Fate Grand Order×鬼滅の刃   作:笛用カモシカ

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邂逅

 

 

 

 

わたしは走っていた。

 

場所は、聞いた話だと日本。

 

詳しい場所は………よくわからない。

 

深い山の中だってことは周りの景色からわかる。

だって一面、木、木、木、なのだ。

 

そんな最中をわたし、藤丸立香はひた走る。

 

走って走って走って。

一心不乱に、ひたぶるに走る。

 

あはは、何だか逃げる野ウサギみたいだ。

こういうのを昔の人は、脱兎の如くって慣用句で表したんだろうな。

 

そんな益体無い思考に囚われたり囚われなかったりしながら、走る。

走る、いや、正確には逃げている。

 

うん、そういう意味でも脱兎というのはまさに、今の私にピッタリの言葉だ。

心臓バクバク、呼吸切れ切れ。

追い詰められた草食獣よりも悲惨悲壮な逃走劇。

 

思えば、今回のレイシフトは始まりから何かおかしかった。

 

 

「申し訳無いマスター殿。

拙者、敗走の憂き目をマスター殿にお聞かせする醜聞を晒しまして御座る」

 

 

時は遡って数時間前。

 

カルデアの廊下で、いきなりセイバー柳生宗矩にそう話し掛けられたのが事の始まり。

 

 

「え、どうしたの柳たん」

 

「はは、マスター殿。其処は全て漢字でお願い申す。

柳但と柳たんでは受ける印象に大きな違いが………、いや、そうでは無く」

 

 

律儀に発音を正した柳生は、彼が見たという夢について語ってくれた。

 

突然召喚された不測の事態。

カルデアの知識の引き継ぎ。

場所は大正時代の日本。

そこかしこに感じる鬼の臭い。

対峙した“異臭”を放つ鬼。

鬼殺隊、日輪刀という聞き慣れない単語。

───そして。

 

「──え?負けた…の?

一対一で?本当に…?」

 

 

剣聖、柳生但馬守宗矩が一対一の果たし合いに敗れたという衝撃的な言葉。

 

 

「然り。アレは完敗で御座った。

我が宝具は明確に敵方の首を落とし、

然してその首無き身体に拙者は貫かれた次第にて」

 

 

…。

 

…ん?

 

…んん?

 

 

「え?それ勝ってるんじゃ?

少なくとも首は落としたんでしょ?」

 

「然様。が、然る後に身体が動き出し、拙者に何かを注ぎ入れようとしておりました。

アレは、噂に伝え聞く吸血鬼の血の盟約のような…。

いや、実物を知らぬ拙者には語る言葉を持ち得ませぬ故。あくまで恐らくはという接頭句になりますが。

とはいえ結果的に勝負は其処まで。

この身の消滅という形で幕引きとなったのが唯一の事実であるならば、之を完敗と言わずして、何を敗北と捉えるのか」

 

 

柳生は悔しげに歯噛みしている。

 

しかしなるほど。

虞美人から聞いたことが有る。

吸血鬼、吸血種が仲間を増やすために行う吸血無いし輸血行為は、敵対行動にならないのだとか。

あくまで仲間を増やすための、ある種愛のような行為に当たるという。

だから、あのアキレウスの無敵の肉体ですら、友好行為である吸血には無力なのだとも。

 

それならば納得がいく。

 

目の前の剣聖が、いくら背後からとはいえ不測の一撃を喰らった理由。

まるで殺気が無かったのかもしれない。

 

そうしてそこからは急転直下の展開だった。

話を聞き終わると同時に、ダヴィンチちゃんからの呼び出しが入り。

管制室に向かえば、微小特異点が観測されたという報告。

先程の話と合わせて、脅威度の判定がなされ。

至急、レイシフトにて対応すべしとの結論に至った。

 

 

レイシフト特有の酩酊感が終わり、日本の何処かの山奥に降り立ったわたしは。

今回は落下じゃ無くて良かったー。

なんてゆるゆるとした考えも早々に、一切の通信が効かない事実に直面。

同時に、一騎のサーヴァントすら居ないという現実にもぶち当たった。

 

なんて酷い状況だろう。

最近の行いを見直して、悔い改めた方が良いのかもしれない。

懺悔は、ジャンヌと天草のどっちにしようか。

 

うーん。

間違い無くジャンヌが良いかな。

 

そうして山中を彷徨い。

夜闇も深まってきた頃に、ソレと出会った。

出会ってしまった。

最初は、人間だと思った。

 

 

「あ、おーい!すみませーん!」

 

 

月明かりは有ったが、何せ木々深い山中。

顔も風体も、よく見えなかったのだ。

 

 

「………」

 

 

その男の人は、わたしの声が聞こえていないのだろうか、全然反応してくれない。

 

 

「えっと、すみませーん!!!

ちょっと道に迷っちゃいまして!

この辺りに…民家とか────え?」

 

 

男の人が此方を見る。

 

生気の無い瞳。

妙に垂れ下がった両の手。

ボロボロの服装。

 

わたしの本能が警告する。

必死の警鐘を鳴らす。

 

逃げろ。

逃げろ、逃げろ。

逃げろ、逃げろ、逃げろ。

 

目の前のコレは。

決して、人間では無い。

 

例えどれほど人間に酷似した姿形であっても。

決して、人間では無い。

 

 

「っ!!!」

 

 

そうして今に至る。

走り通しの今に。

 

本能の警告は正しかったらしい。

わたしが逃げ出したと同時に、

わたしが居た辺りの木が、その男に噛み千切られていた。

 

目に見えたから避けられたわけじゃ無い。

嫌な予感に従って咄嗟に逃げ出したから避けられたのだ。

あのままわたしがボーッと立っていたら、

噛み千切られていたのは木では無く、わたしの喉元だったに違いない。

 

そう考えるとサーッと血の気が引き、

遮二無二走る足には逆に力が入る。

 

兎に角逃げるんだ。

通信も効かない。

サーヴァントも喚べない。

たしかにガンドくらいは撃てるけど。

一か八かに出るには早過ぎる。

だったら逃げるしか無い。

 

何処をどう走ったのか。

気が付くと、わたしは古びた御堂の前に出ていた。

 

その一帯には木々が無く、

星空と、

月明かりとが、

煌々と射し込んでいた。

 

あぁ、月が綺麗な夜だなぁ。

 

そんな事をボンヤリと考えたのがいけなかったのか。

それとも走り過ぎて足が限界を迎えていたのだろうか。

 

普段なら引っ掛かることなど無いような石に、

わたしはあっさりと躓いてしまった。

 

 

「あっ…!」

 

 

間抜けな声を出して、地面につんのめる。

全身に走る痛みと、砂利の味。

 

立ち上がらなければ。

きっと直ぐにさっきのが来る。

 

立って。

走って。

逃げるんだ。

 

 

「あれ…?」

 

だというのに、

わたしの足は力無く震えるのみで、動いてくれない。

 

一人きりのレイシフト。

心細い精神的環境。

ぶっ続けの全力疾走。

 

 

「嘘…」

 

 

身体は、とっくに悲鳴を上げていて。

今まさに、その最後の抗議と言わんばかりの震えを見せていたのだ。

 

後ろから迫っていた男は此方の様子に気付き、走るのを止めゆっくりと近付いてくる。

 

その出で立ち。

雰囲気。

 

まるでわたし達人間とは何かがズレたような気配。

近付くにつれて色濃く香る死臭。

 

 

「鬼…」

 

 

そこで漸くハタと気付く。

これが、柳生宗矩の言っていた鬼だ。

 

だったら、柳生はコイツにやられたのか?

いや、何となくだけどそれは違う気がする。

あの話の中で、戦った鬼は一際濃い臭いだったと言っていた。

わたしにその違いがわかるかどうかは何とも言えないが。

それでもあの剣聖がそう言うのだから、

もっと尋常ならざる気配が有って然るべきだろう。

 

そんな事を考える間にも、鬼は近付いてくる。

 

ゆっくり。

ゆっくり。

明らかに獲物を嬲る時の気配。

優位な立場に立った者の、余裕が感じられる。

 

でも、それならば逆に好都合かもしれない。

 

私はありったけの魔力を指先に籠める。

いつでもガンドが撃てるように準備する。

 

もう少し。

もう少し近付けば間違い無く当たる。

鬼がゆっくりになってくれたおかけで、

足の震えも落ち着いてきた。

これならば逃げられる。

 

射程に入ったら特大のガンドを叩き込んで、

それでまた全力疾走。

 

うん。

それでいこう。

 

ジリジリ近付く鬼。

ゆっくり流れる時間。

背筋に脂汗が伝う。

 

さらに一歩、

鬼が私に踏み込む。

 

 

「今だ!!!」

 

 

それを合図に、全力のガンド撃ち。

 

理想的な距離。

籠めに籠めた魔力。

全部計算通り。

 

間違いが有ったとしたら。

 

 

「ギッ!!!」

 

「そんな…!?」

 

 

鬼の身体能力を、

過小評価していた事。

 

ギリギリ。

本当にギリギリだったけど。

鬼は、わたしのガンドを紙一重で回避していた。

 

そうして、

無様な反撃は其処まで。

 

今の攻撃で怒りを爆発させた鬼は、

私目掛けて飛び掛かってくる。

私の方はガンドをもう一度撃つ時間も無い。

 

こんな時なのに、

令呪はウンともスンとも言わない。

 

立ち上がるにも、

多分間に合わない。

 

何か、何か方法を探さないと。

奇蹟でも何でも良いから。

 

何か。

誰か。

 

叫びそうになるのを必死に堪え、

ギリギリまで考えるためにも、鬼を見据える。

 

時間の流れは延大に感じられ。

鬼の動きがスローモーションに見える。

 

と言っても、自分自身もスローモーションなのだ。

別に助かる見込みが出来たわけじゃ無い。

 

それでも、

それでも今はこの、スローモーションに感謝したい。

 

何故って?

 

 

「見つけた!!!」

 

 

鬼の後ろに見えたのだ。

 

刀を構え、走ってくる。

 

一人の少年の姿が。

 

 

「水の呼吸壱ノ型・水面斬り!!!」

 

 

それはどういう剣術だったのか。

 

まるで水面のような。

まるで激流のような。

美しい水の波動のような。

そんな、神聖なモノを幻視してしまうほどに流麗な剣筋。

 

目の前で両断された鬼の首よりも。

そこから溢れ出る血糊よりも。

 

その美しい剣と。

それを振るった少年から目が離せない。

 

 

「ふぅ…!良かった…、間に合って…!」

 

 

少年は刀を収め、呼吸を整えている。

年の頃は私より下に見える。

身長も、そこまで高いわけじゃない。

 

一撃必殺の剣術を使ったからか。

それとも、ここまで走ってきたからか。

乱れた息を整えるために、深く深呼吸している。

 

そして私へと向き直り。

 

 

「大丈夫ですか!?

立てますか!?」

 

 

月を背景に、私に手を差し伸べていた。

 

熱を入れた黒炭のような赤黒い髪。

燃え盛る火のような真っ直ぐな瞳。

流れる水のような優しい表情。

 

それが、わたしと彼。

 

藤丸立香と竈門炭治郎の出会いだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

「南南西ノ山中ニテ、

鬼ニ襲ワレル女有リ!

救出セヨ!救出セヨ!

カアァァァァ!!!」

 

 

一行にとって、それは唐突かつ、

イマイチよく分からない指令だった。

 

 

「え?いや、でも次は列車だって言う話じゃ…」

 

「そうだそうだ!

本当はもっと寝てたいのに、指令だなんだって言うから仕方なく向かうんだぞ!?

それなのにいきなり言ってること変わるって何なんだよ!?

おかしくない!?ねえ!?」

 

「なぁ、いいからサッサと食っちまおうぜソイツ」

 

 

ハタから見たら、それは珍妙極まりない光景に映るだろう。

 

時は大正、お国は日ノ本。

曖昧になっているとは言え、廃刀令が布されたこの国で。

ようやく齢十五になろうかという子供が三人。

腰に打ち物佩き込んで。

人語を話すカラスを前に言を飛ばす。

 

見世物見世物、やれ結構。

 

刀を差した子供とは、

確かにコレは見世物だろう。

 

人語を操るカラスとは、

なるほどコレも見世物の範囲か。

 

では子供の中に一人、

猪の頭部を被った半裸の者が居たらどうだろうか?

いやはやわかった、

コレも見世物、それで良い。

 

であれば、それらが一同に会しているとなれば?

 

それは最早、見世物とは呼べないだろう。

それが、まさに今起きている光景なのだ。

 

 

「なあ、そんな曖昧に言わないでしっかり説明してくれよ」

 

 

三人の中で一番真面目そうな少年、

竈門炭治郎がカラスへと尋ねる。

 

 

「ツベコベ言ウナ!行ケ!

カアァァァァ!!!」

 

「いや、だーかーらー!それじゃあ何も分からないんだって!

だいたい何!?襲われる女って!?

そんな予告みたいな指令今まで無かっただろ!?

そりゃあ女の子なら助けに行くのは全然良いよ!むしろ良いよ!?

でもさ、そんなんじゃ何にも伝わんないのよ!

じゃあ何時!?何時に襲われるの!?

だいたい南南西の山って何処!?

アレなの!?あの目に見えてる山で良いの!?」

 

 

カラスの無体な返答に、

甲高い声で反論をまくし立てるおかっぱの少年、我妻善逸。

 

しかし、

 

「五月蝿イ!行クト行ッタラ行クノ!

カアァァァァ!!!」

 

 

カラスの返答に変わりは無い。

 

 

「なあ、何で食わねぇんだ?」

 

「いやお前は少し空気読め…。

その食うとか食わないとかの流れは結構使い古しただろ…?」

 

 

猪マスクから鼻息も荒く声を出し、

呆れ顔の善逸に窘められているのが、嘴平伊之助。

猪マスクという外見もエキセントリックなら、

言動もやはりエキセントリック。

 

 

「……………」

 

 

流石のカラスも無言だ。

 

 

「いやほら黙っちゃったじゃんかよ。

謝れよ伊之助。」

 

「はぁ!?誰が!?何で!?」

 

「五月蝿ぇよ!!!良いから謝れって!!!

謝んないと話進まないだろ!?」

 

「んだと!?なら先にテメエが謝れ!」

 

「はぁーーー!!!!???

意味わかんないんですけど!!!???

これは伊之助と!鎹鴉の問題ですよねぇ!?

俺関係無いですよねぇ!?」

 

 

カラスを尻目に善逸と伊之助はギャーギャーと争いだす。

口喧嘩は既に、取っ組み合いに移行していた。

 

まあ、趨勢は伊之助に九の善逸に一程度で。

早くも伊之助のヘッドロック的な絞め技に捕まった善逸が、

泡を吹きそうになっているのだが。

これでも一応喧嘩としておこう。

 

 

「なあ鎹鴉」

 

 

二人のドタバタを見慣れたものと受け止めているのだろう。

炭治郎は努めて冷静にカラスへと問うた。

 

 

「その、南南西の山では────間違い無く誰かが襲われるんだな?」

 

「ソウダ!」

 

「わかった。

伊之助!善逸!」

 

「あ?」

 

「降参………もう降参………。

ダメ………死ぬ……」

 

 

炭治郎の言葉に伊之助と、

その伊之助に固められた善逸が顔を向ける。

 

 

「誰かが襲われるのがわかってるなら放って置けない!

だから俺は行くよ、その山に!」

 

 

─────────────

 

 

 

 

「いや確かにさぁ、言ったよ?言った。

俺もついて行くーって言ったよ?

でもそりゃあそう言うしか無くない?

ついて行くって言うしか無くない?

だってさ、炭治郎も、禰豆子ちゃんも、オマケで伊之助も行くって言ったろー?

でもさー、もう日も落ちてきたわけだしさー」

 

「オイ、今オマケって言ったか?」

 

「細かいことで絡むなよぉ。

つまり俺が言いたいのはさー」

 

「うんうん。

ありがとうな、善逸。伊之助も」

 

「え?炭治郎、今良いこと言ってる風に包んで、華麗に流した?

俺の魂の嘆きを流した?

なんでそういう事するの?」

 

「…………、はっ…!?

テメエ何いきなりお礼なんか言ってくんだよ!?」

 

 

朗らかに礼を言う炭治郎。

全方位に文句を喚き立てる善逸。

何故かほわほわしている伊之助。

 

三位一体の珍道中。

 

喧しいと言えば喧しいが、

彼らの年齢を考えれば、本来コレが正しい姿とも言える。

 

そんな一行の先頭を歩く炭治郎が、

眼前の山を睨み眉を顰める。

 

「………やっぱり此処だ。鬼の臭いがする。

けど、これは…」

 

「ならこの山で合ってんのか!?念五郎!?」

 

「?誰だ、それは?」

 

「お前だ!!!」

 

「違う!俺は炭治郎だと何回言ったら!」

 

「いやもうこの下りいいから!!!

この山だね!?この山で良いんだね!?

良いんだねとか聞いたけど俺も鬼の音聞こえてるからね!」

 

「そうか。善逸もそう言うならやっぱり間違いない。

この山に鬼が居るんだ」

 

 

気を取り直した炭治郎が山へと踏み入る。

伊之助もそれに続き。

 

善逸は、その場から動かなかった。

 

 

「善逸?」

 

「いや、だから言ったけどさ。

まだ話終わってなかったし?

その、山に入る心の準備が終わって無いというか」

 

「んだテメエぐだぐだと!

入るのか!?入らねぇのか!?」

 

「だから!!!心の準備が出来てから────。

た、炭治郎……。この音………!?」

 

 

騒ごうとした善逸が突然怯え出す。

その場でガクガクと震え、

半ベソをかいている。

 

「この臭い………。

動いてる…?もう一人…?

もう既に…、襲われてるんだ!!!」

 

 

言うなり炭治郎は走り出した。

 

 

「あ!おい待て!俺が先だ紋次郎!!!」

 

 

伊之助の声が後ろに聞こえる程に、

炭治郎は物凄い速さで山を駆け上る。

 

臭いの感じ。

動き方。

 

これは鬼が誰かを襲おうとし、

その誰かが逃げているのだ。

 

急がないとマズい。

鬼に追われた人間が、

そう長く逃げ果せるはずが無い。

つまり、時間が掛かれば、

待っているのは破滅の結末。

 

急がないといけない。

 

 

「急げ…!急ぐんだ炭治郎…!

絶対に間に合うはずだ…!」

 

 

炭治郎は自分を鼓舞しながら走る。

 

木々を抜け。

岩を越え。

獣の如き速さで走る。

 

月下の山林。

臭いを辿ってひたすらに走る。

 

 

「近い…!もう少しだ…!」

 

 

其処は山中の御堂。

 

木々のない空白の空間。

 

其処には、

一匹の鬼と、

ソレから逃げるように尻餅を付いた、

一人の女性が居た。

 

 

「見つけた!!!」

 

 

躊躇してる余裕は無い。

 

全速で近付き。

最速で斬る。

 

炭治郎の思考は、

その一点。

その一点をこなすために、

全集中の呼吸で空気を取り込む。

 

技を選ぶ時間も惜しい。

使い慣れた一ノ型。

 

それで斬る。

 

 

「水の呼吸壱ノ型・水面斬り!!!」

 

 

全速力の勢いのまま、

何処か見覚えの有る気がする鬼の首を切断する。

 

手応えを感じ、目の前の女性が無事な事を確認し、

炭治郎はホッと息を吐く。

 

 

「ふぅ…!良かった…、間に合って…!」

 

 

乱れた呼吸を整え、

襲われていた女性を見る。

 

そのほんの一瞬、

何故か炭治郎は心を奪われていた。

 

それは一目惚れとか。

初恋とか。

そんな腫れた惚れたの話では無く。

 

その目の前の女性に、

何か言い得ない大きなモノを感じたからだった。

 

匂いが、わからない。

 

匂いが無いのでは無く。

 

あまりにも匂いが多くて、

わからない。

 

一体どんな道を歩んだのか。

 

初めて見る不可思議なタイプ。

 

月の光に照らされ、

女性の姿がはっきりと見える。

 

燃えるような橙の髪。

決然とした気配を感じる真っ直ぐな眼差し。

包み込む陽のような柔らかい顔立ち。

 

そんな一連の感想が、

刹那の内に炭治郎を駆け抜け。

 

ハタと、女性をマジマジと見続ける失礼さにも行き当たる。

 

炭治郎にとっては長い間だったが、

現実にはほんの少しの思考。

その思考から立ち直った炭治郎は、

それが大和男児の当然の責務と言わんばかりな自然さで手を差し伸べる。

 

 

「大丈夫ですか!?立てますか!?」

 

それが、若き鬼殺隊の隊士と、

人類最後のマスターの出会いだった。

 

 

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