帝都『マッシュール』
キノコ帝国で最も華麗に栄えたる都市にして、帝国最強の『三強』が守護する黄金の都。
その帝宮にて、一人の男が召喚されていた。
コツコツと小気味良い靴の音を鳴らし、貴族風の礼服に身を包んだその男…エリンギは懐かしい顔に声をかける。
「ドクツル」
その呼びかけに振り向いたのは、雷帝とも呼ばれるキノコ皇帝『マツタケヌス四十八世』直属の部下にして、最強のアサシン。
幻想のように艶やかな白い髪に、白いワンピースから覗く白磁の如く白い肌。
そして瞳までもが真っ白な…味方にとっては正に『白き天使』とも言える美しき異様。
しかし、決して彼女を見た目で侮ってはいけない。
何せ彼女は…現在より三十年前に行われた第二十次バンブー=マッシュウォーの頃より帝国を支え続けた傑物であり…抹殺してきた敵は、タケノコ側の大物だけでもゆうに二百を超えるとまで噂される。
帝国が誇る『三強』の、そのひとりだ。
「………エリンギ」
ドクツルは振り向くや声の主にか細くポツリ、と呟く。
「マツタケ陛下はいらっしゃるか」
エリンギは立ち止まるや、ぶっきらぼうにそう尋ねる。
「………あっち」
その問いに反応して、スッと庭園を臨むベランダの方を指差す。
「礼を言う」
エリンギは無表情を崩さないドクツルに短くそう言うと、そちらに向かい歩き出す。
そして、ベランダに近づくと膝をつき臣下の礼をとる。
「……エリンギか」
「はっ…」
しわがれてはいるものの、重厚な言葉。
それを久しぶりに聞けたことが、エリンギにはたまらなく嬉しく…何よりも恐ろしかった。
何故ならば、根っからの軍事畑であるエリンギが呼ばれると言うことは…戦の匂いと、限り無く近いと言うことなのだから。
「陛下。此度はどのようなご用件にて…」
「うむ。近う」
「はっ…」
エリンギはベランダに立ち入ると、カーテン紐を引いて、誰の目にも見えないようにする。
尤も、ドクツルしか見かけなかったところから察するに、既に人払いも済ませてあるだろうが…それでも念には念を入れるに越したことはない。
「儂は…もう長うない」
「なにを弱気な…」
「聞け」
短い言葉に、エリンギは黙する。
「儂が死ねば…跡を継ぐのはきっと、ツキヨかシャグマじゃろう。ツキヨならまだ良い。あやつは愚かだが、自身の愚かを知っておる。だがシャグマはダメだ。才覚に反して野心が強すぎる。きっと、再びの戦を起こすじゃろうて…」
その言葉に、エリンギはしかしと返す。
「先の戦からまだ数年と経っていません。兵達も疲労がまだあり、調練が行き届いているとはとても…」
「シャグマに…あのわがまま坊主にそれを悟れと?」
皇帝はその大きな体をワナワナと震わせる。
「陛下…」
「エリンギ…儂の忠勇なる友、エリンギよ」
「は…」
「儂が死に…万に一つでもシャグマが皇帝位につくことがあれば、その時は…」
続く言葉に、エリンギは言葉が出なかった。
何故なら…
「そなたが皇帝となれ」
そう…聞こえてしまったから。
無駄に壮大♪