アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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第8話 モヤモヤするレース

 

「慈鳥の奴に、良い報告が出来るよう、頑張って来るんだぞ」

 

 オープン戦当日、トレーナーは親族の葬儀で来れない代わりに、雁山トレーナーにレースの観戦、送り迎えを頼んでくれていた。

 

「アラ、頑張って下さいね」

「うん、ありがとう、ワンダー」

 

 ワンダーが、私に応援の言葉をかけてくれる、さっきのレースで圧巻の差し切りを見せたのにもう息が整っている、たまらなくすごく感じる。

 

「ワンダー、ハリアーとは親友だよね?あっちの応援をしなくても良いの?」

「ええ、今日の彼女は副会長が直々に応援に来て、張り切っていますから、水を差すようなことはできません」

 

 ワンダーは片手で口を抑えてクスリと笑った、もう一人の副会長…エアコンボフェザーさんはコンボの実姉のはずだ、確かにワンダーの言う事も尤もだろう。

 

「さて、もうすぐ発走ですよ、私達は応援していますので、頑張って来てくださいね」

 

 ワンダーと雁山トレーナーは観客席の方に上がっていった。

 

 

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 観客席は多くの人で賑わっていた、その中には、双眼鏡を握るウマ娘、ハグロシュンランの姿もあった。

 

「シュンラン」

「フェザーさん、来ていらしたのですね」

「妹のレースが見たくてな、隣、座るぞ」

「ええ、どうぞ」

 

 ハグロシュンランに声をかけたのは、エアコンボフェザーだった、同じ副会長という立場ではあるものの、エアコンボフェザーは会長であるエコーペルセウスと同じ最高学年、ハグロシュンランはそれより下の学年であった。

 

「あら…ペルセウス会長は?」

「ペルセウスは学園だ、恐らく、また生徒のためのアイデアでも考えついたんだろう、お前こそ、珍しいじゃないか、今日は休日、普段は森林浴にでも出かけているだろうに」

「私も、注目している娘が居ますから」

「……?」

 

 エアコンボフェザーは出走表を見た。

 

1オンワードハウンド

2デリカテッセン

3パウアーマー

4ボンテンターゲット

5エアコンボハリアー

6アラビアントレノ

7クルシマウェイブ

8ノシマスパイラル

9インノシマスズカ

10ピンポイントパール

 

「誰だ?」

「6番のアラビアントレノさんです」

 

 そう言われたエアコンボフェザーは双眼鏡を持ち、パドックを見た。

 

「あの1番小柄の芦毛のウマ娘か?」

「はい」

 

(6番…ならばハリアーの隣、観察する余裕はあるな、それに、シュンランが目をつけているということは、何かしら光る点がある可能性があるのかもしれないな…)

 

 エアコンボフェザーはそう思いつつ、双眼鏡を覗き込んでいた。

 

 

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『5枠5番、エアコンボハリアー、1番人気です』

『3戦3勝、新進気鋭のウマ娘ですね、このレースでの好走も期待できますね』

 

 ハリアー…すごいなぁ…ギャラリーも物凄く盛り上がってる

 

『6枠6番、アラビアントレノ、8番人気です』

『未勝利戦では重バ場の中を見事に駆け抜けていましたから、良バ場での走りに注目ですね』

 

 私は8番人気、だけども、気落ちしてはいられない、ついこの間、未勝利から脱したばかりだからだ。挑戦者であるという気持ちを、忘れてはならない。

 

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落ち着いてゲートに向かって歩き、深呼吸した後にゲートインする

 

『最後に10番ピンポイントパールがゲートに入りました、福山レース場、中距離オープン戦、今……』

 

ガッコン!

 

『スタートしました!』

 

 ……!

 

 ハリアー…速くなってる…

 

『まず外側の10番ピンポイントパール、9番インノシマスズカがスルッと上がって先行争い、その後ろに続くのは5番エアコンボハリアー、その外回って4番ボンテンターゲット、1バ身離れて8番ノシマスパイラル、1番オンワードハウンド、7番クルシマウェイブ、6番アラビアントレノ、3番パウアーマー、2番デリカテッセンが固まっています!』

『後方がダンゴ気味になっていますね、走りにくい娘も居るのでは無いのでしょうか?』

 

 7番の娘の真後ろにいるからスピードは問題なし…でも、ダンゴはちょっと避けたい。

 

 でも、こういう時こそ落ち着こう、トレーナー曰く、“レースはメンタル勝負”、先に慌てた方から負ける、まずは一度目のコーナーを抜けて様子見だ。

 

『各ウマ娘、第一第二コーナーに入って行きます!』

 

 

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「速えぇ…エアコンボハリアーのスタート」 

「やっぱ3戦3勝の実力は伊達じゃないぜ!」

 

 ギャラリーは注目株のエアコンボハリアーのスタートを見て興奮気味の様子だった、その一方で、エアコンボフェザー、ハグロシュンランは冷静に双眼鏡を覗き込んでいた。

 

「妹さん、スタートがうまく行きましたね」

「幼少期から私と共に走っていたんだ、このくらいなら容易いものだ、それで、あのアラビアントレノ…だったな?スタートはまずまずだが、スタート後のコース取りの判断が早い、恐らく頭は良い方だろう」

 

『後方がダンゴ気味になっていますね、走りにくい娘も居るのでは無いのでしょうか?』

 

「あらあら…」

「いくら先行有利のコースとはいえ、ここはコーナーがキツイからな、後方待機を選ぶウマ娘も少なくはない」

 

(ただ、判断力の良さだけで、シュンランがあの芦毛を評価するだろうか?…凄いところは判断力の高さだけではなく、他にもあるんじゃなのいか…?)

 

 エアコンボフェザーは顎に手を当て、考えていた。

 

 

 

一方、コースの方では、アラビアントレノ達ウマ娘が第1第2コーナーを曲がろうとしていた

 

(周りが曲がるのが遅いから、抑えるのが少し大変だ…)

 

アラビアントレノは少々歯がゆい思いをしていた、早く曲がれば、他のウマ娘のペースを上げる事となり、必然的に事故の可能性が上がってしまうため、スピードを抑えて曲がらざるを得なかったからである。

 

 

(これから重賞にも挑戦して行きたいんだ…遠慮はしない…!出し切って勝つ!)

 

 一方でエアコンボハリアーの方は気合いが乗っており、その走りにも自信と闘志に満ちていた。  

 

 

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『第1第2コーナーを抜けて、ウマ娘達は向正面へ、先頭は9番インノシマスズカ、その後ろに10番ピンポイントパール、2バ身離れて5番エアコンボハリアー、4番ボンテンターゲット、8番ノシマスパイラル追走、そこから2バ身離れて1番オンワードハウンド、7番クルシマウェイブ、6番アラビアントレノ、3番パウアーマー、2番デリカテッセンとなっています』

『先頭が縦長で後方がダンゴ気味、まるでおたまじゃくしのような形ですね』

 

 8番の娘はダンゴから脱したようだ、私もなんとかしなければならない。

 

 とりあえず、第1第2コーナーで、このダンゴの特徴は分かった、“コーナーに入る際、速度がぐっと落ちる”…すなわち、段階的にブレーキをかけていくのではなく、急ブレーキ気味でコーナーに入るということだ。

 

 これは、コーナーに入る直前まで、ダンゴから抜け出す隙間があるという事を意味している。

 

 なら、ペースを維持し続ければ良い。

 

『一度目の向正面はもうすぐ終わり、各ウマ娘、第3第4コーナーのカーブに向かって居ます、先頭9番インノシマスズカからしんがり2番デリカテッセンまでの差はおよそ7バ身』

 

 もうすぐブレーキをかけるだろう。

 

3…2…1……今!

 

『第3コーナー入口!後方で動きがありました、6番アラビアントレノがダンゴを脱し、

上手いコーナリングで、8番ノシマスパイラルの真後ろにつけています』

 

 よし…ここから追い上げて行こう。

 

 

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『トレーナーさん、アラのコーナリング、凄いですね、かなり速めのスピードで尻尾を流しながら、第3第4コーナーを抜けていきました〜』

 

 雁山とは違う場所で観戦しているワンダーグラッセは、電話の向こうからおっとりとした様子でそう言った。

 

「慈鳥の奴…普段はどんなトレーニングをしてるんだろうな…」

『気になりますね、いつか知るときが来ると思いますから、その時のお楽しみですね』

「そうだな…今は見させて貰うとしようか」

 

 雁山は双眼鏡を構え、アラビアントレノの方を向いた。

 

 

 

「…む、あの芦毛、コーナリングがかなり優れている様だな」

 

 雁山とは別の所で観戦しているエアコンボフェザーは感心した様子を見せた。

 

「アラさんはストレートと加速力は遅いですが、それを補うコーナリング技術があるのです」

「なるほど…」

 

 エアコンボフェザーに対し、ハグロシュンランはアラビアントレノの特徴を解説する、エアコンボフェザーは顎に手を当て、考え込む様子を見せていた。

 

 

 

『第3第4コーナーを抜け、レースは再びスタンド前へ、先頭は9番インノシマスズカと10番ピンポイントパールが並ぶような展開に、それに続く5番エアコンボハリアー、少し速度を上げています、1バ身離れて4番ボンテンターゲット、6番アラビアントレノは8番ノシマスパイラルの真後ろから4番ボンテンターゲットの真後ろへ、8番のコンセントレールの外側からは3番パウアーマー、1番オンワードハウンド、その少し後ろから7番クルシマウェイブと2番デリカテッセンが追走しています』

 

(ジリジリとだけど…迫られてる…?アラのバ体が近づいている…?)

 

エアコンボハリアーは少しずつ距離を詰めてくるアラビアントレノの事を気にし始めていた。

 

(よし…上手くスリップストリームの相手を変えることが出来た、次のカーブで…ハリアーの真後ろについてやる…)

 

アラビアントレノはスリップストリームを利用して足をためつつ、次のカーブのことを考えていた。

 

(何なのよ…アラが後ろにいる…この感覚)

 

 ボンテンターゲットはかなり動揺していた、先程まで別の相手の真後ろにいたアラビアントレノが今度は自分の真後ろにいたからである。

 

 ウマ娘は、通常の人間より鋭敏な感覚を持っており、近くを走る相手に、動揺または興奮したりしてペースを上げてしまう状態、俗に言う“掛かり”になる事がある。

 

 そして、ボンテンターゲットはまさにその状態であり、これはアラビアントレノにとっては好都合であった。スリップストリームの効果は相手のスピードが速いほど上がるからである。

 

『レースは2度目の第1第2コーナーに入っていきます』

『4番ボンテンターゲット、ちょっと掛かり気味かもしれませんね、冷静さを取り戻し、体力の消耗を抑えたいところです』

 

(よし…もう良いかな、多分、ボンテはオーバースピード、コーナーで動きが乱れてしまうはずだ、巻き込まれるわけにはいかない、それに、突っ込まないとハリアーに離されてしまう)

 

 アラビアントレノはスリップストリームから抜け、やや外側からコーナーに入った。

 

(コーナーは…いつもインを攻めれば良い訳じゃない、トレーナーは…そう言ってた、アウトから相手に被せて、動揺させるのも…作戦の一つ)

 

『6番アラビアントレノ、4番ボンテンターゲットを抜いてやや外側からコーナーに侵入、4番ボンテンターゲット、かなり膨らんでしまいました、バランスを立て直す間に1番オンワードハウンドと7番クルシマウェイブがそれを抜く!』

 

(ここで…!)

 

 アラビアントレノはエアコンボフェザーの外側の若干斜め後ろにたどり着いた。

 

(追いつかれた…気が変になりそう…でも…今は我慢するしかない…)

 

 エアコンボハリアーは動揺していた、しかし、福山レース場のきついコーナーが、彼女がペースを上げるのをなんとか防いでいた。

 

『レースは二度目の向正面へ、先頭としんがりの差はおよそ5バ身と、だんだん縮まりつつある展開』

『ここでスパートに備えて気持ちを整えておきたいですね』

 

(気持ちを整えるって…こんなに喰い付かれちゃ…)

 

 コーナーという邪魔が無くなり、エアコンボハリアーは少しずつではあるが、段々とペースを上げていた、ただ、これは掛かっていることによるものではなく、エアコンボハリアーが、自身のスタミナを武器として使っている証だった、だが、エアコンボハリアーがいつもより精神力を消耗しているのは明らかだった

 

(ハリアーはこれでこのペース…なら…ラストスパートでは、立ち上がりのスピードと伸びは更に鋭いものとなる筈だ、つまり、ラストスパートの段階で、前に出る必要がある…なら………)

 

 アラビアントレノはそう考え、少しだけ周りを見渡した。

 

(よし…これなら行ける、仕掛けるのは…あそこだ…でも…何なんだろう…この感じ…ゾワゾワする、だけど恐怖じゃない)

 

『各ウマ娘、向正面を駆け抜けて第3第4コーナーへ、先頭で競り合っている9番インノシマスズカと10番ピンポイントパール、明らかにペースが落ちています、逃げ切れるのか!?後ろからは5番エアコンボハリアーと6番アラビアントレノが突っ込んでくる、他の娘達もどんどん入っていく!』

 

 

 

「………」

 

エアコンボフェザーは、妹の動揺ぶりに驚いていた。

 

「…フェザーさん?」

「……!すまない、少し動揺していた…誤算だったな…まさか、妹があそこまで動揺しているとは…」

「…ですが、レースはまだまだわかりません、今はただ…見守りましょう」

 

 ハグロシュンランはそう言い、目をコースの方に再びやった。

 

 

 

「むりぃ~!」

「ムリー!」

 

(…今日のあたし…乗れてない…?…スピードがやけに遅く感じる…シューズの片足が落鉄しているんじゃないの!?)

 

 もちろん、落鉄はしていない、だが、そう思ってしまうほど、エアコンボハリアーは精神をすり減らしていた。 

 

『もうすぐ第4コーナーカーブを抜けます!ここからは末脚勝負!後ろの娘達は間に合うか!?』

『差が詰まってきていますね、目が離せない展開です!』  

 

(殆どのウマ娘は、コーナー出口で少々膨らむ、ハリアーだって例外じゃないし、遠心力が低いとはいえ、私も少し膨らむ、そして…末脚を使うときはもっと膨らむ、だから、予め外に出ておくのがセオリー…でも!)

 

(アラ…何考えてるの…!?外側に行かないなんて…!)

 

(………ここだ!!足裏で…砂を掴んで…スリップストリームから出た勢いを無駄にせずにそのまま飛び出す…!)

 

ザッ…ダァァァァァン!

 

『アラビアントレノ!何と遠心力の強いインから行ってスパート!』

 

(………インから…スッと…!?)

 

 アラビアントレノは、エアコンボハリアーがスパート時にアウト側に開き、イン側を開けるのを利用し、スリップストリームから脱するのと同時にインに切り込み、ラストスパートを掛けた、これによって、彼女の弱点である加速力の弱さを打ち消し、そして、インを通った事によって真っ先に最後のストレートに飛び込む事に成功したのである

 

 もちろんアラビアントレノ本人には少なくない量の遠心力がかかる、しかし、彼女自身の小柄という体格、そして、慈鳥の行っていた斤量を背負ってのうさぎ跳びトレーニングが、彼女に瞬発力だけでなく、バランス感覚も与えていた。

 

 そして、その芸当は後ろを走るウマ娘達にもしっかりと見えていた。その光景に圧倒されたエアコンボハリアーを含めた後続のウマ娘は、少しだけだが仕掛けが遅れた、それが決め手となった。

 

『追うエアコンボハリアー!行けるか!?いや、アラビアントレノだ、アラビアントレノが先にゴールイン!!』

 

ウォォォォォォォ!

 

 

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 未勝利戦の時の倍ぐらいの歓声が響く。

 

「アラ…今度は…負けないから…!」

「ハリアー…望むところだよ」

 

 ハリアーはそう言うと、先に行ってしまった。

 

 勝った事は嬉しい、でも、あの感じた…変な感覚は何だったんだろう…

 

 それが分からない。

 

 勝ったは勝った…だけど…モヤモヤするレースだった。

 

 

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「こんな事が起こるから、レースというのは面白い」

「フェザーさん…?でも…妹さんは」

「いや、あいつは更に強くなる、ここはあの芦毛に感謝をしなければな…だが…」

「だが…?」

「……私も、是非あのウマ娘、アラビアントレノと走ってみたくなったな」

「………まぁ…!」

 

エアコンボフェザーの発言に、ハグロシュンランは両手を口元にあて、目を見開いて驚愕していた。

 

 

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北海道についてからは忙しかったものの、無事に親戚のじいさんを送ることができた。

 

そして先日、アラから電話が来た、勝ったそうだ。

 

後は…俺が帰るだけ…か…

 

俺は車を走らせた。

 

 

────────────────────

 

 

 しばらく走り、駅の近くまで来た。道端に座り込んでいる人影が見えた、急病人…?いや…尻尾がある…ウマ娘か。

 

俺は車を降り、そちらに向かった。

 

「おい、あんた!どうかしたのか?」

 

 俺の言葉に反応し、そのウマ娘は顔を上げた、何故か涙でめちゃくちゃになっていたが。

 

「空港への…電車に…乗り遅れてぇ…グスッ…どうすりゃいいんだべぇ…」

 

 相当混乱しているようで、北海道(こちら)の言葉が出てしまっている……放っておくのは、流石に可愛そうだな

 

「俺が乗っけてやる」

「えっ…良いんですか!?」

「ああ、金は取らんから安心しろ、ほれ」

「わわっ!」

「それは俺の免許証だ、俺が怪しい素振りを見せたら、それを持って交番にでも駆け込んでくれたら良い、シートベルトは着けてくれよ」

 

 そして俺はそのウマ娘を車まで連れて行き、助手席に乗せ、空港への進路を取った。

 

「…」

「そう固くなるな、お前さんを取って食おうなんざ思ってない。」

「は、はい…」

「この時期にどうして空港に?」

「え、えっと…東京のトレセン学園に…転入することになって…」

 

 東京…つまりは…中央………

 

「中央か!?お前さん、凄いな!」 

「あ、ありがとうございます…トレセン学園の事、知ってるんですか?」

「そりゃあな、俺もトレーナーの端くれだからな」

「えっ……トレーナーさんなんですか!?」

「ああ、地方のトレーナーだけどな、お前さんがデビューしたら、どこかで会うかも知れんな」

「そうですね!」

 

 そのウマ娘は元気な声で、そう答える。学年を聞いてみたところ、アラと同学年だった。

 

「名前…これ…どう読むんですか?」

 

 そのウマ娘は、俺の免許証を見ながらそう言う。

 

「“じちょう”だ、お前さんは?」

「私、スペシャルウィークって言います!」

「スペシャル…ウィーク」

「はい!“スペ”って呼ばれてます!」

「そうか…スペ、お前はどうして中央に?」

「私は、日本一のウマ娘になりたいんです!」

「日本一か…なら、ダービーか?」

「はい!ダービーもですけれど、色んなレースで勝って、お母ちゃんたちを笑顔にしたいんです!」

 

 スペは笑顔でそう言った、家族思いなウマ娘だと俺は思った。

 

 

 

 そして、俺は空港に向けてしばらく車を走らせた。

 

「ダービーは“最も運の良いウマ娘が勝つ”って言われてる、スペ、お前さん…とんだラッキーガールかもしれんな」

「はい、そうですね!!」

 

 そんな感じで話しているうちに、目的地の空港が見えてきた。

 

「よし、もうすぐ着くぞ、降りる準備しとけ」

「本当に、本当に、ありがとうございます!慈鳥トレーナーさん!」

「気をつけろよ、東京は人が多いからな」

「はい!」

 

 俺は車を止め、そのウマ娘、スペシャルウィークを降ろした。

 

「本当にありがとうございました!」

「ああ、頑張れよ」

「はい!!」

 

 スペはペコリと一礼し、空港に向かって走っていった。

 

 スペ…スペシャルウィーク…か…前世に競走馬の名前は嫌というほど相棒から聞かされてきたが、いちいち覚えているほど、俺の頭の出来は良くなかった、唯一覚えていたのがオグリキャップで、彼…いや、彼女はこの世界にも存在している。

 

「考えていると…埒が明かんな…」

 

 俺はそう言ってため息をつき、スペが無事に飛行機に間に合う事を祈りながら、車を出した。

 

 

=============================

 

 

 その頃、エアコンボフェザーは福山トレセン学園の生徒会室にて、コーヒーを飲みながら生徒会長であるエコーペルセウスと話していた。

 

「フェザー、君の妹、負けちゃったみたいだね」

「ああ、でも私の妹は、敗北を糧ににさらに強くなるぞ、あいつは私を超えるモノを持っている、頭で色々と考えてやることを、あいつは直感でやってしまうからな」

「ふふっ、それは良いね、それに今年は君の妹含め、才能のある娘が多くデビューしてくれたから、これからが楽しみだなぁ!」

「フッ…そうだな」

 

 エアコンボフェザーは微笑んでそう答えた

 

「全国交流レースも増えてきてる、ローカルシリーズはこれからどんどん面白くなるはずだ、それに、AUチャンピオンカップもある、生徒会(私達)の働きが大事になってくるね」

 

 エコーペルセウスが言うように、最近のローカルシリーズは、ウマ娘の実力向上を図るべく、全国交流のオープン戦を増やしていた、その効果は着々と出ていたのである。

 

「そうだな、ここのウマ娘達が、他のレース場に行き、様々なウマ娘達とぶつかり誰が勝つのか分からない、手に汗握るレースをする、今年は去年よりさらに、興奮するレースが繰り広げられる事を」

「祈るとしようか」

 

 その言葉を合図に、二人は同時にコーヒーを口にした

 

 




 
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