ある日の放課後、ワンダーグラッセ、セイランスカイハイは生徒会長のエコーペルセウスによって呼び出されていた。
「ワンダー、ランス、君たちは確か…交流重賞に出た経験は無かったよね?」
エコーペルセウスは二人にそう質問した。
「はい」
「私も同じです、何か頼み事ですか?」
「うん、君たちには、今度の休み、シュンランとともに3人で東京…中央のファン感謝祭に行ってもらいたいんだ、旅費は私達の方で都合するからさ」
「……私達…がですか?トレーナーさんも無しに…ですか?」
ワンダーグラッセは自分の胸に手を置き、エコーペルセウスに質問する。
「そう、君たちはまだ、中央のウマ娘達と走っていない、だから呼んだんだ。ランス、スピアフィッシングにはポイントの事前調査が必要不可欠だよね?」
「はい~」
「ワンダー、茶会をする時には、紅茶に合うお菓子を調べるよね?」
「はい」
「なら、話は早い、二人にやって欲しいのは、相手の偵察だよ。君たち二人のことを知っている娘は夏合宿組以外に居ないと思うから、偵察し放題だ、そしてトレーナー抜きでやる事で、自分で考える力もつけてもらうってことさ」
「ほぅ…なるほど…」
セイランスカイハイは、興味深そうな顔をした。
「確かに魅力的ですね、観るのもトレーニングの一つですし」
ワンダーグラッセも興味を示した。
「それなら決まりだね」
「あれ、でもそれならシュンラン副会長は…?」
そう聞いたのはセイランスカイハイである。
「ああ、シュンランは夏合宿で見てきたウマ娘達を見たいだってさ、あと、オグリキャップにも会いたいらしい」
「なるほど〜確かに、シュンラン副会長、オグリキャップさんの大ファンですからね」
「ハハハ、“サインが欲しい”って言ってたのを覚えているよ」
エコーペルセウスは笑ってそう言った。
数日後、東京都のあるホテルの玄関に、ハグロシュンラン、ワンダーグラッセ、セイランスカイハイの姿があった
ハグロシュンランは首からカメラを下げ、ワンダーグラッセは下ろしている髪をポニーテールに束ねて緑のカラーコンタクトをつけ、セイランスカイハイは帽子を被り、偵察のための装いは完璧といった様子だった。
「ランスさん、ワンダーさん、よく眠れましたか?」
「はい、もうそれはぐーっすりと」
「同じくです」
「それでは、今日の予定を確認しましょうか、私はこちらを担当しますから、お二人はこちらを」
ハグロシュンランはファン感謝祭のパンフレットを開き、トレセン学園の敷地を半分ずつ指で囲んだ
「シュンラン副会長…一人でですか?」
「はい、心配は無用です、一人で歩くのは慣れていますし、きちんと白杖も持っていますから」
片目しか見えない事を心配する二人に対し、ハグロシュンランは鞄の中から携帯式の白杖を取り出し、心配は無用であるという意思表示をした
「確か…お二人は“日本のレースに興味があるイギリス人と現地人のお友達”という形でしたね、よろしくお願い致します、向こうの皆さんには見かけても声をかけないようにして頂いていますから、たっぷり学び、たっぷり楽しむことに集中致しましょう」
ハグロシュンランはそう言った。
「おぉ〜やっぱデカいもんだねえ」
「そうですね〜」
バスに揺られ、数十分、三人はトレセン学園に辿り着いた。
「では、予定通りに行きましょうか」
「分かりました」
「承知致しました」
ハグロシュンランの一声で、三人はそれぞれが見る場所へと向かっていった。
「えーと、まずは………」
「ランス、ここからは英語で行きましょう…Ok?」
「
ワンダーグラッセとセイランスカイハイは英語での会話に切り替え、トレセン学園内を進んでいった。
「スズカさん!今度はあっちに行きましょうよ!」
「ふふっ、スペちゃんは元気ね」
一方、別の場所ではスペシャルウィークはサイレンスズカと共に会場を回っていた。
「置いていっちゃいますよー!スズカさん!」
スペシャルウィークはサイレンスズカの先を進み、彼女の方に振り向き、振り向いてそう言う、サイレンスズカはそれを見ていたが…
「危ない!」
スペシャルウィークの後ろから人が来るのに気づき、スペシャルウィークを止めようとした。
ドンッ!!
しかし、スペシャルウィークはぶつかってしまった。
「………」
「す、すいません!大丈夫ですか?」
スペシャルウィークはぶつかって尻餅をついた相手に近づき、手を差し伸べる。サイレンスズカも駆け寄った。
「I'm ok……How about you?」
「…え、英語!?…えーと…えーと…」
スペシャルウィークがぶつかった相手は、ワンダーグラッセであった
「“私は大丈夫です、そちらは大丈夫ですか?”って言ってるんです」
中々返答できなかったスペシャルウィークに、ワンダーグラッセの横にいたセイランスカイハイがそう言う、するとスペシャルウィークは…
「良かったぁ…」
と言って胸を撫で下ろした。
「さっきはごめんなさい、えっと…そちらの方…Are you a tourist from abroad?」
サイレンスズカはワンダーグラッセに対し、英語で質問した。
「……Yes, I'm from England.」
「Ok, thank you very much. スペちゃん、この人はイギリスからの観光客みたい、あれ…では、貴女は?」
「私はこの娘のサポート役ですね、通訳みたいな感じです、でも、私もここに来たのは初めてで、とりあえず手当たり次第回ってるって感じですね」
「そうでしたか、ここは初めての方…うーん」
サイレンスズカは、顎に手を当て、考える。
「そうだ!スズカさん、エルちゃんとグラスちゃんに案内を頼むのはどうですか?あの二人は私よりも詳しいし、アメリカ出身ですから、英語も大丈夫ですよ!」
スペシャルウィークは人差し指を立ててそう言った。
「確かに…あの二人なら……私達よりもうまく案内できるわね…分かったわ、スペちゃん、この二人をあの二人の所に案内しましょう」
「はい!フ、フォローミー、プリーズ!」
こうして、スペシャルウィークの案内により、ワンダーグラッセとセイランスカイハイはグラスワンダーとエルコンドルパサーのもとに向かうこととなった。
「オグリさん、こちらの方は、オグリさんの大ファンのサポートウマ娘の方で、オグリさんに是非会いたいと思って、広島から来てくださったそうですよ」
「本当なのか…?」
「はい、長年応援させて頂いています」
ハグロシュンランはそう言ってオグリキャップに向かって挨拶をした。
先程まで彼女は白杖を使い、学園を回っていた、その時、たまたま通りがかかったメジロアルダンが心配して声をかけ、彼女をオグリキャップのところまで連れてきたのである。
「…そうか、応援してくれて、ありがとう」
「オグリン、せっかく遠くから遠路はるばる来てくれたんや、このウマ娘にウチらの事について教えへんか?」
「そうだな、タマ。キミ…少し長くなるけど、良いか?」
「もちろんです、あのオグリキャップさん達から直接お話しを聞けるなんて…光栄です!」
ハグロシュンランは目を輝かせ、そう答えた。
『ここが……“伝説のレースのシアター”ですか』
『はい、歴代の先輩方や今年のレース映像を鑑賞できるようになっているんです』
『しかも、ワタシ達がついていますから、今回は解説付きデース!!イギリスの友だちに、日本のレースの凄さ、タップリ教えてあげて下サイ!!』
『はい、よろしくお願い致します』
(……うわぁ…これが海外のヒトのペースかぁ…)
セイランスカイハイはそう思い、心のなかでため息をついた。
スペシャルウィークとサイレンスズカの助けにより、グラスワンダーとエルコンドルパサーの案内を受ける事が出来たまでは良かったものの、三人が英語で話している際はそのスピードが速すぎ、会話の内容がほとんど分からなかったからである
『ここの末脚を発揮するタイミングが、このレースの注目点です』
『なるほど、一瞬の判断が、勝負を分けている…とでも言うのでしょうか?』
(うーん、やっぱり分かんないや、まあ、ホテルでワンダーから聞けば良いし、私は私でじっくり見させて貰いますか)
セイランスカイハイは理解することを諦め、視線を画面に移す。
(…やっぱり、天皇賞や有馬記念、とかのG1レースが多いなぁ…あれ、所々…抜けてる?…まあ、伝説のレースを集めてるって言ってるぐらいだし、見栄えの無い奴を弾いてるって事かな…?)
セイランスカイハイは少し違和感を感じつつも、画面に視線を集中させた
「そこでオグリさんが最後の力を振り絞って抜け出したんです、圧倒されたのをよく覚えています……」
「同じくです」
「私もその映像はテレビで拝見していました、“オグリ一着、オグリ一着”と実況の方が叫んでいましたね、私はあの時のことを思い出すだけで涙が出てくるんです」
「信じるかどうかはキミの自由だがあの時、どういう訳か“お前はオグリキャップなんだ”という声が聞こえてきたような気がしたんだ、それのお陰かどうかは分からないが、私は力を振り絞り、勝つことができたんだ」
一方、ハグロシュンラン達は、オグリキャップのトゥインクルシリーズ最後のレース、有馬記念について語り合っていた。
「凄いですね…!!」
「むぅ…こうも目を輝かせて言われると…恥ずかしいものがあるな…」
「オイオイオグリン、胸を張るんや、一般人のウマ娘まで、アンタの走りに涙しとるんやで?」
「ああ、ありがとう、シュンラン」
ちなみに、オグリキャップはハグロシュンランの家、ハグロ家のことについては知らない、ハグロ家のウマ娘は園田より東には居ないからである。
「…それにしても……」
タマモクロスはハグロシュンランとメジロアルダンの方を見た。
「アンタらふたり、よう似とるわ」
「顔つき…ですか?」
メジロアルダンがそう聞き返す。
「ちゃうちゃう、何か雰囲気といい、話し方といい…ウチはアンタらが他人みたいな気がせえへんのや」
「確かに〜二人共、そういった面ではよく似ていますよ」
スーパークリークも、タマモクロスの意見に賛同した。
「まあ、似ている人が世界に数人はいるとか言うしな、たまたま今日会うことができたって事じゃねぇか?」
イナリワンがそれに続いて発言した、すると、それと同時に。
『十分後に、中等部のウマ娘達によるエキシビションレースを行います』
とアナウンスがあった。
「あらあら、もうそんな時間ですか、私たちはレースを見に行きますが、シュンランさんもご一緒にどうですか?」
「是非!」
メジロアルダンに誘われ、ハグロシュンランは彼女たちと共にレースコースに向かった。
『本日のエキシビションレースは、将来が楽しみな中等部のウマ娘達が、志願した各距離で競い合います!』
「短距離、マイル、中距離、長距離、どのレースもあるみたいだな」
「そのようですね、良かったですね、シュンランさん」
「はい、楽しみです」
『まずは短距離です!出走するウマ娘達は……』
実況は出走するウマ娘達の名前を読み上げていった。
(ゲーさん…頑張って下さいね)
その中には夏合宿に参加していたデナンゲートの姿もあった。
「オグリ、誰が勝つと思う?」
「先行争いが激しくなるだろうからな……ヒシアケボノが有利じゃないか?」
オグリキャップ達はレースの予想を行なっている、ハグロシュンランは心の中で、デナンゲートの勝利を祈っていた。
『各ウマ娘、ゲートイン完了』
ガッコン
『スタートしました、注目の先行争い、やはり前に出てくるのはヒシアケボノ、そしてテイエムジーライン』
「やっぱり強いなぁ、ヒシアケボノは」
「短距離ですからね、しかもラストスパートは恐らくかなりバラけて差しが決まりにくいですから…」
そして、レースはあっという間にラストスパートに入っていった。
『レースも終盤、ハナを進むはヒシアケボノ、おーっとここで、デナンゲートが上がってくる、ヒシアケボノ、ブロックに入って行く』
「アカン!!大怪我するで!」
「…残念だが、体格差がある…控えた方が良いかもしれないな」
『デナンゲート、避けないぞ!』
デナンゲートは避けようとしなかった、そして、ヒシアケボノにブロックされるコースに入った。
ゴッ!
「へっ!?」
「…む!?」
「……まぁ…!」
『ヒシアケボノ、弾かれた!弾かれた!』
弾き飛ばされたのはヒシアケボノの方であった。
そして、動揺したヒシアケボノは大きく動きがヨレ、その体躯で後ろに控えていた他のウマ娘達の進路を塞いでしまった。
「ヒシアケボノは進路を塞いでるぜ!」
「まるでド素人じゃねぇか」
観客達はそう言う。
「…あの子達はまだデビューしていませんから、仕方無いですね」
「ああ、レースを重ねれば、予想外の事態の対処も上手くなるからな」
(……やりましたね、ゲーさん)
スーパークリークとオグリキャップの会話を聞きながら、ハグロシュンランは心のなかでそう呟いた。
『今日はありがとうございました、日本のレース、面白かったです』
『それは良かったデス、でも…今日のレース、勝つと踏んだ娘が殆ど負けちゃって予想外デース』
エルコンドルパサーはそう言って首を横に振った。
今日のレースには、将来有望と目されるウオッカやダイワスカーレットも出走していた、しかし、結果は。
短距離 デナンゲート
マイル デナンゾーン
中距離 スイープトウショウ
長距離 ゼンノロブロイ
ダート ハルウララ
であった。
「グラスワンダーさん、そっちはどう思います?」
セイランスカイハイはグラスワンダーに質問を振る。
「……正直、私も予想外でした、特にウオッカさんとスカーレットさんは現在絶好調のチームスピカのメンバー、勝つと踏んでいたのですが……」
「…そうですか」
その後、セイランスカイハイとワンダーグラッセは二人に見送られ、トレセン学園を後にし、ハグロシュンランと合流した。
後日、ハグロシュンランは生徒会室にて、偵察の成果を報告した。
「……以上で報告を終わります」
「ありがとう、お疲れ様、これはすぐにウマ娘達のトレーニングにフィードバックするよ」
「たしか、エキシビションレースをやっていたそうだな、どうだった?」
エアコンボフェザーはハグロシュンランに質問した。
「皆さん、とても活躍しておられました、デビュー後も期待できます」
「それなら良かった、あのウマ娘達は……いや、良い、桐生院トレーナーと氷川トレーナーから連絡は?」
「二人からお礼の電話を頂きました、喜んでおられましたよ」
ハグロシュンランがそう言うと、エアコンボフェザーは安心した様な顔をした。
「シュンラン、それで、オグリキャップには会えたのかい?」
「はい、色々なお話しを聞かせて頂きました」
「それは良かった、君はもう戻っても良いよ」
ハグロシュンランがオグリキャップに会えた事を確認したエコーペルセウスは、彼女を先に帰した。
「…ファン感謝祭が終わり、次は…菊花賞…か…………」
ハグロシュンランが去った後、エアコンボフェザーは耳飾りを触り、そう呟いた。
一方、エコーペルセウスはパソコンを立ち上げ、AUチャンピオンカップに備えた会議を行っていた。そして、その会議が終了した後、話題は菊花賞へと移っていた。
「もうすぐ、菊花賞ですわね。アラビアントレノさんは我々地方の代表、我が妹を破った実力、ぜひとも菊の舞台で発揮してほしいものです。応援させて頂きますわ。」
「私ども船橋のマフムトさんから、“暴れてこい”と、応援の言葉を預かっています。ぜひとも、アラビアントレノさんに伝えていただきたく思います。」
姫路の生徒会長、そして船橋の生徒会長が、エコーペルセウスにそう言う。そして、他の生徒会長もそれに続いた。
「うん、皆ありがとう、伝えておくよ」
「あたし達も続かねぇといけませんね!」
エコーペルセウスの言葉に、盛岡の生徒会長が声を上げた。
「そうですね、最近はスカウトも減ってきていますし、どんどん強いウマ娘を育てていかなければ」
「まずは、地方主催の交流重賞、そこでURAのウマ娘達に勝つ事を目標にしねぇとな、千里の道も一歩から。コツコツやっていこうぜ」
続いて、金沢、大井の生徒会長が続ける。
「その手伝い、私達福山がやらせてもらうよ、この間やった夏合宿のトレーニングの中で、効果的だったものをいくつか選んで、そのマニュアルを皆に送らせてもらうよ」
「いくつかって言っとるが、他にもあるんか?」
エコーペルセウスに対し、園田の生徒会長が質問する。
「うん、あるにはあるけれど、試作段階のものとかも混じっているし、準備がかなり面倒で改良の余地があるものとかがあるから、そういうものはハネてるよ」
エコーペルセウスはそう説明する、“試作段階のもの”とはV-SPT、“準備がかなり面倒”というのはばんえいのトレーニングである。
「そうか、ご苦労さんやな」
「夏合宿は中央の生徒も誘ったのでしょう?一部のものでも、かなりの効果が期待できるわね」
「そうですね……おっと、もうこんな時間ですか」
「ならそろそろ切り上げるか」
「そうですわね」
「なら、そろそろ切り上げようか、終了後すぐに、データを送らせてもらうよ」
「頼んだぞ」
「了解」
そして、オンライン会議は終了した、エコーペルセウスは即座にファイルを他の生徒会長達に送信し、椅子にもたれかかる。
「さーて、今度は部屋で、今後の事を考えるとしますか!」
エコーペルセウスはそう言って、鞄を持ち、生徒会長室を後にしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
誤字報告、お気に入り登録、ありがとうございます。感謝に堪えません!
今回の模擬レースのシーンは、ガンダムF91の冒頭を少しだけ参考にしています。
ご意見、ご感想等、お待ちしています。