Fate Grand Order×鬼滅の刃 作:笛用カモシカ
善逸が焦った声を上げる。
禰豆子の先行。
炭治郎の追随。
こうなっては撤退などという判断は不可能。
立香達は、正体不明の敵を相手取っての連戦を、
強行するしかなくなった。
「追いかけよう、善逸君!!!」
「え゛!!!???
あ…、いや…、やっぱりそうなり…ますよね…?
いやぁ、そのぉ、何というか心の準備が…」
「…」
「ぁうそ!うそです!!!
行きます行きますから!
その目は止めて!!!」
無感情な目で善逸を説得した立香は、伊之助を見る。
「伊之助君も!行こう!」
「んだこの感じ…。
森が…わかんねえ空気になってやがる…。
やべえ…、さっきのヤツより絶対にやべえ…」
「伊之助君…?」
伊之助は、立香の声を聞かずに何事かをブツブツ呟いている。
それは、いち早く肌で、
気配で、強大な敵を感じ取った伊之助の恐怖か。
戦う事に怖じた、震える野生の姿か。
否。
断じて否。
伊之助の震えは、
歓喜の震えだった。
「ってことはソイツを倒せば!俺!最強!!!
うははははは!!!!猪突!猛進!!!」
その証とでも言わんばかりの雄叫びを上げながら、
伊之助は森の中へと駆け出す。
「ちょっ!伊之助君!?」
追いかけて立香も森へと踏み入る。
「嘘!!!嘘おおおお!!!
行くって言ったけど!
行くって言ったけどもさああああ!!!!
嫌ああああ!!!
置いて行かないで二人ともおおおおおお!!!!!」
立香が行ってしまった事で恐慌状態に陥った善逸も、
泣きながら森へと入る。
そうして三人は、炭治郎と禰豆子を追って、森を進む。
進むにつれ、三人は三様の気配を感じ始める。
立香は、どんどん濃密になる魔力を否応なく感じ。
善逸は、炭治郎と禰豆子が何者かと戦闘しているであろう音を聞き。
伊之助は、その両方を肌で感じていた。
三人が三人とも、
至った結論は同じ。
この敵は、さっきの比じゃない。
ソレは濃密な魔力から。
ソレは打ち合って負けているのだろう剣戟の音から。
ソレは大気を震わせる威圧感から。
その全てから雄弁に語られている。
強敵である、と。
しかし、それを感じてなお、
止まる、と口にする者は誰一人居ない。
立香も、
伊之助も。
善逸さえも。
心中に有るのは一つ。
炭治郎、禰豆子と合流し、
敵を打倒する。
そのために走る。
森は深さを増して行き。
月光は容易に届かない。
そんな道中を無言で駆ける。
一分一秒でも速く。
走る、
走る、
走る。
そんな三人を新たな感覚が襲う。
「魔力が…、膨れた…!
もしかして………、宝具…!?
けど…シャドウサーヴァントは宝具を使えないはずじゃ…!?」
「嘘だろ…
嘘だろ…
嘘だろ…!?
何だよこの音…!
何なんだよこの音…!」
それは宝具を使う際特有の魔力。
空間を飲み込むような、
英霊特有の威圧感。
「な…んだありゃあああああ!!!???」
突然の伊之助の絶叫。
驚いた立香と善逸は直ぐに伊之助の視線の先を追う。
────それは異様な光景だった。
いや、正確には立香以外の全員には異様な光景だった。
月下の森。
不自然に出来た空間。
まるで幾千の刃が、
辺りの木を根こそぎ斬ったような。
その、円形に森が開けたクレーターの中心。
そこに、脚から出血して動けない禰豆子と。
それを庇い、ボロボロに引き裂かれた炭治郎が立っていた。
だが、真の異様は。
善逸達が絶句した異様は。
決して炭治郎達の状況では無い。
炭治郎は禰豆子を庇っている。
庇いながら上空に視線を飛ばしている。
上空?
そう、空の上。
その雲疎らな月の下に、
一人の女性らしき黒い影が浮いていた。
天女のような、しかし黒一色の羽衣を纏い。
感情の窺えない影の顔を、炭治郎達に向ける。
いや違う。
浮いているのは女性だけではない。
その女性を中心に、
数えるのも馬鹿らしい程の刀剣が浮いている。
顕明連、
大通連、
小通連。
羽衣纏った女性の剣士。
ここまで揃えば立香にはわかる。
「セイバー…鈴鹿御前…!」
「嘘…だろ…?
そんなの………英霊って本当にそんな………」
鈴鹿の名に聞き覚えが有るのだろう。
善逸は震えた声で頭を振っている。
「誰だよ!?何とか御棒だか知らねえけど!
俺が!一番に斬る!!!」
伊之助は血気盛んに飛び上がる。
宙に浮く鈴鹿と真っ向勝負の体勢だ。
「駄目!!!戻って!
伊之助君!!!」
「行くぜ!!!獣の……
…ゴバッ…!
んだ…?これ…?」
それはまるで自動迎撃の高速追尾ミサイルだった。
伊之助が飛び上がり、立香が止めるのと同時に。
鈴鹿の周囲に浮遊する剣が、
目にも留まらぬ速さで射出された。
それは容赦なく伊之助の腕を貫き、
初動を完璧に抑えこんでいた。
「ケ…モノメガ…。
ゲセンノミデ、ワレニヨルトハ…。
カナウトオモウテカ…」
「しゃ…、喋ったあああああああ!!!!!
うそおおおお!!!???
英霊って喋るのおおおおお!!!???」
「落ち着いて善逸君!!!!
確かに話すけど、でもコイツは変だ!!!」
悲鳴を上げながら震える善逸を宥めつつ、
立香は必死に考える。
英霊が話す。
それは良い。
それは当たり前。
では、シャドウサーヴァントが話すか?
それも、時と場合に依っては有る。
有り得る。
けど、これはどうだ?
炭治郎から聞いた禰豆子の特徴。
鬼だけを狙うという暗示。
今までの経験から来るパターン。
影が言葉を操る時は。
「その英霊の…、近しい何か…?」
その考えに至り、立香の思考は加速する。
そうだ。
経験的にそうなる。
レイシフト先で影が話すときは大体そうだった。
残留霊基や、何か招かれた異物が、
既存の英霊の殻を被っているパターン。
「でも、鈴鹿御前の縁者…。
坂上田村麻呂…?違う、鬼じゃない…。
鬼じゃないなら禰豆子ちゃんが走った説明が出来ない…。
じゃあ、大嶽丸…?
確かに鬼だけど…、それじゃあ鈴鹿と同じ宝具を使った理由が…」
「何ブツブツ言ってるんだよおおおお!!!!
はや、早く逃げようよおおおおお!!!!
伊之助と炭治郎、それに禰豆子ちゃん連れてさああああ!!!」
「舐めんなぁ…!
俺はまだ…!やれんだぁ…!!!」
「なんでお前は挑発してるわけ!!!???黙れ!!!
黙って謝って見逃してもらうんだよ!!!!
だってあれ英霊なんだろ!!!???偉いんだろ!!!???
鬼じゃないんだろ!!!!???
………、鬼じゃない…?でも…この音…。
いや!でも!
やっぱり鬼みたいだけど鬼の音じゃないんだよ!!!
だから逃げようよおおお!!!」
鬼みたいだけど、鬼じゃない。
善逸の言葉で立香の思考がクリアになる。
鈴鹿御前の縁者。
鬼だけど、鬼じゃない。
いやむしろ。
ソレは、鬼よりも格上な霊格の存在。
「そうか──わかった…!
お前は鈴鹿御前じゃない!
お前は───第四天魔王だ!!!」
四天統べる化生の頂き。
鈴鹿御前の父。
鬼達の王。
天魔堕落の化身。
紛う事無き、
「フ…ハ…、
アタリ…ダ、ムスメ…」
立香の言葉を受け、
第四天魔王は薄く笑う。
「オニノケヲカンジ…、マロビマネカレテミレバコノダラク…。
ショダンスルノハ…ドウリデアロウ…?」
言葉と共に、第四天魔王は禰豆子を指差す。
それを合図に剣が飛び、禰豆子の腿へと突き刺さる。
「う゛!?」
「禰豆子!?」
炭治郎は反応出来ていない。
自ら一人ならば何とかなるかもしれないが。
手負いの禰豆子を庇いながらでは、水の呼吸本来の脚捌きが使えない。
翼をもがれた鶴。
いや、絡め捕られた龍のような。
嗤う天魔と、昇らない水龍。
勝負は明白。
だがそれでも。
「落ち着け…、落ち着け炭治郎…!
集中だ…!集中するんだ…!」
「何やってんだよ炭治郎!!!!
逃げるんだよ!!!!
禰豆子ちゃん背負ってでも早くこっち来いって!!!!」
「駄目だ!!!
そんな事をすれば、コイツは後ろから俺達を撃つ!
コイツはずっと、嗤いながら妹に…!
禰豆子に刃を向けていたんだ!
コイツは、そういうヤツなんだ!!!!」
炭治郎の目に灯っているのは不退転の覚悟。
隙の糸なんて全く見えない。
連戦の疲れ、庇った傷で、呼吸も満足に使えない。
けれども、絶対に引かないという、男の瞳。
その目に、立香の焦りが高まっていく。
あれは相打ち覚悟の目だ、と。
幾人もの英霊を見てきた立香は瞬時に直感する。
「善逸!!!俺がコイツの気を引く!
そうしたら禰豆子を連れて逃げろ!!!」
「な、何言ってんだよ炭治郎!!!
ふざけんなよ!!!!」
「勝手言ってんじゃねぇぞ紋治郎…!
俺はまだ…やれるって言ってんだろうが!!!」
行かせてはいけない。
この子供達を行かせてはいけない。
このままだと死んでしまう。
炭治郎は引かないだろう。
伊之助は恐らく無理にでも打って出る。
善逸は、恐れながらも最終的には炭治郎の意を汲み前に出るだろう。
禰豆子だって、兄を見捨てて逃げるはずが無い。
無理だ。
それでは誰も助からない。
死ぬ。
「フフ、良イ眼差シダ。
コノ霊基ニモ馴染ンダ頃合。
戯レハ此処マデトシヨウ。
ソノ蛮勇ニ免ジ、一息ニ殺ソウ。
ソノ、出来損ナイノ、鬼ノ娘ヲ除イテナ!」
ブチリ。
炭治郎の堪忍袋の緒。
それが切れた音が、聞こえてくるような怒りの気配だった。
「それ以上…、口を開くな…!!!」
弾かれた弾丸のように炭治郎は走り出す。
それが合図。
伊之助は変わらず飛び掛り。
善逸は禰豆子の元へと走る。
禰豆子は、手を広げて血鬼術を使おうとしているが、
第四天魔王の魔眼に射られ、手が閉じられなくなっている。
そして放たれる天魔の刃。
放たれた剣は六本。
伊之助の胸部、頭部を狙う二本。
善逸の脚部、頭部を狙う二本。
炭治郎の腕部、頭部を狙う二本。
禰豆子以外に対する、絶死の剣。
確実に死を齎そうとする致命の狙い。
立香には、それが嫌にゆっくりに見えていた。
恐らく伊之助は頭部をかわす。
だが胸部はかわせない。
恐らく善逸も、頭部はかわす。
だが、同時に脚部は無理だ。
炭治郎は。
炭治郎は恐らく腕を守る。
頭を犠牲にしてでも腕を守る。
そうしなければ剣が振えないから。
そうしなければ刺し違えられないから。
そうしなければ、妹を守れないから。
見える。
全てが見える。
立香にはその結末が容易に予見できている。
ふざけるな。
そんな結末が許されるか?
誰も何も出来ないのか?
違う。
断じて違う。
今この場で一人だけ居るだろう。
状況を覆せる存在が。
それは誰だ?
炭治郎か?
善逸か?
伊之助か?
禰豆子か?
違う。
違う違う違う。
今まで召喚できなかったのだから今回も無力だろう?
所詮、刃も持てない凡庸な人間?
違う。
逃げるな。
今この場に居る唯一のマスターという責務から。
逃げるな。
人理の手綱を握るという重圧から。
逃げるな!
「う゛…!」
立香の決意に、禰豆子の兄を想う涙が重なる。
この涙を、
これ以上流させてはいけない。
そう思った時には、立香は無我夢中で叫んでいた。
「ああああああああああ!!!!!
この意!この理に従うならば応えよ!!!!」
叫ぶ。
もう本当に刹那しか時がない。
望むのは超常の力。
無理を通す奇蹟の刃。
英霊という、
人類史の積み上げた希望の結晶。
「来て!
来て!!
来て!!!
誰でもいいから!来て!!!!
天秤の────護り手よ!!!!!!」
瞬間、全てが変わる。
光失った手には、
赤い希望の輝きが灯り。
「ぐっ───え?」
「ひいいいいいい───あれ?」
「当たっても痛くねえぞコラあああああああ───あ?」
飛来する絶望の刃は。
燕の如き疾風の剣筋に、
その全てが両断されていた。
「サーヴァントアサシン…、佐々木小次郎。
召喚に応じ参上したが………さて…ふむ」
一陣の風を纏いながら、
姿を現した小次郎は。
「状況皆目判らぬ故、飛来する飛礫を全て斬り払ってみたのだが。
マスター殿の意に反してしまったかな?」
あまりにもあっさりと、
自身の成した奇蹟を語って見せた。
「小次郎!!!」
「ははは、壮健そうだなマスター。
カルデアの皆が心配していたぞ?」
立香の目に安堵の涙と希望の光が宿る。
この小次郎は自分を知っている。
ちゃんとカルデアの小次郎だ。
その事実がなにより立香を安心させる。
それらの喜びを爆発させながらわきゃわきゃする立香。
それを穏やかな顔で受け止める小次郎。
炭治郎も、善逸も、伊之助も、本物の英霊を初めて見た事になる。
その初見の感想は、安堵、不安、疑問、だった。
炭治郎はその良さそうな人柄を見て安堵し。
善逸はその細い身体を見て戦力的な不安と、
やはりよくわからない魔術という神秘に不安を覚え。
伊之助は最早意味不明なほどに極まったその擬態ぶりに、
疑問を感じていた。
三人に共通するのは一つ。
小次郎の持つ、
いや、英霊の持つ独特の気配に見入っていたという事。
だがその考えは、次の瞬間吹き飛ぶ。
「ふむ、とは言え事態は火急と見える。
────では指示を、マスター。
拙者は────どれを斬れば良い?」
小次郎がゆっくりと周りを見回し、
誰が敵か?と聞く。
「っ!?」
「ひっ!!!」
「がっ!?」
「う゛っ!?」
その単純な行為で、
禰豆子含めた四人は、射竦められたように動けなくなっていた。
冷酷な、とか。
鋭い、とか。
刺す様な、とか。
そういう言葉では生温い程の圧。
言うなれば、抜き身の剣を首元に押し当てられたような。
両手足を縛られ、今まさに刃が迫ってきている時のような。
そういった切迫した殺気。
視線で人を殺すのではないかという程に、極まった剣気。
英霊という人類究極の兵器。
その意味が痛いほどに伝わる、
双眸に宿った殺意。
炭治郎、善逸は声が出ず。
伊之助すら、普段の暴言が鳴りを潜めている。
「野武士風情ガ…」
静寂を破ったのは第四天魔王だった。
先程までとは違う気配。
宙に浮く全ての剣が、
一片の隙も無く小次郎に向いている。
「ははは、なるほど。随分と判りやすい。
流石に、野の獣を狩るために喚び出されたわけも無し、と踏んで居たが。
よもやまさか天魔化生の類とは……、いやはや何とも」
「怖ジケタカ?ソレモ詮無イ事。
野武士ニ我ハ斬レヌ!!!」
その声と共に、剣が小次郎目掛け飛来する。
それを、小次郎は身を少しだけ引き、危なげ無く躱す。
一射目を皮切りに連続で射出される剣、剣、剣。
しかしそれは小次郎に掠りさえしない。
十、二十を超えてなお、ただの一度も危うい一発さえ無い。
ヒラリ、またヒラリと。
まるで風に揺れる柳のように、剣弾を回避する。
「凄い…」
漏れた声は炭治郎のもの。
それは、小次郎の動体視力と体捌きに対する、
賞賛の溜め息だった。
炭治郎とて、飛来する剣弾はかろうじてだが見えていた。
故に一発、ないし二発ならば、怪我を省みなければ回避できる。
しかしそれが、数十となると。
しかも、身体に掠りさえしないのは。
炭治郎をしても絶技に見えた。
それこそ柱達にも匹敵するかもしれない。
「フフ、器用ナ事ダ。
上手ク避ケル。
ダガ、ソノ背ノ長物ハ飾リカ?」
それは明らさまな挑発。
例えば天魔が剣弾を止め、
地に降り、剣を交える。
それならば、今の言い分も通るだろう。
しかし天魔にその気は無い。
だというのに刀を抜けと言うなど、
最早卑怯を通り越した物言い。
安全圏から石を投げるが如き行為だった。
「………」
小次郎は黙って剣弾を回避し続ける。
そう、そんな挑発に乗る必要は無いのだ。
敵の魔力尽きるその時まで、回避に専念すれば良い。
「ハッ、所詮ハ野武士カ」
だが。
「ふむ、先刻より何をか、
勘違いしている事が二つほど」
だというのに。
下らない挑発であるのに。
抜けば絶対に不利なのに。
小次郎は、
ゆっくりと刀を抜いていた。
「ホウ…?」
「まず一つ。拙者は野武士では御座らんよ。
この身は只の農民。
ただ、余人より少しばかり、棒振りが得意だっただけの、
名も無き農民で御座る」
その言葉に、立香以外の全員が絶句する。
只の農民?
有り得ない。
じゃあ今見ている回避の動きは。
最初に行った疾風の剣は?
そのどれもが、剣豪のソレ。
絶技中の絶技じゃないか。
炭治郎含め、善逸、伊之助の心中に同じ思考が生まれる。
農民がそんなに強いわけが無い。
伊之助はそれにプラスして、少しの失望を感じていた。
「強く、ねえのか…?」
強いと感じたのは自身の間違い?
擬態ではなく本当に弱い?
「ハ、ハハ、ハハハハ!
ソウデアッタカ!野武士デスラ無イト!
之ハ!酷ナ事ヲ言ッテシマッタナ!
只ノ農民ニ、刀ヲ抜ケナドト!」
天魔が嗤う。
それを見て、炭治郎達にさらなる疑念が芽生える。
もしかしてこの人は、既に一杯一杯なのか?
避ける事は出来ても、既に限界なのか?
助けないと、負けてしまうのか?
その思考に至った炭治郎は、助太刀の提案をしようとする。
だが、それらの考えは、
すぐさま杞憂であったと思い知らされた。
「そして二つ目だが─────
この飛礫を斬るのに特段、大した苦労は御座らんよ。
────フッ!!!!」
一閃。
正眼の構えから繰り出された一撃は。
飛来した剣を綺麗に両断していた。
「バ、馬鹿ナ…!
ナラバ何故!何故今マデ!」
斬らなかったのか。
その問いを天魔が問う前に、
小次郎は驚愕の行動に出ていた。
「いやなに、悩んでいたのは蚊蜻蛉の落とし方でな。
丁度今しがた………フッ!!!!それが思いついた処よ」
小次郎の行動に全員が目を見開く。
それは、小次郎を良く知る立香なさえも驚愕の行動だった。
小次郎はやおら片手を前に出すと、
飛来する剣を、むんず、と掴み取っていた。
空中から飛来する剣。
しかもソレは目で追うのがギリギリな速さ。
それを避けず、あまつさえ掴む。
最早人間の理解の外。
まさに英霊の絶技だった。
そして小次郎はソレを、
ひょい、と炭治郎の近くに放る。
「え?」
「雪合戦、いや、飛礫を投げあう合戦でも良い。
そういった遊びは好きで御座るか?」
「あ、はい!昔、兄妹達と良く雪合戦をしました!」
「はは、そうか。
………そら!猪頭と黄頭はどうだ!?」
再び、今度は長刀を背に戻して、両の手で二本、
剣弾を掴み善逸と伊之助に投げる。
「え…?何コレ…?どういうこと…?
突然の交流時間…?お互いを深く知りましょう、的な…?
雪合戦とかして仲良くなりましょう、的な…?
え、でも何故に剣を此方へ…?
ていうか黄頭って俺?
え?俺今普通に馬鹿にされたの?」
「すげえ…。
すげえ!すげえ!!!
剣を!素手で掴んだぞ!!!
すげえ!強ええ!!!」
「はは、なに、マスターは男でない故、こういう荒事には誘えぬが。
お前達は大和男で御座ろう?
蚊蜻蛉を落とす雪合戦、いや、剣合戦だ。
助力を頼み申したい。」
言うなり小次郎は手にした敵の剣を、ブンッ、と投げる。
「ナッ!?ガッ!!!???」
ソレは物凄い勢いで天魔目掛けて飛び、その腕に直撃する。
「ふむ、噂に聞いた武蔵殿の戦法。
思いの外悪くない。
そら、お前達も投げろ!
弾ならば幾らでも掴み取る故!」
「は、はい!
あ、いやしかし、侍の魂である剣を投げるのは………」
「でも、敵の剣で御座るよぉ?
敵の剣ならば、それくらいは構わない。
そうでは御座らんかぁ?」
「なるほど!確かにそうですね!」
「いや騙されてるよ!!!
騙されてる時の感じだよそれ!!!!
何なんだよぉこの人ぉ!怖いよぉ!発想が怖いよぉ!!!
飛んでる敵落とす為に剣投げるとかぁ!!!
投げる剣補充する為に剣を素手で掴むとかぁ!!!
普通そういう事考える!!!???
おかしいじゃんよぉ!!!!
絶対おかしいじゃんよおおおおお!!!!!
やるけどもさああああ!!!
睨んでくる目が怖いから投げるけどもさああああ!!!!」
「すげえ!すげえ!!!
剣投げるとか!すげえ!!!
うははははは!!!!!俺も!やるぜええええ!!!!」
小次郎の指示を理解した炭治郎達は、
一心不乱に剣を投げまくる。
投げる、
投げる、
投げる。
まるで弾幕の張り合い。
天魔が降らせる剣弾に対抗する、地面からの剣弾。
まるで、一度落ちた昇竜が再び天へと向かう、うねりの様な。
そうはさせじと天座を死守する天魔との、攻防のような。
そんな異様な剣投げ合戦。
だが、一見拮抗しているかのようなその合戦は。
徐々にではあるが、明暗をくっきりと見せ始めた。
軍配は、小次郎達に傾いている。
それも当然の事だった。
何せ小次郎は、天魔が放つ意地の連射を、
時に斬り、時に掴み、自由自在に戦場を駆けていた。
そしてその小次郎から供給される弾を、
全集中の呼吸で強化された三人が、滅多矢鱈に投げまくる。
天魔からすればそれは一種のホラー。
撃てば斬られ、取られ。
油断すればかなりの速度の剣弾が飛んでくる。
躱しきれるはずも無い。
戦の正義とは、
即ち攻防に於ける物量なのだから。
「ガッ!?グッ!ガァァァァ!!!」
炭治郎の投げた一発。
ソレが天魔の腹へと突き刺さり。
遂に第四天魔王は、その空から失墜する。
「クソ!クソ!クソ!
舐メルナ!我ハ!
我ハ魔王ナルゾ!!!」
天魔は落下の衝撃に耐え、即座に反撃に移ろうとする。
だが、その着地点には、
既に構えに入った小次郎が待っていた。
「いざ……!
────秘剣・燕返し!!!」
「ガッ…!馬鹿…ナ…」
その秘剣は、全く同時に三本の剣筋を顕現させる魔技。
寸分も違わず、
などという甘い言葉では無い。
その技の瞬間、
明確に小次郎はこの世界に三人存在するのだ。
それこそが対人魔剣。
苔の一念が神仏へと届いた、
執念の業。
神も魔も、この剣から逃れる事は叶わない。
天魔の失墜は、逃れ得ぬ当然の結末だった。
「刀が三本に────?
い、いや、それより…!禰豆子!」
シャドウサーヴァントの消滅を見届けた炭治郎は、
禰豆子の元へと走る。
「大丈夫!傷は治したよ!」
そんな炭治郎の処へ、礼装で回復させた禰豆子を連れた立香が歩いてくる。
「禰豆子!良かった…!本当に良かった…!」
禰豆子を抱きしめ涙を流す炭治郎。
立香は、その二人を万感の思いで見ていた。
みんなの頑張りが、この美しい兄妹を護ったんだ。
そんな、達成感にも似た感覚。
この場の誰もが、そんな幸福を噛み締めていた。