TALES OF NEXUS~テイルズオブネクサス~ 作:瑠璃。
「く、クソッ!!!」
「何をするつもりだ」
ヘルエナ・ジクザスが徐に取り出したのは掌サイズの宝珠だ。ノエルの耳に、脈打つ
ような音が聞こえた。グラヴィスは顔を強張らせる。ノエルは息を呑んだ。これは
ただの宝珠ではない。ヘルエナは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、説明をする。
「青の恩寵が何だって言うんだ!これはその祝福さえも凌駕する神からの真なる
祝福だ!勝てるわけが無かろうが!!」
「使うな、ヘルエナ!そんなものは祝福ですらない。人の理性も、秩序も破壊する
瘴気の塊だ。人間が、生物が手にして良いモノではない!!」
禁忌とされ、存在を全ての記憶から抹消された災厄。ヘルエナが持つそれの正体は
害となるマナの塊、災玉という。知っている者はいないともされている道具を持ち、
ヘルエナは行使する。誰から教えられたのか、誰から手に入れたのか。分からない。
声を荒げ、ヘルエナの体が異形の物に変化した。
「黒い…竜!」
大気を振るわせる咆哮を放つ。決闘場の石段が砕けて、吹き飛ぶ。黒い竜は
大きな羽を広げる。
「瘴気による竜化には段階がある。加えて個人差もな。普通に暮らしている者、
特別瘴気に強い人間ならば竜化はしない、竜化は一定の範囲で停止する。しかし
瘴気に侵された人間が誰かに害を為すような事を自主的にしていた場合などは別。
竜化の速度は速い」
ヘルエナは悪になるようなことをしていた。反省もせず、自己中心的な性格の
彼の竜化速度は常人より早い。グラヴィスは矢を番える。狙いを定めて、矢を
放つも、それを簡単に弾いてしまった。
「うわっ!」
「ヘルエナ様!!きゃああぁぁぁ!!!?」
竜はキリカの体を掴んだ。最早、彼女の姿など映っていない。どんなに藻掻こうと
人間の力では竜の握力から逃れることは出来ない。
「ならば、斬り落とすだけだ」
「無茶だ!竜の表皮は並の斬撃では傷付けられんぞ!」
グラヴィスは身を乗り出して叫んだ。その声を遮るように巨大な翼を広げ、
大きく咆える竜。オスカーはその声を無視して跳躍する。
「絶水剣ブルースター」
振り上げていた剣を落下と同時に振り下ろした。青いマナで覆った巨大な刀身は
頑強な竜の装甲をものともせず腕を切断してしまった。痛覚があるようで竜が
苦しむような声を荒げ、巨体を暴れさせる。共に落下するキリカを自分の方に
引き寄せてオスカーは着地した。
「当主様…」
キリカは悔しそうな顔をしていた。知性と忠義、どちらも自分こそが持っているはず
だというのにどうして彼が選ばれているんだ。理解できなかった。認められない。
「キリカ」
「グラヴィスさん…」
「どうして、そう言いたげだな」
「だって、私の方が一人に対して強い忠誠心を持っています!知性だって、
私は全てをあの人の為に―」
グラヴィスは首を横に振った。それを全て否定したのだ。
「それは本当か。青の恩寵が望んだ形とはまた違うのではないのか」
「そんなことはあり得ない!」
グラヴィスの言葉すらもキリカは否定した。
「盗賊に青の恩寵は力を貸さない。人を信じるなとは言わないが、少し
疑うことを覚えろ。生真面目なのは良いが、時には柔軟に…な?」
キリカは渋々と言う風に頷いた。確かに自分は少し頭が固かったのかもしれない。
既にノエルやオスカーの注意は竜に向いていた。旋回する竜もこちらを睨んでいる。
「キリカ、今決めろ。このまま当主の悪事を見過ごすか、俺たちに協力するか」
「―ッ、知っていました。ヘルエナ様が良からぬことを考えていることも、
彼が悪事に手を染めていることも…それを認めたくなかった…!もう、眼を
逸らしたくない!!」
キリカは槍を握り、一歩前に出てオスカーの横に並ぶ。グラヴィスは弓を握り直す。
「俺が援護をしよう。思った通りに攻撃してくると良い」
「ノエル、お前も下がってろよ…あ、いや、お前もサポート頼むぜ」
「任せて!」
四人は竜に攻撃を仕掛ける。ノエルが展開したマナの踏み台を使ってオスカーと
キリカは竜との間合いを詰める。