ジャグラーさんがトレセン学園でなんかやらかすようです。   作:気まぐれな富士山

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第6話 逢魔が時の神隠し その2

「うう、誰もいないっスよねぇ……………」

「先輩、離れないでくださいよ………?」

 

時刻は18時頃。逢魔が時と呼ばれる時間帯だ。

ゴールドシチーとバンブーメモリーは、なぜか教室に向かっておっかなびっくりと進んでいた。

 

「なんでこんな時に限って忘れ物なんてするんスか!」

「しょうがないじゃん!数学の課題、明日には出さないといけないんだから!」

「あぁもう!ちゃっちゃと取って帰るっスよ!」

 

のろのろと歩いていても仕方ない、と踏ん切りをつけ、2人は走り始めた。と言っても小走りだが。

 

「シチー、教室は?」

「こっちです。」

 

進んで行くと、何事もなく教室に辿り着けた。

 

「えーっと課題課題………あった!」

「よかったっス………じゃ、早く帰るっス!」

「うん!目的は達成したし、さっさと行こう!」

 

2人とも暗闇と恐怖でテンションがおかしくなっていた。

しかし、そんな2人に更なる恐怖が襲いかかる。

 

「先行っちゃうっスよー!」

 

バンブーは出入口で待機している。

 

「ま、待って待ってマジで待ってください!1人でとか怖すぎるから!」

 

シチーは急いで用意をした。

こんな暗い中にほっぽりだされては敵わない。

 

「よし、バンブー先輩!今行きま……………」

 

振り返ってみると、そこにバンブーの姿は無い。

 

「バンブー先輩?やり方が古すぎますよ。」

 

きっと自分を驚かせようとしている。

そう確信していたシチーは逆側のドアから教室を出る。

そこから覗けば、バンブーは隠れているに違いない。

 

「やっぱり幽霊なんて出ないって。宇宙人とかありえないし。」

 

自分に言い聞かせるように呟くその言葉は、どこか信頼している雰囲気を漂わせていた。

そのままバンブーが立っていた扉の方を見ると、そこには、

 

『……………………』

「え……………」

 

頭部が恐ろしく肥大化しており、全身が黒一色の怪人が立っていたのだ。

その顔から表情は読み取れず、なぜかバンブーがいたであろう場所に立っている。

シチーの容量は、限界に達した。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

腰を抜かし、叫びながら座り込んでしまう。

その瞬間、怪人がこちらを向き、にじり寄ってくる。

 

『ホッホッホッホッホッホッホッホッ』

 

けたたましく笑うような声に、シチーの恐怖は更に加速していく。

 

「いやぁ!来ないで!来ないでぇぇぇ!!」

 

絶叫をあげながら地べたを這いつくばる。

この化け物から這ってでも逃げる。

その本能だけだった。

 

「嫌……!嫌嫌イヤイヤいやいやいやいや!いやだ!」

 

恐怖に立ち上がることも出来ず、ミミズのように地べたを這いつくばるシチーを見て、確かにあの宇宙人は笑っていた。

 

『ホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!』

 

表情の読み取れない顔。

しかし、そこには確かな愉悦の表情があった。

 

「誰か………誰か助けて!」

 

腹の底から叫んだ。

誰もいない校舎に、ただ叫び声が響くだけ。

 

「誰か……………誰かぁ………………」

 

後ろからヒタヒタと足音がする。

確かに近づいてくる恐怖は、涙を伝って懇願に変わる。

 

「死にたくない……死にたくないよぉ……………!」

 

あの怪人に捕まれば、確実に死ぬ。

いや、死ぬことよりもっと恐ろしいことが起こる。

そんなのは絶対に嫌だった。

 

「まだモデルやりたい………まだダンスしてたい……………まだ表紙飾ってたい……………」

 

自分の欲が自然と現れる。

諦めたくない。自分の悪いこと、気持ち悪いもの、全て受け入れる。だから、だからどうか……………

 

「まだ……………走りたいよ……………………」

 

嗚咽を垂れ流すシチーに快感を覚える怪人。

欲望が垂れ流され、身動きの取れなくなった獲物をゆっくり捕まえようとする。

その時、

 

「汚い手で触ってんじゃねぇよ……………」

 

シィン!

 

刃の軌道が月明かりに光る。

怪人が次に見た景色は、獲物を捕まえようとした手が落下した瞬間だった。

 

『●ゝ;厂☆¥:●☆☆♪¥/灬〃■※▽仝〒!!?』

「ウマ娘を追いかけていたのはやはりお前か。ケムール人。」

 

誘拐怪人ケムール人。転送液を自在に吐き出せる。特徴は、脚が早いこと。

 

「お前らの挑戦は終わった。地獄で隠居生活でもしてろ。ハァッ!!」

 

黒い炎を纏った刃がケムール人の体を袈裟斬りにする。

断末魔の悲鳴をあげたケムール人は、闇の炎に飲み込まれていった。

 

「あ……………う……………」

「…………………」

 

シチーを抱えると、意識が朦朧としている。

恐怖と絶望に心が耐えきれなかったのだろう。

 

「もう大丈夫だ。ゆっくり休め。」

「あ……………」

 

静かに語りかけ、瞼を閉じさせる。

シチーも限界ギリギリだったようで、すんなりと意識を手放した。

 

「さて………………」

 

ギュインギュイン!

 

「フッ!」

 

シチーをお姫様抱っこした状態のジャグラーに閃光が降り注ぐが、これを華麗に躱し、距離をとる。

 

「出てこい。三面怪人ダダ。」

『貴様………無幻魔人ジャグラスジャグラーだな。その女は私のコレクションにするのだ。こちらへ渡せ。』

「随分と言葉が流暢だな。人間ごときに惚れたか?」

『人間ではない。この星独特の生命体、ウマ娘に惚れたのだ。そのウマ娘、ゴールドシチーは私のお気に入りでな。手早く渡してもらおうか。』

「断る………と言ったら?」

 

ダダは手に持った青く光る謎の機械をジャグラーへ向ける。

 

『勘違いをするな。これは交渉ではなく命令だ。逆らえば、貴様もこの標本光線で生きたまま標本にしてやる。それが嫌なら素直に渡せ。』

「なるほど……………」

 

流石に銃を向けられては迂闊に動けない、と判断したのかジャグラーはシチーを地面に寝かせる。

 

『なんだ、意外に素直だな。やはり自分の身内でもない者を助けようとは思わないか。』

「………その標本光線で、こいつも標本にする気か?」

『何を言う。そんなことをすればこのウマ娘はただの人形になってしまうだろう。ここをこうすれば………』

 

ダダは機械のスイッチを切り替える。

すると、機械の発光色が青から緑に変わる。

 

『これは縮小光線だ。これを浴びせてカプセルに入れれば、かわいいペットの完成という訳だ。』

「なるほど……………悪趣味だな。」

『貴様にはわかるまい。もっとも、理解されようとも思わないがな。』

「フン………で、さっさとその銃を下ろしてはくれないのか?」

『この現場を見られた以上、貴様には死んでもらうしかないな。やれ!バルタン星人!』

 

ダダがそう言うと、仲間のバルタン星人がジャグラーの背後に瞬間移動する。

 

『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ』

「何っ!?」

『貴様も私のペットにしてやる!』

 

バルタン星人に気を取られ、後ろを振り向いたジャグラーにダダは縮小光線を放つ。

 

ビビビビビ!

 

「ぐあぁっ!!」

 

ジャグラーの叫び声と共に光線の光が命中し、化学反応によって起こった煙が広がる。

 

『ダッダッダ!これで邪魔者は消えたな!』

 

高らかに勝利を確信したダダは、お目当てのゴールドシチーの元に近寄る。

 

『ダッダッダ………私の宇宙船で可愛がってやるぞ!』

 

縮小光線を向け、発射の準備を整える。

 

『コレデ、私ノモノダーー!!』

 

今、引き金が引かれる。

その瞬間、

 

「シィッ!!」

 

バキィンッ!

 

一閃の刃がダダのマシンを叩き斬った。

 

『な、なんだとっ!?貴様、さっき縮小光線で縮められたはずじゃ!』

「あーあれか。当たったのは、コイツだよ。」

 

何かをつまみ上げ、ダダの前に出す。

 

『バッ、バルタン星人ッッッ』

「後ろに立ってやがったから、声だけ演出させてもらったぜ。」

フォッフォッフォッフォッフォッ(訳)やっちまったぜ!』

『どうして……………!』

 

ダダの頭の中に、先程のバルタン星人との念話が浮かぶ。

 

『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ(訳)コイツに向かって縮小光線を撃ちな。俺は後ろから取り押さえる』

 

 

『バルタン星人ッ………!!』

「さて、お遊びはここまでの様だな。」

 

ジャグラーがそう言うと、持っていたバルタン星人を手から離し、足で踏み潰す。

 

「地獄の炎に焼かれて死ね……………ハァッ!」

『ダダァッ!!』

 

その炎は斬られた部分から徐々に燃え広がり、ダダの体を焼き尽くしていく。

 

『グゥゥ……熱い!苦しい………痛い!クソォ……クソーーー!』

「火葬してやったんだ。感謝しな。」

『終わらない………終わらないぞ!ジャグラスジャグラー!貴様もこの星も、完全に破壊してやる!!ぐぁぁぁ!! 』

 

呪いの断末魔を響かせながら、ダダは残りカスも残らずに消えていった。

 

「お前らごとき、いくら来ても関係ないな………………ったく。」

 

ゴールドシチーをお姫様抱っこし、ジャグラスジャグラーはトレーナー室に戻る。

彼はまだ知らない。これが、後に『あんなこと』に派生するなんて………………

 

 

 

 

「………ん………あ……………」

 

ゴールドシチーは朝が弱い。

自分から起きることなどほとんどなく、大概は同室のバンブーメモリーに起こしてもらっている。

しかし、この日は別だった。

 

「ここは………トレーナー室?った……頭痛い………」

 

昨日のことがまだ思い出される。

あの恐ろしい怪人に襲われ、何者かに助けられた。

 

「あれ………結局誰だったんだろ……………」

 

ぼやけた視界を擦りながら立ち上がる。

 

「おう、起きたか。」

「蛇倉トレーナー………?」

「いやービビったよ。まさかゴールドシチーが廊下の真ん中で寝てるんだからさ。」

「え、アタシ………………」

 

蛇倉トレーナーの話だとこうらしい。

あれから、少し気になって教室に行ってみることにしたそうだ。

宇宙人の話もだが、不審者だったら怖い、と確認に行ったらしい。

すると、廊下にゴールドシチーが寝ていたため、担いで帰ってきた。

そのままシチーの監督兼保護者として朝まで様子を見ていたらしい。

 

「そっか………夢じゃなかったんだ……………」

「何か見たのか?」

「ああいや、何も見てない………訳じゃないけど。あそうだ!バンブー先輩は!?あの時、宇宙人に襲われたんじゃ………」

「何言ってんだ?バンブーなら………あ、丁度来た。」

 

ドドドドドド……………

 

「トレーナーッ!シチーが、シチーが行方不明っス!ってあれ、シチー?こんなところにいたんスか?」

「バンブー先輩こそ、昨日はどこに行ってたんですか!心配したんですよ!」

 

安堵した。あの怪人に連れ去られてはいないようだ。

 

「どこに行ってたってそりゃあ…………」

「昨日!アタシの課題取りに一緒に行きましたよね!途中で帰っちゃって………ホントに怖かったんですからね!」

「え、昨日はシチーが走ってっちゃったのを追いかけてそのまま寮に帰ったっスけど……………」

「え………………ちょ、冗談きついですよ………?」

 

嘘だと信じたい。

だってあの場にバンブーがいなかったなら、シチーは一体誰と一緒にいたのか。

 

「冗談ではないよ、ゴールドシチー。」

「フジ先輩!お疲れ様っス!」

「私は昨日バンブーが帰ってきた所を見ていたからね。確実にその場にバンブーはいないよ。」

「……………なぁシチー。お前、誰と一緒に居たんだ?」

 

頭が混乱する。

あの場には確かにいたはずなのに。

あれは……………一体誰だったのか。

 

「もう………無理ぃ」ドサッ

「シチー!シチーが倒れたっス!」

「昨日今日で疲れきったんだろう。保健室に運んでやれ。」

 

 

かくしてこの事件は幕を閉じた。

行方不明のウマ娘達はシチー同様に発見された。

学園はこの事態を受け、更に警備体制を強固にすると議会の決定を受けたそうだ。

警察は、事件性はあったが、犯人が不明ということと証拠が存在しない為、この事件が警察内で掘り起こされることは無かった。

 

平和に終わったこの事件。

しかし、ゴールドシチーには大きなトラウマが植え付けられたのだった。

 

 

「…………あれ、どうしたの?………うん。シチーさんを助けたんだ…………凄いね………本人は驚いてるみたいだけど…………え、宇宙人?………それと蛇倉トレーナーになんの関係があるの……?」

 

また1人、新たな出会いが始まりそうだ。

 

 

 





シチー可愛いですよねわかります。

ニセバンブーはお友達(?)でしたので、次のウマ娘は……………

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