「…俺らに何か…用ですか?」
俺はそう聞き返し、相手を見た、ウマ娘の方は、ぱっつん前髪で、白毛、トレーナーの方は上品でウマ娘より背が低い。
「は、はいっ!あの…そちらの…アラビアントレノさんのレースを拝見させて頂きました、それで…どのようなトレーニングをしたのかぜひ聞かせて頂きたくて…」
「は…はぁ…」
トレーナーの方…女性は少し落ち着きの無い様子で俺に頼んできた。
俺は相手を見る、肉体年齢は俺と同じぐらい、服にはきちんとトレーナーバッジ……しかも中央の物が付いてる、偽物ではないだろう。
「そうですか…では、同じトレーナーのようですし、どこかで軽く意見交換でもします?」
俺は相手の緊張が解れるようにそう言った。
「ぜ、是非お願い致します!」
「こちらこそ、自分は慈鳥、慈鳥──です」
「私は桐生院葵というものです、よろしくお願い致します、慈鳥トレーナー、こちらはハッピーミーク、私のチームのウマ娘です!」
「ハッピーミークです…」
白毛のぱっつん前髪のウマ娘、ハッピーミークは、桐生院とかいうトレーナーに促されてペコリと挨拶をする。
「アラ、挨拶だ」
「私はアラ、アラビアントレノ…よろしくお願いします」
あの後、俺達は一旦解散し、日を改めて会うことになった、レースはナイターだし、まぁ、当然といえば当然ではある。
「こちらです!今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ」
約束通りの時間に集合した俺達は桐生院さんに案内され、俺達はファミレスに入っていった、アラとハッピーミークには、仲良くなってもらうために別の席に座ってもらった。
まずは改めて自己紹介をし、お互いの所属を紹介し合った。
桐生院さんは俺と同い年らしい、同期と言う事で、向こうは少し安心したような様子を見せていた。
いや…同い年なのは肉体だけだ……前世の分を足し算すると…今の俺は50超え…
「それで…なぜ俺とアラのトレーニングに興味を持ったんです?」
「アラビアントレノさんの体格です」
「体格…?」
「はい、彼女の身長を教えて頂けませんか?」
「えーと…確か…146cmですね、どうかしましたか?」
「私達中央のトレーナーの間では、一般的に“小さいウマ娘は不利”とされているんです、ですが、アラビアントレノさんはとても強かった…だから、その秘密を知りたかったんです」
桐生院さんはそう言ってこちらを見る…なんでそんな事言ってんだ…?
大型も小型もそれぞれメリットデメリットがあるのに…
「桐生院さん」
俺は少し声を低くして相手をみた
「は、はい!?」
「桐生院さんは、どう思います?“小さいウマ娘は不利”と思っていますか?」
「周りのトレーナー達はそう言っていますが、小さなウマ娘達の中にも…タマモクロスさんの様な強いウマ娘はいる、そう信じています」
桐生院さんは俺にそう言う、この目からして嘘は言ってないだろう。
「それなら良かった、確かに、体格が小さいウマ娘は体格の大きなウマ娘に比べれば、“不利”という印象を持たれてしまうかもしれませんが、俺は違うと思ってます、体格が小さいということは、抜け出しやすいって事に繋がりますから、5ナンバー車が3ナンバー車より細い道に強いのと一緒です」
「5ナンバー車…?3ナンバー車……?」
俺の言葉に、桐生院さんは頭を抱える
例えが分かりにくかったか
「すいません、例えが悪かったです、えーと…軽自動車が普通車より路地とかに強いみたいな感じです」
「あっ!ピンときました、そういうことですね」
「はい、そして話はここからです、その抜け出しやすいというメリットを活かすために、俺達はレース中に素早く冷静に自分がどう動くべきかを判断する事ができるようなトレーニングをしているんです」
「なるほど…具体的には?」
「取り敢えず、スタミナを強化することですね、スタミナを強化できれば、他の事、特に周囲の警戒と状況判断に神経を使う事ができますから」
「なるほど…」
桐生院さんはメモを取っていた、こっちもここいらで何か言っておくか、有益な情報を貰えるかもしれない。
「ですが…」
「ですが?どうかされましたか?」
「アラは瞬発力が課題なんです、パワーをつける練習も人並み以上にはやらせてるんですが…効果が思うように出ないのが現状です」
「なら…柔軟性を鍛えるのはどうです?」
「柔軟性…?」
「はい!特殊なストレッチを行うことで関節の可動域を少し拡大するんです!そうすれば、パワーを鍛えるよりは効果は少ないですが、瞬発力が高まります!」
「本当ですか…!」
「はい!」
「それは…一体どのような風に…?」
「それはこのトレーナー白書に書いてあります!」
桐生院さんは鞄の中から分厚い本を取り出し、こちらに見せた。
…凄い……こんなのトレーニング教本に書いていないぞ…
「凄いですね……メモさせてもらっても?」
「はい!良いですよ!」
俺は書いてある方法をメモしていった。
「へぇー……アラのトレーナーは凄いんだね…」
「うーん、どうだろう…色々なトレーニングを考えすぎて悩む事が多いけど…ミークの方は?」
私達は何だか物凄く話が合った、“馬が合う”、いや…“ウマが合う”のだろう、同い年という事もあり、私達はすぐにお互いを呼び捨てで呼ぶようになった。
「…悩んでる…相談できる相手が、チームのメイントレーナーしかいないから…」
「メイントレーナー?」
「うん、私のトレーナーはサブトレーナー、チームに所属してメイントレーナーの補佐をしたり、スカウトを手伝ったりする……トレーナーは、“パッとしない”って言われてた私を…スカウトしてくれた」
「そうなんだ…」
「でも…トレーナーは頑張りすぎてると思う、あんなに楽しそうに喋ってるトレーナーは…久しぶり」
ミークが示した方向には、議論が盛り上がり、楽しそうな様子のトレーナーとミークのトレーナーがいた。
「なるほど…それは大変ですね」
「はい…同期のあの人は活躍してるのに…」
桐生院さんはそう言ってジュースを一口飲む。
桐生院さんの話を整理するとこうだ、現在桐生院さんはトレセン学園のチーム『メイサ』のサブトレーナーをやっているらしい、だが、メイサのメイントレーナーは来年からはチームを桐生院さんに任せてメイントレーナーの座を降りてしまうそうだ、つまり、桐生院さんはメイントレーナーへと昇格する事となる。
チームメイサは6人のウマ娘が所属しており、そのうちの4人 ハッピーミーク、ジハードインジエア、サンバイザー、ツルマルシュタルクは、来年、栄誉ある『クラシック三大レース』に挑戦可能となる“クラシック期”を迎える事になるそうだ、クラシック期はウマ娘の爆発期の終わりと重なるため、トレーニングもハードなものとなり、肉体もどんどん成長する、それ故、トレーニングメニューを考えるのは大変らしい。
残りのメンバーのうち一人はハッピーミーク達の下に一人いるらしい。
最後の一人は高等部だが、メイサのメイントレーナーと共にチームを離れ、その人と共にドリームトロフィーリーグの方に全力を注ぐようだ、だが、そのウマ娘はかなり有名で、それもかなり桐生院さんにとっては重荷らしい。
そして、チームメイサのメンバーはハッピーミークと高等部のウマ娘以外はそんなに背が高い方ではないらしく、それが今回桐生院さんが俺に話しかけてきた理由だった。
「物凄く…大変ですね…同期の人とはどんな方なんです?」
「この方です、配属されて1年目なのに…もうチームを任されているんです、話術が巧みというか…凄い人なんです」
桐生院さんはこちらにその同期の人間がやっているであろうチームの写真を見せてくる、そして、俺はその写真に映る顔に見覚えがあった。思わず笑みがこぼれる。
「…どうしました?」
「…いえ、俺、この人見たことあるんです…」
「ええっ…!?」
「実は俺、中央受けたんですよ、でも第二段階の面接でハネられてしまって…次の人がこの人でした」
「そういうことだったのですね…来年はどうするのです?また挑戦するのですか?」
桐生院さんはこちらを見る、落ちたからと言って軽蔑するような感情は、その目に無い。
「いえ…今は福山が俺の居場所です、良い同期、良い先輩、良い上司が居ますし、今の俺はアラのトレーナーです」
「そうですか…」
桐生院はそう言った、気のせいだろうか、その言葉に若干羨ましさのようなものが混じっている気がする、少し聞いてみることにしよう。
「さっきの同期の方と…あまり仲良く無いんですか?」
「仲良くなろうとしたんですけれど…私…大学を出るまで殆ど友人と遊んだりしたことが無くて……でも、勇気を出してその人と仲良くなるきっかけを作らなきゃと思って、カラオケに誘ってみたんです」
「なるほど…それで…どうなったんです?」
「少し会話した事はあったので、上手く行くと思っていたのですが…」
「あっ…分かりました、すいません」
恐らく断られたのだろう、まぁ…突然誘われたら…そうなる、取り敢えず慰めぐらいはしておくから。
「まあ…気にしすぎは体に毒ですよ、それに、俺で良ければ相談に乗りますんで」
「本当ですか!?」
桐生院さんは目をキラキラさせながらこちらを見た、“若いな”と思った。
あの後、俺達は連絡先を交換し、別れた。
アラもハッピーミークという新たな友人を得てとても嬉しそうだったし、今回の遠征では色々な物を得る事ができた。
これは今後のレースに大いに活かさせることだろう。
取り敢えず、今日得たことを同期の四人と共有できるよう、準備をしなければ。
慈鳥とアラビアントレノが北海道にいる丁度その頃、生徒会副会長であるエアコンボフェザーは生徒会長であるエコーペルセウスの仕事部屋を訪れていた。
「ペルセウス、入るぞ」
エアコンボフェザーが扉を開けると、彼女の目には大量の紙が映り込んだ。
「…また何か考えているのか…」
「ごめんごめん、アイデアが火山が噴火するかの如く出てきてさ、散らかしてしまったみたいだから手伝ってくれないかい?」
「…わかった」
エアコンボフェザーはため息を付きながら散らばった紙を拾い集め、整頓した。
「よし、ありがとう、座って座って」
エコーペルセウスに促され、エアコンボフェザーは椅子に座った。
「それで、話って何かな?」
エコーペルセウスはその糸目の顔の表情をほころばせ、エアコンボフェザーに聞いた。
「今年も“年末特別エキシビションレース”を行うだろう?」
「うん」
「アレに私が出る許可をくれないか?」
年末特別エキシビションレースとは、福山トレセン学園が福山レース場のコースを借りて行うエキシビションレースである。
このレースは通常のレースとは異なり、来年度よりクラシック期に入るウマ娘、すなわちアラビアントレノらと上級生らからそれぞれ何人かの代表を生徒会が選出し、“一対一”にて模擬レースを行うものであった。
「…うん、良いけれど、どの距離にするんだい?」
「…2600mだ」
「2600だって!?、去年使わなかった…あの…2600を使おうってのかい?」
「ああ、何なら今年は全てのコースで施行したいと思っている」
福山レース場には800m、1130m、1250m 、1400m、1600m、1800m、2250m、2400m、2600mのコースが存在する。しかし、年末特別エキシビションレースではその全てでレースを施行することは無かった。
「理由を聞かせてくれないかな?」
「ああ、AUチャンピオンカップの為だ、これの影響で、ローカルシリーズにも注目が集まっているからな、ここらで何か大きなイベントをやっておきたい」
「なるほど、確かにそうだね、実は私も同じ気持ちなんだ」
エコーペルセウスはある資料を差し出した。
「これは…」
「
「益田や荒尾のようになるのは避けたい…という事か」
「そう、ずっと前になるけど、私達福山も岡山を吸収したからね」
レース場が全国各地に設置され、その各地から収入を得て運営されている中央トレセン学園とは異なり、ローカルシリーズのトレセン学園は地方自治体の運営する地域密着型、即ち地元のレース場からの収入で運営されていた。
これはつまり“レース場が廃止されれば、学園も共倒れ”となる事を意味している、事実それによって益田、荒尾などのトレセン学園は廃校となっていた。
「それで…現状は
「そういう事」
NUARは各地方レース場の収益を上げるため、ある改革を行った。それが“全国交流レース”の拡大であった、これは、ウマ娘の実力向上、ファンの移動による観客増加を狙ったものであった。
「今、他の地方トレセン学園でも、自らの実力を示すため、人を集めるため、色々なことをやってるからね」
「そうだな」
「…それができるのも、君が中央でしっかりの自分の意見を貫いたからだよ」
「………それは、感謝してくれているのか?」
エアコンボフェザーは、エコーペルセウスの方を向き、そう問いかける。
「もちろんさ、よし、ここまでにしておこうか、福山市の方とは私が交渉する、フェザー、君はシュンランや他の生徒会の娘たちと一緒に出走ウマ娘達の選定を行ってくれないかい?」
「分かった」
「あっ!ちょっと待った、フェザー、君には対戦したい娘が居るんだろう?」
「………」
エアコンボフェザーは黙った。
「…良いよ、その娘とレースをしても、でも、本人の適性をちゃんと見て判断する事、それと、あくまでこのレースは生徒の意思を尊重している事を忘れないで欲しい、あの娘が参加しないと言うのならば、無理強いをしては駄目だよ」
「分かった…ありがとう、ペルセウス」
エアコンボフェザーは退出していった。
北海道から帰ってきて4日経った、放課後、私は面談室に呼び出された。
「“呼び出された、遅れる”…よし、送信」
トレーナーに遅れる旨をメールで伝え、私は面談室に向かった。
「アラさん、こちらです」
「シュンラン副会長」
「今日の相手は私ではありません、この中で待っておられます」
シュンラン副会長はドアを指し示す。
コンコンコン
「良いぞ」
中から聞こえる声に従い、私は面談室に入る。
「ようこそアラビアントレノ、座ってくれ」
中で私を待っていたのは、もう一人の生徒会副会長でハリアーの姉、エアコンボフェザーだった。
「門別でのレース、ご苦労だった、激戦だったそうだな」
「は、はい、何とか勝ちを拾うことができました」
彼女の妹のハリアーに勝ったこともあって、私は少しどもり気味になってしまった。
「フッ…謙遜しなくても良い、お前に実力があるのは明らかだ、お前に礼を言わせてもらう、ありがとう」
「ありがとう…?」
「身内贔屓になってしまうかも知れないが、私の妹は才能に溢れている、だが、その才能を引き出すのにはお前たちのような強力なライバルが必要不可欠なんだ」
「あ…ありがとうございます」
私はペコリと頭を下げた。
「さて、本題に入ろう、アラビアントレノ、この福山トレセン学園の年末の一大イベントは分かるな?」
「は、はい、先輩方と私達の世代で行われる一対一のエキシビションレースですね」
「そうだ、それの2600mに出てほしい、相手は私だ」
「………!」
私は驚愕のあまり、目を見開いた。
「急な頼みですまないな、トレーニングもあるので、今日の所はここまでにしておこう、トレーナーと相談の上、どうするのか考えておいてくれ、2日後、答えを聞かせてもらいたい」
「は、はい、わ、分かりました!」
動揺の収まらない私は、そう返事をした。
「……そうか、エアコンボフェザーに、年末のエキシビションレースでの勝負を持ちかけられたのか」
俺は腕を組んだ、エアコンボフェザーは、中央経験者、ここに戻ってきた理由は成績不振とかでは無いそうだ、そして、ここにいるウマ娘の中では最強の存在と言っても良い。
「アラ、お前さんはどうしたい?」
「…まだ…決めてない」
アラの身体能力ならば、長距離は問題無いだろう、というか、他のウマ娘よりメンタルの強いアラは長距離向きだ、レースは長距離であればあるほど神経がすり減るものだからだ。
「トレーナーは…カーレースの世界を知ってるんだよね?」
「ああ」
「こんな時、レーサーはどうするの?」
アラは俺を見上げ、そう聞いた。
====================================
いつものスーパー銭湯にやって来た、私はいつもの様にお湯に浸かった後、いつものように自販機でフルーツ牛乳を買い、火照った身体に流し込んでいた、火照った身体に染み渡る、優しい甘みと、ほのかに香る果物の匂い、牛乳に味をつけるという人間達の発想は凄いと思う。
『レーサーならば…受けて立つ』
牛乳を飲み干し、座って目を閉じると、トレーナーの言葉が頭の中を行ったり来たりする。
チョンチョン
肩をつつかれ、私は目を開けた。
「……どうしたの?」
「やっぱり、お姉ちゃん、
ウマ娘の…子供…
「ねぇ!お姉ちゃん!ここで走ってるよね?」
「うん…走ってる」
「じゃあ…年末の特別レースに出るの?」
その子供は、目を輝かせながらそう聞いてきた、特別レース…エキシビションの事だ。
「…うーん…“出てほしい”とは言われてるんだけど…でも、悩んでるんだ」
「お姉ちゃん、出てよ!私、応援するから!」
相手は更にこちらに寄ってきた。
「……」
「す、すみません!!急に話しかけてしまって」
私が返答に迷っていると、その子供の母親であろうウマ娘がこちらにやってきた。
「いえ、大丈夫です、元気な娘ですね…私のレースを見てくれるなんて、嬉しいです、ありがとうございます」
「いえいえ…この娘、貴女のレースを見てから、貴女の走りにすごく惚れ込んでいるみたいで……最近すごく活発なんです、私からも、お礼を言わせてください…ありがとう」
子供の母親はそう言って頭を下げた、その安心させられる声は、私にある馬を思い出させた。
ちょうど今の時期のような、寒空の大井。
その時先輩は厩舎待機だったため、私が先頭に立って誘導していた、すると、2枠3番のサラブレッドが話しかけてきた。
「あなたは去年もいたな…毎年こうしているのか?」
「…それが自分の仕事だから」
「…あなたのような馬がいるお陰で、出走馬達も安心して出走できる、出走馬を代表し、礼を言わせて貰いたい、ありがとう」
「………」
やけに礼儀正しいサラブレッドに、驚愕させられたのを覚えている。
「…どうした?」
「出走馬から礼を言われるなんて今まで無かったから驚いていたんだ……頑張ってくれ」
「ああ…勝ってくるさ」
しかしそのサラブレッドは2着に破れた
だけど、彼は半年後に戻ってきた、その時は私は最後尾担当だったので、また彼と話す機会を得ることが出来た。
「…貴方か…私は強くなって戻ってきた、今度こそ勝って見せる、見ていてくれ」
「…分かった、こちらも誘導馬を代表して成功を祈るよ」
そう言い、彼は馬場へ、私は待機所へと戻っていった。
『大地に響かせて、大地を揺るがせて優勝ー!』
「やったぞ!」
「これでこっちの三連勝だ!」
「馬場貸しなんてさせる訳にはいかねぇ!!」
実況を聞いていた誘導馬騎手、厩務員達はハイテンションで叫んでいた、私は確信した。
彼が勝ったのだと。
流星のある栗毛の馬体、真紅のメンコ。
彼の名前は…そう……
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
足をトントンとつつかれ、私はハッと我に返る、少々回想に浸りすぎていた。
「ごめんごめん、ボーッとしちゃってた」
その時、おやじどのの言葉が頭の中を駆け抜けた。
『競馬もカーレースも同じ、絶対は無いけれど、ロマンとドラマがある、自分は“支える者”としてそれを見てきた、お前も誘導馬だったんだ、分かるだろう?』
「………よし…ありがとう、君のお陰で決心がついた、私…出るよ、年末のエキシビション、特別レースに」
「本当!?」
その子供は目を輝かせた。
「うん」
「わぁー!私!応援しに行く!絶対にお姉ちゃんを応援しに行く!」
「私も行かせて貰います」
その子供だけでなく、母親も目を輝かせていた。
スッ…
私は子供の頭に手を乗せ、撫でた。
「見てて、お姉ちゃん、勝ってくるから」
“彼”が言った言葉を借り、私は勝利を誓った。
お読みいただきありがとうございます。
新たにお気に入り登録をして下さった方々、感謝に堪えません!
今回名前が出てきている“ツルマルシュタルク”というのはアプリ版でのツルマルツヨシに相当するウマ娘です、ツルマルツヨシはこの物語の構想段階では未実装だったので、登場しません。また、ジハードインジエアは史実でのエアジハードに相当するウマ娘となります。