第14話 謎の呼び声
『────』
何かを呼んでいる声が、どこからか聞こえる、その声を聞き、私は立ち上がった。
そこは真っ暗な空間で、私は闇の中をひたすら歩いていく。
カッ!
「…………ッ!」
突如、まばゆい光が私を照らす。
『────』
逆光に包まれた何者かが、私の前に立っている、それは四本脚で、耳と尻尾がある……つまりは…馬……
それは何かを呼んでいる、しかし、何故かそれは私の耳に聞こえない…だけど、その声は私に向けられたものだとなんとなく分かった。
「……誰…?」
私はそれを睨みつけ、そう聞いた。
『────…
しかし、それは質問には答えず、品定めするような様子で私を見て、一方的にそう言う、その表情は、逆光で全く見えない。
「あなたは…誰?」
私は再びそれに問いただす。
『倒せ
「…?」
『行け!そして、追い抜くのだ!
それはまた私の質問に答えることなくそう言うと、天に向かって嘶き、私の横を駆け抜けた。
「……!!」
私はそれを追いかけようとした、だけど…激しい頭痛が私を襲った。
「………ぐっ!?……くぅ…あああああ!!」
視界が霞んでゆく、最後に見たのは、遥か遠くを駆ける鹿毛の馬体だった。
バッ!
「……っ!…はぁ…はぁ…」
私は目を覚ます、部屋は真っ暗で、周りにはチビっ子達が眠っている。私は年末年始、実家に戻ることにしていたからだ。
「……夢…」
私はムクリと起き上がり、頭を横に振る、顔を洗いに行こう。
パシャ…パシャ…
顔を洗うと、徐々に頭がスッキリとしてくる
あの夢は何だったんだろう?私の記憶の中に、あんな声はないし、誘導馬をしていたときだって、あんな馬に出会ったことはない。
…分からない。
「アラ、どうしたんだい?」
「…!じいちゃん……私、変な夢を見たんだ、誰かが私の事を呼んでるような…そんな夢を…」
「…なるほどね……」
じいちゃんは目を閉じ、顎に手を当てて考え込んでいた。
「…もしかしたら、“継承”のきっかけかも知れないね」
「継承…」
「そう、継承だ」
じいちゃんはそう言う、継承が存在していることは、もちろん知っている。
……でも、私はサラブレッドじゃない、アングロアラブだ、果たして……継承はあるのだろうか……?
アラビアントレノが奇妙な夢を見てから少しばかり後、福山トレセン学園の冬休みが終了した。
『では、生徒会長のエコーペルセウスさんより、生徒の皆さんへのメッセージがあります、お願いします』
放送委員がそう言うと、エコーペルセウスは登壇する。
『生徒の皆、あけましておめでとう、皆、有意義な冬休みを過ごせたかな?競争ウマ娘の皆は今日をもって、競争のクラスが格上げになる、これからもどんどん色んな事を学んでいって欲しい、サポートウマ娘の皆、競争クラスが一つ上がると言うことは、新たな世界に足を踏み入れると言うこと、そんな競争ウマ娘達を、どうか支えてあげてほしい、それから……』
エコーペルセウスはしばらくの間、壇上で話していた。
授業が終わった放課後、生徒会室には会長の エコーペルセウス、そして、エアコンボフェザーとハグロシュンランの二人の生徒会副会長が集まっていた。
「声掛け事案が……減っているだと?」
エアコンボフェザーは驚いて目を丸くした。
「はい、妹たちからの報告です、最近、少なくなっているとのことです」
ここで話題に上がっている“声掛け事案”とは、地方の有力なウマ娘が中央にスカウトされる事である。
ハグロシュンランの実家、ハグロ家は地方ではそれなりの家のため、西日本のトレセン学園の殆どにハグロ家の人物が生徒として入っていた。それ故、各学園の情報も集めやすいのである。
「フェザー、驚いている所悪いけれど、どう思う?君の意見を聞かせてほしいんだ。」
「……今までに無いことだ、私がいた頃は実力のある地方のウマ娘はどんどん引き抜かれていたからな」
「そうか…確か君がいた頃は、最も熱かった時だからね」
「ああ、オグリキャップがいたからな」
数年前、エアコンボフェザーが中央で走っていた頃、カサマツにて一人のウマ娘がデビューした。
そのウマ娘とは、芦毛のウマ娘、オグリキャップである、後に中央に移籍した彼女は、規則によってクラシック三冠レースには出る事は無かったが、多くの人々を引き付けるスターウマ娘であった。
「オグリキャップが中央に移籍してからというもの、URAも地方から人材を引き抜く事が多くなっていったからね」
「ああ、でも、それがパタリと止んだ」
「…AUチャンピオンカップの為でしょうか?」
ハグロシュンランはそう言って紅茶を飲む。
「……待てよ…もしかしたら、“良い勝負”がしたいのかもしれない…中央と地方には実力差が有るからな…」
エアコンボフェザーは中央帰りとしての持論を述べた。
「えっ…それが本当なら、私達…
エコーペルセウスはそう反応した。
「……確かに、否定はできないな、だが、ラッキーだとも言える、スターの素質のあるウマ娘達が中央に行ってしまうのが避けられるからな」
そう言うと、エアコンボフェザーは席を立った。
「私はそろそろ行くぞ、継承についてウマ娘達に説明するからな」
「うん、わかったよ、しっかり頼むね」
「行ってらっしゃいませ」
バタン
エアコンボフェザーは部屋を出ていった。
「継承かぁ…」
エコーペルセウスは一口紅茶を飲み、そう呟く。
「…私達にとっては、よく分からないものですね」
ハグロシュンランはそう答えた、継承とは、競争ウマ娘のみに起きる謎の現象の事である。その時期は個人によってまちまちなものの、継承を受けたウマ娘は身体能力が向上するというのが常であった。
「フェザー曰く『三女神のシルエットが目の前に現れて、そこから出た光が体に入ってくる』らしいけれど、オカルトチック過ぎて信じられないんだよ」
「…私も同様です、ですが、継承をきっかけに飛躍的な能力の伸びを見せる生徒がいるのも事実、今年のクラシック期の皆さんがどうなっていくのかが、楽しみです」
「うん、そうだね、去年の年末の特別レースで分かったことだけど、今年のクラシック世代の皆は才能がある」
「もしかすれば…オグリキャップさんのようなスターも現れるということですか?」
「うん、そうだね」
オグリキャップはその活躍により、地方のウマ娘達の間では伝説のような存在となっていた。特にハグロシュンランは同い年と言うこともあり、オグリキャップの大ファンでもあった。
「……個人的には、地方で走っていて欲しかったって気持ちはあるけれど、中央のファンにとっては、オグリキャップの登場はとても嬉しいモノだったろうね」
「はい、あんなことが起きれば……忘れたくはなるでしょう」
ここでハグロシュンランが言及していた“あんなこと”とは、オグリキャップが中央に移籍する前年に起きたある出来事である。
「………そうだね、でも、あれは決して忘れてはならない」
「……」
「……さて、暗い話はここまでにして、茶菓子でも食べないかい?」
「頂きます」
エコーペルセウスは話を切り上げ、茶菓子を取りに向かったのだった。
俺は一人、パソコンで動画を再生する、正月休みを利用して大阪まで撮りに行ったものだ
モータースポーツの規模は小さいとはいえ、やはり車好きという人種は居るもので、大阪では前世同様、新年早々、環状族が爆走していた。
今までのアラの勝利は…相手のミスを誘ったりする戦術によるもの、でも、これからは相手も強くなるし、年上のウマ娘と当たる機会も多くなる。
『ブォォン!』
画面の中の車は、他の車の間を縫うように、環状線を駆け抜けていく。それはまるで車と車の間をスライドするかのように避けるのだ。
位置取り争いも…苛烈なものになる、この車のように、抜けるテクニックが必要になるだろう。
環状族は、走り回るに当たって、コンパクトで軽量な車体にかなりの馬力のエンジンを持つ車、ヒラメシビック *1 を使っている。
この車と同じく、アラも小柄…つまり…これから追求していくべき課題は一つ。
これを達成するには、新しいトレーニングだけじゃない、用具面でも色々と考えてみる必要があるだろう。
継承のことも視野に入れなければならない。
「さて…どうしたものか…」
俺はペンを手に取り、ノートを開いた。
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