アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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 今回も拙い挿絵が入っています


第30話 雷鳴(トレノ)

『3コーナーカーブ、2番手ボルトエンペラー、3番手にヌーベルスペリアー、キングヘイロー、抑えましたか4番手、その内回って、ハッピーミークです。さて、そこから一バ身離れて外寄りを進むアラビアントレノ、その後ろにつけるメジロランバート、その後ろの内寄り、サンプラスワン、そして一番人気スペシャルウィークは中団より前!』

 

(さぁーて……最初の1000メートルは、ハイペースで…)

 

 セイウンスカイは、最初の1000メートルでハイペースに見せかけ、相手にいずれバテると予測させる作戦を取っていた。

 

 そしてセイウンスカイは一瞬後ろに目をやる。

 

(……よし、スペちゃんは控えてる、ダービーで逃げたキングも抑え気味…ハッピーミークさんは、ダービーと違って先行策、後はあのアラビアントレノ(おチビさん)だけど……あの娘は今までのレースからして、脚質は差しか追込、距離適性は2500mぐらいまでが限界だ、それに…今回は前に出過ぎてる、多分私に乗せられたのかな?なら、私のやるべきことは唯一つ………雨でも気にせず、このマージンをどんどん広げてやる…!)

 

 セイウンスカイは他のウマ娘達との距離を離しつつ、4コーナーの坂を下り、一度目のホームストレッチを駆け抜けていった。

 

『各ウマ娘、一度目のホームストレッチを通過、先頭セイウンスカイ、差を離し2番手ボルトエンペラーからは6バ身差、ボルトエンペラーの後ろにはヌーベルスペリアー、1バ身離れてキングヘイローとハッピーミーク、そしてアラビアントレノ、それを見るようにメジロランバート、1バ身後ろにサンプラスワン、そしてスペシャルウィークは後ろから6番目ぐらいの位置にいる!』

 

 

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『各ウマ娘、一度目のホームストレッチを通過、先頭セイウンスカイ、差を離し2番手ボルトエンペラーからは6バ身差、ボルトエンペラーの後ろにはヌーベルスペリアー、1バ身離れてキングヘイローとハッピーミーク、そしてアラビアントレノ、それを見るようにメジロランバート、1バ身後ろにサンプラスワン、そしてスペシャルウィークは後ろから6番目ぐらいの位置にいる!』

 

 俺は先頭のセイウンスカイを見た。

 

 時々目線が内ラチ沿いに行っている、恐らく、見える景色で自分が走った距離を測っているんだろう。

 

 恐らくバレて無いだろうと思ってやっているのだろうが、相手が悪かったな。

 

 こっちは生憎お前らの3倍は長く生きてるんだ、それに、生身とマシンという違いがあるとはいえ、俺もレースで走った身、相手のレーサーの考える事を読むのには慣れている。

 

 そして、その走りを見るに、あれはレースを翻弄し、勝とうとしている。 

 

 だが…そんな事は…させるものかよ。   

 

 

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(一応ミークは前に出しておいたけど…これで良かったのかな…?乗せられては…いないよね?)

 

 その一方で、桐生院は心配しつつハッピーミークの方を見た、ハッピーミークは夏合宿によりかなり素早く動ける様になっていたものの、今回のレースは、17人立ての大レースである。それ故、いくら動きが良くても差しで行くのには多大なリスクがあると判断したのであった。

 

(私達はあれからスタミナトレーニングを重ねてきた…それも全て、アラさんにあの人に…勝つために…)

 

 桐生院はハッピーミークの勝利を祈り、コースを見つめた。

 

 

『第1コーナーから第2コーナーへと入る所で、先頭はセイウンスカイ、リードは5バ身、2番手ボルトエンペラー、その後ろにヌーベルスペリアー、そしてハッピーミークとキングヘイロー 6番目には、アラビアントレノでその後ろにはメジロランバートがつけている』

 

(ペースダウン…一息つけてる…コーナーだからバレにくい)

 

 セイウンスカイは微妙にペースを緩めて逃げていた、ウマ娘は、コーナーを曲がる際は姿勢制御に意識を使うため、他への判断力が低下するのである。

 

 

(……セイウンスカイさん、ペースを緩めた…私の目は誤魔化せない)

 

 しかし、それはハッピーミークに既に見抜かれていた。

 

 夏合宿でのハードなトレーニングが、彼女に身体の持久力だけでなく、脳…つまり思考力の持久力も与えていたのである。

 

 

 

(やっぱり…そう来たかぁ…)

 

 そして、それはハッピーミークと共にトレーニングをして来たアラビアントレノも同様であった。

 

(今までは他の娘のコーナーリングスピードに合わせてきた………ここからは…普通のペースで行こう)

 

 そして、アラビアントレノはペースを上げた。

 

『ここでアラビアントレノ、ペースを上げてきた!!スルリとコーナーを抜けていく!』

 

 

(アラ…考える事は…同じ…)

 

『ハッピーミークも続いた、二人共上がって上がってヌーベルスペリアーの前へ!!』

 

 

 

(…ウソ……!?)

(何ですって…!?)

 

 そして、この動きに衝撃を受けたのはキングヘイローとメジロランバートである、キングヘイローはハッピーミーク、メジロランバートはアラビアントレノの近くにおり、その動きが最もよく見えたからである。

 

 

(コーナーで上げるなんて……それに雨なんだよ…?)

 

 セイウンスカイはあり得ないやり方をした二人に気味の悪さを抱いていた。

 

『各ウマ娘、第2コーナーを抜けてバックストレッチへ、先頭はセイウンスカイ、リードは3馬身、アラビアントレノとハッピーミークがペースを上げましたが、全体の展開としてはやや縦長といったところです。』

 

(詰められた…?あの間に…!?でも、釣りを思い出すんだ…慌てちゃ駄目だ、アラビアントレノ…あの娘のスタイルは………そう、スリップストリーム)

 

 セイウンスカイはアラビアントレノの武器がスリップストリームであるということを思い出した。

 

 

「セイウンスカイちゃん、少し踏み込みが強くなったわねぇ、まるで誰かを後ろに入れたくないみたい」

 

 伊勢は双眼鏡を除きながらそう言った。

 

「そうだね、トレーナーさん」

 

 同じくそれを見ていたミスターシービーもそう返す。

 

「アラさん…スリップストリームを使うつもりがないのですか?」

「はい、恐らく今までのレースから、予測されてる筈ですからね、現にセイウンスカイはああやってスリップストリーム出来ないようにしています………あんな事、雨の日にやるもんじゃないんですがね」

「……スタミナ…ですか?」

「…セイウンスカイなら走り切るだけのスタミナは残すでしょう、問題なのはこの天気です、雨なんですよ、今日は」

 

 慈鳥は空を指差し、そう言った。

 

 

────────────────────

 

 

『バックストレッチも後半、二度目の淀の坂まであと少し!先頭セイウンスカイ、リードは3バ身、2番手3番手、並ぶようにハッピーミークとアラビアントレノ、4番手ヌーベルスペリアー、その外にボルトエンペラー、6番目はキングヘイローいや、メジロランバートか、その後ろ、内からサンプラスワン、その外後ろにスペシャルウィーク!そしてミツバリュウホウ、エプソンダンディーが行く、後ろから行くのはシンコウジンメル、タンヤンアゲイン、テイオージャズ、しんがりグリーンプレゼンツ』

 

(淀の坂……普通は…抑えて上り、抑えて下る…だけど……!)

 

 アラビアントレノはピッチとストライドを変化させ、坂の前からロングスパートをかけた。新しい武器、V-SPTを使う時が来たのである。

 

『おっとここでアラビアントレノがペースを上げた!淀の坂を勢い良く登ってゆく!!セイウンスカイとの差がジリジリ迫って来るぞ!』

 

 

 

────────────────────

 

 

「アタシと同じ………ふふっ…面白いなぁ、あの娘は」

 

 ミスターシービーはそう呟いた。

 

 

(何で…さっきはもっと後ろに…いつの間に…!)

 

 そして、セイウンスカイはあっという間に距離を詰めてきたアラビアントレノに驚愕した。

 

『おっと、アラビアントレノに釣られたか、ハッピーミークとキングヘイローも上がってくる、スペシャルウィークも仕掛ける構え!』

 

(ここで行かなきゃ…アラとは戦えない…!)

(末脚はまだ残ってる…ここで行かないと…ダメね!)

(…坂は…根性…!!)

 

(ハッピーミークさんに…キング、スペちゃんまで…!?耐えないと……!)

 

 そこで、セイウンスカイは異変に気付いた。

 

(…踏ん張れない…)

 

 スタミナは残っているものの、彼女は踏ん張るための脚力を、アラビアントレノを後ろにつかせないために使ってしまったのである。

 

(駄目だ…突っ込めない…これ以上出すと…転ぶ…!)

 

 その結果、セイウンスカイはペースを上げられなかった。

 

 

 

『淀の坂も中盤!他のウマ娘達も動く、ハッピーミークがいち早く前の二人に追いついたぞ!スペシャルウィークも来た』

 

 観客達の注目は5人に集まる。

 

(さあ…アラ…その名の通り…雨の日に“雷鳴”を響かせてやれ…!)

 

 慈鳥は拳を握りしめ、セイウンスカイに迫りつつあるアラビアントレノを見た。

 

「何…あのコーナリング…スピード…」

 

 桐生院はV-SPTの効果を見て、目を丸くして驚いていた。

 

『ここでハッピーミーク、ペースを上げて一気に二人に迫る!』

 

 だがハッピーミークとて、ジムカーナで遠心力への耐性を鍛えた身である、彼女は一気にアラビアントレノの横に並び、内ラチ沿いを進んだ。

 

『外からはキングヘイローとスペシャルウィークが飛んでくるぞ、キングヘイロー、猛烈な追い上げ!セイウンスカイ、ペースが落ちてゆく、勝負は下りに入った!』

 

 5人の競り合いで、会場はとんでもない熱気に包まれていた。

 

 

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 内にミーク、なら…外から!

 

 私は外からセイウンスカイを抜く体制に入った。

 

「行かせないわよ!」

「……!」

 

 すると、後ろからキングヘイローが飛んできた、ぶつかるコース…避けさせる気だ…でも、避けたらV-SPTが解除される…

 

 避けてほしい、だけど…相手は無理矢理飛び込んで来た。

 

「…な、何で!?」

 

ゴッ!

 

 ………パワーならこっちが上、悪く思わないでね、そりで鍛えられた私達に、そんなものは通用しない。

 

 ぶつかった反動を利用して……!

 

『キングヘイロー、アラビアントレノにぶつかって…逆に弾き飛ばされた!?アラビアントレノは……えっ……その反動で…内に入ったァ!!そしてセイウンスカイを交わしたぞハッピーミーク!スペシャルウィーク!ヨレたキングヘイローを避けて追いすがる!』

 

 ミーク……そっちには……

 

「負けない!!」

 

ドオン!!

 

『アラビアントレノ、ハッピーミークに並びかけてきた!!』

 

 

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『キングヘイロー、アラビアントレノにぶつかって…弾き飛ばされた!?アラビアントレノは……えっ……その反動で…内に入ったァ!!そしてセイウンスカイを交わしたぞハッピーミーク!スペシャルウィーク!ヨレたキングヘイローを避けて追いすがる!』

 

 アラ…必ず来るはず…

 

タッタッタッタッタッタッ…!

 

『アラビアントレノ、ハッピーミークに並びかけてきたぞ!!』

 

 来てくれた……でも…負けない…!

 

 

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「行けぇー!!アラ!」

「ちぎって!ミーク!!」

 

 慈鳥達は、アラビアントレノとハッピーミークに声援を送る。

 

『アラビアントレノか、ハッピーミークか!?二人共譲らないぞ!!』

 

((絶対に………勝つ!!))

 

 

【挿絵表示】

 

 

ドォン!

 

「「………!」」

 

 桐生院と慈鳥の目が丸くなる、ハッピーミークとアラビアントレノは、同時にセカンドスパートをかけていた。

 

『二人が並ぶようにしてゴールイン!!!』

 

「どっちだ!?」

「分かんないよ!!」

 

 ツルマルシュタルクとジハードインジエアは身を乗り出し、掲示板を見た。

 

 

────────────────────

 

 

長い沈黙が流れた後、掲示板には『6』の文字がくっきりと映し出された

 

『雨の菊の舞台に、雷鳴が轟きました!菊の季節に雷鳴が轟いた!!勝ったのはアラビアントレノ!アラビアントレノです!!』

 

 しかし…

 

「…セイウンスカイかスペシャルウィークの二冠…見たかったなぁ」

「……キングヘイローに勝ってほしかったよ…」

 

 その展開は、観客達にとってあまりにも予想外のものだった。

 

「おめでとうございます!!」

 

 だが、それを破るかの様に、あるウマ娘が声を張り上げた。ゼンノロブロイである。

 

「……ロブロイ…私達もやるぞ!おめでとう!」

「…おめでとう!!」

「よく頑張ったわ!!」

「やったな!!」

「凄かったぞ!!」

 

 ゼンノロブロイに続き、チームメイサのウマ娘、福山から駆けつけたファンも声援を贈る。

 

「慈鳥トレーナー…おめでとうございます…次は勝ちます…私達が…!」

「ありがとうございます…負けませんよ」

 

 桐生院は涙を堪え、慈鳥と握手をした。

 

「やったな…アラ……」

 

 慈鳥はハッピーミークと握手をするアラビアントレノを見て、そう呟いた。

 

「地方にも、物凄い娘が居るものねぇ!」

「………怪物、いや、“怪童”だね」

 

 そして、伊勢とともにレースを見届けたミスターシービーはアラビアントレノを見つめ、そう言った。

 

 

 

「悔しいけど…アラと勝負出来て良かった、強いね…アラ」

「いや…私の力だけじゃない…ミークがこのレースで、私と競り合ってくれたからだよ」

「そっか…次は…負けない…」

「こっちこそ…!」

 

 アラビアントレノとハッピーミークは再戦を誓った。

 

「何で……あんなパワーが…出るのよ…!」

「………二冠……取れなかった…」

「くっ…………クソっ…」

 

 一方で、敗北したスペシャルウィーク達はそれぞれ、悔しい思いを抱いていた。

 

 三人は同時に、何かを感じていた、しかし、その何かはすぐに敗北感に掻き消されていった。

 

 

=============================

 

 

 私…なれたんだ…“最も頑強(つよ)いウマ娘に…”

 

『…それで良い、お前は最強の馬、そして…』

 

 セイユウの声が、微かに聞こえた。

 

“セイユウ”…この菊の冠は私の願い、私の思いで取ったもの…貴方の意志は関係無い

 

 でも、この菊の冠で、貴方が喜ぶのならそれで良い。

 

 私は自分の走りを見てくれる皆を喜ばせる為に…走っているから。

 

 だけど…さっきの実況の声のリズムには、何だか聞き覚えがあった。おやじどのが似た言葉を繰り返し口ずさんでいたからだ。

 

 (サクラ)ほど綺麗じゃないかもしれない、でも、この雷鳴は、きっと、おやじどの耳に…届いていると信じたい。

 

 




 
 お読みいただきありがとうございます。

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 挿絵についてですが、左がアラビアントレノ、右がハッピーミークです。

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