カオスなのはご愛嬌。
山々に聳える堅牢なる城。
その一つこそ、英雄エリンギの居城だ。
収集した物資を倉庫に持っていくよう兵達に命じ、エリンギはツカツカと執務室に向かい城内の廊下を歩く。
「相変わらず甘いねぇ〜♪英雄どのは?」
頭上から聞こえて来る、人をおちょくり、揶揄い、嘲笑うような甲高いこの声を、エリンギは忘れたことなどない。
「……カエンか」
「あったりぃ〜♪よっ…と」
長い赤毛をうなじあたりで雑に纏め、それに負けないほどの紅蓮の鎧に身を包む
彼女はカエン。幼げな見た目に反し、第二十三次バンブー=マッシュ・ウォーにて遊撃隊を率い敵軍を撹乱して回った歴戦の猛者だ。
「それで、何の用だ?」
「すげないなぁも〜!!エリちゃんってばホンット、オシゴト人間なんだからぁ〜♪」
「用がないなら帰れ」
取り付く島もない対応をするエリンギだが、カエンは気にした風でもなく、むしろズンズン突っ込んでいく。
煽るように、挑発するように。
「意外だなぁ〜♪キミはカエンのことキライだと思ってたのに〜♪」
目の前でエサをちらつかせ、希望を持たせて搾取する。
翡翠の目を細め、クスクスと笑う。
民に、そうするように。
「私の私情よりも、軍全体の規律を優先したまでのことだ」
「ァハッ♪キライなのは否定しないんだぁ〜?それにしてもあの村?里?まぁどっちでもいいけどぉ、燃やしちゃえばよかったのに〜♪」
「バカか。労働力を減らしてどうする。この放火魔」
エリンギはウンザリした様子でそう返す。
満足したならさっさと帰れと、言外にそう含めて。
「フフッ♪カエンはぁ〜…ソッチのエリちゃんの方がスキだなぁ〜♪」
「…………………」
「冷酷でぇ〜…残酷でぇ〜…でもそんな自分を受け入れられない。どっかで理解者を求めてるエリちゃんが…さ?」
「適当なことを…」
「うん!!そーだよぉ?」
アッサリと返されるその言葉に、エリンギは辟易とした様子だ。
「……………失せろ。作戦外でお前になど会いたくもない」
「またそう言ってぇ〜…ココにいるカエンは幻って知ってるクセにぃ〜♪」
「だからだ。その気になればすぐに消せるだろう」
「えぇ〜?」
なお駄々をこねるカエンに、エリンギは最後の手段に出る。
「……マイタケに言うぞ」
その言葉にピクリ、と反応を示すカエン。
「それじゃ!!エリちゃんも十分からかったことだし!!カエン帰りまぁ〜す!!」
その言葉を最後に、フッ…と幻は消える。
そこに最初から誰もいなかったかのように。
「カエンめ…また幻の精度を上げたな…」
エリンギは誰に聞かせるでも無く、ぽつりとそう言うや踵を返し、再び執務室に向かって歩を進める。
先ほどまでの賑やかさとはまるで逆の、静寂に包まれた場所に。
…………………………………………………
「騒乱は止まらないんだよエリちゃん。誰の手でも止められない。なら、それを楽しまなきゃソンだよねぇ♪」
数百里離れた先で、魔物が蠢く。
戦火を連れて。
続きは…どうしよ。