Fate Grand Order×鬼滅の刃   作:笛用カモシカ

3 / 5


 

 

「あの、助けてくれてありがとうございます!」

 

 

炭治郎の手を借りて立ち上がった立香は、一先ずお礼を言う。

 

 

「いえ、気にしないで下さい!当然の事ですから!

 それよりも、無事で本当に良かった」

 

 

炭治郎は先程までの覇気溢れる顔とは打って変わって朗らかな笑顔で立香の礼に答える。

 

 

「ううん、そんな当然なんて事無いよ。

 君は命の恩人だし!本当にありがとう!」

 

「わっ!頭を上げてくださいよ!

 本当にそんな気にしないで下さいって!」

 

「そうはいかないよ!

 お礼くらいは受け取ってもらわないと!」

 

「いや本当に、当たり前の事をしただけなんですって!

 鬼殺隊として鬼に襲われてる人を助けるのは当然の事ですから!」

 

 

礼の言葉を受け取る受け取らないの問答は、

まさに二人がある種似たところが有るという事の裏返しでも有った。

 

何としても礼を言いたい立香。

人助けは当然なのだから深々と頭を下げられる謂れは無いと、

頑として突っぱねる炭治郎。

 

そのやりとりは、炭治郎の口から出た鬼殺隊という単語に立香が反応する事で別の方向へと転がる。

 

 

「鬼殺隊…?それって………、

 あ、私の名前は藤丸立香。

 君の名前は?」

 

「ああ、そうでした!

 俺は竈門炭治郎。宜しくお願いします、立香さん!」

 

「うん、よろしく炭治郎君!

 えっと、それでさっきチラッと言ってた鬼殺隊なんだけど─────へ?」

 

 

柳生の話で聞いていた鬼殺隊という単語。

その辺りを詳しく聞く必要が有る。

そのためには自己紹介だ。

お礼は………、

会話の中でこっそり捻じ込めば勢いで受け取ってくれるだろう。

 

そう考えた立香は、流れを自己紹介に向け、

詳しい会話に入ろうとしていた。

 

だがその考えは、

予想外の闖入者によって露と消えてしまった。

 

 

「うっしゃああああ!!!!

 一番乗りぃ!!!鬼は何処だぁ!?

 俺が斬る!斬る!!!」

 

 

猪頭に半裸の人の身体。

刃毀れ全開の刀を二本持ち。

大声を上げながら周囲を見回す奇人。

 

「た、炭治郎君!

 ま、また鬼!?」

 

 

今さっき襲われた鬼の方が、

上辺には真っ当な人間然とした見た目だったのだから。

奇声を上げている伊之助を、

鬼と見紛えた立香の反応も、まあ然るべきと言える。

 

 

「コラ!伊之助!!!

 立香さんが怖がっているだろう!少し落ち着け!」

 

「あぁ!?何で権八郎が俺に指図すんだよ!?」

 

「それは誰だ!?」

 

「お前だよ!!!」

 

「違う!!!何度言ったらわかるんだ!!!

 俺は炭治郎だ!!!」

 

 

焦る立香とは対照的に、炭治郎は伊之助を窘める。

相変わらずの名前問答になってしまっているのは、

まあご愛嬌だろう。

 

 

「え…、炭治郎君の知り合い…なの?」

 

 

恐る恐る尋ねる立香の方を、

伊之助がギッと睨む。

 

 

「んだぁ!?この女!?」

 

「伊之助!初対面でこの女は失礼だろう!

 この人は立香さんだ!」

 

「えっと、伊之助君っていうの…?」

 

「文句有んのか!?」

 

「伊之助!!!」

 

 

再び怒ろうとした炭治郎を制して、立香は話を続ける。

 

 

「伊之助君は炭治郎君のお友達なの?」

 

「ともっ…!?んなんじゃねぇよ!

 今だって俺が一番に鬼を斬ってやろうと山に入っただけだ!!!」

 

 

その言葉で立香の顔が笑顔に変わる。

 

 

「そっか!じゃあ伊之助君も私の命の恩人だ!

 ありがとう!そしてごめんね、さっきは怖がっちゃって…」

 

 

……………。

 

……………。

 

……………。

ほわほわ。

伊之助の脳内にそんな擬音が流れる。

 

宿の老婆に感じたモノ。

自身を友と呼び、褒め、叱る炭治郎に感じたモノ。

 

そのどれもを含みどれとも違うような大きなほわほわ感。

 

伊之助の野生が混乱する。

 

目の前の女はどうみてもヒョロ弱い。

斬るまでも無く、斬れば死ぬとわかるし。

自身の剣戟を回避する未来は一片も見えない。

自身が山の猪なら、目の前の女はひ弱なうさぎ。

いや、それ以下の蟻にすら見える。

 

だというのに、自らの野生の奥。

経験を超えた勘。

本能の内側の魂のようなモノが、声を大にして言っている。

 

目の前の女を侮るな、と。

 

このほわほわ感はソレに起因する何か。

 

大きな宿命を背負った者を見た時の、

尊敬のような。

 

 

「がああああ!!!

 俺をほわほわさせんじゃねぇええ!!!」

 

 

差し出された立香の手、

握手を求めたソレを振り払い、伊之助は叫ぶ。

 

 

「いい加減にしろ伊之助!!!

 女の人の手を振り払うとは何事だ!!!」

 

「うるせぇ!!!!オイ!伝丸立之進!!!」

 

「……………。

 え!?それ私の名前!?」

 

 

伊之助の、最早原型を留めていない間違いっぷりに、呆気に取られた立香。

 

その立香に伊之助は手の二刀を向ける。

 

 

「何してる、伊之助。

 武器を持っていない人に刃を向けて良いと思っているのか?」

 

 

炭治郎は静かな声で怒りを露にする。

 

それは日本男児として以上に、

兄弟姉妹を持つ炭治郎には当然の怒りだった。

 

女性は守る。

長男は一番頑張る。

それは、炭治郎にとってあまりにも当たり前の事。

 

その矜持にかけて、

武器すら持たない女性に、刃を向ける事を許すはずが無い。

 

 

「わかんねぇのかよ!!!

 コイツは弱ぇえ!!!どう見ても弱ぇえ!!!

 なのにでけえ!!!でけえように見える!!!

 わけわかんねえ!わけわかんねえ!!!わけわかんねええええ!!!

 ソレが俺には許せねんだよ!!!

 だから戦う!コイツが弱ぇえってわかれば納得出来んだよ俺は!!!」

 

 

伊之助は激情を乗せた声で、その困惑を露にする。

 

炭治郎の怒り同様、伊之助の困惑もまた当然の事だった。

 

野生の世界において、過度な擬態は存在しない。

能有る鷹は爪を隠すというが。

しかし能有る鷹が雀になることは無いのだ。

隠すのはあくまで爪まで。

 

その巨躯を。

その双眸を。

その羽の威容を。

隠す事はしない、

出来ない。

 

過度な擬態は、

人間のみの技術だ。

 

あの水柱に出会った時もそう。

一見すればあの優男に、あそこまでの技量は見合わない。

 

つまりは擬態。

その風体も、その上辺の筋量も。

技術という爪に立脚された擬態。

 

擬態は気持ち悪い。

擬態は毒かもしれない。

擬態は容易にこちらの生命を脅かしかねない。

 

そんな擬態を解かせるには、戦うのが一番早い。

 

追い詰めれば良い。

 

それが野生の知恵。

それが本能の叫びだ。

 

だから戦う。

 

この女の擬態を解く。

この女の毒を暴く。

 

そして自身の心に感じた、

ほわほわの正体を見つける。

 

 

「勝負だ!!!鳶丸立衛門!!!」

 

 

そう言って、伊之助が立香に飛び掛ろうとしたのと、

 

 

「いやああああああ!!!!!

 助けてええええええ!!!!」

 

 

物凄い形相で脱兎の如く駆けて来る善逸が伊之助に激突したのは、全くの同時だった。

 

 

「善逸!?」

 

「テメエ!!!

 退け!!!邪魔だ!!!」

 

「あ゛!!!炭治郎ううう!!!伊之助えええ!!!

 良がっだあああ!!!

 もう駄目かと思ったよおおおおお!!!!!!」

 

 

飛び付かれた事で体制を崩した伊之助は、善逸と一緒に地面に転がってしまった。

頭に来たのだろう、善逸の顔面をゲシゲシと蹴っているが、善逸は気にせず鼻水を伊之助に付けている。

 

 

「どうしたんだ、善逸!?」

「怖かったよおおおおお!!!

 怖かったよおおおお!!!!!」

 

 

炭治郎が何とか話を聞こうとするが、善逸は泣くばかりで話になっていない。

 

そんな三人のやり取りを遠目に眺めていた立香に、激震が走る。

 

有り得ざる、しかし何処か懐かしい感じ。

魔力を感じたときの、全身に走る緊張感のような何か。

それが、今まさに感じられる。

 

 

「この気配…、シャドウサーヴァント…!?」

 

 

立香が気配に気付き、

森に目を向けたのと。

森からソレが出てくるのは、ほぼ同時だった。

 

 

「オオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

「なっ!?」

 

「んだコイツ!?」

 

「コイツ!!!コイツだよおおお!!!!

 急に森の中に現れて、俺を襲ってきたヤツぅ!!!!」

 

 

森全体に響くような雄叫び。

黒い影のような巨体。

徒手に武器の類は持たず。

木々を引き千切りながらこちらに向かってくる。

その姿、気配。

 

黒い影となっていても、立香には覚えが有った。

 

 

「バーサーカー…、

 カリギュラ…!」

 

「オオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」

 

 

立香の呟きを掻き消すように、カリギュラは再度絶叫し、

突進を開始する。

 

狙いは、

 

 

「ウソウソウソおおお!!!???

 何で俺!?ねえ何で俺えええ!!!???」

 

 

善逸だった。

 

 

「クソッ!話を聞いてくれそうな感じじゃないなら…!

 御免なさい!!!」

 

 

善逸目掛け一直線に走ってくるカリギュラに、

炭治郎は謝罪の言葉を投げながらその手を斬ろうと斬りかかる。

 

 

「なっ!?」

 

 

しかしその斬撃はあっさり回避され、

 

 

「ガハッ…!!!」

 

 

炭治郎は逆に手痛いカウンターを喰らい吹き飛ぶ。

 

咄嗟に背負っていた籠のようなモノを投げ捨てながら、

炭治郎は後方の木へと激突した。

 

 

「んの野郎があ!!!!」

 

 

炭治郎が吹き飛ばされた事で激高した伊之助も、

一直線にカリギュラへと向かう。

 

 

「獣の呼吸………

 なっ!コイツ速ぇ………グッ…ガァァァァァ!!!!」

 

 

呼吸による剣技。

その初動。

技に入る前に生じる刹那の隙。

その隙にカリギュラは伊之助へと近付き、

頭を掴んで投げ飛ばす。

 

 

「…………ロ」

 

 

吹き飛んだ二人。

中央に立つ巨漢。

ほんの少しの静寂。

その静寂も直ぐに、

 

 

「ネロオオオオオオ!!!!!!」

 

 

カリギュラの雄叫びに支配される。

 

打撃で吹き飛ばした炭治郎。

掴んで投げ飛ばした伊之助。

カリギュラはその誰に目をくれることも無く。

 

 

「オオオオオオオオ!!!!」

 

「嫌あああああああ!!!!!!

 何でええええええええ!!!!!!!???????」

 

 

再び一直線に善逸目掛けて走り出す。

 

 

「ひいいいいいやあああああああ!!!!!

 何だよ何でだよ何なんだよおおおおおお!!!!!

 意味わかんない!!!意味わかんないよおおおお!!!!

 斬ったりしようとしたのはその二人だろうおおお!!!???

 攻撃したのは炭治郎と伊之助じゃんよおおおお!!!!

 俺じゃ無いじゃんよおおおおお!!!!

 おかしいじゃんよおおおおお!!!!!」

 

 

先程まで腰を抜かしていたとは思えない速さで善逸は逃げ始める。

 

 

「善逸君!!!こっち!!!」

 

 

炭治郎の言から恐らくそれが名前だろうとアタリを付けた立香が、善逸に呼びかける。

 

 

「あれ?何だろう?知らないお姉さんが親しげに俺を呼んでいるよ?これが天国?天国なの?

 …………、いや嘘ですううう!!!

 後ろから現実が追いかけてきていますうううう!!!

 変わらず現実だよこれえええええ!!!!」

 

 

立香の声に反応した善逸は直角に向きを変え、立香の方へと走ってくる。

 

 

「お、お、お、お姉さん!

 俺を呼んだって事は助けてくれるんですよね!!!???

 鬼殺隊の人なんですよね!!!???」

 

「え、いや、違うけど…。

 その、あのままじゃ死んじゃうと思って…、つい勢いで…」

 

「え?何?勢いって何?

 嘘でしょ?

 特に何の考えも無く、何となく動いたの?このお姉さま」

 

 

恐怖が一周回って冷静さを呼んだのか。

善逸は妙に悟った声で立香に問いかける。

 

 

「………、ごめん…」

 

 

………。

 

立香の答えはシンプルだった。

 

つまりは、

ごめんなさい何も考えていませんでした、と。

 

 

「ハ、ハハ、ハハハハ…………、キュゥ…」

 

「ちょっ!善逸君!?善逸君!?

 ………、え、気絶してる…?」

 

 

立香の足元には、気を失ったようにぐったりとした善逸。

安らかな顔で動かなくなっている。

 

 

「ちょっと!善逸君!

 起きて!起きてってば!!!」

 

 

立香は善逸の肩を揺らし、大きく揺すってみるが、

一向に反応は無い。

 

マズい、

マズい、

マズい。

 

立香の心中に冷や汗が流れる。

 

炭治郎君も伊之助君もやられた。

炭治郎君が投げた箱の中には、

何か入ってたみたいだけどソレも特に動きが無い。

確かに炭治郎君も伊之助君も、

致命傷は受けてないはずだから、戦えるのかもしれないけど。

今この善逸君を守るには遠すぎる。

 

それになにより。

 

 

「───サーヴァントの問題を、

 知らない世界の人に押し付けるわけにはいかない…!!!」

 

 

それが立香の覚悟と決意。

それは不退転の意志で。

決死の表れだった。

 

だってここまで来ても令呪は光らない。

鬼に撃ったみたいな特大ガンドが撃てるような魔力も無い。

小さいガンドじゃ足止めにもならない。

 

だが、それでも、

足元に居る自分より年下の誰かを見捨てて逃げられるほど、出来た人間性も持ち合わせてはいない。

 

だから精一杯手を広げる。

倒れた善逸を庇うように立つ。

 

 

「立香さん!!!」

 

「立吉!テメエ!!!」

 

 

こちらに迫るカリギュラの後ろに、

立ち上がった炭治郎と伊之助が見える。

箱が不思議とガタガタ動いているのも見える。

 

ならそれでいい。

 

この一瞬、時間が稼げれば、炭治郎達は間に合う。

そうすれば善逸は助かり、三人は逃げ切れるかもしれない。

 

サーヴァントと、サーヴァント無しで戦ってはいけない。

だから、逃げて貰うしか無い。

 

 

「炭治郎君!伊之助君!

 私が時間を稼ぐから!善逸君を連れて逃げて!

 この黒いのとは、戦っちゃダメ!!!」

 

 

言うべき事を言ったら、意識は目の前のカリギュラに集中させる。

二人が何かを言ってる気がするが、立香の耳には届かない。

 

それは当然だ。

立香とてむざむざ死ぬつもりも無い。

 

最期の瞬間。

その刹那まで思考を続ける。

何とかして、この状況を打破する。

例えばそう。

 

ネロ!と大声で言ってみるとか。

 

 

「よし…!ソレでいこう…!」

 

 

立香は作戦とも呼べないような作戦を意中に固め、

迫るカリギュラに目を凝らす。

 

もう少し。

もう少し引き付けろ。

 

 

「オオオオオオオ!!!!」

 

 

轟くカリギュラの絶叫。

伸ばされる手。

 

言うぞ。

言うぞ。

言うぞ。

 

「ネ………」

 

 

その立香の声は、

 

 

「ガ、ガアアアアアアア!!!!」

 

 

手首から先を斬られたカリギュラの叫びに被せて消えた。

 

 

「何が…!?…………、ぜ、善逸君!?」

 

 

立香が状況が飲み込めないままに周囲を見回すと、

立香の真後ろから斜め後方に移動した善逸の姿が見えた。

 

その姿勢は異様なまでの前傾。

居合いのように刀鍔に手を掛け、

口からは目に見えるほどの呼気を吐き出してる。

 

カリギュラの手を斬ったのは善逸なのか?

そもそも追い掛けられて気を失うような性格の善逸に、

こんな事が可能なのか?

いや、それ以前に、シャドウサーヴァントと戦おうとしている善逸を止めるべきではないのか?

 

そんな諸々の思考が立香の脳内を駆け巡る。

しかしその全てが声にならない。

 

恐怖からか?

 

違う。

違うのだ。

 

立香は見惚れていた。

その姿勢の凜とした佇まいに。

そして、その姿勢が生み出すであろう次の行動。

 

即ち予測される善逸の攻撃。

 

居合いの前の、

清廉な緊張感に見惚れていたのだ。

 

 

「雷の呼吸壱ノ型───」

 

 

吸気と呼気は既に整い。

善逸は刀鍔を軽く抜く。

 

 

「霹靂一閃!!!」

 

 

ドンッという爆音が辺りに響く。

 

立香は、

その光景を見た我が目を疑っていた。

 

霹靂一閃。

 

そう善逸が言った瞬間、

立香の視界から善逸が消えた。

 

そして、

善逸と相対していたカリギュラの、

その両の脚も切断されていたのだ。

 

 

「ガハッ…!!!」

 

「善逸君!?」

 

 

物凄い速度で居合い移動をした善逸が、

血を吐きながらその場にうずくまる。

 

立香にも、当の善逸にすら見切れるモノでは無かったが、

それはカリギュラがすれ違い様に放った反撃のダメージだった。

 

 

「善逸君!」

 

 

ガンドは撃てなくても回復の魔術は使える。

 

本来サーヴァント用のソレが、どれだけこの世界の人間に効くのかはわからないが、

それでも回復させるために立香は善逸の元へと駆け寄る。

 

だが、善逸の目は、既に自らの負傷よりも、

勝利へと向かって走る仲間達へと向いていた。

 

 

「炭治郎…!!!伊之助…!!!やっちまえええええ!!!!」

 

「言われるまでも…………無ぇんだよ!!!!!オラァ!!!!」

 

 

両の脚を失い、膝立ちになったカリギュラ目掛けて、

伊之助の二刀が牙を剥く。

 

 

「ぶっ倒れろや!!!!」

 

 

獣の胆力。

その全霊の振りかぶりを、

真横から受けたカリギュラが、地面へと倒れ込む。

 

 

「ありがとう、伊之助!!!

 ───よし!見えたぞ!隙の糸が!!!」

 

 

その伊之助の動きを予見したかのように、

炭治郎は宙へと飛び上がっていた。

 

夜天の月光を日輪刀に受け、

大上段に振りかぶる。

 

 

「水の呼吸捌ノ型・滝壷!!!」

 

 

それはまるで流れ落ちる滝。

大瀑布の如き一撃。

 

呼吸で高めた身体能力を全力で使った振り下ろしは、

 

 

「ガ!グ…ネ…ロ!ネ…ロ───」

 

 

カリギュラを、完全に消滅させていた。

 

 

「嘘…、倒しちゃった…」

 

 

それはサーヴァントという存在に親しんでいた立香だからこその驚愕だった。

 

いくらシャドウサーヴァントとはいえ、

生身の人間、それもこんな子供達が打倒するなどと。

普通に考えて前代未聞。

それ故、興奮や感動も一入だった。

 

 

「凄い!凄いよ!善逸君!みんな!!!」

 

 

感極まったあまり、怪我人の善逸をガクガクと揺する立香。

 

 

「お姉さん…、普段ならとっても素敵で最高な体験なんですが…。

 今はちょっと…。

 具体的に言うと、俺、死にそうなほど…、痛いの…、全身が…」

 

「ご、ごめん!

 今回復させるね!」

 

 

我に返った立香は、慌てて善逸に魔術をかける。

 

 

「いやぁ、確かに、お姉さんが優しく見守っててくれる現状は、怪我を治すにも最高の環境なんだけどね…。

 でもそんなおまじないみたいなので痛みは引かないのよね…。

 いや、気持ち的には痛みも吹き飛ぶ心地なんだけど…ね…

 ……ん?んん?んんん?おぉ!?痛くない!

 俺、全身、痛くない!!!」

 

「善逸?本当に痛くないのか?」

 

 

騒ぎを聞きつけて炭治郎が駆けて来る。

 

 

「あ、炭治郎君も今回復させるね!」

 

 

言いながら立香は礼装に魔力を通し、炭治郎の傷を癒す。

 

 

「本当だ…。傷が治っていく…。痛みも…」

 

 

自身の身体に起きている回復現象を、

物珍しそうに炭治郎は見やる。

 

 

「ほら、伊之助君も!」

 

「俺はもとから何ともねえ!!!

 痛いところなんかねえ!!!」

 

「え、そうなの?

 でも思い切り投げられてたし、一応使っておくね」

 

「あ!オイコラ!!!

 いらねえって………あふ…」

 

 

伊之助の言葉を無視して回復魔術をかける立香と、

それを受けてほわほわしている伊之助。

 

 

「凄い!これ凄いですよ、立香さん!

 あ!もしかしてこれは何かの呼吸の力なんですか!?」

 

「呼吸…?

 えっと、呼吸はよくわからないけど、これは魔術だよ」

 

「魔術…?」

 

「まんじゅう…?」

 

 

立香の言葉に首を傾げる炭治郎と伊之助。

 

それを、

 

 

「あー!お姉さん!ちょーっと待っててくださいね!!!

 おら!炭治郎!伊之助!こっち来い!」

 

 

善逸が引っ手繰るように引き寄せて立香から離れる。

 

 

「いきなりどうした、善逸!?」

 

「離せや!!!」

 

「五月蝿い!!!

 声を潜めて聞け!!!

 いいから聞け!!!」

 

 

善逸の言葉に一応従った二人は、話を止め、耳を善逸に向ける。

 

 

「いいか、よーく聞け?

 確かにあのお姉さんは美人だ。

 何か何とも言えない魅力も有る。それは俺も認める」

 

「なあ善逸、何の話だ?」

 

「意味わかんねえ!!!」

 

「だから聞けって!

 あと伊之助は声がデカイ!!!」

 

 

仕切りなおして善逸は語る。

 

 

「でもさ、そもそも何であのお姉さんは鬼に襲われてたわけ?

 そりゃあ確かに偶然かも知れないけど、けどさ、鎹鴉が指定したんだぜ?おかしくない?

 なんで個人を指定して助けろ、なんて指令が来るわけ?」

 

「それは、わからないけど。

 でも襲われてる人を助けるのは当然だろう?」

 

「意味わかんねえ!!!」

 

「だーかーらー、そういう教科書的な答えが聞きたいんじゃ無くてさぁ。

 それにわかんない事は他にも有るんだよ。

 あの黒い影みたいなヤバイやつ。アレって何だったの?

 鬼じゃなかったよな?だって鬼の音が聞こえなかったもん」

 

「確かに、鬼の臭いはしなかった…」

 

「意味わかんねえ!!!」

 

「だろ?でもあのお姉さんは何か知ってるっぽいんだよなぁ。

 あ、そういえばお姉さんの名前って何なの炭治郎?」

 

「藤丸立香さんだ。

 でもなぁ善逸、そういうのは自分で直接聞くのが礼儀じゃないか?

 後でちゃんと自己紹介するんだぞ?

 お前だけ知ってるってのは不公平だろ?」

 

「わかってるよ!

 ─え?あれ?なんかそれおかしくない?

 向こうは俺の名前普通に呼んでたぞ?」

 

「立香さんは俺が言ってるのを聞いて推理したんだろ?」

 

「向こうは良くて俺は駄目なの!?

 自然な差別は止めてよ!!!

 …………、それとさ、よくわかんないのがもう一つ。

 立香さんのあの癒しの力。あれ何なんだよ。いやそりゃ俺だって使ってもらったときは、天使か!?結婚してください!って思ったよ?けどさぁ……」

 

「何度も言うようだけどな善逸。

 結婚というのはお互いの気持ちが通じ合ってだな」

 

「意味わかんねえ!!!」

 

「結婚に突っ込むなよ!!!!五月蝿いよ!!!

 そこは今は大事じゃないんだよ!!!

 あ、いや、大事だけども。でも今はいいんだよ!!!

 俺が言いたいのはその後!立香さんの力が呼吸じゃなくて魔術だって言ってたとこ!!!そこが大事なの!!!

 あと伊之助はいい加減にしろよ!!??」

 

「なんだとテメエ!!!

 上等だぶっ飛ばす!!!」

 

「おま…!やめ…!降参…!

 関節はやめて…!!!」

 

「確かに魔術という単語は聞いた事が無いけど。

 でも、それの何処が気になるんだ?」

 

「えぇ…嘘でしょ…?

 俺が関節極められてるのに…、穏やかに会話続行…?

 炭治郎君ってば…、冷たすぎない…?

 あ、無理…、死ぬ…」

 

「わはははは!!!俺!最強!」

 

「って死んでたまるかあああ!!!」

 

「あコラ!!!逃げんな!!!」

 

「なあ善逸。魔術の何がそんなに気になるんだ?」

 

「この状況でも心配の言葉無く会話続行ね!!!

 本当ブレ無いよね君達!!!

 でもそうね!俺、今や伊之助に追われてるし!時間無いし!サッと言っちゃうね!!!!

 要するに!そんな怪奇現象とか呪いみたいなモノを真剣に言ってる人を!あっさり信じて良いの!?ってこと!!!」

 

 

善逸渾身の叫びだった。

 

正直、途中から会話の内容は立香に丸聞こえ。

とても秘密の話し合いという状況では無かったが。

それでも、立香はその話に言葉を挟むつもりは無かった。

 

だってそれは当然の疑問や疑念だから。

 

突然現れた女性に。

突然現れたシャドウサーヴァントという怪異。

 

尋常な精神なら、関わらない事を選ぶ。

それが普通だ。

むしろ、巻き込んでしまうより良いのかもしれない。

 

影英霊を倒したといっても、三人はまだ子供。

ここでさよならが、一番良いのかもしれない。

 

けど、それは立香が決める事ではない。

決めるのは当事者の三人。

 

何故って?

 

だって立香が逆の立場でも、

相手から切り出された別れなど、受け入れるはずが無い。

 

だから敢えて口は挟まない。

だから魔術という言葉も隠す事無く使った。

 

こんなにも怪しい自分。

こんなにも無力な自分を。

彼らの審判に任せる。

 

それが今の立香に出来る最大の覚悟。

 

 

「聞けば良いんだ」

 

「は?」

 

 

善逸の放った言葉で生まれた沈黙を、破ったのは炭治郎だった。

 

 

「わからないならば聞けば良い。

 怪しいならば理解し合えば良い。

 俺は、怪しいからって理由で、折角の出会いを無かった事にしたくない。

 だから、これからちゃんと立香さんの話を聞いて。

 ちゃんと俺達の話をして。

 そうすれば、もう怪しいだけの知らない誰かじゃない。

 善逸と伊之助はどうだ?」

 

「だから!

 意味わかんねえんだよ!!!疑うとか疑わねえとか!!!

 俺は!あの弱いくせに強く見える西丸立角と戦う!

 それだけだ!!!」

 

「いや普通この流れで名前間違える!?おかしくない!?

 …………、いや!そもそも俺は何にもわかんないから怪しいって言ってたわけだから!

 そんな!炭治郎が!話聞くって言うなら!

 そりゃあさ!?俺だってさ!?お姉さんのさ!?近くに居たいし!?」

 

 

それが三人の答え。

 

言い終わった三人は、並んで立香へと向き直る。

 

 

「ありがとう、三人とも。

 うん、話すよ、私のこと。

 だから教えて、君達のこと」

 

 

明るい笑顔の立香。

朗らかな笑顔の炭治郎。

照れたようなはにかみの善逸。

そして猪顔の伊之助。

 

改めて四人は腰を据え。

話を始めた。

 

 

「えっと、先ずは善逸君に自己紹介したいんだけど。良いかな?」

 

「はい!我妻善逸です!

 さっき俺にかけてくれた癒しの力は!俺を好きって事で大丈夫でしょうか!?」

 

「え?ごめんよくわからないけど、私は藤丸立香です。

 よろしくお願いします。」

 

「あ、止めてその目。

 その炭治郎がゴミ()を見るときみたいな目。

 そんな冷たい目だと俺泣いちゃうからさぁ…」

 

 

笑顔から一転、真顔になった立香と涙目の善逸。

とはいえ、このまま続けていてもしょうが無い。

気を取り直した立香は、自身の事。

 

つまりはカルデアや魔術、

英霊の事を一通り語って聞かせた。

 

 

「と、いうわけで私はこの世界にレイシフトしてきたんだけど…。

 わかったかな…?」

 

 

立香の説明にうんうん頷いた炭治郎は、

何だかとても明るい顔で声を出した。

 

 

「なるほど!」

 

「え?うそ、炭治郎今ので全部わかったの?

 俺、英霊とかサーヴァントとかは何となくわかったけど、特異点とかそういうのはさっぱりだったんだけど」

 

「凄いね…炭治郎君…。

 全然理解されなくてもしょうがないかなと思ってたんだけど…」

 

「あ!いや、御免なさい!

 何だか凄い話だなぁという意味のなるほど!でした!!!」

 

「いや何もわかってねえじゃねぇか!!!

 え?何で?何でそんな浅すぎる理解度で、わかりました!みたいな顔出来たの!?」

 

「あはは…。やっぱり難しいよね…」

 

「あ、ほら!立香さん落ち込んじゃっただろ!?

 責任取れ炭治郎!!」

 

「なあ!聖杯って食えんのか!?」

 

「食えるか!!!!!食えるわけねぇだろ!!??

 いや、確かに俺も実物見た事無いから?詳しい事はわかんないけど?

 けど何でも願いが叶う器なんだろ!?食えるか!!!食って良いわけ無いわ!!!

 あ、器だから食器になるかもぉってか?喧しいわ!!!」

 

「あ、聖杯を茶碗にして白米とうどんを食べた英霊なら居るよ?」

 

「居るんかい!!!!!…………え?そんなの居るの?

 ちょっと待って?当初の説明で抱いていた俺の中の英霊像が崩れていくんだけど?

 え?そういう感じなの?英霊ってそういう感じなの?」

 

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ炭治郎達三人。

 

 

「よーしわかった!!!炭治郎にもわかるように俺が纏めるぞ!!!

 つまり、立香さんの話を合わせると!

 魔術は呼吸!

 英霊が柱!

 影英霊が鬼!

 聖杯は………、願いが叶う茶碗!!!

 どうだ!?」

 

「なるほど!わかったぞ善逸!」

 

「茶碗じゃ食えねえだろうが!!!」

 

「だから食わねえんだよ!!!

 離れろよ!その食うって思考から離れろよ!!!」

 

 

恐らく一番理解度が高い善逸。

善逸のお陰で何となく理解出来た炭治郎。

聖杯を食べたい伊之助。

各人にバラツキは有るが、それでも一応納得は得られた。

 

 

「ま、まあ分からないことは都度聞いてよ!説明するから!

 それで、今度はこの世界の話を聞きたいなぁって」

 

 

立香の言葉に頷いた善逸は、立香が疑問に思うだろう事を説明した。

 

鬼、

日輪刀、

呼吸、

鬼殺隊、

柱。

 

そのどれもが立香には聞いたことの無い単語。

 

いや、正確には“鬼”という単語は聞き覚えも、何なら面識すら有る。

 

だが、善逸や炭治郎の口から語られる鬼の詳細は、立香の知るソレとは多少異なっていた。

 

確かに魔であり。

人を襲い。

喰らう。

それは同じだが。

 

ただ、その生態や、鬼を創り出せる鬼は一匹、というその在り方は、

例えるならばまるで吸血鬼ドラキュラのように、立香は感じた。

 

 

「あ、じゃあ、こういう鬼は知ってる?」

 

 

そこでハタと、柳生の話を思い出した立香は、柳生が遭遇したという鬼について聞いてみた。

 

しかし、その詳細を聞くたびに、

炭治郎の顔から感情の色が消えていく。

 

 

「えっと、炭治郎君…?」

 

「鬼舞辻………」

 

「え?」

 

「鬼舞辻…無惨だ!ソレは!!!」

 

 

炭治郎が発した突然の怒声。

 

 

「落ち着けって!炭治郎!」

 

 

驚く立香を庇いながら、善逸が何とか宥める。

 

そうして炭治郎は自身の仔細を語った。

 

鬼舞辻無惨という鬼に殺された家族。

鬼になってしまった妹。

つまり炭治郎の目的は復讐。

全てを奪った鬼舞辻への報復だった。

 

 

「じゃあ、その箱に入ってるのが妹さん?」

 

 

立香の質問に炭治郎と善逸が驚く。

 

 

「気付いてたんですか?」

 

「うーん、何か大切なモノが入ってるって事だけ。

 それに、偶に動いてるし」

 

 

あはは、と笑いながら立香は言う。

 

その、屈託の無さは、鬼だとかそうじゃ無いとかで、相手を判断しない人間特有のものだった。

 

この人になら紹介出来る。

 

炭治郎はそう判断し、箱に呼び掛ける。

 

 

「禰豆子。出てこれるか?」

 

 

開けられた箱からは、小さな女の子が出てきた。

それは見る間に大きくなり。

まさに炭治郎の妹、という身長に変化した。

 

 

「か、可愛い!」

 

 

立香の心からの感想に、炭治郎は物凄い勢いで答える。

 

「そうでしょう!!!???可愛いでしょう!?

 そう!そうなんです!可愛いんですよ!!!

 自慢の妹なんです!!!

 ほら!特にこのあたりが!ね!?可愛いでしょう!?

 ほら!この角度も!!!良く見て下さい!!!

 こうするともっと可愛い仕草が有るんです!!!

 ほーら禰豆子!!」

 

 

禰豆子は炭治郎の手を愛おしげに顔で受け止めている。

 

気持ち良さそうな禰豆子と、満面の笑顔の炭治郎。

立香は、炭治郎に出会ってから一番の笑顔を見た気がした。

 

そこには鬼と人間という括りではなく。

ただ、仲良く戯れる、兄妹の姿が有った。

 

 

「う゛ー!!!」

 

 

そんな中、突然禰豆子が立香の方を向き、唸りだす。

 

 

「どうした禰豆子?禰豆子?」

 

 

話に聞いた鬼の食人衝動。

それが立香に向いている。

その場の誰もがそう考えていた。

故に炭治郎は禰豆子を宥め。

善逸はハラハラしながら成り行きを見ている。

 

薄らと違和感に気付いたのは伊之助だった。

 

 

「森がざわついてんな…」

 

 

その言葉にハッとなった炭治郎、善逸、立香は、各々の方法で周りを探る。

 

匂い、

音、

魔力。

 

そして三人が三人とも同時にソレにぶち当たる。

 

何かが、森から此方に向かっている。

 

その何かが、シャドウサーヴァントだというのは最早明白だった。

 

既に今晩は連戦だ。

しかも相手はシャドウサーヴァント。

そう何度もあっさり勝てる相手じゃない。

クラスだって、

真名だって、

相対していない今はまだわからない。

 

もし、トップサーヴァントのシャドウだとしたら。

大惨事になる可能性も高い。

戦略的に見れば撤退の二文字が最善と浮かぶ状況。

 

だが、

 

「う゛う゛!!!」

 

「待て!禰豆子!!!」

 

 

森へと飛び出した禰豆子を追い、

炭治郎が森へと入ってしまった。

 

 

「馬鹿!炭治郎!クソッ!

 あいつ禰豆子ちゃんの事になると周りが見えてない!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。