山々に囲まれ緑生い茂る里。
しかしのどかな風景に似合わず、また、人の世に非道は絶えない。
「ぐぅっ……」
とある国、とある里の広場に、ボロボロになった少年が転がされている。
「これで最後か」
整えられた顎ひげにがっしりとした体格の、軍人然とした代官らしき漢が部下と共に、荷積みの邪魔をして来た少年を見下ろす。
そばにある荷馬車には、これまでの里の蓄えたる物資が山と積まれている。
「お、お待ちくだされ。それは我が里最後の蓄え。それを持って行かれては我らはただただ飢えるのみ…」
ヨボヨボの老人から発せられるその言葉に漢はフン、と鼻を鳴らすと
「では、我が方に帰属すれば良いでは無いか」と述べる。
「し、しかし…我らは代々…」
その言葉が癇に障ったのか、漢の纏う雰囲気が変わる。
「代々ィ?」
「は…はい…」
「バカを申すな。そもそもここは我らが貴様らに厚意で貸してやっている土地では無いか。それを代々のものだと?馬鹿も休み休み言わんか」
絶対零度の視線。それは代官のみならず、彼の配下の者たちも同様だった。
「やはりダメだな。タケノコ派は」
吐き捨てるようにそう言うなり、バサリとマントを翻して号令をかける。
「皆のもの!!城へ帰るぞ!!」
「了解であります!!エリンギ将軍閣下!!」
泣く子も黙るジェネラル・エリンギ…。
第二十三次バンブー=マッシュ・ウォーの英雄。
その実績は、その軍服に付けられた数々の勲章が物語っている。
常に苛烈な最前線で檄を飛ばし、恐怖とカリスマでもって決して敗走者を出さなかった。
そして…。
「ま、待ちやがれ…」
「タケ…ダメよ。まだ動いちゃ…」
タケと呼ばれた少年は駆け寄った少女の言葉にも場にも耳を貸さずフラフラと立ち上がり、キッとエリンギを睨む。
「なんだ?骨は折っていない。数日休めばアザも引くだろう。労働に何の支障もきたしはすまい?」
エリンギは振り返りもせずに、こともなげにそう言う。
「この…オヤジの仇が…」
「…………………」
ただならぬ恨み、言動の端々に感じられるトゲの正体はこれだった。しかしそれに対するエリンギの返答は…。
「それだけか?」
「は?」
唖然。呆然。或いは愕然といった表情を浮かべる。
やがてタケは悔しさや憤り、哀しみ…それらを言葉にしてぶつけようとするが、エリンギは淡々と続ける。
「戦争とはそういうものだ。誰かが生き延びるために誰かが死ぬ。お前の親父もその例には漏れなかった。ただ…」
マイタケはクルリと振り返ると
「それだけのことだ」
巌のような顔で、厳格に、ただただ厳かに、確かに彼はそう言い、去って行った。
「くそッ…くそオッ…」
タケは地面を幾度か殴り、喉の奥から掠れた嗚咽を漏らす。
少女はかける言葉が見つけられず、そしてそれは周囲もまた同じだった。
しかし、タケは、里の皆は、そして、世界はこの時、知るよしも無かった。
これがまだマシに思えるような地獄が、そして鬼が、大口を開けて待ち構えていたなどと…。
………ナニコレ?