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『7枠9番、アラビアントレノ、9番人気です』
『今回、中央のレース場は初めてですが、この歓声の中、平常心を保っているようですね』
「………問題は無しと………そんな事より……桐生院さん、来てよかったんですか?ミーク達のトレーニングもあるだろうに」
観客席に上がったら、どういう訳か桐生院さんがいた。まあ、東京と千葉だから車の距離ではあるが…
「ミーク達のトレーニングは結さんに任せてありますから、大丈夫です!それに、今日は対戦相手の情報収集も兼ねていますから!」
そう言って桐生院さんはビデオカメラを取り出した。
「そういえば桐生院さん、夏、ミークのローテについて考えていましたよね?あれってもう決まりました?」
「はい!秋のローテは…毎日王冠、菊花賞です!ミークはどの距離でもある程度走れてしまうので、慎重に判断しないといけませんから」
凄いローテを考えるもんだ……
…と言うか、さっきの発言からして桐生院さんはミークとアラがレースをすると踏んでいる……随分と高く評価してもらえてるもんだ、少々…鼻が高い。
“今日は第4コーナーからV-SPTだ、タイミングを間違えんようにな”
トレーナーの言葉を思い出し、私は深呼吸をした。
中央で使っている赤い体操服も、悪くない、でも…なんで二種類あるのだろうか?これは本当に疑問に思う。
一つはショートパンツだけど、もう片方なんてデザインが完全に下着のそれだ………最も、前世、サラブレッド達は産まれたままの姿の上にゼッケンだけだったけれど…
駄目だ、駄目だ…気持ちを切替えよう。
今日ここに来たのは、勝つためだ。
そして、アレの正体を突き止めてやるためだ。
集中だ………
私はターフを睨みつつ、ゲートインした。
「ヒぃッ!?」
すると、隣のウマ娘が驚いたような声を上げる…私の様子に驚いたのだろうか?
ウマ娘は人間よりメンタルはデリケートにできてるみたいだし、人によってはあるのかもしれない。
『休養中に乗り込んできたウマ娘、レースを経て来たウマ娘、地方からやって来たウマ娘、彼女たちはそれぞれで夏を積み上げて来ました、さあ!その成果を見せてもらいましょう!セントライト記念、菊花賞トライアル!』
ガッコン!
『今12人のウマ娘がスタートしました!日差しの照りつける芝コース良バ場2200m、12人の先行争いです!』
『やはり、飛ばしていく娘は居ませんね』
『最内にヌーベルスペリアー、そして外からはネオリュウホウ、押し出されるような形でアラビアントレノが後方寄りの外を進む、真ん中を突いていくのはオウカナミキング』
…押し出されては無いんだけれど……とりあえず、中央の位置取り争いが未知数である以上、切り込むのは良くない。
いくらパワーが上がったとはいえ、私、小さいからなぁ…
『1コーナーから2コーナーに入る所で先頭がネオリュウホウ、2番手が変わりまして、ヌーベルスペリアーからグランスクレーパーになりました!思い切って行ったぞ!その二人の後ろ、外を回っているメジロランバート、こちらもスピードを上げてきている、ヌーベルスペリアーの前へ』
『グランスクレーパーとメジロランバート、少しハイペース気味ではないでしょうか、表情も何だか落ち着きが見られないようです』
『ヌーベルスペリアーの後ろには内から並ぶ様にロードレブリミット、少し抑えるかオウカナミキング、そしてスノーボマー、後ろにセイウンコクド、その外を並ぶようにして走るアラビアントレノ、その二人を見るようにステージハイヤー、後方離れてシンコウジンメル、しんがりがテイオージャズです!!』
……確かに、春までの私なら、このスピードには対応出来なかっただろう、でも、今は違う…
((……あのウマ娘…何者…!?))
前を走るグランスクレーパー、メジロランバートは後ろを気にしつつ、必死に逃げていた。
(…あのウマ娘に目をやった時…一瞬だけど……得体のしれないものを感じた……ライアンみたいな純粋な闘志じゃない………私達とは違う、異質な何か…)
ゲートに入った時、メジロランバートはアラビアントレノを見て声をあげていた、それは彼女がアラビアントレノに対し、何かを感じていたからである。
『各ウマ娘、向正面へ、ここで中団に動きあり、アラビアントレノ、セイウンコクドの真後ろへ、暑さのせいか、全体のペースは控えめです』
『そうですね、第3第4コーナーでの動き、ここで勝負が決まりそうです』
(下りのストレート……ここはスリップストリームだ、コーナーに入る時は皆抑えるだろうから、私なら飛び出して外から並んでいけるはずだ)
アラビアントレノはそう考え、仕掛けの準備に入っていった。
「………スリップストリームですか」
桐生院はアラビアントレノを見つつ、隣にいる慈鳥にそう質問した。
「はい、アラは小さいですからね」
「ああやっているという事は、バ群に揉まれても抜ける自信がおありなのですね」
「はい、ミーク達才能溢れる中央の生徒と共にトレーニングしたんです、アラならきっとやってくれます」
「私もそう思います」
慈鳥と桐生院は夏合宿の成果を信じ、行方を見守った。
『先頭グランスクレーパー、その後ろにメジロランバート、3番手ネオリュウホウとは2バ身から3バ身差その後ろは若干絡まっている第3コーナーのカーブ、抑えて抑えて、ヌーベルスペリアー!その後ろからスノーボマー、おや、ちょっと下がっていくぞ、ヌーベルスペリアー!』
(………今だ!!)
少し下がったヌーベルスペリアーに観客の注目が集まった瞬間、アラビアントレノのピッチとストライドが変わった。
『ネオリュウホウ押して行った!更には、オウカナミキングも続く!外からアラビアントレノぐんぐん上げる………えっ!?アラビアントレノ、上げている!大外からまくり上げて来るぞ!?』
ザワザワザワザワッ…!
場内は騒然とした、しかし、実況の赤坂は何とか気持ちを立て直し、実況に戻った。
『ロードレブリミットもスパート体制、テイオージャズ、一瞬迷いスパートが遅れた!400の標識を通過!3着まで菊の舞台への夢!セントライト記念は最後の直線!』
(………まだ切り替えないほうが良いな、坂まではストライド走法のままで行こう)
『先頭争いはネオリュウホウとメジロランバート、いやグランスクレーパーもいる、外からアラビアントレノ!!激しい先頭争いをしつつも200の標識をパスし最後の急坂へ!』
急坂へ差し掛かり、それぞれのウマ娘はピッチ走法へと変える体制を取った。
(………行ける、私の方が速い!)
そして、一番速くそれを済ませたのはアラビアントレノだった。
(……………通させない!!)
それを感じ取ったメジロランバートはすかさずブロックに入る。
(…………平地でやられてたら脅威だけど、坂だからね、遅い!!)
しかし、平地でよりも速度が落ちる坂道では、ブロックの動きも当然鈍くなり、アラビアントレノは容易くそれを見切り…
(…………ヒッ!!…私…斬られた…!?)
メジロランバートの側面ギリギリをパス、彼女に斬られた様な錯覚を与えて震え上がらせながら、ゴール板を目指して進んでいった
『アラビアントレノ、ブロックに入ったメジロランバートのギリギリ横を突き抜けてトップに躍り出た!!しかしそれを許したくないのか内側からヌーベルスペリアーがやってきたしかし逃げるぞ逃げるぞアラビアントレノ、逃げるアラビアントレノ、追うはヌーベルスペリアーとネオリュウホウ!しかし差は開く、シンコウジンメル突っ込んで来て3番手争い!!』
(………あと…10m……!行けぇぇぇぇぇぇっ!)
『ゴールイン!!勝ったのはアラビアントレノ!!中山の急坂を乗り越え、菊の舞台への切符を手に入れました!!』
「信じてたぞ!!」
「そのまま菊もとっちまえー!!」
菊花賞のトライアル競争ということもあり、地方からわざわざ中山まで出向いていた地方のファンは多かった。
そして、そのファン達は、アラビアントレノに熱い声援を送っていた。
勝った…私…勝ったんだ…
「信じてたぞ!!」
「そのまま菊もとっちまえー!!」
私に向けて、声援が送られて来る
観客達にむけて一礼した後、私は地下バ道に向けて戻っていった。
「アラ」
トレーナーは地下バ道で私を待ってくれていた。
「特訓の成果が実ったな、勝ちたかったんだろ?」
「うん……凄い…嬉しい、ありがとう」
「ありがとう…?礼を言うのはまだまだ早いと俺は思うぞ?アラ…この先の…“菊花賞”に、桐生院さんとミークに…挑戦してみる気はないか?」
トレーナーは私の肩に手を置き、私の目を見てそう言った。
「菊花賞に…ミークが?」
「ああ、向こうは俺達との対決を望んでる、アラ、お前が決めるんだ」
菊花賞は、“最も強いウマ娘”を決める舞台、ミークと対決するには、この上なくベストな場所だ、そして、私はいつかはミークとレースをしたいと思っていた。
「…トレーナー、私、菊花賞に出る」
私はトレーナーにそう言った。
あの声の意思じゃない、これは紛れもない私の意志。
サラブレッドもアングロアラブも関係無く、全力で競い合いたい相手と戦いたいという意志。
そして、その意志は、このセントライト記念を勝った今、更に強くなっている。
“満たされる度に、渇きゆく”
それが今の私の心だ。
また、私は闇の中で目を覚ます。
目を覚ましてすぐ、これが今までの夢とは違うものだということがすぐに分かった。
私………いや、自分は、“4つの脚”で、その空間の中に立っていた。
今までの夢とは明らかに違う状況、首を振るい、周りを見る。
カッポ…カッポ…カッポ…カッポ…
後ろから、音が聞こえる、これは……馬の蹄の音。
「…!?」
その音を出しているものの正体を掴むべく、振り返った。
「…よく来たな」
間違い無い…この声、この毛色、あの馬だ、私の夢に何度も出てきた、あの馬だ。
「………」
その馬は、警戒する私を気にする様子も無く、私の前に出る。
「セントライト記念に勝つとは、流石はワシの子孫の中の最高傑作……サラーム……いや、“セイユウユーノス”」
「…………!!」
その瞬間、私の頭の中に色々な記憶が流れ込んで来た。
「この子が私の後輩のセイユウユーノスだ」
「ユーノ、堂々と振る舞うんだ」
先輩との記憶。
「このお馬さん、白くてキレイ〜!」
「本当だね〜それに優しい顔だね〜」
「温厚で誰でも乗りこなせる…ホント、この子…セイユウユーノスは凄いですよ、誘導馬騎手達の中では神ホースだなんて呼ばれてますから……」
大井での記憶。
「セイユウユーノス……つまり…この馬は、あの馬の子孫なのか?」
「ええ、父ビソウエルシド、母ユーノスプリンセス、つまり腹違いの兄はあの“益田の怪童”です」
「そうか……だから名前にユーノスが…」
「しかもこの子は幼名まで用意されてたらしいんです、結局、誘導馬にされてしまった訳ですけれど……神崎さん、どうしました?」
「いや、“ユーノス”…か……若い頃を思い出しただけだ………セイユウユーノス、よろしく頼むよ」
「────!」
そして、おやじどのと初めて会ったときの記憶。
思い出した…自分の名前は“セイユウユーノス”小さい頃は“サラーム”と呼ばれていた。
「…じゃあ…あなたは…」
「……ワシの名前はセイユウ、お前と同じアングロアラブじゃ」
「自分と同じ…アングロアラブ…」
「そう、じゃが、お前は菊花賞に出ることが出来る、血の呪縛…人間共の勝手な決め事で、ワシの出る事のできなかった、あの…菊の……」
声の正体、“セイユウ”の声は、段々と遠ざかっていった。
「…………!!!」
目覚めた私は、前脚…いや、手がきちんとついているのか確認する、手はきちんとついている。
“セイユウユーノス”
それが私の、前世の名前。
だけど、気になることが一つあった。
セイユウは、人間たちの事を『人間共』と言っていた……そう、まるで人間たちの事を恨んでいるかのような口調だった。
地方トレセンの所属ウマ娘が、セントライト記念を征したという情報は、中央に激震を与えていた。
「押さないで!押さないで!商品は逃げませんよ!!」
そして、ここ、福山レース場は、アラビアントレノがセントライト記念を勝利した事により注目され、所属ウマ娘達のグッズを買いに、全国からローカルシリーズのファンが訪れたのである。
「……凄い量」
「地元の福山以外からも来てるぞ」
一方で、アラビアントレノと慈鳥は急増したファンレターに驚いていた。
「アラ、これ見ろ、北海道から届いている」
「ホントだ……トレーナー、それ貸して、見てみるから」
アラビアントレノは慈鳥から北海道から届いた手紙を受け取り中身を見た。
「……『アラビアントレノさんへ、セントライト記念、見ていました、アラビアントレノさんみたいなウマ娘になれるようにがんばります…』……この娘…小学生だ…」
「本当かよ、文面からして、競争ウマ娘になりたいんだな」
「うん…どんな名前の娘なんだろう……えーと…『コスモバルク』良い名前…」
アラビアントレノはそうつぶやき、手紙を便箋に丁寧にしまった。
お読みいただきありがとうございます。
文中に出てきたセイユウは、アングロアラブの中で唯一、サラブレッド系重賞を制した馬です。
ご意見、ご感想等、お待ちしています。