ジャグラーさんがトレセン学園でなんかやらかすようです。 作:気まぐれな富士山
5月中旬。トレセン学園で行われる催しといえば、そう。選抜レースだ。
今年の目玉ウマ娘を決める重要なレースであるため、数多くのテレビ局、新聞社、ウマ娘関係者たちが見守るのだ。
当然だが、トレーナーもその1つ。
どれだけ有能なウマ娘を見抜きスカウトするか、と言えば綺麗だが、実際は殆どのトレーナーが成績の良いウマ娘に群がり、たった一人だけがそのウマ娘と契約する。
なんとも、闇弱な想像しかないトレーナーの考えである。
「さて、このレースの目玉は⋯⋯⋯⋯」
なので彼、蛇倉ことジャグラスジャグラーは、激戦区を奪い合うのではなく、人知れず輝く原石を探すことを選んだ。
「1番人気は、期待の新人オグリキャップ。学年内の授業レースでは、ほぼ圧勝。実力と人気を兼ね備えた必然的な順位だな。その天然気質な性格から地元民に愛されている。それに、あの末脚はあのタイキシャトルとタメを張れる。しかし、地方から来たことにより、中央の熾烈なコース争いに対応しきれてない⋯⋯。」
出走ウマ娘の成績表と出走表を見比べながら軽く分析していく。
「あの、隣いいですか?」
「え?ああ、どうぞ。」
女性に声をかけられ、席を譲る。
「ありがとうございます。⋯⋯⋯⋯あの、やっぱり狙いはトウカイテイオーですか?」
「あー⋯⋯⋯まあ、そんなところですね。そちらは?」
「私は、まだ何も決めてません。狙いとかは無くて、パドックとレースの様子で決めます。」
「へぇー。珍しいですね。」
最初は適当にはぐらかそうとしていた蛇倉だったが、段々と興味が湧いてくる。
「あ、申し遅れました。私、桐生院葵と申します。」
「蛇倉です。桐生院って、あの名家の?はぁ〜、お家の名を背負うのは大変でしょう。」
「お恥ずかしながら⋯⋯⋯⋯。家の名を汚さないように勉強して、つい先日入ったばかりで、トレーナーとしての業務も今日が初めてなんです。」
「奇遇ですね。俺もですよ。」
「じゃあ、同期ですね!よろしくお願いします、蛇倉トレーナー!」
「よろしく。桐生院トレーナー。」
お互いに握手する。
「ほら、パドックですよ。お〜、5番のオグリキャップ。今日は絶好調ですね。」
「わかるんですか?」
「あ、いや、髪の質感とか肌の調子とか、あと目線とかですかね。彼女自身、大人しい性格なので、調子は目で見て分かりやすいんです。」
「なるほど!参考にさせていただきます!」
普通、観客席からではそんなもの見えない。
パドックの最前列から見るならまだしも、観客席の後方からそれを見破ることは、地球外出身の彼にしかできない。
「他には⋯⋯⋯⋯」
「あ、この子も何かいい感じがします。ほらこの、6番です。」
第3レースの出走表を指さし、直感を語る桐生院。
「これは⋯⋯ハッピーミークですね。性格は天然でおっとりとしており、『何を考えているかわからない』として学園内では有名⋯⋯⋯⋯」
「え、なんでそんなとこまで知ってるんですか?」
「いやほら、ここに書いてあります。」
「⋯⋯⋯⋯この成績表を作った人、どこからそんな情報を仕入れたのでしょうか。」
「⋯⋯⋯⋯さあ?兎も角、もうスタートですよ。」
桐生院が顔を上げると、既にウマ娘達はゲートに向かっていた。
『さあ、ウマ娘たちの準備も整いました。第1レース1600m、いよいよ始まります!』
会場全体が静寂に包まれる。
さあ、戦いの火蓋が切って落とされる!
ガコン!
『今スタート!各ウマ娘一斉にスタートをきりました!』
『誰が先に出るか、注目です!』
『さあ先頭に上がったのは⋯⋯⋯』
「今回は逃げウマ娘が少ないな⋯⋯⋯⋯。位置の奪い合いになる。」
「オグリキャップ、かなりいい位置に着きましたね。」
「いや、違う。最もいい位置に着けたのは⋯⋯⋯⋯」
オグリキャップは中盤まで優位にコマを進める。
スタートも完璧、先行策も完璧⋯⋯⋯⋯
位置取りはもう少し左の方がよかったけど。
『最終コーナーに差し掛かりました!』
(ここで、仕掛ける!)
『オグリキャップ!仕掛けてきました!』
どんどんとゴールに近づいていく。
最終局面に差し掛かってきた。
『オグリキャップ!まくって上がる!現在1番手に並んだ!!』
(このままぶっちぎる!)
数バ身差を開いて、1位でゴールイン。
そのはずだった。
「オグリキャップ、圧倒的ですね。やはり期待の新星でしょうか⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「蛇倉トレーナー?どうしたんです?」
「いや、これは⋯⋯⋯⋯」
蛇倉が見たのは、2バ身ほど離れたオグリキャップに近づくウマ娘。
それは、どこか輝くようで熱く燃える流星のように。
オグリキャップに追い縋る火球。
「あのウマ娘は⋯⋯⋯⋯」
『残り200!先頭はオグリキャップ!しかし2番手バンブーメモリーが上がってくる!オグリキャップ逃げきれるか!バンブーメモリー追い縋る!しかし依然オグリキャップ!バンブーメモリーかオグリキャップか!オグリキャップ!オグリキャップだ!1600mを駆け抜け、メイクデビューを制しました!』
「オグリキャップ、凄いですね⋯⋯⋯⋯やはり期待の新星でしょうか。」
「⋯⋯⋯⋯面白ぇ。」
観客席から移動する蛇倉。
「蛇倉トレーナー?どうしたんですか?」
「ちょっとスカウトに行きます。」
「へ!?あ、行ってらっしゃーい!」
「クッソ⋯⋯不甲斐ないっス⋯⋯⋯⋯」
膝に手を置き、自分の不甲斐なさを痛感する。
「オグリキャップ!是非ともウチに来ないか?」
「いいえ、私のところに来なさい!」
「あいや、私は⋯⋯⋯⋯」
「やっぱり1位はスゴいっスねぇ⋯⋯⋯⋯」
敗者が見せるものは無いと言わんばかりにその場から立ち去ろうとするバンブーメモリー。
しかしそこに、1つ声がかかる。
「悔しくないのか?」
「え⋯⋯⋯⋯アンタは⋯⋯⋯⋯」
「俺のことはどうでもいい。お前は悔しくなかったのか。」
唐突に投げかけられた疑問。
少し戸惑うも、その言葉を見逃すことはできない。
「⋯⋯⋯⋯悔しいっス。あの上がり3ハロンをもっと早く仕掛けてたら⋯⋯⋯⋯」
「まあ、ハナ差で1、2着ってとこだな。」
「そのとおりっス。それでも勝てたかわからない。それがあの『怪物』なんス。」
悔しい。勝てない。
率直な弱音を吐き、硬く、強く拳を握る。
そして、そこに蛇倉は糸を垂らす。
希望と
「次こそ勝ちたいか!」
「勝ちたいっス!いや、次勝っても1対1!完全勝利したいっス!」
「よし!なら、改めてスカウトだ。バンブーメモリー、俺と共に夢を駆けてみないか?」
「ッ!押忍!お願いしますっス!」
契約は完了した。
このどこか前の部下に似ているウマ娘。
「さあ、面白くなりそうだ⋯⋯⋯⋯!」
心底楽しそうに笑う蛇倉こと、ジャグラスジャグラーであった。