※本作は、アニメ版の物語をベースに、史実やシンデレラグレイの要素を絡め、独自解釈も交えつつ構成しております。稀にミスが見られるかもしれませんが、そのときはご指摘頂けますと幸いです。
プロローグ side-A
自分の最も古い記憶は
「ごめんね、もう少し早ければ……」
という言葉を聞いたことだった。
ひどく悔しそうで、悲しそうな声だったのを覚えている。
生まれてからしばらくは、人間達にのびのびと育てられた。
そしてしばらくすると、自分はなぜか他の馬を追いかける訓練をさせられた。いや…別に嫌では無かった、むしろ楽しかった。
だけど、自分は気になっていた、だから走りを教えてくれた先輩に聞いてみた。
「どうして…このような訓練を?」
「それはお前が誘導馬になる馬だからさ」
「誘導馬…?」
「そうだ、お前は競馬場で、競走馬達を誘導したり、逃げようとするのを抑えたりする仕事をするんだよ」
その時の自分は、どうしても気になる事があった。だから先輩に質問する事にした。
「自分は…競走馬になれないんですか?走るのは大好きなんです」
「私達が出るのは可能だ、でも、お前はアングロアラブ、私はクォーターホース、サラブレッドには敵わないのさ…」
「でも…先輩は凄く速いじゃないですか?」
「短距離ならばな、だが、長距離となると、私は彼らに追いつけない」
先輩は首を下に垂らし、悔しそうに前脚を踏んだ。
「サラブレッドって…そんなに速いんですか?」
「速い、化物だ、そして、私達よりも大きい」
「そんな…それだと、自分たちが…勝る部分なんて…」
「いや…お前は“ダイヤモンド”を知っているか?」
先輩は自分に質問を投げかけてきた。
「…だいや…もんど…?」
「ああ…知らないか…なら私が教えよう、ダイヤモンドとは、人間達曰く“この世で一番傷のつきにくい石”なんだそうだ。だが、そんなダイヤモンドも、ハンマーで叩けば砕けてしまうそうだ、“どんなに強いものでもモロい点はいくらでもある”…彼らは非常にデリケートなんだ、競争するだけのために産み出された、走るダイヤモンド…それが、サラブレッド」
先輩はそういって嘶き、空を見上げた。
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あれから数年後、自分は“誘導馬”として、競走の世界にやって来た。先輩と一緒に仕事が出来るようになった。
先輩が教えてくれた“サラブレッド”を見ての第一印象は“喰われそう”だった。
大きい上に、目は血走っている。
「────堂々と振る舞うんだ」
横にいる先輩が、自分の名前を呼び、アイコンタクトでそう言う。
自分は姿勢をキリッとさせ、ゆっくりと歩み、サラブレッド達を誘導していった。
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あれから更に月日が経った、自分の事を可愛がってくれた先輩達は引退した。その後も、自分は誘導だけでなく、人間を上に乗せてのパフォーマンス等もやったりして経験を積んでいった、私はそのうちその競馬場の誘導馬の最年長となった。
「皆、行こう」
「イエッサー」
「分かりました」
「ラジャーラジャー」
上に乗る人間が手綱を引く、自分は鼻息を鳴らし、同僚の皆を先導した。
『本レースの主役達の入場です!』
ワァァァァァァァァ!
本馬場入場と共に、歓声が上がる。
『おいチビ、さっさと歩け』
後ろのサラブレッドが、身体をコツンとぶつけてきた。レース前に、気が立っているのだろう。誘導馬の同僚は例外だけど、サラブレッドはその殆どが激しい気性で、“のろい”とか“チビ”とか言って喧嘩を売ってくるものもいた。
対処は基本的に無視、仕事はしっかりやり遂げなければならないからだ。
「おい、止まれ!」
「やなこった、追いついてみろ、ドン亀!」
後ろの方で、やんちゃなサラブレッドが放馬してしまったらしい。
グッグッ…
騎手が手綱を引く、“追いかけよう”と言うことだ
「おい、止まれ!」
「……」
相手はサラブレッド、ストレートでは向こうのほうが速い、だけども…
「────!!!」
「!!」
自分は声にならない叫び声を上げ、相手の注意を走ることから反らさせる。
「いい加減にするんだ!!」
「……!」
横に並びかけてスピードを落とさせる、当然相手はこちらを睨んでくる、だが、こちらも睨み返す、これでさらに走る事から意識が逸れる、後は人間達の出番だ。
色付きのロープを持った人間達がサラブレッドを囲み、手綱を握り、元の位置まで誘導した。
ポンポン
騎手が自分の身体を叩く“ナイスプレー”という意味だ。
“力で敵わない相手には頭と小技で立ち向かう”それが先輩に教わった事だった。
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さらに月日が流れ、自分は誘導馬の仕事を離れ、牧場で暮らすようになった。
牧場では先輩と同じクォーターホースは居なかった。だけど、がっしりとした“セルフランセ”、蹄鉄のいらない“木曽馬”、栗毛で綺麗な鬣を持つ“ハフリンガー”、人間の子供達に人気のあった“シェトランドポニー”といった仲間がいた。
人間達が“牛”と呼んでいるどっしりとした動物、“羊”と呼んでいる毛むくじゃらの動物、“犬”や“ゴールデンレトリバー”と呼んでいる耳の垂れた動物たちも一緒だった。
牧場には多くの人間が来た、自分達は人間達を歓迎し、人間達も自分達を見て癒されていたようだった。かなりの人間を乗せた、セルフランセと共にパフォーマンスもやった。充実した毎日だった。
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自分の世話は、マークの入った帽子をかぶり少し髪に白いものが混じった“カンザキ”と呼ばれる人間のオス…いや、男が行っていた、自分はその男を“おやじどの”と呼び、慕っていた。
おやじどのはよく、自分に歌を聴かせてくれた。
おやじどのは人間の世界について多くの事を教えてくれた。その中で最も興味を惹かれたのが、おやじどのの親友の話だった。おやじどのとその親友は、かつて色々なことをやった仲らしい、その内容は聞いたこともないような言葉ばかりだったけれども、おやじどのの顔から、本当に楽しい事なんだと理解できた。
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それからさらに月日は流れ、自分は牧場の“長老”として紹介されるようになった。身体は衰えていった。跳ねることは出来なくなり、走るのも身体が重く感じるようになった。
ある日の夜だった。
体が重く、起き上がることの出来ない自分は多くの人間達に囲まれていた。おやじどのは自分の頭に手を置いた。
温かい…
それと同時に、身体から力が抜けていく。
「苦しくないか?」
おやじどのが自分に声をかける。
苦しくはない、だけども、やりたい事はたくさんあった。
別れたっきりの先輩にもう一度会いたかった
もっと多くの人間達を乗せたかった。
もっと多くの時間をおやじどのを始めとした牧場の仲間と過ごしたかった。
おやじどのの親友と会いたかった。
そして…
“サラブレッド”と…勝負がしたかった
そんな願いを込め、自分は鳴いた。
「……」
おやじどのは無言で自分の頭を撫でた。
温かい…
自分の視界は段々と暗くなっていった。
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次に目が覚めて見えたのは、真っ白な天井だった。
雰囲気からなんとなくだったけれども、ここが厩舎ではないことは察することができた。しかし…
何か妙だ……体の感覚が違いすぎる。
目に映る色が今まで見ていたものと全く違う。
そこまで考えたところで視界に人間の女性が入った。
……なぜか目の前の女性が妙に大きく見えるのが、自分に一抹の不安を抱かせる。
…そうか、馬として…生まれて一番にやること…立つことをやっていない、だから心配して覗き込んでいるんだ。
「………!」
体に力を込める…
立てない…いや、仰向けになっているであろう体をひっくり返すことすら出来ない。
とりあえず、がむしゃらに全ての足を動かす…
………!
自分の目に映ったのは、毛一つない前脚…いや、人間の手だった。
「元気だねー、あなたはきっと、速くて強いウマ娘になるわ」
目の前の女性は、こちらに向けて笑顔で手を振ってくる。
なぜ…人間の手を…持つのに…
人間でも馬でもなく…ウマ娘?
…それに…この感覚…尻尾がある…?
人間には尻尾は無いはず…
自分は…人間の…いや…ウマ娘というこの尻尾のある赤ん坊になってしまった…と、いうこと…?
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