりだ」

 

「!!」

 

 突然掛けられた声に、滝は心臓が止まりそうになるほど驚いた。彼は必死で叫び声を上げるのを我慢する。ここで叫んだりしたら、ZX(ゼクロス)に見つかってしまう。

 

「……サンダ、いや、今はリューガか」

 

「この姿では、そう呼んでもらいたいな。アレがBADANから脱走した改造人間か」

 

「!? ……リューガ、お前さん何を知っている?」

 

 滝の鋭い目に、リューガは肩を竦める。

 

「そうだな。奴のコードネームは『ZX(ゼクロス)』……つまり『最後の者』だ。捕まえたコマンドロイドの脳みそから引っこ抜いた情報だから、確かだろう。そして……。奴はBADANを裏切った」

 

「!?」

 

「いや、裏切りも何も無いか。奴は洗脳されて、兵士どころか自由意志の無い兵器扱いされていたんだからな。何かの間違いで洗脳が解けてしまった奴は、BADANを脱走して戦っている、らしい」

 

 リューガの言葉に、滝はZX(ゼクロス)の方へと目を遣る。よろよろとズタボロの身体を引きずって、ZX(ゼクロス)は岬にある洋館を目指して歩き続けた。

 リューガは平板な、感情のこもらない声で続ける。

 

「奴は今、地獄にいる様な物だろうな。洗脳されていたからと言って、意識が無いわけじゃない。幾多の、無数の屍を築き上げた記憶は、奴の中に刻み込まれているはずだ。それをついうっかりと取り戻してしまった正気で見つめた時、どう思うかな?

 洗脳されてたから、法的には責任能力なんて無いだろうさ。けれど、当の本人はそれで自分を誤魔化せるかな? 新宿で、無辜の人々を必死で救った、善良と言っていい性根を持つ男が、幾多の肉を裂き、幾多の骨を砕いたその記憶に……耐えきれるか?」

 

「……」

 

「正気なんて……取り戻すもんじゃ、ない」

 

 そのリューガの言葉には、先ほどの平板な声とは異なり、滝にはうかがい知れないほどの圧倒的な苦悩と苦痛が刻まれていた。そしてリューガは滝に、先ほどまでは確かに持っていなかったはずの3つのトランクケースを投げ渡す。滝は慌ててそれを受け取った。

 

「お、おい。これは?」

 

ウチ(ネオ・ブラックロッジ)で開発した、装甲倍力服(パワードスーツ)だ。まるで仮面ライダーのベルトみたいな造りをしてるから、ヘソの部分に当てて赤いスイッチを押せば、自動的に身体に装着される。仮面ライダーとは言わんが、怪人クラスのパワーと防御力が得られる。

 ただし……。それは本来、最低でも戦闘員クラスの低位改造人間が装着する事を想定して、開発された物だ。生身の人間が着ると、せいぜい保つのは3分間だ。それ以上装着し続けると、身体がイカれるぞ」

 

「げ……」

 

 リューガは踵を返し、歩き出す。だが声だけは響いてくる。

 

「その装甲倍力服(パワードスーツ)自体が装着者のバイタルをチェックして、危険域になったらベルトのカラータイマーが青から赤になる。そうしたら、急いで装甲倍力服(パワードスーツ)解除(パージ)しろ。自動的な解除システムは、組んでない。いざと言う時には身体がブチ壊れても、死中に活を見出す意味で、使い続ける事ができる様にな。

 ただし、身体は確実にブチ壊れる。その場合は引退か、もしくは改造手術を覚悟して使え。……3つのうち、1つは分解調査用だ。普通は信用とかできないだろうしな。それと、もし使えると思ったら、分析してソッチで量産して使えばいい」

 

「ま、待てリューガ! なんでコレを俺に?」

 

 その問いに、リューガは首だけ振り向いて答えた。その瞳が(すが)められる。

 

「あんた、無茶し過ぎだ。いつ死ぬかわかったもんじゃない。あんたが使ってる装備品、防御力も破壊力も、BADANと殺り合うには、全然足りてないだろ。

 ……あんたが死んだら、スパイク達が悲しむだろう? だからだ。あの子らが、笑ってられない世界なんて、間違ってる」

 

「!! ……そうか。俺はあいつらに、護られてるん、だ、な」

 

 そして気付けば滝は、ただ1人になっていた。リューガの姿は、いつの間にか見えなくなっている。まるで幽霊にでも遭ったかの様だ。しかしそうでない証拠に、滝の手元には3つのトランクケースがある。

 

 しばし後、滝は頭を掻いて溜息を吐く。そして彼はバイクのエンジンを掛けると、人間態のZX(ゼクロス)が赴いたと思われる洋館へと走り出したのである。




 最後の部分を書いていて、ふと思いました。滝さんにこんな物(パワードスーツ)渡したら、余計に無理すんじゃね?
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