今回は拙い挿絵が入っています。
『サイレンススズカ!勝ちました!グランプリウマ娘の貫禄!2着はハッピーミーク!』
サイレンススズカは、毎日王冠に勝利した、ハッピーミークはギリギリまで食いついたものの、最後に突き放され、敗北を喫したのであった。
「トレーナー、皆、ごめん……勝てなかった」
「……敗北から学びましょう、ミーク、貴女はもっと速くなれる」
桐生院はそう言い、ハッピーミークの肩に手を置いた。
(スズカさんは…とんでもなく強かった…でも…どうして…どうしてハッピーミークに…ワタシ…は…)
一方、エルコンドルパサーは、サイレンスズカだけでなく、ハッピーミークにも土をつけられた事にショックを受けていた。
(どうして…どうして……)
エルコンドルパサーは当然、同学年の中でも、最も将来性があるウマ娘達が集められているクラスに在籍していた、しかし、トレーナー間で“パッとしない”つまり、光るものが無いと言われたハッピーミークに敗北したのである。そのショックは多大なものであった。
(……ノビが違った、つまり…パワーが…)
そして、エルコンドルパサーは自分に“パワーが足りない”と思ってしまったのであった。
トレーナーが机に4つの写真を出す。
「右から、セイウンスカイ、キングヘイロー、スペシャルウィーク、そしてミークだ」
「うん」
「どの四人も甲乙つけがたいほど強い、そしてミークが一番恐ろしいのは事実だが……その次に恐ろしいのはコイツ、セイウンスカイだ」
トレーナーは一番右の写真の芦毛のウマ娘、セイウンスカイを指す。
「ワンダー達が入手した情報によると、菊花賞でもあいつは逃げる、だが、気をつけることが一つある」
「気をつけること…?」
「途中でのレブ縛りだ」
レブ縛り、確か…レース途中でペースを落とすテクニック…
「初めにハイペースで逃げ、途中でレブ縛りを行い、スタミナを回復させる、そして最後に再び加速する、スタミナに秀でてる相手だ、やって来る可能性は高い」
「じゃあ、もしそのパターンだったらどうするの?」
「目には目を、奇策には奇策をぶつける、ただでさえ意味不明なV-SPTと奇策、奇襲効果は十分だ」
「それで…その奇策って……」
「ああ、ワンダーとランスが手に入れて来た情報に転がってる」
そして、トレーナーは私にその奇策について話してくれた。
アラに菊花賞での作戦を話した後、俺は自分の私室に戻っていた。
俺はアラの勝負服のイラストを見た。
カラーリングはアラのパーソナルカラー体操服をモデルにした白黒ツートーン。
それは、前世、大阪の環状でシビックに混じってたまに走っていた
カーレースでも、あの車は恐ろしかったのをよく覚えている。
ドライバーにもよるが、コーナーで張り付いてくるのが、とにかく恐ろしかった。
いかんいかん……アラのトレーニングについて…考えないと…
アラはもし菊花賞で勝てたら、その二週間後の「秋の天皇賞」にも出たいと言っていた、俺は驚いたが、アラに押し切られる形でOKを出してしまった。
だが…出ると決めたからには、勝つ。
「……なら、菊花の後は一度温泉地に連れて行った方が良いな……」
俺はペンを取り、カレンダーとにらめっこしつつ、計画を立てていった。
その後、俺はしばらく作業をした後に、眠りについた。
…まだ起きる時間では無いのに、目が覚めた、夢を見た、前世の思い出だった。
相棒が泣いた時の夢だった
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
コンビを結成して数年後のある日、相棒はラジオで競馬の実況を聞いていた。
丁度、今ぐらいだった様な気がする。
『菊──────!!────ラ!!───────です!』
いつだったろうか?確か死ぬ10年以上前だった。
「やった…やってくれた!!やってくれたぞ!!」
「ん?どうした?」
「……いや、どうしても勝って欲しい馬がいてな……勝ってくれたんだよ!!」
「そうか、で、馬券は?」
「当たった!でも、カネなんかどうでも良いさ!…ここから一度羽休めして、来年の春が楽しみだなぁ!!」
相棒は男泣きしていた、泣くやつでは無かったのに…だ。
そして2カ月ほど後、相棒はものすごく憤っていた。
「何で…何でだ!!なんでそうするんだ!!どうしてだ!!」
「お、おい!どうしたんだ!落ち着けよ!!」
結局、その日相棒は車で飛び出していってしまったのをよく覚えている。
それから数週間後、相棒はまた泣いていた。
「くっ…うぅ………何故…何故…どうしてだ!」
「……相棒…」
「……苦しめるだけだ!!馬は俺達人間とは違うんだぞ!!車ならエンジン載せ替えりゃ生き返る、だけど……馬は…生きてんだよ…」
そして、4ヶ月ぐらい経ったろうか。
「俺達人間って……罪深いな」
と、呟いていた。
そして、時間は流れ、俺が死ぬ1年前、相棒はまた憤っていた。
「………ありゃあ…車で言えば、オーバレブのエンジンブローだ、いつか起こることだったんだ………レーサーは…いつ死ぬか分からない、レースに絶対は無いのに…」
「………」
「8歳で…無事に走り切っただけでも…認めてやっても良いじゃないか………」
その頃からだったと思う、相棒がメカニックを退いた後の事について真剣に考え始めたのは。
相棒、俺が死んだ後、お前はどうしたんだ?まさか…?
…いや、あいつは親友が死んだぐらいでへこたれる様なタマじゃない…きっと……俺なしでもうまくやっている筈だ
「どう……?」
勝負服を着たアラが、こちらを向く。
「ああ、よく似合ってる」
アラの勝負服はコートを羽織るような形で、小さい身体が大きく見えるようになっている。
そして、そのデザインは奇しくもミークのそれにそっくりだった。断じてパクった訳ではない、どういう訳か似てしまった。
「トレーナー、行ってくる…そして…ミークに勝ってくる」
「ああ、共に練習した仲…存分に戦って来い!」
アラはそう言って控室を出ていった、その後ろ姿からも、足取りからも、成長が感じられた。
ウマ娘達がパドックで観客達に手を振る。
『3枠5番、セイウンスカイ、2番人気です』
日本ダービーでは敗北を喫したものの…調子は好調だ、目は口より物を言う。
そして…その目は、何か企んでいる、まだまだ子供だ、考えが目に出まくっている。
『3枠6番、アラビアントレノ、7番人気です』
アラは観客に軽く手を振り、微笑む。
「アラビアントレノー!!やってくれ!!」
「応援してるぞ!!」
「アラちゃーん!!」
福山からわざわざ駆けつけてくれたファンが、アラに声援を送る。
ミークは芝とダートの両方、そして全距離を標準以上のタイムで走って見せるとんでもない才能を持つウマ娘…アラにとっては最強格のライバルの一人だ、だが、そういった相手と闘うための武器がV-SPTだ。
「ミーク!!」
「ミーク先輩!」
マルシュ、ロブロイ達が声援を送っていた。
『5枠9番、キングヘイロー、3番人気です』
距離適性は微妙だが、彼女の担当は、ヤコーファーのトレーナー……トレーニングの工夫に関しては定評があるらしい。
『7枠15番、ハッピーミーク、6番人気です』
専用の勝負服で身を包んだミークの調子は良さそうで、体の仕上がりも良い。さすが桐生院さんだ。
『8枠17番、スペシャルウィーク、1番人気です!!』
「スペシャルウィーク、勝ってくれ!!」
「慈鳥トレーナー、いよいよ勝負ですね…貴方には負けません」
「それはこちらの台詞です、桐生院さん」
俺達はお互いに宣戦布告をした。
俺は出走表を見た
1 | キンノガバナー |
2 | シンボルオウカン |
3 | ミツバリュウホウ |
4 | セイウンスカイ |
5 | コマンドスズヤ(取消) |
6 | アラビアントレノ |
7 | ヌーベルスペリアー |
8 | ボルトエンペラー |
9 | キングヘイロー |
10 | シンコウジンメル |
11 | メジロランバート |
12 | テイオージャズ |
13 | タンヤンアゲイン |
14 | サンプラスワン |
15 | ハッピーミーク |
16 | エプソンダンディー |
17 | スペシャルウィーク |
18 | グリーンプレゼンツ |
一人取消、回避したということだ。
そして、それはアラの横、天気は雨……
これなら……
「貴方が、葵ちゃんがお世話になっているトレーナーさん?」
「…!?」
「せ、先輩!?」
後ろから声をかけられ、俺は驚いて振り返る。
そこには、50ぐらいの女性が立っていた。
「は、はい…俺が…桐生院さんと共に頑張らせて頂いている、地方のトレーナーです」
「そんなに緊張する必要なんて無いのよぉ?」
「は、はい…」
この人…桐生院さんが先輩と呼んでいたという事は……この人、まさか、メイサの元メイントレーナー。
「…あの…メイサの元トレーナーの方…でしょうか?」
「そう、私がメイサの元トレーナー、伊勢よぉ、葵ちゃんとはあの娘がちっちゃい時からの知り合いなの、あっ…あの娘も呼ぶわぁ、ビーちゃん!!」
伊勢さんがそう言うと、群衆をかき分け、あるウマ娘が姿を現した。
「…やぁ!君がミーク達を鍛えてくれたトレーナーさんかい?」
長身、長髪、特徴的な耳飾り、その姿は、ウマ娘レースを知るものなら誰もが知っている。
「ミ…ミスターシービー……」
「そう、アタシはミスターシービー、チームメイサの元リーダーさ」
高等部に一人いると桐生院さんは言っていたが、まさか…三冠ウマ娘だとは…
「先輩、どうしてここに?」
「しばらく地元でトレーニングしてたんだけどねぇ、ビーちゃんが菊花賞を見に行きたいって言うから、ここまで駆けつけて来たのよぉ」
「そ…そうなんですか…」
「私が見るに…ミークちゃん、ビーちゃんが三冠を取った時と変わらないぐらいの仕上がりよぉ、ね、ビーちゃん」
「うん、でも、凄いのはミークだけじゃない、あの娘、アラビアントレノもさ」
お世辞でも嬉しい言葉を、ミスターシービーが言ってくれる
そして、そんなやり取りをして居る間に、アラ達は、ゲートの方に向かって移動していた。
歩いていて分かる、殆どのウマ娘が、私を見ている、つまり…マークされる可能性が高いって事だ。
でも今日の作戦は「スリップストリームを使うな」だ。
中央のウマ娘は強い、いくらV-SPTが使えたって、囲まれて通り道が塞がれたらどうしようもない、今日のレースは17人もいるから。
ゲートに入る前、隣のヌーベルスペリアーに睨まれた。
睨むなら好きなだけ睨んでおけ、こっちは10年以上睨まれてきたんだ、それにそんな睨んでも私からは何も出ない、人間の身体で出せる眼力なんてたかが知れてる。
私は深呼吸をした。
『各ウマ娘、ゲートイン完了、最強のウマ娘になるために気合いが入ってまいます17人、今…』
ガッコン!
『スタートしました!!さあ、勢いよく飛び出して行きましたセイウンスカイ!キングヘイローは先行組へスペシャルウィークは中団に構えた!さて、地方からのチャレンジャー、アラビアントレノは…あれ?』
ヨコが空いてたから…助かった。
『アラビアントレノ、まさかの先行組!!』
さて………
行こう。
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